データから見る外国人犯罪

国際社会研究専攻 1年 呂 洋

 

 20051130日未明、広島市安芸区の小学一年生女児殺害事件(以下「広島女児殺害事件」)で、ペルー人のピサロ・ヤギ・ファン・カルロス容疑者[1]が逮捕された。事件の容疑者が外国人のこともあり、マスコミに大きく取り上げられた。これをうけ、読売新聞夕刊では「急増する外国人犯罪」という見出しで以下の記事[2]が掲載されていた。

 

昨年1年間に全国の警察に摘発された外国人は、前年比9.2%増の21842人で過去最高を記録した。このうち凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)は421人。前年より56人減少したものの、200人前後で推移していた1997年までと比べると倍増しており、特に2000年以降、著しく増加している。

 

ここでは、以上の記事を統計からアプローチし、グラフで示して検証している。以下は全て警察庁の「平成17年上半期の犯罪情勢」のデータに基づく。

 

外国人犯罪は本当に「急増」しているのか

 「平成17年上半期の犯罪情勢」によれば、2004年における全国の刑法犯[3]認知件数[4]2,562,767件、検挙件数[5]667,620件、検挙人員[6]389,027人であった。そのうち来日外国人[7]の検挙人員は8,898人で、総検挙人員の約2.3%にあたる。これを日本全体の刑法犯検挙人員の推移で見てみたい。

 

警察庁「平成17年上半期の犯罪情勢」より作成

このように、来日外国人犯罪は2000年より2%を越えるものの、全体を通して2%前後で推移し、急増する傾向は見られない。

 次に、来日外国人による凶悪犯罪について詳しく見ていくことにする。広島女児殺害事件は殺人事件であったため、まず来日外国人による殺人検挙人員の推移を見てみたい。

警察庁「平成17年上半期の犯罪情勢」より作成

 

グラフが示すように、来日外国人による殺人検挙人員が急増する傾向にないことが明らかである。次に、来日外国人による凶悪犯罪の中で最も多く割合を占めている強盗についての統計を見てみたい。

警察庁「平成17年上半期の犯罪情勢」より作成

 

このグラフから、来日外国人による強盗が倍増していることが分かり、急増しているように捉えることができる。しかし、同じ統計を強盗の総検挙人員の中で見てみるとどうなるのでしょうか。

警察庁「平成17年上半期の犯罪情勢」より作成

 

グラフが示すように、来日外国人による強盗だけが倍増しているのではなく、全体的に強盗検挙人員が増加していることが分かる。

これらのグラフにより、上述の「急増する外国人犯罪」という新聞タイトルには説得力がなく、私には意図的に外国人を凶悪犯罪者に仕立て上げているように思えた。

誤解してほしくないのは、私は外国人犯罪をかばっているわけでもなければ、外国人犯罪が増えているという見方を否定しているわけでもない。実際、下のグラフを見ると、来日外国人による凶悪犯検挙人員は増えていることが分かる[8]

警察庁「平成17年上半期の犯罪情勢」より作成

本論文を通して私が言いたいのは、データ一つで受け手に対しいいようにも悪いようにも印象付けることが出来るということである。実際、ここで示されたグラフは全て警察庁のデータを使用しているが、警察庁とほぼ逆の見解、または「急増する外国人犯罪」という見出しと反対の見方を導き出した。つまり、同じデータを使用しても視点が変われば全く別の見方ができるということである。

メディアが事実を伝えていないということではないが、報道とは、事実のある一面を切り取っただけのものである。したがって、「急増する外国人犯罪」という見出しを見て、それに関する正しい情報がなければ読み手は間違った捉えかたをしてしまう可能性がある。外国人犯罪に過剰報道するマスコミは、既存する日本の「外国人排斥」の風潮を拡大させていないか。また、私自身も含め、外国人犯罪に対する正しい知識が身についているか、改めて考え直す必要があるのではないかと私は思う。

 

 



[1] 後に偽名であることが判明。

[2] 読売新聞夕刊20051130日付。

[3] 道路上の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷及び危険運転致死傷を除いた「刑法」に規定する罪をいう。

[4] 警察において発生を認知した事件の数をいう。

[5] 刑法犯において警察で事件を送致・送付または懲罰処分にした件数をいい、特に断りのない限り、解決事件の件数を含む。

[6] 警察において検挙した事件の被疑者の数をいい、解決事件に係る者を含まない。

[7] 日本にいる外国人のうち、いわゆる定住移住者(永住権を有する者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者以外の者をいう。(警察庁の規定)

[8] 大半が強盗である。

 

 

 

 

[参考文献]

朝日新聞   2005121

外国人差別ウォッチ・ネットワーク

『外国人包囲網―「治安悪化」のスケープゴート―』(2004年 現代人文社)

読売新聞夕刊 20051130

 

インターネット関連

警察庁ホームページ http://www.npa.go.jp/

警察庁「来日外国人犯罪の検挙状況(平成17年上半期)」http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kokusaisousa/kokusai1/17a/contents.htm