科目名

比較政策研究

指導教官

中村祐司教授

学籍番号

MK030110

氏名

韓相榮(ハンサンヨン)

以下、寄本勝美『リサイクル社会への道』(岩波新書、2003年10月)より引用

1.はじめに

ごみ問題を探るために、その前提として、今までどのような方法でごみが処理されてきたのかを知る必要がある。現在、回収されてきたごみのほとんどは、大きく「焼却」及び「焼却以外の中間処理」、そして「埋立」という方法で処理されている。日本は、諸外国の中でも焼却処分率の高い国で、スイスの次に高い順となっている。ゴミは焼却処分すればすべてなくなるかというとそうではなく、焼却しても焼却灰や残渣等が残り、最終的な処分が必要になる。ごみの処分は、「収集→運搬→焼却を中心とした中間処分→運搬→最終処分」というプロセスになる。ごみ問題といわれるからには、このごみ処理のプロセスのどこかに問題があるはずである。多岐にわたる問題が考えられるが、一番の大きな問題は、最終処分の問題であろう。

.リサイクルの目的の歴史的変遷

 6つの時代区分

江戸時代以降の各時代において、廃品やゴミの再利用がいかなる目的を帯びていたのか、それを大雑把にまとめたものである。それぞれの目的について一集丸がついているのは、そのような目的が大いに見られること、白紙のままのところは、そのような目的はごくわずかだけしか、もしくはまったく見られないことを、それぞれ意味する。なお、改めてことわるまでもないが、以上において単に再利用とかリサイクル活動という場合には、行政のみならず民間や第3セクターでの活動をも含んでいる。

江戸時代

江戸では、ゴミ収集業者は集めたゴミを燃料芥、肥料芥、金物芥などに分けて再利用ルートにのせていた。その目的は業者サイドとしては、収集ゴミをそのまま幕府指定の埋め立て地に搬送捨てるよりは、有価物を風呂屋や、農家、鍛冶屋に売って金を儲けること(経済効果)にあった。のみならず「物を大切にする」のは徳目であり、あるいはそうせざるをえなかった当時の貧しい暮らしのもとでは、現代風に表現すると資源の節約・愛護といった目的も、この時代の再利用を支えたと思われる。

明治〜大正

1900年(明治33年)の「汚物掃除法」の制定によって市町村の掃除事業の法的根拠が確立し、東京市でもやがて市の直営によるゴミ収集が集まった。けれども、その頃はまだ正規の掃除事業の一環としての再利用事業はほとんど行われておらず(掃除職員がゴミの中から有価物を抜き出して、私的な収入にすることはあったが)ゴミの再利用活動は主として廃品回収業者や住民団体に委ねられていた。業者の廃品収集は江戸時代と同じく金儲けが主たる目的であたったが、結果的にはそれが資源の節約にも寄与していた。

昭和〜大戦前

昭和に入って初めてリサイクル事業の目的は自治体の掃除事業との結びつきを強めることになる。当時、婦人運動として活躍していた市川さんの提案で東京市では、焼却場の黒煙に対処するため、1931年から台所の生ゴミとその他のゴミの分別収集に着手したが、台所の生ゴミはできるだけ農村還元する方針がとられた。これに時を合わせて東京市は深川に発酵(はっこう)堆肥(たいひ)工場を作ったが、このような試みは、台所の生ゴミの再利用(肥料化)という目的もさることながら、水分の多い生ゴミを焼却炉に入れないようにすること、このような意味でゴミを適正処理するためでもあった。

戦後〜石油ショック

戦後まもなくして再開されて自治体のゴミ処理事業においては、再利用への関心は比較的乏しく、もっぱら民間サイドでそれが行われていた。というのも、自治体のとってはゴミ減量やリサイクルに特段の関心を払うべき状況にはなかったうえ、やがて高度成長期に入ってからも「ごみは文化のバロメーター」といわれたようにゴミの多いのが経済成長や文化的生活の向上のあかしとみなされていたからである。一方ゴミ処理の方法にしても、いわゆる機械炉の導入が可能になるにつれて、ゴミは何でも焼却することが出来るとの考え方が主流となった。また、収集については各戸収集や分別収集などこまごまとした集め方は取りやめて混合収集し、集めたゴミは近代的な掃除工場で難しく燃やして処理することができるとみなされたのであった。ただし、東京では1971年にゴミ戦争が宣言され、掃除工場用地や埋め立て処分地の確保をめぐる問題が台頭するにつれ、ゴミ減量への関心も高まり始めていた。

