比較政策論114日                    尤 迪(ユウ・ディ)

 

日本現行会社法における会社機関の設置について(覚書)

 

はじめに

 2005617日に、日本では新会社法が成立した。これは、商法制定から実に100年ぶりの抜本的改正となり、商法から独立した個別法となったこと、ならびに、新しい経済事情を反映して抜本的な改正を含むという意味において、画期的な出来事とされている。新会社法では、大幅な規制緩和が具体化され、企業の実態に合わせた選択ができる任意の制度の枠が広がった。一方、企業の自己責任を促すことによって、企業統制(コーポレート・ガバナンス)や法令遵守(コンプライアンス)が厳しく求められるようになった。企業の組織と行動に関する基本ルールも変更された。その上、機関設計などに関して広範な自治作用(定款制定の自治)が認められた。

本発表では、日本新会社法における、コーポレート・ガバナンス(企業統制)の中での最も重要な問題の一つ、日本会社機関の設置について分析研究を行い、会社機関の設置、権限、決議権の行使方法などを、究明したいと思っている。

 

一、             会社機関の概要

 

 会社は法人であり、権利・義務の主体である。会社の意思決定や法律行為を行使する者の地位を機関といい、機関は以下の種類に分類することができる。

会社の規模・株式の譲渡制限の有無(公開・非公開)などに応じ、必須機関である株主総会取締役のほか、取締役会監査役監査役会会計監査人委員会および新設された会計参与を設置するかどうかにより、柔軟な機関設計が可能となる。

株式会社の性格、すなわち、@取締役会を設置しているかどうか、A公開会社であるかどうか、B大会社であるかどうかによって、機関設計の選択肢が異なっている。また、機関への権限分配や株主の権利についても、これらの性質により異なる規制がなされる。しかし、すべての株式会社に共通する機関として、株主総会と取締役を置くのは法的な義務(必置規制)である。

 

二、             株主総会

 

 株主総会は、株主全員で構成される株式会社の意思決定機関で、かつ、必置機関である。これは、会社の基本的事項を決定するとともに、取締役等の会社機関構成員の選任・解任権を有しており、会社の最高機関である。

 

 会社法2951項によれば、取締役会非設置会社において、株主総会は会社法が規定する事項および株式会社の組織・運営・管理その他株式会社に関する一切の事項について、決議をすることができる。他方、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項は、@会社の存続又は営業の基礎に関する事項(事業譲渡・定款変更・減資・解散・組織再編など)、A剰余金分配に関する事項、B取締役および監査役などの機関の選任・解任および報酬などである。法律で決められていない事項や定款に定めのない事項については、株主総会で決議することはできないが、これには例外もある。

 

三、             取締役と取締役会

 

会社法3261項によれば、株式会社には一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。これは、株式会社の必置機関である。株主全体により構成される株主総会が会社の業務執行に当たることは、機動性、効率性、能力性の点で問題がある。したがって、会社の業務執行は、株主総会以外の経営の専門機関に任せざるを得ず、これが取締役であり、株式会社の常置機関である。

 取締役の職務権限には、業務執行の権限ならびに会社代表の権限がある。取締役の義務には、会社の受任者として委任の本旨に従い善良な管理(善管注意義務)、ならびに、法令や定款および株主総会の決議などを遵守し、会社のため忠実に職務を行うという義務(忠実義務)がある。

 

取締役会は、取締役全員により構成される合議制の業務執行機関である。会社法327条1項によれば、@公開会社、A監査役会設置会社、B委員会設置会社には、取締役会を置かなければならない(取締役会設置会社)。なお、取締役会を設置しない会社には、取締役1人以上置けばよく、代表取締役を設ける必要もなくなった。代表取締役のいない会社の場合は、取締役が会社を代表することになる。

 

 取締役会の職務権限は、@取締役会設置会社の業務執行の決定、A取締役の職務執行の監督、B代表取締役の選定および解職である。

 

