現代政治の理論と実際

「加藤政変と森内閣の行く末」    増渕悠子(e001358)

 

 

    【森善朗内閣の支持率の推移】

 下のグラフは2000年11月20日付の毎日新聞からとったものだ。これは毎日新聞社による全国電話世論調査の結果である。これについていくつか考察してみる。

森内閣が発足した当時、4月8・9日に実施された調査での内閣支持率は40%。「支持しない」16%上回っている。支持の理由については、「新しい政策に期待できる」「森首相の指導力に期待できる」などがあげられている。

5月日の調査では、「支持する」が20%、「支持しない」が54%と支持率は大幅にダウンしている。その理由としては、『神の国』発言に寄るものが大きい。「首相の発言として問題がある」「首相の釈明会見に納得できない」などの声があがっている。この調査は衆議院解散総選挙を前にして行われたもので、これほどの低支持率で総選挙に望んだのは異例のことだった。

     『神の国』発言に関してはこちらへ。

http://www.asahi.com/politics/mori/speak/000516d.html  (朝日新聞 今日の森首相 政権の行方)

第2次森内閣成立直後の7月日の調査では、「支持する」が19%、「支持しない」が60%と、初めて不支持が60%にまで及んだ。内閣改造が政権浮揚につながっていない事をうかがわせた。不支持の理由としては、「森首相の指導力に期待できない」「新しい政策に期待できない」というもので、森内閣発足当時、国民が内閣を支持する理由としてあげていたものが、まったく逆の結果として出てしまった。この総選挙で「森内閣が信任された」と思う人は18%、思わない人は75%に達した。

 11月18・19日に行われた調査では、森内閣を「支持する」と答えた人は18%、逆に「支持しない」と答えた人は61%となり、内閣発足以来、最悪を記録した。また、過去の調査と比較しても、1989年3月の、竹下登内閣の63%に次ぐワースト2となった。20日には森内閣の不信任案が衆議院本会議に提出された。

 


*森内閣の発足は4月5日。第2次森内閣は7月4日に成立。

     考察

森内閣は前小渕内閣を継承する形で発足した。各省庁の大臣は皆再任したにもかかわらず、4月の調査で、3月時点の小渕内閣の支持率から11%アップしたのは、国民が森善朗氏自身に期待を寄せていたからだと推測される。しかし、実際には新しい政策は期待されたようなものではないように思える。経費削減のための中央省庁再編に関しても、それで国民が満足のいくサービスを受けられるかは多少疑問に思う。運輸省・建設省・国土庁から再編された国土交通省には大きく力が偏っている。果たしてこれでうまく機能するのだろうか。それは国土交通相の手腕にかかることになるだろう。確かに経費は削減されるのだろうが、その分リスクも高くなるだろう。また、森首相は「神の国」発言や、日本人埒疑惑に関する「第3国発見案」など首相として相応しからぬ発言を公の場でしたという点も、記録的な不人気を示した一つの要因であると思える。

 

【森内閣に対する不信任決議】

<加藤氏、森内閣に対する不信任案に同調>

 加藤紘一元幹事長が森善朗内閣に対する不信任案に初めて同調の意向を示したのは、11月10日である。

 

 「自民党加藤派会長の加藤紘一元幹事長は10日、民主党などの野党が今国会に提出を検討している内閣不信任案の採決に同調する意向を固め、森派会長の小泉純一郎元厚相に伝えた。」

20001111日付朝日新聞朝刊より)

 加藤派は、自民党内では、山崎拓元政調会長が率いる山崎派とともに、自民党内では非主流派である。加藤氏はこれ以後、加藤派内や、山崎派を中心に党内に賛同を呼びかけるようになる。加藤氏は小泉氏に、森首相に対して『国民の75%が支持しない首相を支持できない。』と、その真意を語っている。一方、自民党内の、橋本、森、江藤・亀井の主流3派、旧河野派、河野グループの会長らは、11日夕に会談し、「森首相支持」を改めて確認している。このことから、自民党内の情勢は混乱した。