昭和5060年代

その後、1973年に第1次石油ショックが起こるや資源問題がクローズアップされ、省資源・省エネルギー運動が全国的に繰り広げられることになった。他方、自治体の掃除事業に目を転じると近代化の要ともいうべき掃除工場の建設が地元住民の反応もあって思うように進まず、都市化、宅地化の波によって処分地の取得難も全国的に生じ始めた。また、たとえ近代的な処理施設ができても、もはや何でも焼却してよいというのではなかった。不燃物・焼却不適物はできるだけ可燃ゴミとは分けて集め別途に処理するほうが望ましいとの声が高かった。さらに、再利用可能なものは選別回収をするか、あるいはリサイクル型の分別収集を取り入れて、処分地の延命を図ろうとする関心も、中小都市を中心に急速に強まっていったのである。こうして、多くの自治体にとっては、リサイクル事業は資源の節約・愛護の目的もさることながら、再利用によってゴミ減量を進め、それによってゴミ処理施設の立ち遅れへの対応や不足する処分地の延命を図ることが、きわめて重要な戦略として位置づけられることになった。

 

 

平成〜21世紀

昭和5060年代に芽生え発展してきたリサイクル活動のこれらの意義は、21世紀においてもますます重要なものとなるだろう。今後において加えられるべきリサイクル事業の目的はそれを通して地球大レベルの環境や資源の保存を図っていくことである。そのための方策としては日本の進んだゴミ処理やリサイクルにおける国際協力をさらに拡充していくことである。加えて、国内市場では供給過剰になりがちな再生資源でも、開発途上国では貴重な資源として再利用されるに違いないことを考えると、この面での国際協力の可能性を深っていくことの意義は、極めて大きいもがある。途上国では、製紙原料としての古紙はいくらあっても足りないほどうであろうし、溶かした古紙を固めて作った燃料は、アフリカに送れば遊牧民に使われ、砂漠化の防止に役に立つである。

3.リサイクル事業の将来像

 ゴミ処理コストとリサイクル

これから21世紀にかけてのゴミの適正処理・リサイクル事業のコンセプトを描くと図1のようになろう。ここで改めて強調すべきことは、ゴミの処理とリサイクルは一体のものとして理解しなければならないことである。リサイクルされないものはその大半がゴミ処理されるしかないとすれば、リサイクルの効果を決める計算には、ゴミ処理コストを含めて行うこと、この意味でのリサイクルとゴミ処理のコスト計算における一体的関係、すなわちトータルコストに注目することがますます必要になっている。民間のリサイクル市場機構では、事業ができるだけBの採算ベースの枠内で行われるのが望ましいことはいうまでもないが、仮にたとえば古紙1トンにつきa分の赤字が出た場合、そのa分を行政が援助しても、いぜん行政は、それがごみ化して公共処理にまわってくる場合に比べると、a分の処理コストを節約することができるわけである。ただし、このa分の援助は必ずしも金銭的なものに限らず、ストックヤード(置き場)の貸与などでも効果がある。また、a分、ひいてはA分の一部さえ、PPP(汚染者負担の原則)に基づいて企業や業界に処理料金ないし課徽金などにより負担させる方法もあろう。

廃棄物処理施設の立地においては住民合意が対前提であるが、合意が図りにくい最大の要因がダイオキシンなど有害物質等による大気や水質の汚染、つまり周辺環境へ及ぼす影響についての不安である。しかし、これらについては維持管理上のルールを順守することや、基準に適合した施設とすることによってクリアすることが既に十分可能となっている。今、これらについての説明がきちんとなされた上で、さらに余熱利用による地域コミュニティ施設の創出や、リサイクルなど研究開発産業との、地域住民によって有益な付加価値がもっとアピールされれば、処理施設という古い概念だけにとらわれない、新しい地域融和型の社会基盤施設としての認識が確立した場合、従来、人口密集地や学校、関連施設などからできるだけ“遠ざけて”建設されることが当然とされていた処理施設が環境面での徹底した配慮と利用面でのプラスという視点から、むしろこれらと適切な距離を保てば立地することが望ましいという解釈も成り立つものと考える。

