2005年2月1日
比較行政研究
「日光市に期待される国際化」
国際学研究科
国際交流研究専攻
MK040305高井孝美
前回までの流れ
序章 「隣市・今市市との合併に新・日光市の国際化政策を期待する」
第1章 日光市の国際化における歴史的背景
(1)近代観光産業の幕開け―観光地NIKKOの誕生
(2)鉄道開通がもたらした避暑地日光の賑わいと奥日光の国際交流
(3)今も生き続ける山内「赤門」における国際交流―米国人外交官ジョン・エマーソン
(4)世界文化遺産登録後の日光
第2章 現在の日光市が抱える国際化の問題点
(1)日光市の国際化の現状
(2)日光市の国際化に対する施策と問題点
第3章 国際化とは―「世界の日光」に期待されるもの
(1)外国人が期待する日光像
(2)取り組み
ケース1:赤門復活・日光国際交流協会の設立と活動(日本文化紹介と外国人受け入れ)
ケース2:日光インターナショナル・サマーキャンプ2004―国際交流を観光資源に
(3)これからの可能性
世界遺産登録の意味と価値
合併後の新・日光市から発信できるものはなにか
考察 「ホスピタリティの原点なくしての観光立国はありえない」
「世界遺産をどう生かすか」
***********************************************************
付記 2004年12月14日
「栃木県日光市における市町村合併頓挫リアルタイム
――合併協議委員から見た日光市国際化への模索
2005年2月1日
「市町村合併と日光市における国際化政策
――民意と議会のあり方」
第三章 国際化とは―「世界の日光」に期待されるもの
(1)外国人が期待する日光像
今から数年前に、日光市に別荘を持つ外国人と地元の地域活性化研究グループとの間で、「国際観光都市日光のホスピタリティ」についての懇談会があった。イギリス・ニュージーランド・アメリカ出身の外国人たちは、以下の点について日光市に改善を求めた。
・
少なくとも英語の案内標識・史跡紹介の立て札がほしい。できれば、その他の言語も。
(地図やガイドブックを見てもそれがどれに該当するかわかりづらい)
・
商店やお土産店でクレジット・カードが使えるようにしてほしい。
・
銀行・郵便局のATMで外国のカードでもお金がおろせるようにしてほしい。
・
レストランや商店でとりあえず簡単なメニューまたは英会話を取り入れてもらいたい。
・
ボランティア通訳ガイド・リーフレットも置いてほしい。
・
自然や景観を損ねるような開発またはデザインの建築をしないでほしい。
(美しい景色はみんなの財産)
・
英語の観光用サイトを作ってほしい。
・
空き店舗が多いので何とか有効活用してほしい。景観も悪い。
このうちいくつかは(案内標識・リーフレット・ガイド)は対策が進行中だが、カード・金融関係にいたっては何年もたっているにも関わらず改善の様子はない。日本的な歴史建造物や伝統文化をほめたたえるだけでなく現実面においての要求が多かった。
(2)取り組み
ケース1:日光国際交流協会 第一章で述べたように、東照宮のある山内地区に「赤門」という外国人所有の別荘がある。近年、この赤門を中心とした新しい近所づきあいが始まっており、新規参入外国人や地元の日光市民との交流から「日光国際交流協会」International Friendship
Association of Nikko City(以下I-FANCY) が2002年11月に立ち上げられた。もともと外部の団体やまたは市内の学生宅などから設立の要望は日光市にも届けられていた(社会教育委員として私も何年も掛け合った)が、日光市からは、行政ではその対応はできないので市民主導でやるようにとの返事だった。運営は外国人メンバーが中心である。
日光市は受け入れ実績がほとんどなかったが、I-FANCYは学術・芸術交流目的の日光市来訪グループのホームステイ受け入れを行っており、その他日本文化紹介の機会として茶会・書道会・俳句会などを留学生やALTを招いて行うことにより、日本人の会員との交流にも努めている。
ケース2:日光インターナショナル・サマーキャンプ2004 平成16年は日光市市制50周年にあたるため、I-FANCYは日光市の依頼で国際化をテーマにイベントを企画。日光の良さを広く内外にアピールするためにちびっこ大使役の子供たちを招待しよう!をコンセプトに、東京在住の外国人の子弟(8歳から13歳まで)20人を募集し、日光の小中学生20人と3泊4日のサマーキャンプを行った。国際交流はもちろん、キャンプは日光の歴史的建造物クイズラリーや、伝統工芸や乗馬・スケートなどの日光ならではのスポーツ、各種チームワークゲーム、田母沢御用邸を会場に茶道体験などを楽しみながら日光PRを班ごとに発表してもらおうという内容であった。言葉や習慣の違いを超えて最終日には涙の別れをするほど充実したイベントであった。また、同時に、子供たちのケア役として、英語のできる学生・社会人のボランティアや高校生のアシスタントも20人ずつ募集し、外国人教師を中心に安全面・カリキュラム等万全の態勢で臨んだ。海外体験のあるボランティアたちの帰国後の活躍の場が少ないことがわかり、子供たちと外国人父兄、スタッフ双方からまたこのようなキャンプをぜひやってほしいとの要望もあった。また、こうした国際交流キャンプを観光資源として日光市で活用してはどうかという提案もある。
