比較政策研究                          200512月6日

MK050116 和気和子

少子高齢・人口減少社会の活性化に向けて

―大量退職する団塊世代の動向と変革―

 

研究の目的

 日本の人口は、少子化が早く進む可能性がでてきた分、2006年ごろをピークに長期的な減少傾向に入る。一方、高齢化が急速に進行し、高齢者(65歳以上)は今や国民の5人に1人を占め、50年後には高齢者が国民の3人に1人を超える「超高齢社会」になろうとしている。少子高齢化を伴う人口減少時代に入ってきた。人口減少による消費の減少や労働力不足は経済を縮小させ、超高齢化による社会保障給付費の増大で制度の維持を困難にするなど、ライフスタイルの変換を強いかねない深刻な事態である。その上、2007年には、約700万人といわれる団塊世代が60歳に到達し、人口に占める高齢者の割合が一段と高まってくる。少子高齢と人口減少が進む中で、団塊世代の大量の定年退職は社会や経済にどのような影響を与えるのか、日本の将来はどのように変わってくるのか。高齢者に仲間入りをしょうとする団塊世代の在り方と動向を調査し、人口構造の変化による経済、福祉、社会保障の行方や、団塊世代の変革による新しい活力ある高齢社会の構築を目指せるのか研究することを目的とする。

 

研究の背景

人口減少化;厚生労働省「人口動態統計」によると、2005年1〜6月の人口は約31,000人減少し、自然増加数(生まれた子どもの数から亡くなった人を差し引いた人口)が半期ペースで初のマイナスになった。日本の人口は、2007年の1億2,800万人をピークに減少を始め、50年後には1億人、100年後には6,000万人台へと半減する可能性がある。

人口の少子化1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は1.289人となり、4年連続で過去最低を更新した。女性の社会進出、ライフスタイルの変化による晩婚化、未婚化など結婚しても子育てにかかる経済的な理由で子どもをつくらないなどがある。また、最近の少子化は新しい問題として、フリーターの存在がクローズアップされている。定職を持たない若ものは経済力がないため、子どもはおろか結婚も出来ず、少子化に拍車をかけている。

人口の高齢化;人口の高齢化は、寿命の伸びと出生率の低下である。伸び続ける寿命にも原因があるが、高齢者の死亡率の低下することにも影響される。過去30年間に出生率が驚異的に減少したことである。出生率が高くなれば人口が若くなるが、出生率の低下は若返りの効果が消え、人口が老化する。日本の高齢化率(人口に占める65歳以上の人の割合)は2005年には19.9%、約2,500万人が65歳以上の人である。2006年には20.5%となり、それ以降、総人口は減少に転じるが、高齢人口は増え続け2025年には28.7%、3,473万人の人が、このままでいくと2050年には人口の35.7%が高齢者であると予想される。 

社会保障(年金・医療・介護)の現状と問題

年金;国民年金は65歳までに25年加入すればもらえる。保険料は2005年度13,580円。40年加入して保険料を満額受け取る老齢基礎年金は年間794,500円、月額だと66,208円もらえる。サラリーマン、公務員の場合は厚生年金、共済年金からも現役時代の報酬に比例した老齢厚生(共済)年金が上積みされてもらえる。老齢年金の支給開始は65歳だが、加入期間が不足し、年金を受け取れない人のために、資格期間を満たせるような例外もある。高齢化の進行で、老後を支える年金の役割はますます重要になってくる。年金などの財源の多くは現役世代が負担しており、高齢者の増加と団塊世代の退職者が増加すれば、高齢者の仲間入りする2010年には年金の給付額が急増してくる。保険料負担の軽い高齢世代が手厚い給付を受けることは、負担が重いのに給付が減らされる将来の世代との不公平が生じてくる。世代間で受給と負担の格差が拡大していく。高齢者にも払う力のある人は、払うという発想に改め、年金や資産収入も含めた所得への課税や相続税の強化をすべきである。

 

医療;65歳の医療費は2004年15兆8823億円となり、過去最高を更新した。現役世代を含む医療費総額に占める割合は50.4%と4年ぶりに5割を超えた。国民1人あたりの医療費247,000円、65歳未満は151,000円、65歳以上は653,300となり、年代による差が大きい。高齢者の増加でますます医療費の増加が予想され、高齢者の医療費の負担が現役世代にのしかかり、今後さらに高まる可能性がある。

厚生労働省は、高齢者医療制度改革を来年度から2段階に分けて実施する。一定の所得がある高齢者には高齢者医療費を2割から3割に引き上げて、医療費削減を検討している。こうした本人負担増を実施したうえで、高齢者が幅広く負担して相互扶助しあう、そして、世代間の負担の不公平間を薄める狙いもある。2006年の医療制度改正では、高齢者の医療費抑制と現役世代の負担軽減が大きな課題となる。

 

介護;2000年介護保険制度が発足時の総費用は3兆6000億円、218万人の利用者から2005年には6兆8000億円、480万人と拡大した。特に介護の必要度が低い「要支援」と「要介護1」は84万人から200万人へと膨張している。軽度の人が家事代行サ−ビスを安易に利用していることも肥大化している一因である。しかも、過剰な支援が体の衰えを早めてしまう例が少なくない。超高齢化を目前に控え、保険財政がますます厳しくなることが予測される。制度を極力小さくして持続性を高めることが課題である。来年度から、軽度者への家事支援は、本当に必要かどうかを見極めて提供するなど、その代わりに身体の機能を維持するための運動や健康指導といった「予防給付」に力を入れ、要介護になる恐れが強い人向けに「地域支援事業」と呼ばれる予防サービスが導入される。高齢化による利用者の自然増と給付費の増加は避けられないが保険料を納める人の年齢を現行の40歳以上から引き下げて、若い世代にも制度を支えてもらうなど、介護保険料の負担とサービス受給者の範囲をどうするかが問題となる。

