2008/01/08(Tue)
河田裕親
インドネシアの開発政策と非自発的移住
〜政府・援助国・住民の認識〜
非自発的移住
そもそも移住とは、特に開拓や商売等の目的のために他の土地へ移り住みその地で生活を営むことであり、一般に海外へ居住を移す行為を指すことをいうことが多いが、海外への移動に限らず国内での居住の移動も含め移住であるといえる。この移住には、大きく分けて自発的なものと非自発的なものに分けることができる。自発的とはすなわち、自らの意思で移動することである。対照的に、非自発的移住とは自らの意思にかかわらず移動しなければならないことであり、立ち退きとも呼ばれる。大きく移住と言う枠組みの中に立ち退きが存在し、その中にさらに非自発的なものと自発的なものがあるとする。そしてさらに、非自発的なものの中に強制立ち退きがあるという位置づけで非自発的移住を観察する。もちろん、必ずしも自発的なもの、非自発的なものどちらかに位置づけ難い場合や認識の違いなどが存在するため、自発的、非自発的の間には明確な分別線はないとする。
図1、自発的、非自発的移住の位置づけ
移住
これら移住はどのようにして起こるのだろうか。移住が起こる要因は自発的、非自発的にかかわらず存在する。例えば、洪水や旱ばつなどの自然条件、開発による人為的条件を含めた理由である。また、自発的か非自発的であるかの位置づけ難いものとして例えばカリブ海の島嶼国のように、人口過剰に起因する諸問題や職を求め過疎農村地域から都市部へ移動するといった生活に起因する問題など、さまざまな要因が移住の動機になることもある。
本論文ではインドネシアのトランス・マイグレーション(Transmigrasi)政策を取り上げ、インドネシアの国家政策として移住を奨励した政策からインドネシア政府がどのように移住を認識してきたのかを推測する。
インドネシアにおける国家移住政策(Transmigrasi)
インドネシアにおける国家移住(トランス・マイグレーション)政策とは、人口が集中したジャワ島やバリ島など一部の島の人口過密地域からそれほど人口の多くないカリマンタン島、スマトラ島、スラウェシ島およびパプアといったいわゆる外島と呼ばれる島々へ人々を移動させた政策である。もっとも多くの人々が移動したのは1979年から1984年で、53万世帯以上、その人数は250万人以上と言われている。
しかし1990年代以降、このプログラムによって移住した移住民と原住民の間に闘争が起こった。その一例として、カリマンタン島ではマドゥラ族と呼ばれる移住民とダヤク族と呼ばれる原住民の間で大きな闘争が起こり、数百人が殺された。しかし2000年8月、アジア金融危機とスハルト政権崩壊後、資金力低下のため公式に大規模なこの移住プログラムは中止された。現在、この移住プログラムは再開されているが、その規模は以前よりも小さく年間約1万5000世帯、約6万人が移住している程度である。
このプログラムの目的は、よりバランスの取れた人口密度を達成することであった。また、貧しい土地なし移住民を未開拓の外島へ移住させ、開墾させることによって、貧困を軽減することと同時に天然資源をより効率的に使用する目的もあった。移住は希望制であり、当初は農民のみを対象としていたが、希望者が少なかったため農民以外にも対象を広げ、現在では退役軍人、都市のホームレス(路上生活者)、失業者、職を求める若者が対象に含まれている。入植者(移住者)は、それぞれの土地条件に応じて1世帯あたり2haから6haの土地が与えられる。入植(移住)初年度は、地元自治体が入植手当てとして各世帯に現金、食糧、苗、必要な農機具を支給する。また、仮設住宅や学校・医療施設等の公共施設を建設する基金も用意されている。入植(移住)後5年を経過し村の経営が機能すると、政府はこれを正式に自治組織として公認する。つまり、村として成立するのである。
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