四、             監査役と監査役会

 

監査役は、取締役の職務の執行を監査する。この場合、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない(会社法3811項)。なお、監査役は、株式会社の定款によって設けられる任意機関であるが、取締役会設置会社および会計監査人設置会社(いずれも委員会設置会社を除く)では、必置機関である。

監査役の職務権限は、@取締役の職務執行全般に監査する権限、A職務を行うために、いつでも取締役および会計参与の他の使用者に対しての事業の報告を求め、また会社の業務および財産状況を調査する権限、B会社の損害を事前に防止するため、取締役が会社の目的の範囲外の行為や、法令・定款違反行為に対して、当該行為を止めることを請求でき、必要があれば、訴訟の提起することのできる権限等である。

 

監査役会は、すべての監査役で組織される監査機関である。監査役会は、3人以上の監査役で構成される機関であり、職務分担による組織的監査で監査の実効性を高めるとともに、その半数以上は社外監査役であることを会社法では要求される。監査役会の設置は任意であるが、非公開会社および委員会設置会社を除く大会社では、監査役会の設置が必要とされる。

監査役会の権限は、@監査報告の作成、A常勤監査役の選定及び解職ならびに監査役間の職務分担の決定、B監査の方針、業務および財産状況の調査、Cその他の職務執行に関する事項。

 

五、             委員会及び執行役

 

 株式会社には委員会を置くことができ、これを委員会設置会社という。委員会設置会社には、@指名委員会、A監査委員会、B報酬委員会の三つの委員会があり、その執行役を選任する。

 指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案内容を決定する(会社法4041項)。監査役委員会は、執行役等の職務執行の監査および監査報告の作成、ならびに、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任に関する議案内容の決定を行う(同条2項)。報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定し、その内容を決定するための方針も定め、個人別の報酬の決定は、この方針に従わなければならず。

 

今後の研究

1.  新会社法による会社組織の編成が、実際の経済活動にどのような影響や効果をもたらしているか。(日本経済の実態と会社法との関連性の分析が必要)

2.  またその影響や効果は、今後どこまで継続していくことが予想されるのか。(会社マネジメントのトップにいる会社経営者や企業弁護士へのインタビューなどの調査が必要)

3.  中国の進出企業における商業に関する法(会社法・商法・民法など)に関する認識を調査分析する。(特に海外進出企業のコンプライアンスと競争のジレンマの問題解決が必要)

参考資料

 

『会社法』(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)

森 淳二・吉本健一 『会社法』 有斐閣ブックス  2006

日比谷パーク法律事務所 弁護士 松山 遙「新会社法」のポイント〜【機関設計】あずさ監査法人URL http://www.azsa.or.jp/b_info/letter/76/01.html  2006

「新会社法概要」日本公証人連合会ホームページURLhttp://www.koshonin.gr.jp/kaga.html#02-2-4-12006

 

付表:

 

 

 

 

 

 

分類

取締役会

監査役(註c

監査役会

会計監査人

会計参与

公開会社(註e

大会社である(註a

義務

義務

義務

義務

任意

大会社でない

任意

任意

公開会社でない会社

大会社である

任意(註d

義務

任意

義務

大会社でない(会計監査役人を置くとき)

義務

置く

大会社でない(会計監査役人を置かないとき)

取締役を設置するときのみ義務(註b

置かない

以上にかかわらず委員会設置会社

 

義務

設置できない

設置できない

義務

 

 

 

 

 

 

 

註a:この種の会社では業務の適正を確保するための体制の確保が義務付けられている。

 

 

b:ただし会計参与を設置するときは監査役は置かなくてもよい。

c:「公開会社」ではなく、監査役会、会計監査人がない場合、監査役の権限を会計監査に限定することが可能。

d:監査役会を設置するときは、取締役会を置かなければならない。

 

 

 

e:ここでいう「公開会社」とは上場会社ではなく、定款による株式譲渡制限がない会社を意味する。