現代政治の理論と実際

『環境アセスメント法においての、名古屋市の動きと実態』    倉持秀章(a983315)

 

1.環境アセスメントとは?

環境に大きな影響を及ぼす恐れのある大規模な事業の実施について環境への影響を事前に調査、予測、評価し、環境保全策をしていこうという制度を「環境アセスメント(環境影響評価)」という。

環境アセスメントの法制化については、81年に法案が国会に提出されながら、通産省、建設省、産業界の猛反対で83年に廃案になった経緯がある。しかし、環境保全に対する世界的な世論の高まりもあって、93年に施行された環境基本法では環境アセスメントに関する規定が初めて盛り込まれた。そして97年、やっと環境アセスメント法(環境影響評価法)が制定され、99年6月から施行されている。対象となる事業は、@高速道路、A鉄道、B空港、Cダム、D発電所、E廃棄物処理場建設などの公共事業および国の補助金事業、F国が出資している法人の事業と、今までの行政指導で臨時対応していたときより拡大された。また、評価の項目も大気汚染や水質汚濁など7公害に加えて、生態系の影響や温室効果ガスの排出などが新たに書き加えられた。 その他、事業の内容が固まる前に地元住民や白治体の意見を環境庁がヒアリングし、それを締果に反映させるという点も改善されている。

なお、10年後には制度そのものの有効性を再確認することになっている。

ここから名古屋市の藤前干潟ゴミ埋め立て計画を例に,環境アセスメントを考える。

この30年間に、4000haの干潟を埋め立ててきた名古屋港臨海工業地帯の中に、奇跡的に残されている約100haの干潟が,藤前干潟である。現在埋め立てで追われた鳥たちが集中し、日本最大級の渡来地(シギやチドリ全国で1位の生息数)になっている。さらにこれが埋め立てられようとしている。シギ,ちどりといった渡り鳥は,春にシベリアやアラスカの大地で雛を育て,秋には南下して,東南アジアやオーストラリアで冬を越し,往復2万キロもの渡りをする。そんな渡り鳥にとって,繁殖地と越冬地それに中継地として,生きていくための大切な場所になっている。翼を休め,しっかり餌を食べ,渡り鳥のエネルギーを補給する中継地の重要な干潟である。

 

2.アセスメントを考えられた当時(1996年)の動向

名古屋市は,1日に約1000トンの埋め立てゴミを,多治見市の愛岐処分場に埋めているが,近く満杯になりそうなので,藤前干潟を1984年,処分場として計画を発表した。それは,湾岸計画として立てられた名古屋港西1区計画が,海面下土地の私有権問題で具体化できずに,20年間も放置されていたところを,ゴミ捨て場として利用しようとしたものであった。発表以来,渡り鳥の最後の餌場を守ろう,環境を壊し続けるゴミ問題の根本的解決を図ろうと,広範な市民運動が続けられ,市議会での10万人請願などを受けて名古屋市も三度計画を縮小し,それでも強い反対を押し切り,1994年1月に46.5ヘクタールの暫定経過として,環境アセスメントの手続きに入ったのである。

 埋め立て問題にアセスは調査に一年、分析評価に一年半をかけ、1996年7月に『準備書』が作られた。準備書は1000ページを超え、『環境への影響は小さい』という結論に導くための恣意的な分析や、非論理的な推論による評価が並んでいた。例えば、シギ・チドリの6〜9割は藤前干潟の勾配の緩い西側に集まり、餌場として使われる。しかしこの準備書には、護岸の幅さえ無視してたった1日のデータだけで、しかも東側の鳥の生息をカウントしていた。全く意味がないものだ。また事業者の戦略は、私達に残された5%の干潟(藤前干潟、庄内川河口、新川河口、日光川河口にある干潟)の中での藤前干潟の価値を過小に評価し、藤前を埋めても、周辺の干潟があるから大丈夫と見せることにあった。

 一体何を考えているのかがわからない。名古屋港の開発は、愛知県と名古屋市が協力し、またその特別自治体が行ってきた。市民の声を聞き、それを行政が行う姿勢こそ公共事業である。この結果はアセスメントといえるのだろうか?

