2009/11/6

                                国際社会研究専攻  楊 柳

 

            在日中国人留学生の就職問題について

―――その1 背景と調査  

                       

金融危機による世界中に広まる経済不況のため、就職は更なる困難となった。就職問題に悩まされる人の中に外国人留学生も含まれている。母国に離れ、外国で留学を終えた留学生たちは言語力や専門知識、そして留学という貴重な経験を生かし、就職に悩むことはないと思われるが、現状はそうではない。ここで、在日中国人留学生を例としてみてみよう。学業を終えて、職に就きたいと思うと、第一の問題は就職先である。つまり中国に帰るかそれとも日本で就職するか。

「選択肢が増えて、良いことではないか」と思われるが、実際はどうだろう。まず、帰国する場合を見てみよう。多くの留学生は帰国したら外資企業に勤めたい。せっかく身につけた言語力を生かしたいとのような思いに、外資企業の人気が高まった。しかし、近年日本を含める外資企業は人員費用などのコストダウン重視するため、現地採用し始め、留学して帰国する「海帰」と呼ばれる人よりも現地の卒業生を雇用することが多くなってきた。これは帰国する留学生の就職を難しくする原因の一つとなった。一方、留学先で就職しようとする者も様々な困難を直面する。筆者は日本で留学することにより在日中国人留学生の就職問題について研究したいと考えている。

では、在日留学生の就職状況はどうなってるだろう。厚生労働省の外国人雇用状況データ[1]によると、外国人雇用届けがあった事業所は76,811か所であり、外国人労働者数は486,398人であった。そして、結果を見てみると、中国は外国人労働者数全体の43.3%を占めることが分かった。(次いで、ブラジルが20.4%、フィリピンが8.3%となっている。)この結果は在留資格からまた三つに分かれる。「身分に基づく在留資格」[2]、「特定活動」[3]や「専門的・技術的分野の在留資格」[4]との三種類がある(今回研究したいのは留学を終え、就職活動に参加し、就職ビザに変更する、つまり「専門的・技術的分野の在留資格」にあたるものである)。中には、「身分に基づく在留資格」が外国人労働者全体の46.0%を占める。次いで、「特定活動」が19.5%、「専門的・技術的分野の在留資格」が17.5%となっている。中国については、「特定活動」が34.8%、「資格外活動(留学・就学)」が26.0%、「身分に基づく在留資格」が17.9%となっている。留学生の就職に当たる「専門的・技術的分野の在留資格」が17.0%となっている(中には技術が7%、人文知識・国際業務が7.1%となっている)。日本全国で外国人就労も地域別に資格により異なる。同発表によると、外国人労働者のうち「専門的・技術的分野の在留資格」の割合が最も高いのが東京都で34.1%(東京都に所在する企業等に就職した者が5,894人で534% と最も多く, 次いで大阪府1003 人で91% , 愛知県675 人で 61% , 以下神奈川県, 埼玉県, 福岡県の順となっている)、「特定活動」の割合が高いのは秋田県、徳島県、香川県、愛媛県、鳥取県で7割前後となっている。「資格外活動(留学・就学)」の割合が高いのは福岡県、大分県でそれぞれ39.4%、32.4%、「身分に基づく在留資格」の割合が高いのは、静岡県、山梨県、滋賀県、栃木県、群馬県、長野県、三重県で7割前後となっている。この結果を見ると留学生の就職割合高いのは関東地域であることが分かった。

