FIFA(国際サッカー連盟)の機能と役割変容                       中村祐司(担当教官)  

  FIFA(国際サッカー連盟。1904年設立)は、登録者2億人からなる巨大な国際スポーツ組織である。200カ国以上のサッカー協会が加盟、本部をスイスチューリッヒに持ち、サッカーという世界で最もポピュラーなスポーツ競技界の頂点に立つ組織となっている。この小論では考察の対象をFIFAのホームページ http://www.fifa.com/ に絞り、そこから得た情報をもとに、この組織が有する機能やリソース(専門知識、正当性、財源、組織規模などの資源)について把握していきたい。もっともFIFAの公式ホームページを仔細に検討したとしても、あくまでもこの組織が有する影響力の一端を垣間見ることができるに過ぎないであろう。自らまずます増殖・拡大しつつあるリソースをあからさまにするとは考えられないからである。しかし、FIFAの構造や機能の本質を捉えようとする際、情報源として押さえておかなければならないのはまず、FIFA自身が提供している情報そのものであるはずだ。いわゆる「裏情報」や組織の中枢にいる関係者からのインフォーマルな形で情報を得た者のみが、この組織の本質を把握できるという保障は何もないはずだからである。

    FIFAの10規準(The Code of Conduct.2000年12月15日現在の http://www.fifa2.com/scripts/runisa.dll?M2:gp::67173+fgg/index+E。以下同じ。このページの左欄に項目化されているCode of Conduct, FIFA Mandate, FIFA Bodies, World-wide Structure, Economics, FIFA Headquarters, Information Technology, Legal Matters, Player's Agents, Television, Marketing, SOS Children's Villages, CIESのリンク先ページを参考に作成。)においては、例えば、腐敗、薬物使用、暴力などの排除が唱われており、特に10規準の後半はサッカー界に対するあらゆる破壊的行為に毅然と対峙する意思が表明されている。そのために国際的なサッカー競技大会の運営を監督し、規約やルールの誤用からサッカー界を守る正当性がFIFAには与えられていると主張される。サッカーというスポーツは一面で経済的、社会的、政治的意義を拡大する役割をも担うとされる。そしてメディアがサッカーの普及に果たした役割が大きいことにも触れている。したがって、「こうした趨勢によりFIFAは直接的なスポーツ活動領域以外での諸課題に対応していく義務がある」とされる。 

   2年に一度開催される総会が最高意思決定機関であり、ここで人事や財政などが承認される。決定や承認にあたっては各国協会が1票を有しており、この仕組みは極めて「民主的」であると強調されている。 「『FIFA執行委員会The FIFA Executive Committee』はある種理事会の役割を果たし、会長、7名の副会長、16名の委員から構成される。全部で18の特定領域毎の常任委員会が執行委員会を支え、助言を与える。これに加えて、2つの裁定機関、規律委員会、提訴委員会、そしてマーケット及びテレビ放送に関する諮問委員会が存在する」のである。委員会の種類は財務委員会、ワールドカップ組織委員会、コンフェデレーションカップ及びクラブ世界選手権組織委員会、ユース大会委員会、フットサル委員会、女子サッカー委員会、レフリー委員会、技術委員会、スポーツ医療委員会、選手の地位に関する委員会、法律委員会、セキュリティ及びフェアプレイ委員会、メディア委員会、外交委員会、各国協会委員会、サッカー委員会、戦略研究委員会となっている。FIFA事務局(The General Secretariat)は 財政、サービス提供、競技大会、普及発展、情報、マーケティングといった諸部門から構成される。

  「FIFAの役割と任務の範囲は近年多大な拡大を見せており、世界の諸機関は連盟の調整力によってうまくサポートされている」ことが指摘されている。この場合の連盟とはアジアサッカー連盟(AFC)、アフリカサッカー連盟(CAF)、北米・中米・カリブサッカー連盟(CONCACAF)、南米サッカー連盟(CONMEBOL)、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)、オセアニアサッカー連盟(OFC)のことである。FIFAは各連盟と密接に協力し合うが各連盟は203カ国の国内サッカー協会への権利を侵害することはないと位置づけられている。

http://www.fifa2.com/scripts/runisa.dll?M2:gp::67173+fgg/index+E

  驚くべきことに、FIFA定款によればこの組織は非営利組織(non-profit organisation)とされている。ワールドカップはFIFAや当該国組織委員会にとっては何十億人にも向けた「ショーケース」であり、チケット販売、テレビ放映権、スポンサー、商品販売行為を通じた実質的な収入源となっている。

  独立システムを維持するためにFIFAは、各連盟や各国サッカー協会との連携を強化・安定したものにしようとしている。これを実現するためにスポーツ界の紛争解決に対応する独立の仲裁裁判所の設立に向けて動き出している。また、政治家や公人からの試合に対するサポートを得る一方で、FIFAに代表される「サッカーコミュニティ the football community」の利害を守ることが第一義的な任務とされている。 

  その他にも選手(official players)をめぐるライセンスシステム、テレビ放送やスポンサー企業とのパートナーシップ関係強化を実現しようとしている。例えば、「FIFAはそのアイデンティティ、活動、パートナーを世界的なブランドライセンスプログラムの中心であるダイナミックなロゴを用いることによって促進する。このFIFAブランドは、普遍性、理想、熱望を象徴化した伝統的エンブレムを拡大したものであり、広範囲のブランド商品販売に利用されるものである」と表明している。貧困にある子供たちに対する救済活動にも関わっている。さらに、「規程変更、クラブ予算、スポンサー、選手との契約など、法的経済的社会的なスポーツの側面はますます重要になってきている」として、スイス大学と協力して「国際スポーツ研究センター。CIES=the International Centre for Sports Studies」の設立に動き出している。

 以上のようにFIFAはその自らの主張を読む限り、世界におけるサッカー競技のあり方をリードしようとしているし、現実に強大な影響力を持っていることが窺える。それを可能にしているのが、サッカーという地球規模で普及したといっていいスポーツの人気とこの人気に連結する形で拡大し続けているマーケットの存在である。FIFAが有するリソースはこのことを抜きにしては論じられないだろう。また、世界中でFIFAが非営利組織であると思っている人はほんの僅かであることも事実である。営利活動はあくまでもFIFAが掲げる理念の手段であるという姿勢はもはやひっくり返っているのではないか。今や収益拡大や組織存続が目的化し、各連盟や各国サッカー協会との関連も含めて組織の影響力増大のためにはあらゆる方策を模索していると捉えるべきではないだろうか。 

 

紹介リンク

http://www.fifa.com/

"FIFA.com"というFIFAの公式ホームページ。固いイメージを持っていたが、分かりやすい内容。FIFAの全体像を把握するためにはまずこのページを読み切るよう取り組む必要があるのではないか。更新が頻繁なものと、組織を説明したものとに大きく分かれる。     (中村祐司)