平成151215

2004年総選挙、そしてその後」

MK030106 佐々木哲夫

 

ポストスハルト期の概要

 200445日、インドネシアで総選挙が行われる。今月8日、抽選により政党番号が決定し、事実上の選挙戦が始まった。インドネシアの総選挙は完全比例代表のため、選挙区は無い。

 スハルト期の総選挙は、「民主主義の祭典」と呼ばれ、いわば形式的な選挙に過ぎなかった。しかし、1998年のスハルト政権崩壊後、民主化要求の声は内外で高まり、前倒しされた1999年の総選挙では、1955年以来の「民主的な」選挙が行われた。選挙結果は下表の通りである。

政党名

議席数

闘争民主党

154

ゴルカル党

120

開発統一党

59

民族覚醒党

51

国民信託党

35

月星党

13

その他

30

462

出所;KPUホームページ

 

 1999年選挙では、各政党とも過半数を獲得することはできず、政権の枠組みは連立政権となった。総選挙を受けた国民協議会Majelis Permusyawaratan Rakyatでは、大方の予想に反してアブドゥルラフマン・ワヒドAbdurrahman Wahidが第4代大統領に選出され、闘争民主党Partai Demokrasi Indonesia Perjuangan党首で本命だったメガワティMegawati Soekarnoputriは副大統領となった。これは、議会第一党となった政党の党首が大統領に座ることには何ら問題はなかったものの、イスラム政党を中心とする「中道勢力」が、女性大統領の誕生に拒否反応を示し、かといってスハルト側近のイメージが拭い去れないハビビ大統領B. J. Habibieを担ぐこともできず、第3の勢力としてイスラム保守派団体のナフダトゥール・ウラマーNahdatul Ulama総裁のアブドゥルラフマンを担ぐことになった。

 その後、国会などとしばしば対立し、また自らのスキャンダルでアブドゥルラフマンは失脚し、憲法の規定に則りメガワティが第5代大統領に昇格した(空席となった副大統領選挙により、ハムザ・ハズHamzah Haz開発統一党Partai Persatuan Pembangunan党首が選出された)。

 ただ、国民の期待を背負ったメガワティも、経済復興や政治の安定といった課題をなかなか克服することができず、有効策を打ち出せないでいる。今年9月の世論調査(Marketing Research Indonesia社実施)では、支持率が16%と低空飛行でいる(ちなみに、2001年調査では49%、2002年調査は26%、今年7月時では23%と下降が続いている)。

 

今後の展開

 それでは、今後はどのように推移するだろうか。総選挙委員会Komisi Pemilihan Umumは今年821日、各週の議席配分を発表した(下表参照)。また、地方別に振り分けた表も参照すると、ジャワの比率が55%とずば抜けて高い。前回1999年総選挙時は51%であったので、さらに配分が多くなった。すなわち、ジャワの発言権が非常に強い。この配分であれば、東ジャワを基盤とするナフダトゥール・ウラマが支持母体の民族覚醒党や、都市部で得票を見込める闘争民主党や国民信託党が優位であるように見える。しかし、闘争民主党党首のメガワティの人気が凋落傾向を示す現在、果してどの程度まで闘争民主党が議席を伸ばすのかは分からない。ただし1つ言えることは、ジャワでの得票が政権奪取の命運を握っているということである。

 加えて、日本の国政選挙で常に問題となっている「一票の格差」が、インドネシアでも報道機関により指摘されている。じゃかるた新聞823日付によれば、「各州の議席配分を比較すると、一議席当たりの人口が最も少ないのは西イリアンジャヤ州(三議席)で、一議席当たり約百三十万人。

 最も多いのは西ジャワ州(九十議席)で一議席当たり約四百二十万人。西ジャワ州の一票の重みは、西イリアンジャヤの有権者に比べると、約三分の一ということになる。」 つまり、一票の格差が3.33倍で、わが国の過去の判例などに照らすと、日本国憲法上は「違憲状態」であるが、インドネシアの1945年憲法には一票の格差問題に関連する条項が無いため、違憲であるとはいえない。特に、完全に人口に比例した議席配分を行うと、おそらくジャワの議席配分がさらに増え、非ジャワ地域からの反発が必至なため、こうした一票の格差も認めざるを得ない状況にあると言える。

 また、総選挙後数ヶ月以内に行われる、インドネシア史上初の直接大統領選挙の、前哨戦という位置づけもできるだろう。現在、再選を狙うメガワティ、アミン・ライスAmin Rais国民協議会議長、スハルト元大統領の長女であるトゥトゥットSiti “Tutut” Hardiyanti Rukmana(民族憂慮職能党Partai Karya Peduli Bangsa)らが立候補の意思を表明している。これら立候補予定者の所属する政党がどの程度票を伸ばすかで、選挙後の大統領選を取り巻く環境の変化が予想される。

 

 

州名

議席数

ナングロ・アチェ・ダルサラーム

13

北スマトラ

29

西スマトラ

14

リアウ

11

リアウ群島

3

ジャンビ

7

南スマトラ

16

バンカ・ブリトゥン群島

3

ベンクル

4

ランプン

17

ジャカルタ首都特別

21

西ジャワ

90

バンテン

22

中ジャワ

76

ジョクジャカルタ特別

8

東ジャワ

86

バリ

9

西ヌサトゥンガラ

11

東ヌサトゥンガラ

13

西カリマンタン

10

中カリマンタン

6

南カリマンタン

11

東カリマンタン

7

北スラウェシ

6

ゴロンタロ

3

中スラウェシ

6

南スラウェシ

24

東南スラウェシ

5

マルク

3

パプア

3

北マルク

10

西イリアンジャヤ

3

550

出所;KPU発表(2003821日)

 

地方

議席数

比率(%)

ジャワ

303

55.09091

スマトラ

117

21.27273

スラウェシ

44

8

カリマンタン

34

6.181818

ヌサトゥンガラ諸島(バリを含む)

33

6

マルク・パプア

19

3.454545

550

100

出所;筆者作成

 

【参考ホームページ】

・じゃかるた新聞 http://www.jakartashimbun.com

・ジャカルタポスト http://www.thejakartapost.com

・インドネシア総選挙委員会 http://www.kpu.go.id/

 

【参考文献】

・佐藤百合編『民主化時代のインドネシア』アジア経済研究所 2002

・『アジア動向年報 2003年版』アジア経済研究所 2003