足尾町の現状

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MK030101 阿部智英

足尾町の概要

 ホームページに「足尾町の歴史は、足尾銅山の歴史そのもの」とあるように、足尾町の人口は足尾銅山の興隆とともに増加し、大正51916)年には38428人で栃木県内でも第2位であった。しかし昭和になると鉱害問題も相俟って、足尾銅山の衰退とともに人口は減少し、2000331日現在の人口は3723人と最盛期の10分の1にまで落ち込んでいる。さらに足尾町では少子高齢化が進み、15歳未満人口が8.1%65歳以上人口が39.7%となっている。

 足尾町の産業は第1次産業が第2次・第3次産業に比べて非常に小さく、特に総世帯数に占める農業就業世帯の割合はわずか0.7%に過ぎない。稲作はまったく行われておらず、栽培される作物のほとんどは自家消費用のトウモロコシやキュウリで、他には観賞用の花卉が作られているだけである。第2次産業においては建設・製造業がほとんどで、インフラ関係、運輸・通信業は少ない。第3次産業では小売業、飲食店、サービス業が大半を占めており、金融・保険業や不動産業が少ない(表1参照)。名産・お土産も焼き物、木彫り人形などがあるだけである。

これらの点から、足尾町は足尾銅山の観光に立脚した町であり、栃木県内の他の過疎地域に比べても特に第1次産業の割合が極めて低い地域であることがわかる。

 

身内意識と助け合い

 年少人口の減少と老年人口の増大、経済や産業の脆弱さなど、足尾町は典型的な過疎地域であるといえる。活性化や市町村合併が叫ばれるなか、足尾町にもそうした圧力がかかっている。地域活性化策や市町村合併はたしかに全国規模で実施されようとしているが、いかに人や産業を呼び込むかという点が強調されている。しかし、本来の「町づくり」とは、その地域の住民にとっていかに安心で住みやすい環境・空間を作るかということである。したがって、足尾町では町の人口の約40%を占める老齢人口に対して、特に福祉の面でどういった施策を取るのかが課題となる。

足尾銅山が稼動していた頃は町民のほとんどが銅山従業員であり、古河鉱業が従業員に提供した家も千軒長屋と称されるほど密集していた。その様子は現在でも残っており、初めて家と家の間の小道を歩く人に「庭」という印象を与えるほどである。そこではプライバシーの問題も考えられるが、周囲の営みが可視的であるからこそ、住民同士の助け合いが機能している。町全体が一つの長屋を形成していると考えることができるのである。さらに、足尾町に助け合いが根付いている理由として考えられるのは、町が29の地区に分かれていることである。各地区の世帯数には差があるが、その小さな「町」のなかでの身内意識がさらに高まると考えられる。

例えば、ある地区には90歳の一人暮らしの女性が住んでいるが、彼女が安心して暮らしていけるのは、周囲の住人からさまざまな助けの手が伸びているからである。しかし同時にその老人宅は近所の主婦や老人の溜まり場になっている。つまり、この女性は近所の住の助けを借りる一方で、彼/彼女らのコミュニケーションの場を提供している。またある地区では、八百屋さんが地域の老人の溜まり場となっており、老人客の買ったものを店主が自宅まで届けるといった事例や、バス停が設置されていない病院前に運転手の計らいでバスを停めるなど、住民レベルでの互助的な関係が成立している。したがって、足尾町では福祉が行われている形跡はないように見えるが、現実には外部の目からは見えない濃密な福祉活動が行われているのである。

 

地域の特性を生かした町づくり

長屋が密集している足尾町では、家々がどこまでも「ヨコ」に繋がっている。したがって、ヨコの世界に高層のアパートなど「タテ」のものが入り込んでも、そのアパートの住民と他の住民は関係を持ちづらく、身内意識も形成されにくくなる。そこで、足尾町がもつ相互扶助の根幹にある長屋文化を維持していくためには、建築や道路建設を規制する必要がある。

 また行政機関は、地域に対して何らかの働きかけを始める前にその地域の住民の営みを把握し、住民主体の活動への後方支援を図ることや、各地区のリーダー(民生委員、老人会会長、商店会のリーダーなど)が住民のニーズにどれだけ対応し、どういう人材を活用しているのかを把握することで労力を節約することができるだろう。

 最後に、足尾町には地場産業というものがないことから、「老人文化」や「介護文化」といった独自な視点での町づくりが必要であると思われる。老いや死を肯定的に捉え、自立した生活と濃密な人間関係を構築・維持していくことが、従来の「活性化」とは異なるもう一つの町づくりの道となるのではないのだろうか。

 

参考文献

木原考久著、栃木県社会福祉協会編

『住民主体の「福祉の町づくり」の手法 [もう一つのゴールドプラン]づくりをめざして』

(筒井書房、1994

参考URL

足尾町公式ホームページ

 http://www.town.ashio.tochigi.jp/cgi-bin/odb-get.exe?wit_template=AM040000

「市町村の姿」―栃木県足尾町―

 http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/map2/09/323/economy.html