政策的立ち退きに関する政府と住民の認識

〜インドネシアの開発政策〜

 

日本はインドネシアに対して最大の援助国(ドナー)であり、その割合は19962002年度の実績で、経済協力開発機構(OECD : Organization for Economic Co-operation and Development )開発援助委員会(DAC : Development Assistance Committee )諸国全体累計額の69.4%を占め、2位のアメリカの5.5%を大きく引き離している。19962002年度におけるわが国のインドネシアに対する援助額は、累計で11,278.8億円であった。その内訳を見ると、有償資金協力が9,866.3億円、無償資金協力648.7億円、技術協力763.9億円となっている。2002年度国別援助実績を見ても、インドネシアに対して860.1ドルで、全体の11%強を占めている。

 

日本の対インドネシアODA(政府開発援助)

2003年度 (単位:億円)

 (交換公文) 円借款   :1046.34

無償資金協力:50.16

 (JICA経費実績) 技術協力:123.91(91.01)

 

2004年度 (単位:億円)

 (交換公文) 円借款   :1148.29

無償資金協力:187.43

 (JICA経費実績) 技術協力:120.66(79.87)

( )内はJICA実施によるもの。

 

2005年度 (単位:億円)

(交換公文) 円借款   :930.05

 無償資金協力:63.32

 (JICA経費実績) 技術協力:85.22

 

開発の思想の潮流とODA(政府開発援助)

1955年、インドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議において「開発」を求め第三世界で始めて集団的要求を行い、「開発」を実現するべくいくつかの国際機関が設立された[1]1960年代には西洋をモデルとした近代化論が謳われGNP成長を目的とする開発が推し進められる一方、ラテン・アメリカなどから北と南の間には構造的な問題があると指摘する従属論が叫ばれ、援助よりも貿易を求める声が大きくなった。1970年代に入ると、新国際経済秩序(NIEO=New International Economic Order)や基本的人間の必要(BHN=Basic Human Needs)、もう一つの発展(Another Development)、内発的発展論といった新しい開発の概念が生まれた。1980年代には、これまでの先進国主導の開発の概念が間違っていたと認識され、「失われた10年」「失われた80年代」と形容され、1990年代には、持続的開発、人間開発、社会開発という従来の開発とは異なるアプローチが生み出されてきた。

しかし、これらの開発の概念やその変遷はやはり先進国からの視点であり、途上国側から「開発」が語られることはほとんどなかった。そこで私は、これまでの開発が途上国の開発政策とどのように結びつき、進められてきたのか、その過程市民はどのような影響を受けているのかを明らかにしたいと考えた。そのために、開発に伴う一つの影響として近年取り上げられることが多い「立ち退き」の問題を例に挙げ、開発を進める側の先進国と開発される側の途上国、開発を進める側の政府と開発される側の住民の間で開発政策や開発の影響に対してどのように認識の違いがあるのかを明らかにしたい。

これらODAをめぐる批判の一つに、ダムや高速道路、港湾の建設や整備の際に発生する立ち退き問題がある。この立ち退きには、単に居住を他に移動するという行為意外においてもさまざまな問題を併発している。私は、この議論に立脚した上で立ち退きと同時に変化する住民の生活環境の変化に注目し、人と人とのつながりの変化がもたらす弊害が彼らの生活の豊かさに大きく影響していると考え、開発政策と立ち退き問題を研究対象とする。

<参考文献>

嘉田 良平、諸岡 慶昇、竹谷 裕之、福井 清一(1995)『開発援助の光と影 援助する側・される側』、農山漁村文化協会

草野 厚 (1992)ODAの正しい見方』、ちくま書房

久保 康之 編著 (2003)ODAで沈んだ村 インドネシア・ダムに翻弄される人びと』、インドネシア民主化ネットワーク

(2004)「大規模開発と地域住民」(上智大学アジア文化研究所『上智アジア学』、第222004)

国際協力銀行 『円借款事業評価報告書』、各年版

『政府開発援助(ODA)白書』、各年版

斉藤 文彦(2005)『国際開発論』、日本評論社

佐藤 寛(1994)『援助の社会的影響』、アジア経済研究所

    (2005)『開発援助の社会学』、世界思想社

鷲見 一夫 (2004)『住民泣かせの「援助」 コトパンジャン・ダムによる人権侵害と環境破壊』、明窓出版

セロ・スマルジャン、ケンノン・ブリージール 著、中村 光男 監訳(2000)『インドネシア農村社会の変容』、明石書店

トマチェフスキー,カタリナ 著、宮崎 繁樹・久保田 洋 監訳(1992)『開発援助と人権』、国際書院

ハディ,ハリリ 著、三平 則夫 訳(1994)『インドネシアの経済政策の展開―第15カ年計画〜第45ヵ年計画を中心に』、アジア経済研究所

間苧谷 榮(2000)『現代インドネシアの開発と政治・社会変動』、頸草書房

松井 和久(2002)『スラウェシだより』、アジア経済研究所

ロバーツ,グリーン 著、小野寺 和彦 訳(1991)『開発援助の見方・考え方』、明石書店

James C. Scott (1999) Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed.  Yale Univ Pr

Wolfgang Sachs Ed. (1992) The Development Dictionary: A Guide to Knowledge As Power. Zed Books

Geoff Simons (2000) Indonesia: The Long oppression. Macmillan Press LTD.

<参考雑誌>

『国際開発ジャーナル』、各月版、国際開発ジャーナル社

『外交フォーラム』、各号、都市出版

 

<参考HP>

『政府開発援助データブック2006 (インドネシア)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/kuni/06_databook/pdfs/01-01.pdf

『政府開発援助データブック2005  (インドネシア)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/kuni/05_databook/pdfs/01-01.pdf

JBIC『円借款事業評価報告書2004』 ビリビリ多目的ダム建設事業(1)(2)(3))

http://www.jbic.go.jp/japanese/oec/post/2004/pdf/project07_full.pdf

 



[1] 1956年、世界銀行のIFC(International Finance Corporation)1957年、IAEA(International Atomic Energy Agency)1958年、SNFD(Special United Nation Fund for Economic Development、現在のUNDP=United Nation Development Program、国連開発計画)1964年、UNCTAD(United Nation Trade and Development)など。