 内閣不信任案が可決されるためには、衆議院本会議で出席者の過半数が反対しなければならない。現衆議院は、野党が190人で、過半数の240人にあと50人の賛成者が必要である。衆議院議員の加藤派議員は45人、山崎派が19人なので、両派が結束すれば不信任案は可決される。この時点で加藤派名誉会長の宮沢喜一蔵相は、『今はそういう時期じゃない。相談にくればやめるように言う。』と加藤氏の決断に慎重姿勢を示している。

 

 

<森善朗内閣に対する不信任案決議>

「森首相の退陣を要求している加藤紘一元幹事長を『支持する』と答えた人は過半数の54%にのぼり、『支持しない』は37%だった。」

(2000年11月20日付毎日新聞朝刊より)

 これは11月20日に衆議院で行われた、森内閣に対する、内閣不信任案の採決を前にして、毎日新聞社が18・19日に実施した全国電話世論調査の結果だ。また、

 

 「加藤氏らの森内閣不信任案への対応については『賛成して成立させるべきだ』が、55%を占め、『反対すべきだ』(21%)、『欠席すべきだ』(10%)を上回った。」

 

というように、世論は、自民党内の非主流派である、加藤派・山崎派の議員が、不信任案に賛成すること望む人が、過半数を占めている。森内閣にこれ以上の期待は持てない、といった感じだ。ちなみに、『「加藤内閣の誕生を期待する」は33%にとどまり、「期待しない」の59%が上回った。』と、加藤氏の行動に対しては評価するが、首相としては疑問が残る。とは言うものの、毎日新聞の世論調査によると、「首相としてふさわしい人物」としては、石原慎太郎氏、田中真紀子氏などがあげられているが、「誰が次の首相になると予想するか」という問いに対しては、加藤氏がトップだった。こういった点からみると、加藤内閣に対する期待度が3割を越えた事は注目すべきことだ。新首相は加藤氏か?との声もあがっている。

 

このように世論を味方につけた加藤氏は、内閣不信任案の提出される20日朝、自信を持って、「腹は決まった。100%です。勝ちます。」と自信を持って答えている。自民党の野中広務幹事長は、採決前に加藤氏、山崎氏の離党を勧告している。また、不信任案の同調者は、除名処分で望むという考えだ。一方、森善朗首相は、「自分がどうこうする問題ではない私は当事者なんですから。」とその時の心境を淡々と語った。

 本会議決戦は、20日夜から、21日未明にかけて行われた。

  <20日、加藤派の決断>

20日午前。加藤氏は、いたって強気の姿勢である。今の日本を変える,という強い信念を持ってこの決戦に臨むつもりだ。記者団にも、「百パーセント勝つ。」と語っている。その一方で加藤派の置かれる現状は厳しい。自民党執行部は、加藤氏、山崎氏に離党勧告をしており、応じない場合は不信任案採決前にも除名する方針だ。また、加藤派内でも不信任案に反対する意向を固め多数派工作を進める人もいる。池田前総務会長ら、ベテラン議員らで、現状に満足しているわけではないが、野党の不信任案に賛成するわけにはいかないという考えだ。加藤派名誉会長の宮沢蔵相も不信任案に賛成する閣僚は辞任するべきだという加藤派にっとて厳しい見解を示している。

20日夜、加藤氏と山崎氏は会談をし、不信任案採決に対する、最終決定を行った。加藤派はここで賛成の方針を全面的に撤回する。『不信任決議案の提出される衆議院本会議に欠席』このようなかたちで、間接的に森内閣に講義する方針に転換した。その理由としては、最終的に賛成して可決するだけの数を確保できない、というものだ。野中幹事長は賛成すれば除名する方針をしめしており、数の見通しが立たなくなった以上、あえて欠席の形をとるという名誉ある撤退をすることになった。

 

  <森内閣不信任案の全文>

 野党4等が20日夕に提出した森内閣に対する不信任決議案の提出の理由は次の通り。

・・・21世紀を目の前にした今日、わが国は依然として政治・経済ともに世紀末の混乱から向けだせず、危機的な状況の中にある。こうした状況を招いたすべての原因と責任は自広保連立の森内閣にある。森内閣はその発足の経緯からして疑惑と不信にまみれており、森内閣総理大臣の数々の失言がそれに拍車をかけている。

