2003/10/20                MK030103 木舟雄亮

地方自治体の国際協力

 

1、地方自治体の国際協力の重要性

 近年、グローバリゼーションや地方分権化などの世界的潮流の影響により、地方自治体の国際協力の重要性が高まってきた。以前までは、国際協力の主要な国際協力主体であった中央政府と国際機関の二元的体制が中心であった。しかし、地方自治体、NGO、企業などを加えた多元的協力体制に移行しつつある。

 中央政府と国際機関の二元的体制の国際協力ではできることに限界がある。中央集権国家が根強く残る北東アジアでは、政府がいぜん中心的な外交アクターとなる。しかし、日本政府は北朝鮮とは未だに正常な国交は実現しておらず、ロシアとの領土問題や、中国、韓国との歴史認識などの問題を抱えており、交渉はたびたび暗礁に乗り上げている。つまり、政府のみをアクターとした場合、北東アジアでは急速な関係改善は望めない。

 そこで地方自治体など、それまであまり活用されてこなかったアクターに注目し、活用することで、関係国と接触するレベルを変え、機会を増やし、多角的に相手と交渉する必要性が生じている。実際、政府間交流が最も厳しかった冷戦体制下においても、日本の地方自治体は周辺国と活発な交流を展開している。例えば、1970年に新潟市など20市が旧ソ連との間に「日ソ沿岸市町会議(現在は日ロ沿岸市長会議)」を結成し、72年には19市が北朝鮮との間に「日朝友好貿易促進日本海沿岸都市会議」を設立することで、経済及び文化交流を現在に至るまで維持している。特に同会議のメンバーである境港市は、戦前戦後を通じて国際航路により交流が盛んであった北朝鮮の元山市と、92年に日本で初めて姉妹都市提携を正式に調印している。

 このように、地方自治体の国際活動は、政府が不可能なことでも可能にできる可能性を秘めている。また、NGOも同様で、外交アクターとして今では不可欠な存在となっている。よって、協力体制は二元的体制から多元的体制へと変化している。

 

 

2、国際交流から国際協力へ

 地方自治体の国際的な活動と言えば、以前は姉妹都市関係を軸とした国際交流が中心だった。日本の地方自治体の国際交流活動は、一般に地域活性化の一環としての色彩が強い。姉妹都市提携を媒介とし、人と文化の交流を通じて地域住民の国際感覚を育て、地域社会の経済の国際化に対応し得る住民を育てる、あるいは、国際交流の実績を通じて地方空港の国際空港化や港湾、高速道路網の整備を国に訴え、地域の活性化を図り、地域間競争に勝ち抜くという戦略が大部分である。

 現在日本のほとんどの地方自治体は外国の都市と姉妹都市提携を締結している。日本における姉妹都市提携の第1号は、1955年の長崎市と米国セントポール市との提携で、国際平和を願っての姉妹都市縁組みであった。ただ、姉妹都市交流は70年代まではあまり活発ではなかった。また、姉妹都市の多くがアメリカの地方自治体との締結であり、姉妹都市の交流先が偏っていた。

 80年代になると姉妹都市提携の増加率が高まり、90年代になると急増する。98年4月1日現在、全国3300の地方自治体のうち、39都道府県と832市区町村が、世界58ヶ国で1304の地方自治体と姉妹都市提携を行い、交流を深めている。交流先にも変化があり、提携件数ベースで見ると、第1位がアメリカ(全体の30%)で多いものの、第2位が中国(19%)、第3位がオーストラリア(6%)、第4位が韓国であり、交流先の多様化が進んでいる。

 1990年代から、国際交流から本格的な国際協力が活発化し始める。各自治体はそれぞれの特色を生かして、様々な国際協力事業を展開している。地方自治体の一般的な国際協力は、主に環境、上下水道などの都市インフラや、保護医療、地方行政、教育などの行政サービス分野で、研修生や留学生の受け入れ、専門家の派遣を通じて行われており、その9割近くが地方自治体単独の事業として実施されている。また、援助する者からされる者への一方的な協力ばかりでなく、農業や産業、動物保護などで、相互利益のある国際協力を共同研究として実施している。つまり、地方自治体を通じた国際協力は、被援助国の住民を直接対象とする国際協力実施すると同時に、日本国内の地方における研究、教育機関やNGOの育成支援も担い、地域振興を目指すことにより、相互利益のある国際協力を実現しつつある。

 日本の各自治体は上下水道、環境保護、保健衛生など、途上国の必要としている技術を有していることから、地方自治体の途上国支援の協力の必要性は高い。これらの協力事業は、相手国住民に直接働きかけるため、有力な外交手段となり、さらに国内の地域振興政策として効果も見込むことができる。また、自治体の人材と国際協力のノウハウの蓄積は、地方レベルでの実践的な協力を推進する上で有効な資源になるところから、地方自治体はNGOと共に国際協力の重要な担い手となる。

 

 

引用、参考文献

五月女光弘『日本の国際ボランティア』丸善株式会社、1997年

羽貝正美・大津浩編『自治体外交の挑戦』有信堂高文社、1994年

吉田均『地方自治体の国際協力』日本評論社、2001年

毛受敏浩『草の根の国際交流と国際協力』明石書店、2003年