現代政治の理論と実際レポート

「2000年栃木県知事選挙における県民の選択とこれからの県政」

990123A 小島 周一郎

 

1.2000年11月19日

 2000年11月19日、栃木県知事選挙が行われた。今回の知事戦は4期16年栃木県知事である現職の渡辺文雄氏に対して、前今市市長福田昭夫氏、そして、元県職員野口要氏の三つ巴の戦いとなった。これまでの県知事選挙と異なるのは1984年以来、毎回現職と共産党系候補の一騎打ちであったのが16年ぶりに選挙らしい選挙になった事である。今回までの投票率はこのためここ最近では30%台、前回知事選は28.09%と全国のこれまでの知事選挙の中でワースト2位という不名誉な記録を生んでしまった。その構造が大きく変わり、そしてこれから栃木県において新たな波が生まれそうな予感のこの知事選について分析して行きたいと思う。

 

2000年栃木県知事選挙開票結果(投票率45.63%)

渡辺 文雄(無所属・現) 335286

野口 要  (無所属・新)    34009

福田 昭夫(無所属・新)  336161

 


(栃木県選挙管理委員会ホームページより筆者作成)

 


2.県民の選択と無党派層の動向

 今回の知事選の投票率は45.63%であった。下図から分かるように投票率の低落傾向にあった知事選挙は一応歯止めがついた。ただ、今回と同じように3候補が三つ巴となった82年の選挙と比べると0.55%低い。過去4回の選挙は現職知事と共産党系候補の戦いであり、事実上は渡辺知事への「信任投票」であった。ただ、下表からも分かるように有権者の関心は低く、ついには前回知事選で全国ワースト2位である28.09%という結果をもたらした。ところが今回の県知事選挙は前回までと同様の構図である共産党系候補の野口要氏と現職の渡辺知事に加え、突如今市市長を任期途中で辞任し賭けに出た福田昭夫氏により今までの信任投票から一転した「3つ巴の戦い」になったことで有権者の関心も必然的に高まった。また、公職選挙法の改正による投票時間が20時まで延長したこと、また不在者投票がレジャー等私的な理由でも可能になったことも投票率が上がった一因であるだろう。

 投票率を市町村別で見ると新知事の地元である今市市は県内市部の中で一番高い61.14%。これは県内市部の中で投票率が1番高い。また、大田原市では千保市長が渡辺知事に反旗を翻した事により関心が高まり50.85%。これは前回知事選より25%も増加している。しかし、都市部での投票率は今回も低迷している。前回知事選で県内ワースト1位の小山市での今回の投票率は36.52%、またワースト2位の宇都宮市も43.67%に止まっている。これらの都市部は無党派層が多いとされている。そこでの投票率は県内平均を下回っている。つまり、無党派層は依然として選挙に関心がないといえる。また、県内全体からみても、投票率が45%ということは有権者全体の半数以上が「棄権」した事になる。少しくらいの投票率が上がった事に手放しでは喜ぶことは出来ないだろう。

 

 


 

(栃木県選挙管理委員会ホームページより筆者作成)

参考 下野新聞ホームページ

 

3.新知事の県政運営

 福田氏は前知事の4期16年にわたる長期政権に終止符を打った。ただ、これからは大きな荒波が待ち受けている。それを物語るように県内49市町村の首長を対象にしたアンケート(2000年11月17日朝日新聞)によると、市町村長と新知事との軋轢が見えてくる。この中で47市町村長が現職の渡辺知事を支持し、福田氏支持が1人(大田原市長)、中立が1人(今市市長)となっている。ほぼ全員の市町村長が前知事を表面上支持していたことがわかる。また、福田新知事が選挙中に配った「政策ビラ」を巡っても軋轢が表面化した。福田氏の支援団体「21世紀の栃木県を創る会」が選挙期間中配布した政策ビラ「新聞アンケートによると県内5市(宇都宮市、足利市、佐野市、日光市、大田原市)の市長さんも多選の弊害を指摘しています。」の部分に対し、大田原市長以外を除いた宇都宮市の福田市長(宇都宮市長は現職であった渡辺知事の地区後援会長を務めている)ら4市長が連名で、「多選の弊害は一般論で指摘しただけ。本意が伝わっていない」と、福田氏側に抗議していた。このビラを読むと直接の表現はないが5期目を目指していた渡辺前知事への批判と受け止めることができる。ただ、このビラには福田氏の名前は1行も書かれていない。結果的にこの抗議によってテレビや新聞がこの問題を扱うことに対して有権者に対して福田氏の知名度の増加に一役買ってしまったとも考えられる。それが福田氏の勝因の1つに感じられる。どちらにせよ、県内の市町村長のほとんどが選挙中、現職の渡辺前知事を押していたので、新知事福田氏は県内市長との関係をまず修復していく必要がある。そうしなければ県と市町村が協力して政策を行うことができなくなってしまうだろう。

