2003/12/15
地方自治体の国際協力
MK030103 木舟雄亮
1、大阪市(財団法人地球環境センター)の対中自動車排気ガス対策
現在、日本の各地方自治体は様々な国際協力を行っているが、大阪市では全国の自治体の中でも環境協力に力を入れている自治体だと言うことができる。大阪市は環境協力の具体的施策として、自動車排気ガス問題の対策を行った。自動車排気ガス問題は、途上国の中でも特に経済成長が著しいアジアの諸都市で直面している問題である。
大阪市の対中自動車排気ガス対策の方式には特色がある。なぜなら、協力の必要経費を相手側が負担するというのが原則で、さらに成果は大阪市が享受するというものである。経費を相手側全額負担にしたのは、環境協力を行う上で、相手のニーズを知る有効な方法と考えたからである。環境協力といっても、環境の対象や施策方式は多種多様である。その中で相手側が協力を必要とし、かつ、協力する側が対応できる案件を把握するのは難しい。そこで、相手側が経費を出すとなれば、経費を出してでも協力を欲する重要な問題だと捉えることができる。逆にそれほど重要でない問題には自分で経費を出してまで協力を望まないと予想できる。そこで、大阪市は相手側全額負担という方式にした。この大阪の施策に呼応したのが中国である。中国は大阪の方式を評価し、1996年から大阪市と共同でプロジェクトをスタートさせることになった。
そもそも大阪市が自動車排気ガス問題の協力を行ったのは、1960年代に大阪市自体が取り組んだ経験があるからである。1960年から70年代にかけての高度経済成長期に、大阪市は深刻なスモッグなどの環境汚染が表面化した。その環境汚染から大阪を甦らせたのは大阪市の環境政策である。その時の環境汚染対策過程で得たノウハウ、技術、経験を活かすために、大阪市では途上国の都市環境問題に熱心なのである。また、途上国の都市において自動車排気ガス問題がさらに深刻化する、問題への対応策が手つかずの状態であったこともあり、大阪市では協力事業を自動車排気ガスに絞って行った。
大阪市の環境協力は、当初は市の環境保健局が直接担当してきたが、後にその実務のほとんどは第3セクターの財団法人地球環境センターが行っている。地球環境センターは1991年に大阪に開設されたUNEP・国際環境技術センターを支援するために設立された。UNEP・国際環境技術センターは途上国の都市環境問題に対して、環境にやさしい技術を移転することを目的として設立された国連施設である。
2、地方自治体の国際協力に必要なもの
各地方自治体の国際化や、その一環としての国際協力は徐々に進み、各自治体で国際化に対しての具体的な推進基本指針や施策を整えてきている。しかし、基本指針を明確にする自治体が増えている一方で、財政難から国際協力が難しい自治体が存在するのも事実である。自治体によっては、近年の不況の影響から国際協力事業を縮小しているところもある。ただでさえ、現在の地方自治体の大部分は財政難に陥っているという問題に直面している。よって、自治体の国際協力に求められるのは、相手側に協力することによって、協力する側も何らかのメリットを得ることである。
国際協力の中には持続性を要求されるものがある。環境協力を例にあげればわかるように、環境問題への対応は単発のものではなく、継続していくことが重要である。協力を継続して行っていくには、国際協力をすることでメリットを得て、そのメリットを地域に還元することで、次に繋げていく必要がある。
また、地方自治体が行う国際協力なので、当然市民の理解も必要となってくる。各自治体の国際化推進基本指針においては、地域において市民が主体となって交流や協力を推進するという方向性が多い。しかし、地方自治体の国際協力は一般的にはまだまだ市民の間では認知度が低いように感じる。さらに、中にはこの不況期で財政難に苦しんでいる自治体が国際協力を行う必要があるのかと疑問を投げかける市民もいる。そのような市民の理解を得るには、国際協力を地域の振興に結びつけることが必要となる。国際協力で地域の活性化を図るには、行政の活動はもちろんのこと、市民やNGO、地域の企業の協力も重要な要素となるだろう。
各自治体で協力のテーマや方法は異なるが、共通していることがある。各自治体がこれまでに経験してきたことに基づいて、国際協力として事業を展開しているということである。大阪市では、過去の環境汚染から得た経験や技術に基づき、対中自動車排気ガス対策事業を行った。北九州市でも、過去の公害問題を乗り越えた経験、技術を活かして、アジア諸国に協力活動を行っている。大阪市の事業で明らかになったことは、大阪市が環境汚染を通して開発した技術やノウハウは大阪市だけに適したものであり、それをそのまま相手国に持ち込んでもほとんど役に立たない。しかし、かつての経験を踏まえることによって、新たな技術やノウハウの開発が可能だということである。各自治体には、他の自治体にはない経験、技術、伝統、文化、産物がある。国際協力を行うために特別なことをするのではなく、その自治体の特性に基づいて、地道に行っていくことが必要なのではないだろうか。
参考、引用文献
・羽貝正美・大津浩編『自治体外交の挑戦』有信堂高文社、1994年
・「国際開発ジャーナル」1996年12月
・「国際開発ジャーナル」2003年7月
・地域国際化研究会(自治大臣官房国際室内)『地域国際化事例集〜自治体の国際交流・国際協力施策〜』ぎょうせい、1995年