特色のある地方自治体の研修や人材育成を目指して

国際学研究科国際社会専攻

084104Y 篠田一輝

1・はじめに

 地方自治体職員の人材育成や能力向上が急務である。そこには様々な理由がある。

 まず、著者の勤務する小山市役所を考えてみると、団塊の世代前後の職員の大量退職、とそれに伴う、新規採用職員の増加である。ベテラン職員の抜けた穴を、新人職員と残された職員がどう補っていくのか、補っていけるのかという問題がある。

 さらに、平成12年の地方分権一括法以降、国からの事務事業の移項が進み、そこには、自主的に市町村が事業を進められるメリットもあるが、果たしてその能力について不安な面も出てくる。当然その業務についてのマニュアル化された研修は行われるであろうが、そうしたものに対応するだけの能力が伴っているのか疑問な点もある。

 また、住民ニーズも増大し、それに対応できうる能力を持ち合わせているのか疑問な部分もある。今まで、様々な分野で、受身的な姿勢で取り組んできた職員にとって、そうした姿勢を変えることができうるのか。今後は、積極的に住民の中に入り、その必要なニーズを見出し、それを政策立案する能力が求められているのである。

 このように、山積する問題解決のために、職員研修がどのように機能しうるのか関心を持つようになった。研修、つまりは教育こそが、そうした問題解決のカギとなるのではないかと考えるようになったからである。

 

2・研修や人材育成についての先行研究

 それでは、まず研修や人材育成についてどのような研究がなされてきたのであろうか。さまざまな研究があるが、従来のOJT(職場研修)やOFFJT(職場外研修)と関連するかたちで、インストラクショナルデザインと学習環境デザインについて紹介したい[1]

@     インストラクショナルデザイン(以下ID)について

 IDとは教育を効果的、効率的に、設計・実施するための方法論である。そして、その教育のための教材や研修づくりをどのように活動していけばよいのかを示したのがIDプロセスという。そのプロセスでは、様々なものが開発されているが、有名なものがADDIEA(分析)D(設計)D(開発)I(実施)E(評価)がある。

A     学習環境デザインについて

 学習環境デザインとは、教室や職場といった現場での学習が、効果的に行われるように様々な環境整備の理論である。学習環境デザインでは、私たちが普段学習している環境を、空間、ツール(道具)、活動、共同体という4つの構成要素に分け、それぞれが最も学習に効果的になるようにデザインすることを目指すことである。

3・地方自治体での先進的事例

 それでは、地方自治体においての研修や人材育成はどうなっているのであろうか。先進的な事例を紹介したい[2]

@     長崎県庁 研修の民間委託化

A     新潟県庁 地元大学との連携

B     三重県庁 行政改革との連動

 

4・今後の研究についての課題と展望

自治体の先進的事例で見てきたように、各自治体も思考錯誤しながら、研修制度を開発し人材育成を推進していることがわかった。そこで2つのポイントを考えてみた。

まず一つめは、職員の意識改革とそれにつながる自己啓発である。大阪市立大学大学院法学研究科長稲継裕昭氏によると、人材育成での最も重要なポイントは、「自学」をいかに促すかという点であり、能力プログラムをいくら用意したところで、個々の職員がそれにコミットしなければ全く効果がない。とし、様々な人事制度、例えば、ジョブローテーション、人事評価、昇任制度などが相互に連動しながら、自学の刺激につながり、人材育成や能力開発につながるのであり、研修制度は、その中の一つにすぎないのである、としている。

もう一つは、現状の分析とそれにともなう目標の設定である。地方公務員法39条第3項が平成16年に追加され、地方公共団体は、研修の目標、研修に関する計画の指針となるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めるものとする。となっており、それに従って殆どの自治体は、人材育成基本方針を定めている。しかしそれが有効に生かされているのか疑問も残るのも事実である。

今後は、研修担当者や職員へのインタビューなどをして、現場の声を研究に反映させたいと思う。さらに、職員研修を人材育成・能力向上の一面のみで研究することなく、視野を広げ、相乗効果を得る可能性を模索してみたい。

 

参考文献

全国市町村国際文化研修所 JIAMメールマガジン 稲継裕昭 「分権時代の自治体職員」

http://www.jiam.jp/melmaga/newcontents1.html   (200810月現在)

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎県庁は2000年に自治研修所を廃止し、研修業務を学校法人産業能率大学にアウトソーシングした。県庁側は、予算と基本方針の立案、受講者の決定、施設管理業務であり、担当を人事部門でなく、新行政推進室とうい、行政改革部門である。

民間研修のノウハウを導入するために始められたものだが、コスト削減や、受講生満足の向上の成果もでているという。

 

新潟県は、研修体系を「職員一人一人の業務遂行能力向上プログラム」と「高度な専門性をそなえた職員の養成プログラム」に再編した。前者は、階層別研修、能力開発研修、部局業務研修、OJTからなり、後者は、中核に位置づけられる「専門研修」などがある。

この専門研修では、新潟大学および国際大学との連携により、2002年から実現した。

 

三重県庁では、北川知事就任後、1995年からスタートした県政改革推進の中で、人材育成問題は重要課題と位置づけられており、1998年の大きく刷新された。従来の現任研修は廃止され、「ステップ研修」が新設され、選択型研修科目を設定拡充して「マイセルフ研修」とするとともに、その科目が三倍増加された。2002年には、研修計画もバージョンアップされ、管理型から経営型へという県政運営方針の転換に対応できる人材育成が新たな目標となり、マネイジメント研修が創設され、ステップアップ研修の見直しが図られた。

 研修の充実とともに、その人材育成を進めるための体制整備も進み、人材育成プログラムが整備された。研修センターのみでなく、総務部人材育成チーム、各部所の人材育成担当職員の会議もある。

 こうした研修改革は職員の関心を高め、受講者数は97年の延べ1万人から、28千人へと増加し、自己啓発への助成を利用する職員の数も増加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



[1] 中原淳編者(2008)企業内人材育成入門 ダイヤモンド社PP152〜219をまとめたもの

[2] 上山信一、梅村雅司(2003)行政人材革命 ぎょうせいPP38〜47