欧米における高齢者と地域の関係
2004年1月26日
MK030101 阿部智英
1.アメリカ・サンシティー
(1)概要
アメリカには、2000〜3000のリタイアメント・コミュニティーが存在するが、規模と歴史においてサンシティーを上回るものはない。サンシティーはアリゾナ州フェニックスの郊外に1960年から開発が始まり、78年に全体が完成したときには、人口4万6000人、世帯数2万6000の大規模なコミュニティーとなった。「実りある老後の実現」がサンシティーの基本コンセプトで、レクリエーション施設や医療機関が整備され、何の心配もなく老後を楽しめるように作られている。
サンシティーに入居するためには家族のうち一人が55歳以上でなければならず、またその他の家族も19歳以上でなければならず、19歳未満の滞在は3ヶ月に限られている。
(2)サンシティーの施設およびインフラの状況
敷地内にはゴルフ場、レクリエーション施設など娯楽施設のほかに、図書館、美術館、教会・寺院、ショッピングモール、銀行が設置されている。これらの施設は開発業者のものであるが、住宅販売が終了し、住民による運営が軌道に乗ったと判断される時点で開発業者は運営に関与しなくなる。その後はすべて住民の責任により運営され、とくに共用施設については会費、寄付金、使用料などを財源として有給職員と住民ボランティアにより運営される。
上下水道、電気、ガス、ごみ収集などは民間業者と契約しており、コミュニティー内の清掃は住民のボランティア団体などが行っている。また住民の足はおもに自動車とゴルフカートであるが、公共交通手段としては、戸口から戸口まで送迎する車があり、サンシティーから出る場合にも路線バスやタクシーがある。さらにサンシティー内には複数の病院や診療所があり、要介護者のための施設や食事配送サービスも整備されている。
(3)住民の暮らし
サンシティーでは、高齢者はスポーツや趣味を楽しみ、活動的に暮らしている。また、ボランティア団体にも美術館や図書館でボランティアとして働いている人もいる。さらに、サンシティーの住民は完全にリタイアした人ばかりではなく、スーパーマーケットや近隣の自治体の役所で働く人もおり、実際の暮らしぶりは多様である。
しかしサンシティーには、はじめはスポーツクラブやボランティア活動などで充実した生活を送るが、体力の衰えとともに次第に出歩くこと自体が億劫になる人、家族と切り離された生活に耐えられず半年で去った人もいる。開発当初の構成人口は初期高齢者が多かったが、近年では次第に後期高齢者にシフトしている。体力の衰えや病気のために引退後の生活を活動的に楽しめず家にこもりがちになる人、ケア付のリタイアメントハウスやナーシングホームに入らざるをえない人たちもいるというのが実態である。
2.スウェーデン
(1)社会福祉政策の概要
スウェーデンでは1960年代に高齢化率が12〜13%にまで上昇し、社会保険庁により各市町村の地域ニーズに対応した在宅福祉を推進することが通達された。これを受けて各市町村は地域の高齢者の生活実態を把握するために調査を行い、高齢者福祉計画を策定するとともに、60年代中頃からは高齢者ケアの場を老人ホームからケアつき住宅へと転換した。70年代から80年代にかけて経済が低成長となり、医療費の抑制やサービスの効率化を図るために「医療から福祉」「治療から予防・生活援助」への転換が促進された。
82年には社会サービス法が施行され、高齢者や障害者が住み慣れた地域で生活できることが市の責任として規定された。さらに福祉に関する大幅な権限が市のものとなり、高齢者、障害者、児童に対する社会福祉サービスの提供について、その料金の設定を市の責任で決定できることが規定された。これにより住民の望むサービスが住民によって提案・議決され、利用者負担を市の財政状況により増減することが可能となった。
しかし、@高齢者医療費による県の医療財政の圧迫、A社会的入院患者(治療終了後の住居が決まらないため病棟に滞在する患者)の増加、B看護士やヘルパーの不足などの問題点が残っていた。そこで92年、高齢者の医療福祉改革(「エーデル改革」)が行われた。これにより、
@高齢者の在宅看護などの責任の県から市町村への委譲
A県の高齢者医療スタッフの市町村への移動、看護士・ヘルパーの権限拡大
B社会的入院患者の入院費用を市が県に支払う義務の賦課
など、県から市への大幅な権限委譲へと繋がった。
(2)高齢者と家族
社会サービス法の施行やエーデル改革により、確かに高齢者の在宅ケアに対する援助は充実したと言える。しかし、スウェーデンでも他の国と同様に、現在でも高齢者のもっとも重要な援助者はその家族である。他の欧米諸国同様スウェーデンでも半数以上の子供が19歳までに家を離れているが、同居していなくとも世代間での地理的な隔たりはそれほど大きくはない。高齢者の子供のうち半数以上が15km以内に住んでおり、そのうちほとんどが1.5km以内のごく近い場所に住んでいる。そのため家族は頻繁に高齢者の元を訪れ、ある程度のケアを提供することができる。
しかし、スウェーデンにおいては、高齢者は逆にその子どもから援助を必要とされている。高齢者が彼らの孫や近所の小さな子どもたちの世話をすることは昔と変わらず一般的なことであり、特に近年では多くの家庭が共働きであるため、高齢者が子どもや孫から援助を必要とされることは稀ではない。またスウェーデンの退職者は多くの財産を所有しており、経済的にも子どもたちを支援している。したがって、一連の社会福祉施策による高齢者の在宅ケアの支援は、老人ホームや病院などと比べて家族のつながりをより強化していると言える。
参考資料
・目黒精一『日米高齢者福祉2』
(http:/www.mediajapan.com/ocsnews/96back/545b/545-2.html)
・(財)自治体国際化協会CLAIR REPORT NUMBER 048(JUN.05.1992)
『米国・サンシティー −老人のユートピア−』
(http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/cr048m.html)
・ジェルト・スンドシュトレム著、村川浩一、山崎順子訳
『スウェーデンの高齢者ケア』(中央法規出版会社、1995)
・斉藤弥生、山井和則著『スウェーデン発 高齢社会と地方分権』(ミネルヴァ書房、1994)