比較政策論
2006年1月10日(火)
国際社会研究専攻 MK050112山村祥代
家庭における子どもに対する暴力への取り組み
はじめに
家庭は子どもに対する暴力を生む原因の一つである。そのため、家庭は公権力から独立したプライベートな空間だが、締約国が子どもの権利を保障する施策が講じる必要がある。本小論では、家庭における子どもに対する暴力の現在の取り組みを概観し、その取り組む範囲、扱うべき事象について確認する。
1.子どもに対する暴力
(1)歴史的展開
国連の子どもの権利委員会は2000年一般的討議において「子どもに対する国家の暴力」に関する勧告を採択した。文書は、国際的レベルにおいて、1996年提出された「武力紛争が子どもに与える影響」報告書と同じように徹底的でかつ影響力を有する詳細な国際的研究を行うよう事務総長に要請するよう勧告している。研究内容は@子どもが被害を受ける暴力的取り扱いのさまざまなタイプの探求とその原因、子どもに与える影響を特定A条約およびその他の国際人権条約のさまざまな規定のつながりを探求B人権機構および国連機関の活動について、および子どもに対する暴力の問題がこのような活動において人権の観点からどの程度対応されているか、情報収集C効果的な救済ならびに防止およびリハビリテーションのためのものを含む、採られるべき行動に関する勧告を提示、であるべきとされている。
2001年国連総会でPaulo Sergio Pinheiro氏が、子どもに対する暴力の特別専門家として任命され、2002年、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機構(WHO)と協働で子どもに対する暴力の研究に取り組むことを提案。現在各分野で研究を行っている。2006年中に「子どもに対する暴力」の最終レポートが提出される予定である。
(2)2001年一般的討議における「家庭および学校における子どもへの暴力」勧告
子どもの権利委員会(以下、委員会)は、2001年「家庭および学校における子どもへの暴力」に関する勧告を採択した。第1項で委員会は、家庭、および学校という言葉が表す範囲について言及している。文書によると、「家庭」および「学校」が狭義に理解されないよう促すとしている。「家庭」は地域の文脈の中で解釈されなければならず、核家族、複婚制家族、またはより広範な共同体(祖父母、きょうだい(sibling)、その他の親族、保護者もしくは養育者、近隣住民などを含む)の定義を意味する場合もあるとしている。同様に、「学校」(または「教職員」)に対するあらゆる言及が、学校、教育施設ならびにその他の正規およびインフォーマルな学習環境を含むものとして理解するよう促している。第2項で委員会は、子どもを含むすべての人々の権利と尊厳が尊重される場としての学校および家庭を強調し、従来の見方にかわるこのビジョンが、子どもへの暴力に関するあらゆる行動の指針としてなるべきことを勧告している[i]。
また、子どもに対する暴力への行動はいかなる状況下でも受け入れられないとしつつも、やめさせるための行動は、異なる社会的および文化的文脈を考慮にいれたものでなければならず、そのため、地域的に取り組むこと、国レベルでは地域を考慮するよう推奨している。
2.家庭と家族における子どもに対する暴力(Thematic meeting on violence against children in home & family)のテーマミーティング報告書
2005年6月20,21日スイスのジュネーブでWHOが組織して、家庭と家族における子どもに対する暴力を主題とする会議が開催された。参加者は国連を含む国際機関職員、研究者、NGO職員となっている。二日間の会議での参加者の見解、決定、勧告を強調しているのがこの報告書である。
報告書は、(家庭と家族における暴力)部会の見解、問題の一般的討議、勧告で締めくくっている。
(1)部会の見解
議論されたのは@家族の定義、Aリスク要因や予防レベルの理解、B厳格な指標よりも文脈を重要視すること、C他部会との関連、である。
問題の補足説明は他の分野を参照、マスメディアが家族との付き合いを与えることを強調する。
以上のことをこの部会で討論することを示し、次にこの部会が扱う範囲を限定している。
(2)問題の一般的討議
