日中環境協力を通じた中国貴陽市の大気汚染対策の成功要因分析

                     

                        国際学研究科国際社会専攻

学籍番号 074106A

                               氏  名 聶 

 

研究背景

 

中国は改革開放してから30年間、急速な経済発展に伴って大きな環境問題が起きている。エネルギー利用の増大に伴い大気汚染と地球温暖化問題が増し、大気汚染問題による経済的、人の健康に被害が深刻化している。

将来に向けて、中国の大気汚染問題は、国内環境問題と地域環境問題が悪化する恐れがある。世界はますます相互依存関係を深めるために、この問題はさらにアジア平洋地域に大きな影響を与えることが懸念されている。

中国大気汚染の主な要因が世界第2の石炭産出国であり、エネルギー使用実態も石炭への依存度が高いと考えられる。その中、中国貴陽市は改革開放政策以降内陸新興工業都市の一つとして、経済成長を遂げたが、石炭に依存したエネルギー構造、重化学工業中心の産業構造等により、大気汚染や酸性雨など環境悪化を招く結果となってしまった。貴陽市は石炭使用を起因して大気汚染が深刻化になった代表都市と考え、研究の対象に選んだ。

貴陽市の大気汚染状況を改善できたのが日中環境協力である。1997に日中双方が中国の深刻な環境問題への対応策として、環境モデル都市構想が合意された。その内容は、モデル都市(貴陽市、重慶市、大連市)において集中的な環境対策を行い、その成功例を他の都市へ普及させようというもので、実現のために日本のODAによる支援が行われた。

貴陽のプロジェクトは、主要な汚染源対策やモニタリングシステムの構築のため、

有償資金協力(円借款)を通じて支援して、大気汚染対策を中心として循環型社会シス

テムを築くことを目指していた。このような取り組みによって、貴陽市市街地の大気汚

染物質(二酸化硫黄)8割削減にされた。

 

研究目的

本研究は、上記の貴陽市における大気汚染対策が日中環境協力を通じて一応の成功を

みたと考え、どのように成功したのか、その要因分析を行うことを目的とする。又、貴

陽市の事例が他の都市にも適用しうるのか、その条件、要因を分析し、他都市への応用

可能性について考察する。

貴陽市への日中環境協力がこれまでと大きく異なるのは、インフラ整備面に関するプ

ロジェクトに加え、ソフト面も重視した総合的なアプローチがとられたことである。す

なわち、日本は公害経験国として、中国に設備投資や技術供与などだけではなく、貴陽

市に専門家の派遣や中国での環境人材を育成するなど、人づくりや制度づくりなどのソ

フト面の技術協力による支援も行った。

このソフト面の実施が貴陽市の大気汚染の改善に重要な役割を果たしたのではないか

と考えられる。そこで、日本の大気質改善に関する諸制度がどのようにして、貴陽市に

活用されたのかを含め、貴陽市と日本の制度の比較考察を通じて、貴陽市におけるソフ

ト面の支援内容について詳細に分析する。その上で貴陽市の例が中国他の都市にも応

用できるのか、分析する。

 

研究方法

 

本研究については、文献研究、現地調査、比較分析などの方法を通じで進める。

文献研究は、中国政府及び貴陽市当局の環境政策とこれまでの環境行政の実績に関す文献、資料と日中環境協力、日本の大気汚染改善のための法制度に関する文献、資料など重要なデータを体系的に収集する。

現地調査については、プロジェクトが行われた貴陽市製鉄工場、貴陽市セメント工場

を訪問し、汚染状況及びその改善に関する資料、データを収集するとともに現地調査も

行う。具体的には貴陽市で実施された7つのプロジェクト、それぞれの内容と実施過程をまとめ、改善効果について分析を加える。又、ソフト面の取り組みがどのように実施され、結果として、環境改善に効果をあげているのかをヒアリングなどを通じて調査する。大気汚染の改善について貴陽市住民の意見を聞き、市民の意識の調査を行う。

最後は、日本の先進事例との比較分析である。過去に深刻な大気汚染問題を経験し

た三重県四日市を比較対象として選び、四日市市と貴陽市の取り組みの共通点相違点

を明らかにし、貴陽市では、どのように日本の制度が反映され、取り込まれたのか分析

する。最終的には、これらの制度や技術が中国の他の都市にも応用できるかについて、

中国の国情を踏まえつつ、検討する。