申請者数が増えたからとは言え、許可率はそうではない。在留資格を変更(就職ビザへの変更)際の職業は専門であるかどうか等の審査が厳しくなることにより就職が制限されてしまう。法務省の報道発表資料[5]によると平成20年、「技術」又は「人文知識・国際業務」の在留資格に係る在留資格認定証明書の交付を受けた外国人は17,490人で,前年の22,792人と比較して5,302人(233%)減少した(中国5,467人で前年より1,620人、22.9%減)。そして、「人文知識・国際業務」が前年に比べ2,531 人(26.9%)減の6,864人で,平成15年以降では最低の水準となった。他方,「技術」は前年に比べ2,771人(20.7%)減の10,626人で,平成18年と同程度の水準となっている。この統計から「就職難」が見られるとも言えよう。日本で就職し中国へ派遣できる仕事をしたい人もいれば、日本で活躍したい人もいる。では、それぞれどんな職種につくかどんな変化ができたのかを見てみよう。同資料から翻訳・通訳が3,717人(33.7 % ) で最も多く, 前年に比べ286人(8.3%)増加したことが分かった。次いで,販売・営業(1,789人),情報処理( 1,240人),海外業務( 710人)の順となっている。情報処理分野で前年比2人減と横這い傾向であるが, 販売・営業分野や海外業務分野においてはゆるやかな増加傾向にある。なお,これらの4種の職務内容に従事する者は7,456人で全体の67.5% を占めている。

 留学生の就職活動は日本の学生と同様に卒業する一年半〜一年前から活動し始める。だが、卒業するまで就職できなければ、帰国することになってしまう。だが、去年の経済危機をきっかけとし、日本で就職する留学生のための新たな政策が今年発表された。平成21年版『出入国管理』[6]によるものをまとめると、大学または専修学校[7]で卒業した留学生が、就職活動を行っている際、所属教育機関から「推薦書」がある場合には、「特定活動」とする在留資格を許可し、最長1年間滞在することができる。これは、日本で就職したい留学生にとって一つの朗報のも言えよう。一年間延びることができたとは言え、必ず就職できることも無いが、時間を効率的に運用し、心には少し安心できるだろう。そして、入国管理局の資料[8]によると、留学生の就職支援として、就労資格変更際の審査では専攻科目と就職先の業務内容との関連性を問わないなど幅広く柔軟に対応すべきであるとの提言があった。そして、教育機関における人材教育や日本人学生と同様の就職支援,「外国人雇用サービスセンター」(外国人版ハローワーク)における就職支援が重要であるとともに,企業における積極的な採用も不可欠であるなどとも提言した。大学等では、留学生就職を支援する窓口を設置するなど、留学生の就職活動を応援する姿勢を表す。ともなって、留学生就職を向ける就職ガイドのような本も出版された。

 グローバル化したい企業の中では、採用枠には留学生枠も設けられるなど、これらの政策から、留学生の就職は改善することはできるかどうかは、実際に就職率から見るしかないだろう。 

参考文献

   法務省 法務省報道発表資料『平成20年における留学生等の日本企業への就職状況について』平成207月 入国管理局  http://www.moj.go.jp/PRESS/090714-1.html

   『国際協力の最前線をリポートする国際開発ジャーナル』平成2191日発行 

天谷 健一「産学一体の留学生支援」p30「政策―経済産業省」編

   東京外国人雇用サービスセンター 「外国人留学生就職に関するアンケート結果」、

「先輩、仲間からのアドバイス」  http://www.tfemploy.go.jp/index.html

   入国管理局 入管白書『平成21年出入国管理 日本語版』

   http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan90-4.pdf

 



[1] 厚生労働省平成21116発表し、平成2010月末の調査結果

[2] 身分に基づく在留資格には、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」が該当する。

[3] 特定活動には、技能実習生等が該当する。

[4] 専門的・技術的分野の資格には、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「投資・経営」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術」、「人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興行」、「技能」が該当す  る。

[5] 法務省 報道発表資料 『平成20年における留学生等の日本企業への就職状況について』 平成207月 法務省入国管理局 

[6] 入国管理局 平成21年版『出入国管理』資料編 「大学等を卒業した留学生が行う就職活動等の取り扱いについての通知」

[7] 専修学校専門課程において専門士の称号を取得して、同校を卒業した留学生を指す

[8] 入国管理局 平成21年版『出入国管理』資料編 「留学生の卒業後の就職支援について」