2004年12月14日
比較政策研究
国際学研究科
国際交流研究専攻
MK040305 高井孝美
栃木県日光市における市町村合併頓挫リアルタイム
―合併協議委員から見た日光市国際化への模索―
はじめに
前回のレポートでは「日光市に期待される国際化」をテーマに、明治以降の日光における国際交流の歴史と観光地NIKKOの誕生を調べたうえで現在の日光市の国際化の問題点を検証してきた。
さらに今後、近隣の今市市、藤原町、足尾町、栗山村との市町村合併を控え、合併後の新市「日光市」において期待される国際化の可能性について、市民レベルでの現実的な視点から模索して行く予定であった。なぜなら、隣市の今市市ではすでに国際化にむけて行政も積極的に取り組んでおり、現日光市との政策の比較や将来へのヴィジョンを探ることは、新市政策に有意義であると考えたからである。
しかし、1年あまりにわたる今市市、藤原町、足尾町、栗山村、日光市の5市町村による日光地区合併協議会の審議を経て2004年12月3日調印された合併協定が7日、日光市議会において否決された(他の4市町村は可決)ことにより、栃木県の4分の1の面積を持つ広大な自治体の誕生の計画はここに頓挫することとなった。12月14日現在では、今後の合併協議の行方は17日の各首長会議の出方を見るまで定かではない。
これまでの経緯
―――2006年3月の新「日光市」発足を目指して3日に合併協定書に調印した日光市など5市町村の議会で7日、合併関連議案の採決が一斉に行われ、今市市、足尾町、藤原町、栗山村の4議会は可決したが、日光市議会は否決した。同市では、議案採決に先立ち、合併を推進してきた真杉瑞夫市長が責任を取る形で市議会議長に辞職を提出。5市町村合併は、最終段階で大きな暗礁に乗り上げた。―――(12月8日読売新聞より)
日光地区合併の経緯(12月8日朝日新聞・下野新聞より)
2003年
2月 日光市、今市市、足尾町、藤原町、栗山村からなる任意合併協議会設置
3月 県が合併重点支援地域に指定
6月 栗山村議会が5市町村での法定合併協議会の設置を否決
7月 任意協が解散。同じ5市町村の枠組で合併促進協議会を設置
8月 日光市、全世帯アンケートで合併の賛否が拮抗
9月 日光市が推進協からの離脱を表明 栗山村議会法定協設置を可決
10月 日光市を覗く4市町村で第1回法定協
11月 「新設(対等)」の合併方式を確認
12月 日光市で住民投票。「5市町村での合併」が65%を支持
日光市が4市町村の法定協に加入
2004年
1月―2月 新市名称公募
3月 新市名称「日光市」と確認
5月 合併時期を「06年3月」と確認
6月 「定数30,1選挙区」とする合併後の議員定数案と任期延長案を法定協が否決
8月 合併後最初の市議選に限って「定数32、うち今市市議選挙区の定数は16」とする議員定
数案を法定協が否決
10月 同じく「定数30、うち今市市14」とする案を法定協が可決
11月 足尾町が町民アンケート、77%合併賛成
藤原町で住民投票。「合併賛成」75%
合併協議会、全協定項目の協議を終了
12月3日 5市町村長が,06年3月20日を期日とした合併協定書に署名
課題
@
日光市において2003年12月に行われた住民投票の意味
A
合併協議会の審議について
B
今後の日光市の選択肢として
C
日光市と今市市の国際化事業の比較
@
日光市において2003年12月に行われた住民投票の意味
今回の日光市議会における合併案否決に対して多くの市民が疑問に感じたのは、前年12月の住民投票の意味についてであった。反対派議員は「住民投票は法定協議会加入を認めただけ」といっている。この住民投票は『日光市の合併についての意思を問う住民投票条例』にもとづいて行われたわけであるが、この条例の目的の第1条には次のようにある。
―――――日光市の合併についての意思を問う住民投票条例―――――――
平成15年11月20日条例第19号
(目的)
第1条
この条例は、地方自治の本旨に基づき,本市が合併問題で直面する三つの選択肢、日光市・今市市・足尾町・栗山村・藤原町での合併か、日光市・足尾町での合併か、日光市単独かの意思決定について、市民による直接投票(以下「住民投票」という。)を実施することにより、市民の総意を市政に的確に反映し、市民と行政の共同によるまちづくりを推進することを目的とする。
合併の最終決議は議会にあるとはいえ、この場合、反対派議員の「住民投票は法定協議会加入を認めただけ」という解釈は正しいかどうか。また、市民サイドから見てこの住民投票の意味が、合併の是非を問う、合併の形を問うという意味をもつと解釈されていた場合、今回の否決ははたして民意を反映していると言えるかどうか。
A
合併協議会の協議について
協議会の規約には(協議会の事務)として「合併の是非を含めた関係市町村の合併に関する協議」を行うとある。もちろん、合併することを前提とした各市町村の事務事業一元化にかかる調整項目のすり合わせも協議されるわけであるが、合併に反対の意見を聴く場はあっただろうか。