この節では、情報、予防、反応、法律、計画と資源分配、討議についての勧告を述べている。
前置きで、家庭と家族における子どもに対する暴力は子どもの権利条約と、問題およびその予防方法が科学的に基づく理解による情報で指導されるべきである。子どもに対するすべての暴力を禁止し、国家は家庭が子どもにとって安全な場所であることを確保する行動をとらなければならないとしている。
情報システムを発展、進歩するうえで手段に基づく調査システム、調査に基礎をおく情報収集、調査のために倫理、安全指針の発展、全ての子どもとその母親が生まれて10日以内に証明と登録を行うこと、家族とコミュニティをエンパワーと強化することを勧告している。
予防では、子どもの権利条約に基づいて気づきと教育のキャンペーンを行うこと、国家が、効果的で科学的根拠に基づく普遍的かつ対象をしぼった予防プログラムを行うこと、そのなかで親の教育、コミュニティに基づく予防プログラムの設立するよう勧告している。子どもの身体的、感情的、性的発達、子どもの尊厳を尊重する肯定的なしつけの技術を親の教育とトレーニングで行うとしている。教育とメディアを通して暴力についてアプローチすること、家族についての教育を行うとしている。
反応では、子どもを保護するシステムが情報・気づき、サービス、法的枠組みの三本柱を組み込むべきとしている。教育、カウンセリングなどを虐待を犯している家庭に与えること、法システム、裁判などで子どもが二次的な被害者にならぬよう倫理的ガイドラインを発達することなどが勧告されている。
法制度において、まず、子どもの権利条約が国内法と政策に反映されること、子どもに対する暴力のすべての形態を禁止する法律と被害者保護の法律を採択すること、子どもへのすべての性的、肉体的行為を禁止、法律を制定すること、性的攻撃者に対し法律、社会政策の面を発達すること、女の子の地位を上げる法律と政策が促進されることを勧告している。
計画と資源分配では、国家レベルにおいて明確なゴールと目標を設けること、それは五年計画で子どもの権利委員会への報告書提出と結びつくこと、勧告の履行と活動の遂行ための資源は分配すること、地方のリスクと保護要因、文化的に微妙な干渉といった問題の評価を受け入れる体制を築きあげることが勧告された。
最後にこれらの勧告が履行されるための必要性について討議されている。子どもに対する暴力の効果は、文化的にふさわしい方法、方向での統合的アプローチをとる必要があること、子どもと青年はこれらの問題とプログラムに関して意見を聞き入れられるべきであること、可能なところでは、存在する教育資源は文化的信頼の確保するために利用されるべきであること、最後にメディアがすべての過程でパートナーであるべきことが勧告されている。
報告書では、子どもに対する暴力の予防に関して国家が担うべき役割が明確に示されている。ネグレクト、家庭内での性的、肉体的暴力は、大人の社会的におかれている状況、情緒、育った環境が関与する。子どもに対する暴力を防ぐためには大人に対するアプローチが欠かせない。また、因習や文化に基づく暴力、特に女性性器切除、早婚、強制的な結婚などは、その社会全体で取り組まれなければならず、国家は法制度の整備、罰則規定などを設けるといった積極的な施策を行う必要がある。
5.おわりに
報告書は、子どもが安心して過ごせる場としての家庭のために国家が果たすべき役割を明確に示した。子どもに対する暴力は家庭のみならず、さまざまな場所で行われており、社会全体で取り組まなければならない。報告書の内容が実現するよう国家の施策と、メディアとの連携によって国民にアプローチする必要がある。2006年に子どもに対する暴力の調査研究報告書が提出される。今後の取り組みが期待される。
[i] 例えば、体罰ではなく、このビジョンに則った行動、話し合いなどを活性化させること
(参考文書)
Thematic meeting on violence against children in the home & family : Draft report
14.7.05
CRC/C/100
CRC/C/111
Statement by the Independent Expert, Mr. Sergio Pinheiro, to the Sixtieth Session of the Commission on Human Rights