 

 

団塊世代の退職による現状と問題

団塊世代とは;団塊世代は、第二次世界大戦後1947から1949年に生まれ、その人口は約700万人に上り第一ベビーブームをつくった。他の世代に比べ人口が2〜5割も多く、総人口の5.4%を占める。団塊世代は、日本経済の高度成長期に就職し、企業の発展とともに若い時代を過ごしてきた。60人学級、集団就職、大学紛争、ニューファミリー、企業戦士、モーレツ社員などといわれ、経済の発展と社会の変化に常に大きな影響を与えてきた。ポスト不足、リストラ対象など戦後60年の話題の中心であり続けた世代だ。団塊世代は膨大さゆえに、その子どもの団塊ジュニアの数も膨大であり、社会や経済に対して非常に大きな影響を与えた。

 

団塊世代の退職の状況:2007年からベビーブーマー(団塊の世代)が定年退職年の

60歳に達し、職場から引退し始める。団塊世代の就業者数539万人(全人口8.6%)、2010年には最大110万人の労働力が減少すると予想される。大量の団塊世代の定年は、年金における現役世代の負担の増加、オフィスの過剰、通勤定期の客の減少、都心勤務サラリーマン各種ビジネスの停滞などマイナスの影響が多い。また、企業にとっては、団塊世代が退職すれば、給与の高い高齢者が減り、企業の賃金負担は軽減され、ポスト不足で停滞していた後続世代の昇進が早まり、若年雇用が早まるかもしれないが、技術や経験の継承が困難になると不安を抱えている。経済にとっては、退職すると貯蓄を取り崩して、消費に当てて生活する人たちの増加により、当然ながら貯蓄率の低下となる。(大量退職で、2010年家計貯蓄率は8%から3%までに落ち込む予想。)年金受給までの5年間をどのように生活し、過ごし方が課題となっている。

 

団塊世代の退職後の動向;団塊世代の退職後、何に生きがいとしているかをアンケート調査(経済財政白書、日本雇用創出機構、日本経済研究センター)結果

第1位 働きたい;生活維持(経済的)、健康維持、生きがい

第2位 趣味;国内旅行、海外旅行、ドライブ、アウトドアスポーツ、農業、生涯学習

第3位 ボランティア・NPO活動、社会貢献;チャレンジ、やりがい、起業

 

働きたいの1位は、定年後の不安から「老後の生活費は年金でまかなえるのか、病気になったらどうしょう」といったお金や健康からくるもので、元気な内は働いて稼ぎたいといった経済的な基盤が前提にある。団塊世代はモーレツに働いてきた分、定年後は思う存分に自分たちの時間やお金を使い切りたいと考えている傾向が強い。田舎に移って農作業を楽しむだけでなく、副次的事業を立ち上げ計画や、海外に語学留学やシニアボランティア(JICA)として渡航や、大学や専門学校で資格習得や自己実現のために学び直すなど、団塊世代はおとなしく何もしないで過ごすことはなく、好奇心旺盛な世代である。定年後の趣味の消費力は増大する模様だ。

 

 

 

課題の研究方法と問題意識

1.      人口減、少子高齢化社会がもたらす変化の動向 

О出生率の低下;出生率1.289人から1.71.8人程度を上昇すると、急激な人口減少が緩和し、経済や生活水準は維持できる。安心して子育て出来る環境づくりに行政・企業、市民レベルの対応策と世界の人口動態や海外(スェーデン)の改善策を比較調査

О高齢化の進行;平均寿命は男性78.64歳、女性85.59歳と伸長し、少子化が進み、若者世代、働き手が減少し経済社会にマイナスの影響を与える。生産人口「1565歳」を70歳として、労働人口の拡大、高齢者の意識調査や取り組みなど、高齢社会を活性化するために地方から世界レベルの動向調査。

2.      公的社会保障制度の改革

О年金制度:少子高齢化が進むため、年金の受け取り額を抑制しなければ、これから若い世代は重い保険料負担に苦しむことになる。世代間の格差、受給年齢の引き上げ、負担と給付の不均衡の問題や是正策調査。海外(欧米)との比較研究

О医療制度:高齢化で膨らむ公的医療費をどう抑制するかは先進国でも共通の問題。新たな高齢者医療保険制度の改革により、高齢者の自己負担増の影響や現役世代への負担減につながるのか。増え続ける医療費抑制に医療機関や利用者の対策調査

О介護保険制度:要介護認定者の増加により、保険財政は圧迫している。認定者の削減、予防対策、施設や在宅介護の状況を把握調査。

3.      団塊世代の退職後の動向と変革

О第二の人生計画:60歳後、何年生きるかを表す平均寿命は男性22年、女性28年とされている。残された余生をいかに有意義に過ごせるかなど意識調査(アンケート、シンポジューム、聞き取り調査)

О退職後の社会参加活動:企業、行政、地域でのニーズの動向調査、海外のシニアの活動など比較調査

 

 

参考文献

人口ピラミッドがひっくり返るとき 2001年  ポール・ウォーレス  ()草思社

今、高齢者福祉は、(地域・施設方の発信) 2001年  山田 昇  随想舎

高齢者の法  1997年  河野 正輝・菊地 高志  有斐閣

定年後の生き方・暮らし方 (自立する後半生のために) 2001年 村上義雄 平凡社

団塊時代を総括する 2005年 三浦 展  牧野出版

「高齢社会にむけての企業・行政の対応」2000年(財)暮らしのリサーチ 共立速記印刷

日本経済新聞、読売新聞、下野新聞