 また、県庁内でも副知事や出納長が自信の進退について退任する可能性を示唆しているように、新知事は渡辺前知事の16年間の県政によって出来上がっている「渡辺人脈」を切り崩していく必要がある。福田氏は政策の中で「行政改革の抜本的見直し」を掲げ、OA化や民間委託を積極的に活用して退職者補充分を削減していこうとしている。ただ、その考えに対し県人事課はこれ以上削減すると県民サービスが低下するとして反発している。福田氏の政策を通すには多く県庁内で多くの協議の必要があるだろう。また、県議会もオール野党体制に闘いを挑まなくてはならない。渡辺県政では与党各会派に入念な根回しが行われていたようだがそれが馴れ合い体質を生み、長年議会と知事はぬるま湯に浸かっていたように感じられる。そのような県政を新知事は行ってはいけない。有権者はそれを望んでいない。これからはお互いがお互いを絶えずチェックしていく必要がある。

 新知事はこのような多くの向かい風に立ち向かって行かなければならない。ただ、唯一の追い風となるのは県民が福田氏を栃木県知事に決めたことである。

 

参考 福田昭夫ホームページ

 

4.考察

今回の栃木県知事選挙は渡辺、福田両氏の得票差がわずか875票差である。まさに県民の意見が真二つに割れた選挙であった。ではなぜ福田氏が勝ったかというと「組織」に対抗した「草の根」的な選挙活動によるものが大きい。それが、先の長野県知事選挙で証明された「政党不信」の考えと組み合わされたのである。このことから栃木県民も日本全体の有権者が考えている政治の流れと同じ考えであるということを証明した。政党に対して今、国民の目は厳しい。従来のような国民の側に立たない政治を政党が行えばその政党は選挙で大敗するのは明白である。それだけ国民が利口になってきているのである。今、パソコンの前にいるだけで様々な情報をインターネットを通して、得ることができる。国民の目は絶えず政治に対して監視しているということを政治家は自覚してほしい。このことは今回の県知事選挙の結果だけではなく国政選挙等、これからの全ての選挙の結果に対して言えることである。

また、県民が今までの県政に対して飽きが来た事から新たな変革を望んだとも言える。県民は変化を求めたのである。それが、現職の知事は県政において大きな過ちを行った訳でもないのに敗れた理由である。現状を変えたいという世論からである。この飽きが、現職の多選や高齢と絡み知事選挙にダイナミックな変化を求めたのである。多選し続ける事は決して悪いという訳ではない。憲法にも職業選択の自由が書かれているし有能な首長は多選でも様々な改革を行っている。ただ、何期も知事という地位に居座りつづける事で、政策や発想に新鮮味を欠くような県政を行ったり、議会との関係において馴れ合いが生じ緊張感が希薄なぬるま湯に浸かり始めた時はすぐに職を辞めるべきである。住民はそのような政治を望んでいない。

  これからの福田新県政を県民が固唾を呑んで見守っている。新知事は県民からその一挙手一投足を絶えず見られていることを自覚して県民の為に開かれた県政を行ってほしい。そして、選挙を棄権した半数以上の有権者に対して魅力のある政治を行い、次の選挙ではその人達が政治に関心を持つような県政になってほしい。変化を求めた新知事に変化を求める県民の熱い視線が今、注がれているのだから。

 

5.最後に

 2000年12月14日栃木県議会本会議を生まれて初めて傍聴した。有権者の関心が強いことを反映してか傍聴席はほぼ満席であり、また新聞、テレビなどマスコミも多く来ていた。本会議は初日という事もあり、福田新知事の所信表明演説が行われたが、事前に議員に内容の原稿が渡されていたので特にヤジなどの反発は見られなかった。新知事はパフォーマンスも無く無難にこなしたと思われる。ただ、感じたことはあまり議会自体が有権者に対して開かれていないように思えた。もっと有権者に対して分かりやすい議会であってほしい。またオール与党体制の議会では新知事の舵取りが大変であるとも感じた。そして、今までぬるま湯に漬かっていたせいか、議員1人1人に緊張感がないようにも感じた。これから、代表質問が始まる。知事の本領を発揮するチャンスである。また、議会も知事の政策をただすチャンスである。お互いが緊張関係を持ち、県民のためにしっかりと県政を行ってほしい。

 

6.参考URL

下野新聞(http://www.shimotsuke.co.jp/index.html

 栃木県内の地方ニュースが大手新聞よりも詳しく書かれている。また、記事検索もできるため非常に使い勝手がよい。(小島周一郎)

 

朝日新聞(http://www.asahi.com/

 日本の記事だけでなく、世界の記事に対しても書かれている。また、地域ごとの地方記事欄があり総合的に調べるには便利である。(小島周一郎)

 

福田昭夫(http://www3.ocn.ne.jp/~oasisa/

 2000年11月に栃木県知事に選ばれた福田昭夫知事のホームページ。ここから新知事の政策やプロフィールを知ることができる。(小島周一郎)