市民参加におけるNPOの役割

1.NPOに期待される役割

(NPO法人に限定するのではなく、広く市民活動団体としてのNon-Profit

Organaization)

 行政に対する市民のニーズが多様化するにつれて、民間・非営利団体の活動に注目が集まっている。それは、公平・公正を前提とする必要がないために、既存行政サービスが参加しにくい分野についての、補完もしくは補充機能が期待できるからである。こうした機能は、たとえ不特定多数の要望を満たすものでなくとも、あるいはないからこそ、豊かな生活を実現する上で重要なものである。

 一方で、地方分権の流れの中で、地域性重視のオリジナルな基本構想・基本計画・実施計画を市民参加のもとで作成しようとする試みが多くの自治体でなされているが、この際、市民に求められる役割はどのようなものであろうか?行政側が広聴というプロセスを経ることを目的としており、市民側がそれで満足しているのであれば話は簡単であるが、本当の意味での参加を目指すならば、専門的知識に基づいた施策評価・提言まで踏み込む方向へ進むべきであろう。そうなって初めて、協働という言葉が生きてくると考える。Plan-Do-Check-Actionという施策作成・実現の中で、Check-Actionを担えるだけの機能を市民には求められており、その役割を果たすと期待されるのがNPOではないだろうか?

 

2.宇都宮市の取り組み:行政が仕掛ける市民参加

 宇都宮市でも近年積極的に市民参加によるまちづくりに取り組んでいるが、NPOに施策評価・提言機能を期待する理由を、@まちづくり懇談会、Aパブリックコメント制度、B宇都宮市国際交流協会 インターネット討論会、を例に考えてみる。

 

2‐1.まちづくり懇談会

 まちづくり懇談会は、「明日のまちづくりや地域の課題について市民と市長が直接話し合い、その結果を市政に反映させる」ことを目的に行われているもので、月2回程度、今年度は10地域・18自治会で開催されている。その概要は毎月の広報に載せられている(市のホームページには載せられていない?)。

 ある地区の懇談会において、住民から当該地区の「宇都宮市都市計画マスタープラン」における位置付け・地域のあるべき姿について、の質問があり、市長は市のマスタープランの説明のあと「今後も、地域の皆さんとともに(中略)地域の魅力を高め、人々の訪れる地域づくりを進めていきたいと考えています」との回答があった。広報の概要からだけでは、質問者がマスタープランにおける地域の位置付けに疑問・不満があったのか、単に市長に説明を求めただけなのかは判断できないが、一般の地域住民がたとえ今自分が住んでいる地域のことであっても、そのマスタープランなり総合計画基本計画なりの内容にまで踏み込んで議論し、さらに修正・作成に関与することは、非常に難しいことである。この懇談会の趣旨が、「市民と市長が直接話し合う」ことに置かれているのであれば、市長にとってこのような質疑応答を繰り返すことは、市民の声を肌で感じる上で大切なことと思われる。もし「議論を市政に反映させる」ことが趣旨であれば、「今後も、地域の皆さんとともに」の具体案がなければ意味がない。市民側にしても、もしマスタープランの位置付けに重大な疑義がある場合に、行政とどのように対応していくべきか、現状では知識・情報・能力・時間の面で、問題が山積しているのではないか。

 

2‐2.パブリックコメント制度

 これは、市民協働のまちづくりをより一層進めるため、市政への意見提案手続きを制度化したものである。ここでは、最近の例として、「都市部グランドデザイン」について取り上げる。

 「都市部グランドデザイン」は中核都市宇都宮にふさわしいにぎわいと高次な都市機能を備えた多様性のあるまちづくりを目的に宇都宮市が策定を進めているもので、7月にパブリックコメント制度に基づいてその素案を公表し、市民の意見を求めていたものである。意見募集は、8月で終了し、その概要は広報並びに市のホームページに掲載されている(因みに「策定の目的」のPDFが開けず、閲覧不可)。項目別の意見等概要に対する市の考え方(対応の方向)が述べられているが、考え方には「都市部グランドデザインにおいて○○○の内、△△△で、□□□を記述してある」という回答が多い。

 