また、12月3日調印式目前の第21回協議会において、委員からの「もし、7日の各市町村議会において合併法案が否決された場合を考えると、調印式は7日以降にするべきではないか」という質問に対して、協議会会長の「そういうことはありえないと判断する」という回答は、上記の協議会の規約から見て妥当であっただろうか。
さらに、この協議会に出席し、様々なすり合わせ項目に賛成していた委員が、市議会議員として日光市議会において合併を否決するという事態は予測不可能とはいえ、議会の責任はどうなるのか。
B
今後の日光市の選択肢として
議会やほとんどの自治会長からの要請により日光市長の退職願いは撤回されたが、日光市として合併にむけてどのような選択肢が残されているだろうか。
日光地区合併協議会全体としては次のような道が考えられる。
・4市町村で続行
・解散
・休止(協議凍結)
日光市としては
他の4市町村が認めない場合――離脱
他の市町村が認める場合
・議会リコール→市議会選挙
・新たに合併是非を問う住民投票
2005年3月の知事申請期限に間に合うかどうか
C
日光市と今市市との国際化事業の比較
合併協議会調整内容資料による比較(2004年3月25日第9回合併協議会)
現況
今市市 |
日光市 |
具体的な調整方針 |
<友好親善都市> 平成14年のノルウェー公式視察訪問の成果により、今市市とノルウェー王国コングスヴィンゲル市との間で高校生の交換派遣を行い、国際交流を促進させる ・平成15年8月、今市市在住の高校生7名と随行を派遣 ・平成15年10月、ノルウェー王国の高校生5名と随行2名が来日 |
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合併後、新市において調整する |
<姉妹都市との交流> アメリカ合衆国サウスダコタ州ラピッド市との交流 ・両市の中高生(20名程度)を毎年夏休みに相互派遣する ・隔年で両市の公式訪問団を相互派遣する |
<姉妹都市との交流> アメリカ合衆国カリフォルニア州パームスプリング市との交流 ・教育、文化、産業、スポーツ等の交流(不定期交流) 注:昭和44年以来行われていない |
合併後、新市において調整する |
<その他の国際交流> 国際交流員を雇用し、今市市の国際化を図る ・地方公共団体の国際交流関係事務の補助 ・地方公共団体の職員、地域住民に対する語学指導への協力 ・地域の民間国際交流団体の事業活動に対する助言、参画 ・地域住民の異文化理解のための交流活動への協力 ・学校訪問による児童の国際理解への支援 |
<その他の国際交流> 少年海外体験研修派遣事業 ・将来の日光を担う少年を海外 に派遣し、異文化に触れる体験学習を行うと共に、現地の少年と交流を深め、より豊かな国際感覚の醸成を図る。夏休み15日間、生徒6人、引率2人。ニュージーランド・オークランド市。 注:平成16年度は中止決定 |
合併後、新市において再編する |
<今市市国際交流協会> 設立 平成8年4月 事務所 社会文化スポーツ課 会員数 約400名 法人84団体 |
<日光国際交流協会> 設立 平成14年11月 事務所 日光市本町(事務局長宅) 会員数 約100名 法人2団体 |
合併後、再編するよう働きかける |
考察
同時期に栃木県内でも宇都宮・河内地区の合併協議会が破綻し、各地でも同じようなケースが相次いでいる。多くの場合、新庁舎の位置、または議員定数などの話し合いがうまく行かず最後まで譲り合えずに破綻しているケースも多いが、日光市の場合は、住民感情論的な色合いが濃い。表向きは財政面、産業面での不一致などを理由に挙げているが、その裏には「日光人」という言葉に象徴されるような選民意識や日光ブランドといった所有権を主張しているように思われる。合併することによって、日光という土地の特別性(ありがたみ)が薄れると言う意見もある。
過疎化が進む今日、財政面でも人材面でも合併によって何らかの打開策をさがす賛成派との間に大きな溝が出来ているにもかかわらず、あまりにも古い小さな自治体である為に利害関係が込み入っており合併の是非の論議も表だって意見を率直に述べ合うことが出来ない。今回の市議会における否決も直前まで水面下で画策され、一般市民は住民投票の実施と結果の意味をあらためて考えている。
もちろん各地のこうした合併破綻の裏には、市民の根強い行政に対する不信があることは否めない。国が強引に進める政策に国民が不信感を増してきている証拠ではないだろうか。合併することによって優遇されるはずの地方財政もこの先どういう条件に変更になるかあてに出来ないとすると、今回の市町村合併にかけるリスクをまず考えてしまうのかもしれない。
日光市の今後の方向によって、国際化政策も大きく変化するのは間違いないが、それにしても現状のままでは前回のリポートでも述べたように、「Nikko is Nippon」などとうたっている日光のイメージとはかけ離れたあまりにもお粗末な政策が続く可能性がある。こういった1つのジャンルを取り上げてみても、「市」レベルの運営力向上の為にも合併による自治体システムの合理化は避けて通れない問題なのではないだろうか。