現代政治の理論と実際
「ハーグ会議(COP6)におけるCO2削減について」
手塚利恵 (t002558)
1.ハーグ会議(COP6)とは
2000年11月13日〜25日に21世紀初頭の地球温暖化対策を決める気候変動枠組み条約第6回締約国会議(地球温暖化防止ハーグ会議、COP6)がオランダ・ハーグで開かれた。1997年12月に「京都議定書」の中で、先進国は2008年〜12年の間に達成するための温室効果ガス(CO2など)の削減目標(1990年に比べて先進国全体で5%、日本6%、アメリカ7%、EU8%減少など)と、目標達成のための新たな制度や方法論(京都メカニズム、森林吸収、尊守制度など)を決めた。しかし、「京都議定書」にはこれらの新しい制度を運用するための細かいルールなどが決められていないため、「京都議定書」を1日も早く発行させ、実施するためのルールを決めることがこの会議の目的である。
しかし、これまでにも話し合いはされてきたが、いまだに発効の目処はたっておらず、温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっている。
会議には、締約国190ヶ国のうち約170ヶ国の政府代表が参加、森林吸収や京都メカニズムなど九つの分科会に分かれて、前半は事務レベル会合で、後半は大臣レベルで話し合われた。
2.森林吸収をどこまで認めるかが最大の焦点
日本の課題は、温室効果ガスを1990年の水準から6%削減するという目標のうち、3.7%分を確保するというもの。COP6での最大の焦点は森林による二酸化炭素(CO2)吸収量をどこまで認めるかという森林吸収問題だ。ここで、この森林吸収に限定して会議の流れを見てみよう。
(1) 事務レベル会合
13日 COP6開幕、9つの分科会がスタートする。
14日 アメリカ・カナダ計算方式を共同提案。日本も支持を表明。
共同提案の内容
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吸収量が100万トンまでの国は、吸収量をすべて認める。
A
100万−300万トンの国は、一定の割引率をかけて吸収量を計算する。
B
300万トンを超えた国は、超えた吸収分をすべて認める。
15日 日本は、林業による伐採をCO2の排出とせず、伐採後の再植林を削減分に組み入れるという方法を要求。
しかし、支持はなし。国際的に孤立する。
16日 日本・アメリカ・カナダの共同提案に対してEUが批判。
(2)
大臣レベル会合
19日 非公式閣僚級会議が開始
日本・アメリカ・カナダの共同提案(森林によるCO2吸収量の算定方式)が焦点となる。
日本から川口順子環境庁長官出席。
20日 アメリカが算定の基になる数値を示す。
23日 EUが先進国一律で算定比率を決め、2013年以降に適用する案を提出。
議長調停案(森林のCO2吸収量を一律15%分しか削減量にカウントしない算定方法)を提出。
〜議長調停案の内容〜
先進各国の実際の吸収量をそのまま削減量として認めると、それだけで削減目標を上回る国が出るため、吸収量の一律15%分を2008年からカウントできるとし、上限を各国の1990年排出量の3%分までとする。この方法で削減量にカウントできるのは、日本が0.55%、アメリカ3%、フランス1.9%、カナダ1.7%などで、3.7%を森林吸収で確保する算段だった日本にとって、1割程度しか認められないこの調停案は厳しい内容だった。
24日 日本政府、議長調停案に反発。
アメリカ・カナダと共同で修正案(森林のCO2吸収量から、5%割り引いてカウントする案)を提出。
EU反発。
25日 最大限認めようとする日本・アメリカと、厳しい規制を求めるEUが激しく対立、決裂のおもな要因になる。
これで、先進国が目指していた京都議定書の2002年の発行は絶望的になる。
以上より、会議は「実行しやすいルール」を主張する日本・アメリカと、地球温暖化に有効な「厳しいルール」を求めるEUや発展途上国との対立が続き交渉は難航。両者の主張の折哀策である議長調停案も両者は強く反発し、合意には至らなかった。
今後の展開
次の締約国会議(COP7)は来年10月にモロッコ・マラケシュで開かれるが、プロンク議長(オランダ環境相)は、来年5月にボンで予定されている事務レベル会合にあわせて、「COP6パート2」を開き交渉を再会したい考えを示す。
3.なぜ日本とEUは対立するのだろう
1998年現在、西側先進国の1990年と比較した温室効果ガス排出量のデータを下に示そう。
気候変動枠組み条約事務局調べ
上のグラフから、1998年の温室効果ガス排出量は、日米では1990年比に比べて、10%前後増えているのに対して、イギリスやドイツは、エネルギー転換などで、8−16%減少していることがわかる。これは、既存の森林によるCO2吸収分をできるだけカウントしたい日本・アメリカと、国内対策重視のEUの構図は、ハーグ会議での主張の違いになっている。また、西側先進国全体の1998年の温室効果ガス排出量は、約135億5000万トンで、1990年に比べて7%増えている。つまり、日本・アメリカ・カナダが西側先進国全体の温室効果ガスの排出量を上げていると考えられる。