例)意見等概要:交通道路体系構想を現実化させる

  市の考え方(対応の方向):都市部グランドデザインにおいて「W都市部の地区別整備の方針」の内、交通基盤整備の中で「新交通システムの導入」を記述してある。

実際のグランドデザインでの記述:○公共交通機関を中心とするシステムづくり

     都市新バスシステムや新交通システムの導入 等

 

意見の中にある「交通道路体系構想」=「新交通システム」がどうかはわからないが、記述として網羅されていることが、「現実化させる」ことにつながるのであろうか?ここで問われているのは、計画実現の意志と未来像の提示、実現にいたるまで方法と課題の明確化、であり、グランドデザインに一文が入っているかどうか(もちろん入っていなければ次には進めないが)ではないはずである(新交通体系についての説明は、ホームページの別項目でなされているのであるから、そちらで議論すべきならその旨補足するなりの配慮があってもよい)。新交通システムに関しては、それがどのようなものであるかも含めて市民の関心は高いものと考える。行政側の計画検討に対する市民側からの提案等があれば、上記の議論がもっとかみ合ったものになるのではないだろうか。そのためには、正確な情報と知識によった信頼できる計画作成能力が要求される。

2‐3.宇都宮市国際交流協会 広報部主催「インターネット討論会」

 この討論会は、宇都宮市在住外国人が直面している様々な問題を明らかにし、それらにどう対処していくか考えることを目的に、2002年3月2日から15日までにインターネット上で開かれたものである。

 そこでの議論は、教育問題、生活、就労、医療、行政窓口 等多岐分野にわたり、実際の問題点が浮き彫りにされるものであった。

例)行政の窓口で

・市役所の窓口や、様々な相談窓口で言葉がよく通じなかった

・行政サービス、道路標識、診察料、学校からのパンフレット、水道、ガス、電気の検針票など多言語による情報サービスをしてほしい

・市役所で外国人登録や結婚の手続きをするときの対応などが、以前よりいろいろな経験を通して随分良くなってきている。

また、協会への要望の一つに、「姉妹都市交流ばかりを重視しないで、宇都宮に住んでいる外国人へのサポートに力をいれるべき」というものもあった。

 

 市民にとってもこうした問題点を知る機会があることは重要であり、「今後年1回は行いたい」という活動は意義あるものと思う。問題は、明らかになった課題にどう対処するかであり、行政‐市民の協働がどのように機能していくか、にある。一つは、市内でも国際交流分野で活動しているNPO法人が多数あるが、独自の自立的活動を行っている各々の団体が、上記問題へどう対処しているのか、また、行政との協働が可能なのか、あるいは意味があるものなのか、という議論がある。もう一つは、行政の対応であるが、そこでもグランドデザインのような基本計画の策定への関与だけでなく、個別実施計画(例えば内なる国際化の推進など)作成への市民組織のかかわりが重要になると思われる。

 

3.政策提言型NPO

 政策立案・提言を行うNPOとしては、日本ではじめてこの分野でNPO法人となった岩手県盛岡市の「政策21」が挙げられる。

 

<政策21>(www.policy21.jp/)

活動内容:交流(Empowerment)、支援(Support)、協働(Collaboration) よりよい政策を実現し、豊かな社会を築くため、研究者や研究機関、自治体、市民、団体・企業と一緒に、政策分析と政策評価、政策提言に取り組みます。

 

 このNPOの活動実績としては、

2001年10月‐2002年3月 岩手県水沢市 行政評価基本方針等策定業務 受託

2002年4月‐         岩手県水沢市 政策評価システム構築業務 受託

ほか、各種セミナーへの講師派遣、などがある。

 岩手県は、この他にも民設民営型の市民活動支援組織が4団体あり、中間支援の体制がかなり整っているような印象がある。

 

 こうしたNPOの例として、他には「せんだい・みやぎNPOセンター」が挙げられる。全国各地でこうした提言型NPOがどの程度存在し、どのように活動しているか、まだ調べていないのでわからないが、今後その機能がますます重要になるものと思われる。

各地域において、NPO活動自体がどの程度活発なのか、さらにこうした提言型NPOが設立されるのか否か、違いが生じてくる理由を地域社会の構造との関係を考えながら調査していきたいと思っている。