(3)これからの可能性
世界遺産の意味と価値 日光の社寺は1999年12月に世界文化遺産に登録されたことは前にも述べたが、これと時を前後して「日光ユネスコ協会」も設立された。協会は世界遺産登録にあたって、日光市民の啓蒙と将来への展望の勉強会を何回か催した。しかし、一般市民の間では、この人類共有の遺産の意味がわからずに、単なる町おこしや地域活性化の手段としてしか受け取られていない傾向もあり、たった数年しかたっていないにも関わらず地元の人々の関心は散漫になってきている。また、2004年の宇都宮大学の世界遺産に関するシンポジウムでも発表されたように、遺産指定エリアのすぐそばまで河川改修の土木工事が行われて保護すべき自然景観を著しく損傷した例もあり、官民一体の無知・無自覚も問題となっている。同年12月には国内の世界遺産を持つ9つの市町村が日光市を会場に世界遺産の意味と価値についてシンポジウムを行ったが、どこもその保護と運営には苦労しているようであった。しかし、ここでも日光市の発表はあまり問題点など率直に述べることもなく、ご当地自慢に終わったような発表であるとの印象だった。
合併後の新・日光市から発信できるもの あくまでも合併が実現した場合であるが、隣市・今市市における行政主導の現行の国際交流活動の運営力と、日光市というネーム・バリューが合体すれば、行政も市民も協力し合ってより活発な国際化が見られることになるだろう。また、文化面だけでなく、企業誘致や学術交流もグローバルに対応できるようになるに違いないのではないか。東京に近いこともあり多くのビジネスチャンスも期待でき、またすでに英語特区なども導入し始めた教育の柔軟性も次世代の人材育成を助けるようになるだろう。日本の真ん中に近い栃木県の4分の1を占める面積に、農業・観光・商業・自然などのバランスのとれた自治体が誕生すれば、新・日光市としてもその名を有効に使って情報を発信し、真の国際化に備えることが可能になると思う。
2005年2月1日
市町村合併と日光市における国際化政策
――民意と議会のあり方
その後
日光市に期待される国際化に関して、その歴史的背景・現状・問題点・対策について検証していく予定であったが、ちょうど市町村合併の協議の進行と研究の時期が重なってしまった。特に日光市においては、2003年12月に行われた住民投票によれば住民の65%が5市町村合併賛成という結果があるにもかかわらず、2004年12月、日光市議会で合併関連法案が否決されたため、民意と議会の議決の乖離が大きな問題となった。
前回のリポート(2004.12/14)前後の大きな動きとしては、以下のようになった。
2004. 12・3 日光地区(今市市・藤原町・足尾町・栗山村・日光市)合併協定書調印式
12・7 各市町村議会において合併関連議案の採決(日光市のみ否決)
(日光市長は責任を取る形で辞表を提出。その後もう一度議会説得のため辞表届け撤廃)
20051・6 日光市議会において市長発議による民意確認の住民投票条例案が否決
1・17 臨時合併協議会 4市町村による日光市の再返答待ち確認
1・31日光市議会において住民請求による合併意思確認の住民投票条例案が可決
2・27日光市において合併意思確認の住民投票実施予定
日光市の再住民投票において賛成多数であればその民意を受けて日光市議会において合併関連議案が可決される可能性がある。これで最終的に5市町村による合併が成立する。その場合、政策的には現・今市市の進んだ国際化政策が大きく取り上げられることになり、新・日光市における国際化の推進はかなり期待されると思われる。合併が破綻した場合には、今の日光市による国際化はあまり期待できない。
今回の日光地区合併協議会における協議事項資料をもって5市町村の現行の政策を比較することは大変興味深いことであった。特に合併反対の大きな理由のひとつであった「今市主導型」の政策調整については、やはり行政サービスの質から見てそうならざるを得ない点も多く、合併は自治体の合理化・スリム化を目指すとともに、住民のための改革という視点をもって比較検討すべきであることは言うまでもない。ただし、法的期限、事務、電算システム処理上の問題により官主導の時間的制約があった為、いくつかの問題は内在したまま急がされて収束していく印象もあった。
民意と議会の乖離という点もあらためて取りざたされたが、成熟された市民社会を前提としているべき議会制民主主議における議会の重さや、今後、議会が政策にたいしてどのような決定権を持つかについても議論されるべきではないだろうか。