上記は以下の参考文献をまとめたもの
http://www.asahi.com/nature/index.html
上記「asahi.com
nature(ネイチャー)」は、朝日新聞の新聞記事で、ハーグ会議の特集ではないが、その日あった出来事をテーマごとに分けて表示してあり、会議の結末については詳しく掲載されている。
http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/813330/83n815b83O89ef8bc-0-.html
上記「毎日新聞」の新聞記事は、ハーグ会議の流れがわかりやすく、テーマもはっきりしており、あまり難しく書いていないので読みやすいと思う。
http://www.jccca.org/index.html
上記「全国地球温暖化防止活動推進センター」のホームページは地球温暖化に役立つ情報の収集発信の場で、温暖化に関連するあらゆる情報を得ることができ、COP6についてもスケジュールや、詳しい解説が載っている。
4.考察
ハーグ会議(COP6)は、決裂した。合意にいたらなかった理由ついて、日本の川口順子環境庁長官は、「科学的な不確実性という技術的な問題と、政治的にどう考えるのかという二つの面があって、合意できなかった」(2000.11.26付毎日新聞より)と述べている。しかし、これから地球がどうなるかを左右する重要な会議で、合意を急がないと温暖化は加速する一方なのにもかかわらず、各国の利害関係が合意にいたらなかった原因であるということに私は怒りを覚えた。大量消費、大量廃棄の生活をしている日本において、地球のことを考え、世界のリーダーシップをとるのは、あたりまえだと思う。国同士で争っている場合ではないのではないだろうか。利害関係ではなく、グローバルな視点で話し合ってほしいというのが、私の率直な意見だ。
ここで、日本政府がどうして、EUの提案する厳しいCO2制限について受け入れられないのかについて考えてみた。
我々は、生活水準を下げるわけにはいかない。そこで必要なのは、環境を考えた研究開発であると思う。しかし、日本にはまだまだ技術力が足りていないと思う。それには、研究には莫大な費用がかかるからだ。しかし、日本は、不景気で、環境を配慮した十分な設備投資ができないのが現状であると思う。地球に住む人間なら、誰だって地球守りたい。でも、環境対策の設備投資のために会社を倒産させることはできない。そのため、日本政府は、経済界、産業界など配慮してCO2削減を甘くしているのではないか。また、環境対策を行っている企業にとっては、「日本の省エネ投資は、世界最高水準にあり、すでに可能な限りの削減を行ってきている」(2000.11.25付朝日新聞朝刊より)ということもあり、省エネ対策も、そろそろ限界に近づいているのではないかと思う。したがって、私は、政府が環境対策に遅れをとっている企業に費用を提供するべきだと思う。
次に、環境対策として日本は他の先進国と比べてどうなのか考えてみた。
地球が危機に迫られているというときに、CO2を森林が吸収したものと考えるというような、努力を怠るという姿勢にも、私はとても残念である。それだから、気候行動ネットワーク(CAN=世界気候関係のNGOの集まり)が、その日にもっともひどい発言や行動をした国を、名指しで批判し、その国のポジションを改めてもらおうとして設けた「今日の化石賞」を1週間に4度も受賞してしまうのだと思う。そして、環境対策も、国際的に遅れをとっており、世界で孤立していることを改めて確信した。
では、私たちは、これからどのような対策をするべきなのか。
最近では、東京都がディーゼル車を規制するなど、各地域での取り組みが、少しずつ見え隠れし始めている。今、日本政府に任せていては、他国よりも対策が遅れてしまい、しかもCOP6を見てもわかるように、産業界との板ばさみにあい、努力を怠ろうとする始末。そうこうしているうちに、地球は滅亡してしまう。
私たちは、生活を見直し、後の世代の人々が安心して住める地球の環境を残さなければならないと思う。そのためにも、一人一人が地球環境問題について真剣に考え、市民、自治体、産業界が一緒になって、少しでも早くから地球温暖化防止活動を着実に進めていくことが必要だと思う。
関連するホームページ
http://www.asahi.com/nature/column/ayu/index.html#profile
上記「いま地球温暖化は・鮎川ゆりかのCOP6報告」は、朝日新聞の特集ページで、WWF(世界自然保護基金
World Wide Fund for Nature)温暖化防止キャンペーン日本担当である鮎川さんの、新聞記事とは違った視点からみたハーグ会議の内側に迫ることができるホームページ。