 

 

 

 


楕円: 埋め立て地の節約
楕円: 経済的効果

 


 

楕円: 資源の節約愛護 楕円: リサイクルの国際協力
楕円: 地域社会のリサイクル活動

楕円: ゴミ処理
自治体
再利用

 

 

 


       

 

 

 

 (図1) リサイクル事業の政策イメージ

 

 

 

             処理コスト

テキスト ボックス:     A              a

ごみの公共処理

                                                        

                             援助             

テキスト ボックス: B                              a

リサイクルの市場機構

 

        リサイクルコスト         赤字分

     

 (図2) リサイクル事業の赤字と公共処理

 

4.評価視点

     住民参加促進に資する項目

@     監視システム構築の可能性

地域住民が日常的に十分な安心感を得られるような条件整備が不可欠である。

A     情報公開の可能性

ゴミ処理施設その事業主体となる行政と収益者となる住民の相互理解が必要不可欠である。

     住民への便益向上に資する項目

@     エネルギーの再利用

ゴミ処理施設の特性の1つとしては大量の熱を発生することがある。この熱を適正に活用することは今後の環境型社会形成において非常に有意義なことである。

A     都市基盤(その他の還元施設)

ゴミ処理の整備を契機に、地域の生活環境に新たな付加価値を創出できる可能性がある。地域住民の生活の質向上に結びつく可能性について評価することが重要である。

B     教育上の活用

環境は誰もが取り組むことが望まれる学習対象であり、活動の対象でもある。

従って環境教育・生涯教育・環境啓発の場としての活用可能性・ニーズを評価する必要がある。 

     地域の振興に資する項目

@     地元雇用

ゴミ処理施設及び、余熱利用施設の整備は新たな雇用を生み出す可能性が高い(施設の維持運営など)

A     最終発生物の地域における活用の可能性

循環型社会形成においては、地域内で発生したゴミもしくはゴミ処理施設に従う発生物は、直接資源として地域内で適正に処理・活用することが必須である。

B     地域の産業・研究開発と連携可能性

処理施設との直接的なつながりはなくとも、これと連携しながら新たな環境関連産業を誘発していけるような地元産業・研究開発機能がみられるかどうかについて評価する。

C     地域資源活用可能性

既存の地域資源を活用することで、地域の経済活性化に資するような仕組みができる可能性があるかどうか評価する。

D     町の政策との関連性

ゴミの処理施設が立地することになる町にとっては、立地を前向きに捉えることが重要である。従ってゴミ処理施設の立地そのものを、町の将来ビジョンやまちづくりの方向性と関連づけることができるかどうかを評価することが必要である。

5.おわりに

今、日本では循環型社会の形成に向けて、様々な取り組みが行われている。すなわちリデュース(発生抑制)、リユース(再利用)、リサイクル(再生利用)という理念のもと、これまでのライフスタイル、ビジネススタイルを変えていこうというものである。こうした中でそのスピードは決して速くはないが、ゴミの総排出量はわずかながら減少し、資源のリサイクル率も着実に増えてきている。しかし、努力してリサイクルし、無害化し、減量してもなおどうしても埋立処分しなければならない最終的な廃棄物は出てきてしまうことを決して忘れてはならない。将来本当の意味でのゼロミッションが確立し、奇跡的にゴミゼロの日が訪ねるとしても、それはまだまだ先のことである。つまり人間の営みがある限り、必ずこれはついて回るものであり、私達はこのことに責任を持たねばならない。それならばいつまでも迷惑施設などと言わずに積極的な姿勢で有益な施設として活用していくという思考の転換を図るべきであろう。

 

参個文献

寄本勝美『リアサイクル社会への道』(岩波新書)2003年10月

北島滋など『次期ゴミ処理施設の立地調査及び新施設の研究報告書』2003年3月

阿部絢子『リサイクル社会とシンプルライフ』(コロナ社)2000年9月