比較政策研究                         謝静川

                               2009113 

          農村観光で地域振興について研究

         ――浙江省安吉県の事例を中心に

研究背景:

前世紀90年代頃、中国では「農村観光」という観光形式が生まれ、まずは都市の周辺にある農村から始まり、多くの農村へと広がっていった。観光業の発展は農村の道路建設と運輸業を繁栄させ、農業・副業生産物と手工芸品の生産販売を促進し、飲食業の発展を加速し規範化させた。そして、農村のインフラ整備や旅行商品の内容も充実し、これによって大幅に農村の余剰労働力が就業する機会を与えられた。                                                                                                      

農村観光という形は農村地域住民の普段の生活及び生産の場を観光資源として利用して、当該地域資源を活用し、自然体験、農業体験という自然や農業を生かした体験型の観光ができる。観光者満足度を高めるとともに、旅行してもらえるための動機づけを与えることが必要である。農業及び関連する地域資源は、土や緑・自然・食に関心の高い近年の観光客に対して、当該地域の魅力を発見し、味わうための素材を提供できる可能性を持っている。

しかし、全中国の農村観光業は始まったばかりであり、サービスの利用者も提供者も未熟な状態だといえる。地域に観光客を迎え入れ、彼らと直接接しながら販売・サービス提供を行うことについて十分な経験を蓄積していない。

江省安吉県は上海からは約200キロ、杭州からは約65キロ離れて、上海と同じ長江デルタ経済圏に属している。安吉は山紫水明で有名な「生態模範県」であり、豊かな竹資源に恵まれ、「中国の竹郷」と呼ばれる。交通も便利で観光業は盛んなところである。特に、本県の農村地域は、緑豊かな自然や美しい景観、伝統文化に恵まれ、地域特有の資源が多く残っており、また温暖な気候のもと、比較的生産条件に恵まれた立地条件にあることから、多種多様な農産物が生産されている。

そこで、安吉県の実態の分析を通して、農業及び関連部門がどのように地域資源を活用・提供するか。いかにして観光客の欲求を満足させるかとともに、農村の経済発展に貢献できるか、農村観光振興を実現するために農業部門を担う諸主体がどのように組織化・連携すべきか。                                  

 以上の課題を解明することを研究目的とする。 

        

農村観光開発の政策背景:

20053月の第10期全国人民代表第3回会議での政府活動報告では、温家宝総理が次のように述べている。「現在、中国社会の発展には、農村の発展が遅れていること、人々の収入の差が大きいこと、社会安定に影響する要素が大きいこと、資源の制約や環境からの圧力が大きいことなどの問題が存在している。これらの問題に対して、中国政府は一連の措置を講じて、民主的な法による統治、公正と正義、誠実と友愛、満ち溢れた活力、安定した秩序、人と自然の和睦などで互いに対処できる調和のとれた社会の建設に力を入れる」

2006 3 14 日、全人代は中国第11 5 ヵ年計画を採択した。11 5 ヵ年計画期間において、「三農」(農業・農村・農民)問題をうまく解決することは、依然全党活動の重点中の重点であるとする。この「社会主義新農村の建設」は今回始めて提起された新しいスローガンである。農民の増収ルートを広げ、県域経済の発展に力を入れ、余剰労働力の非農業・都市への秩序だった移転を誘導する。

なお、社会科学院農村研究所の党国英研究員は、「社会主義新農村建設は、今回の会議の新表現である」としたうえで、「しかし、農村を都市のクロ―ン版にするという政策の誤解を防止しなければならない。我々は都市化により農村を発展させなければならない」と指摘する。農業部農村経済研究センターの宋洪遠副主任も「ただ農村の発展を考慮するのではなく、都市・農村を結合させ、農村の発展を都市・農村の協調発展という高みにおいて考慮しなければならない」としている[1]  」 
  
 「社会主義の新しい農村の建設における目的と要求は、▽生産の発展▽ゆとりある生活▽文明的な農村の気風▽整然とした村の様相▽民主的な管理――に概括される。これらの言葉は、新たな情勢における農村の経済・政治・文化・社会の発展の要求を表している。
  社会主義の新しい農村の建設では、「与えるものを増やし、徴収するものを減らし、自由を与える」「かつて農業に支えられた工業によって農業を支え、かつて農村に支えられた都市によって農村をサポートする」といった方針を堅持[番茄花园1] し、農民の生活の質を引き上げ、農村全体の様相を大きく変えていくことが必要だ。重点は▽村や町の建設計画と環境整備を強化し、新しい村・町をつくる▽農村の各社会事業を発展させ、新しい農民を育成する▽農村の民主的な法整備や精神文明の整備を強化し、新たな気風を提唱するなどだ。[2]

三農問題の根本的解決には農業の農業の収益性を高めて農民の所得を増やすか、あるいは製造業や観光・サービス業への転出による雇用移転、また出稼ぎによって農業人口を減らすことが必要なのである。

