「栃木県における総合型地域スポーツクラブ設立の動きと関係諸アクターの対応」
中村祐司(宇都宮大学国際学部)
1.問題の所在
2002年8月から9月にかけての数日間、栃木県内における総合型地域スポーツクラブに関して、設立に向けた動きや直面する課題、設立後の運営をめぐるポイント等について、関係組織の担当者とのインタビュを実施し、県が主催する講習会に参加することを通じて、情報を得ることに努めた。
○サン・カルチャークラブ(8月23日。市内のボランタリー団体)
○宇都宮市役所市民スポーツ係、栃木県保健体育課(8月30日)
○クラブマネージャー養成講習会に参加(9月1日。県主催。今市青少年スポーツセンター)
○グリムの里スポーツクラブ(9月2日。石橋町生涯学習課)
○吹上スポーツ文化ネット(9月3日。栃木市吹上中学校が拠点)
○(仮称)あしかが総合型地域スポーツクラブ(9月10日。足利市市民スポーツ課)
○大平町生涯学習課(9月10日)
2.自立型クラブが直面するリソース不足の問題
山形正巳氏(「サン・カルチャークラブ」代表)
「経験的にいえるのは、障害児スポーツプログラムを前面に出すとまずいということである。障害児の親の当クラブに対する期待が非常に強い。しかし、それが5人10人になった時に対応できなくなる。なかなか実質的なクラブ活動に進んでいかない。自分のねらいは、普通の子がいて、そこに障害児が溶け込むのがいいと考えているが、障害児のためにということになってしまうと、その先に進んでいけない」
3.栃木県によるクラブ創設の誘導戦略の特徴
栃木県教育委員会事務局保健体育課橋本浩氏(副主幹スポーツ振興担当)、福田智氏(副主
幹)
「他県の広域スポーツセンターがあるところはそこで講習会をやっている。センターの機能について、市町村には中核になる人がいないので、そのような人達を養成する」
4.宇都宮市におけるモデル地区創設の試みと行政課題
数度幸一氏(宇都宮市教育委員会スポーツ振興課課長補佐)、戸埼勝由氏(宇都宮市教育委員会スポーツ振興課企画係長)、藍原貴宏氏(宇都宮市教育委員会スポーツ振興課主事)
中山和江氏(宇都宮市教育委員会スポーツ振興課主任)
「体育指導委員宇都宮市は機能している。機動力があるからマラソン大会の手伝いなどで助かる。行政も一緒に地元と考えていこうというもの」
5.クラブ運営「成功」の諸条件
南木恵一氏(富山県広域スポーツセンター)
「自治体は公共施設の運営をクラブにまかせる。目当てのスポーツクラブのある地域に転居する例もあり」
榊原孝彦氏(成岩スポーツクラブ。半田市教育委員会)
「一番大切なのはなぜクラブを作ろうしているかの理念や思いであり、協力者はその理念に賛同する。夢やビジョンが掲げられなければ何も意味がない」
6.行政依存型のクラブ運営の課題
瀧澤卓倫氏(石橋町教育委員会事務局生涯学習課生涯スポーツ担当。副主幹)
「やってくれる人に裁量権を与えることが大切である。スポーツを個人だけが楽しむ時代ではない。ギブアンドテイクの発想で、年齢層が高くなると支える側にまわってもいい。行政サイドがお膳立てしてもダメで、施設の提供に徹し、基本的には自分達でやってもらう」
7.部活-地域融合型クラブが直面する行政対応の脆弱性
須藤庄次氏(栃木市立吹上中学校教頭)
「スポーツクラブと連携して部活動を盛り上げることを目的とした。指導者は学校の先生が当たっている。教員の説得がまず先であったが、偶然にも若手教員が入ってきた」
8.コア組織の設定を模索する自治体の事例
須永一美氏(足利市教育委員会市民スポーツ課スポーツ振興係長)、板橋秀明氏(足利市教育委員会市民スポーツ課スポーツ振興係主任)
「県の動きは遅い。支援事業も遅い。他市町村は担当が来たばかりなので分からない。自分はは10年やっている。係長も16年スポーツを担当していた。積み重ねが今の総合型につながっている」
9.小規模自治体の試み
砂岡良治氏(大平町教育委員会生涯学習課スポーツ係地域スポーツ主事主査)
「総合型地域スポーツクラブ推進の後押しが県、国からある。部活とクラブは共存共栄が望ましいが、調整役を行政がやった」
10. インタビュ調査、関係資料からの考察
孤立無援のサン・カルチャーと全面的な行政支援の成岩の対照性
行政のスポーツ振興に取り組む姿勢の違い
クラブ運営をめぐる行政支援は不可欠か
人的リソースが中心的なリソース?
直面する課題は総合型地域スポーツクラブに限ったことなのか?
積極的な住民の参加とは(住民はどこまでやるべきなのか)?
「こども」がキーワード?
組織存続のための哲学は同じ?
総合型地域スポーツクラブをめぐる課題はローカルガバナンス実践の格好の素材