・・・また、森内閣は政権発足以来、一貫して低支持率にあえいでいるが、第2次森内閣発足後はその傾向が一段と顕著になり、最早、死に体内閣の様相を呈している。スキャンダルと疑惑にまみれた中川前官房長官の辞任。そして、森内閣総理大臣の日本人埒疑惑に関する「第3国発見案」発言など、森内閣をめぐる数々のスキャンダルや相次ぐ閣僚に辞任、失態が国民の政治に対する不信感を増幅し、さらにはわが国外交の権威を完全に失墜させた。

・・・加えて、提出されている2000年度第1次補正予算案は、国民の生活再建になんら役に立たないばかりでなく、財政再建とも真っ向から対立する相も変わらぬバラまき予算案であり、わが国の財政危機を一段と悪化させることになりかねない。森内閣の存在が国民に現在の生活に対する深刻な不安と見通しのない将来への言いようのない不安感をもたらしている。森内閣の責任は極めて重大である。

・・・よって、本院は、わが国が世紀末の混乱と危機的な状況から脱却し、国民の信頼を回復するため、森内閣を不信任する.

(CCN.com 2000.11.20 より)

 

   <内閣不信任案採決>

野党4党は20日夕、上に示したような不信任案を提出。同日午後9時、開会となった。既に示したように自民党内の非主流派,加藤・山崎両派で賛成を表明していた議員は土壇場で本会議欠席。賛成190、反対237で否決された。仮に彼らが本会議に出席し賛成したとしても、10票差以内で否決されていた。賛成すれば除名という野中幹事長の方針が加藤氏らの土壇場での欠席に大きく影響している。この本会議は,非常に紛糾した。途中、不信任案に対する反対討論していた松浪健四郎氏が、ヤジをとばす野党は席にコップの水をかけるというハプニングが起きた。これにより一時本会議自体が中断。途中休憩を挟む形となり、採決されたのは、翌朝の3時という例を見ない会議となった。

 

     考察

 加藤氏らの取った行動は、評価に値することだと思う。森首相は公人として相応しくない発言を、公の場でいくつもしている。記者団に対する反応も、極めて批判的で冷静な対応には到底思えない。こうした点をみると、首相として適任ではない、としか思えない。さらに、先の臨時国会では数にものをいわせ、充分な議論もなされないままいくつもの法律関しての決定がなされている。補正予算、IT基本法の制定、少年法・警察法の改正、参議院選挙制度の改革、健康保険法改正などだ。これらは私達国民の生活に直結するものであり、世論でも、まだ決断するには早いという意見もみられる中で、こうした決定をするのは不信を招く行為であると思う。私自身はこうした理由から内閣不信に賛成である。国民も支持率が依然として20%をきる中で、本会議で否決したとことの真意はいったいどこにあるのだろうか。宮沢蔵相の言うように、今は足元を固めるじきであり、そういう時期ではないかもしれない。しかしこれ以上新しい政策にも、森首相自身にも期待が持てない以上は不信任案を可決して、新しい首相を選ぶ必要があると思う。実際に政治を動かすのは、首相一人ではないが、そのシンボルとなるのが内閣総理大臣である。だから、この人個人の指導力もしくは人間的な魅力を見出せなくなった時点で交代を考えるべきだと思う。今、保守党の県と思われてきた県で、新しい知事が当選し新しい県政を考えている。国としてもこのようにこれまでにとらわれない政治というものを進めていくべきだと思う。仮に、不信任案が可決され、新しい首相が就任しても、かつての首相より少し頭のいい首相がたったのでは意味がない。根本的に変えていける首相を選べる環境を作るために、国民である私達自身がもっと積極的に政治に参加していく必要があると思う。

 

 

 

 

参考にしたホームページ

     首相官邸 http://www.kantei.go.jp

     毎日新聞 http://www.asahi.com

     朝日新聞  http://www12.mainichi.co.jp

     CCN JAPAN  http://cnn.co.jp