「三農」という資源を十分に生かして、農業の機能と領域を全面的に広げることによって、農民の生活水準を高めるために、中国国家観光局は農村観光業の推進に取り組む。

中国農業省と国家観光局はこのほど、農村観光の発展に関する通達を出し、今後、農村観光の就業者数を毎年30万人の割合で増やしていく計画を発表しました。

 その計画によりますと、「2010年までに、中国は"農村部の特色を持つ観光村"を1万ヶ所あまり建設する。現在推進中の農村観光プロジェクトを完備し、観光業に従事する農民の年間収入を5%増やす」ということです。

中国全土の農村の中には、貴重な民俗・民間文化が多く残され、地元の特色を持つところが数多くあり、この「農村観光」に大きな期待が集まっています。[3]

 

先行研究:

日本側:1990年代に入ると、構造政策の行き詰まり、自然・環境への関心の高まり、仕事偏重の生活様式見直し気運が高まれにつれ、グリーン・ツーリズムへの関心が高まり、研究も蓄積されてきた。山崎らの著作「グリーンツーリズム[4]」が上げられる。当時欧州の農家民宿が事例として取り挙げられ、その日本での普及・定着の可能性が議論されていた。当時の研究によって、観光と農業との関係が改めて分析対象となり、生産偏重の農政への反省、農業及び農村生活の魅力の再発見、農村内発型アグリビジネスの可能性[番茄花园2] 、の可能性、農家経営の多角化など、今後の農業・農村を考えるで不可欠な視点が提供された意義が大きい。

 

大江靖雄は地域資源と観光との関係について、「農村ツーリズムによる農村経済多角化の分析フレームワーク[5]」で、農村ツーリズム財の構成要素としての施設、活動、呼び物、アメニティ[番茄花园3] 4要素が相互に良好な状態で組み合わされることにより、初めて最終需要品としての価値が生まれることと、財の生産過程に消費者が加わることの重要性が指摘されている。

 

中国側:

邹统钎氏の《中国乡村旅游发展模式研究[6]という著作で、「成都農家楽」と「北京民俗村」が事例として取り上げられ、持続可能な発展と環境保護はこれからの農村観光発展の鍵である。持続可能な発展の根本は地域ホスピタリティの形成であると指摘されている。具体的には、自らの町を自らが学び、そこに誇りを見出すことは重要なことである。住民が自らの生活環境の魅力を観光客に提供し、観光客からそれを評価されることによって、地域社会への愛と誇りと自尊心を再確認し、集団帰属意識を強化することができる。それによって満足感を伴うアイデンティティが生まれ、地域住民の熱情的ホスピタリティ精神を形成し、観光資源を自覚的に維持することになる。

次は、彼も中国の農村観光について二つの依存類型を取り上げる。一つは、農村依存型:主に農家民宿への宿泊、農村生活体験(郷土料理の賞味、村づくりの参加など、)、農産物加工体験である。二つは、農園依存型:観光農園、(ぶどう狩り、芋狩り、茶葉採摘など農作物体験)である

 

彭燕平は乡村旅游经营模式[7]で農村観光における二つの流れがあると挙げる。

一つは、行政主導型の農村観光が上げられる。具体的には、当該村における村政府の持つ各種補助金をベース的に公的な宿泊施設を建設し、都市農村交流などと銘打った事業を付帯するケースである。運営形態も多様であるが、多くは、施設建築を行政が担当し、経営などの運営は地元住民が担う場合が一般的である。地元住民と私企業と損政府が連携的に経営方式もある。法人格も、第三セクター方式もある。

二つは、農家自立型グリーンツーリズム、つまり、草の根型グリーンツールズムも上げられる。草の根型とは、行政からの支援を受けずに、農家が自家の納屋や作業所などを改造したり、小規模な宿泊施設を新築するなどしながら、自分の裁量で始めた事例を指す

 



[1]田中 修「中国第115ヵ年計画の研究-105ヵ年計画との対比において」200610月 

[2] 「第11次五カ年計画、11のキーワードから見る新たな思想・理念・措置」20051111日 www.people.com.cn

3「中国、農村観光業の推進に努力」 200744日 中国国際放送局ホームページhttp://japanese.cri.cn/151/2007/04/04/1@90469.htm

 

[4] 山崎光博・小山善彦・大島順子『グリーン・ツーリズム』家の光協会、1993

[5] 大江靖雄「農村ツーリズムによる農村経済多角化の分析フレームワーク」

[6] 邹统钎,中国乡村旅游发展模式研究――成都农家乐与北京民俗村的比较与对策分析,旅游教育出版社,2004

[7] 彭燕平,乡村旅游经营模式研究,山东大学硕士学位论文,20073


 [番茄花园1]けんじ

 [番茄花园2]アグリビジネスとは、農業を2次産業(農畜産物の加工など)や3次産業(小売り、サービス分野など)まで踏み込んだ農村での新しい所得確保の手段。

@ 農産物直売所、産直、農産加工等

A 観光農園、観光牧場、体験農園、市民農園

B 体験学習の受入れ、自然休養村

C 農家民宿、農家レストラン、伝統文化体験

D 農家福祉サービス、宅配サービス

E ガーデニング、フラワーアレンジメント等々

http://www.pref.akita.jp/noseika/pdf/10nouson.pdf#search='農村経済多角化'

 [番茄花园3]都市計画などで求め、建物・場所・景観・気候など生活環境の快適さ