 

3.保全までの動き

1998年4月 国際影響評価学会が計画の見直しを求める

名古屋市が全国有数の渡り鳥の飛来地、藤前干潟にごみ埋め立て処分場の建設を計画している問題で、国際影響評価学会が計画の見直しを求める提言を環境庁に提出した。提言には、『干潟が失われつつある日本にとって藤前干潟は最も重要な湿地の一つで、多くの渡り鳥が飛来するなど国際的にも大変貴重だ』と指摘した。ニュージーランドで開かれた総会でも、藤前干潟の問題が議題となり、2005年に愛知万博(環境がテーマ)を開催するが、藤前干潟を保全できるかどうか世界が注目している。 

 

1998年8月 環境庁が開発に歯止め 渡り鳥渡来地を目録化

環境庁は、来年度から5年間をかけて詳細な実態調査を行う計画で、作成した目録は、開発事業に環境アセスメントが必要かどうか判断する際の資料として自治体などに活用できるようにした。将来はアジアの重要湿地の目録づくりにつなげたいとしている。  

 

1998年12月 国際湿地シンポジウム開催

環境庁が藤前干潟埋め立て計画を反対していたことで、名古屋市は人口干潟を造る案を出していたが、このシンポジウムで『人口干潟は無謀』であると、環境庁と港湾区域内の埋め立ての認可を行う運輸省も反対した。

 

1998年12月 人工干潟の試験施工中止を検討

貴重な干潟で実験を行うべきではないという環境庁の指摘を受けて、名古屋市環境事業局幹部が環境庁を訪れ、埋め立て認可前に試験施工は行わない方針を伝えた。名古屋市に伝えた干潟改変に対する見解でも、生態学的評価もせずに貴重な干潟を大規模に使用して実験を行うことは非常識と厳しく批判していた。しかし名古屋市は、干潟の改変工事を開始から6年で終了するスケジュールで検討を進めていた。

 

1998年12月 名古屋市が藤前干潟の代替地検討へ〜

愛知県の知事は運輸省を訪ね、事態打開に向けて国、愛知県、名古屋市で代替地の検討を含めた話し合いの場を設けるため協議した。愛知県知事は、環境庁だけではなく、埋め立ての認可権を持つ運輸省とごみ行政にかかわる厚生省をまじえて協議する意向を示していた。 

 

1999年1月 埋め立て断念を正式表明

知事は環境庁と厚生省を訪れ、名古屋市が計画を断念したことを正式に伝え、代替地探しへの協力を要請した。有力な代替地とされる名古屋港の人工島、ポートアイランドを管理する運輸省の大臣は県・市と必要な調整を進める意向を示し、藤前干潟が保全されることが確実になった。名古屋市はこれまで、干潟の埋め立て回避に向けて愛知県と代替地を探す一方、不調に終わった場合に備えて現行計画(埋め立て計画)も進める方針を掲げていた。しかし、2本立ての計画は国などの理解が得られないと判断し、運輸省にこの方針を説明していた。 

 

 毎日新聞  http://www.mainichi.co.jp「藤前干潟」

 

4.アセスメントへの期待、まとめ 

生態系や、環境の変化というものは地域の住民が一番わかり、興味を持ってくれる出来事である。これからのアセスメントへの期待は、もちろん10年後にこの制度が有効であると確認されると共に、住民の協力を得たデータ作成による時間の短縮だ。時間の短縮は、事業費の削減や環境への配慮につながる。また地域住民の参加で、地域の活性化につながれば、単にアセスメントは環境への危険度を測るものさしではなく、明るい社会の構築につながる法になるだろう。

藤前干潟埋め立ての問題で名古屋市が進めたアセスメントの内容は、事業の実施を前提にして、生態系の調査も、代替案との比較検討もせず、ゴミ埋め立てによるマイナス影響を無視し、全ての環境項目について「影響は小さい」とむりやり結論づけていた。現行の環境アセスメントでは、自治体が公共事業をする時、環境への影響を評価する側と、それを審査する側とが同じ機関となってしまい、その機関の首長がその2面性を意識して審査しない限り、公正な審査の条件である第三者性が全く失われてしまうからである。今回名古屋市が進めたアセスメントでは、そうした現行制度の欠陥を知りながら、それを利用して事業の実地を押し通そうとしたようにも見えてしまう。このような、市民の声を聞こうとしない行政側の姿勢と、それを許してしまう制度こそが、藤前干潟の事例における環境アセスメントの最も大きな問題であると思う。

この藤前干潟の問題は、アセスメントの制度や環境保全、公共事業などの歴史において、画期的な出来事であり、現行制度の多くの問題点が浮き彫りとなった。これを機に、アセスメントの制度や環境保全に対する考えが見直されればと思う。

 

参考ページ 

http://www2.justnet.ne.jp/%7Esanbanze/sanban65.html

人口の干潟で藤前干潟の代わりをつとめられるか?を問題に,国民に干潟の重要性を記した。

 

http://www2s.biglobe.ne.jp/~fujimae/japanese/index.html

藤前干潟の位置や生物,埋め立ての規模いろいろなことがあり,1番参考にしたところでもある。

 

http://www.kt.rim.or.jp/~hira/jawan/info090196.html   『藤前干潟を守る会』

藤前干潟を守る会の代表者 辻さんの言葉があり,また干潟への問題点や意見を出せるように,メールアドレスがある。