第19章 行政管理と行政改革
1 社会管理と組織管理
社会管理(行政技術)=対外的活動←これへの関心が近年まで希薄。組織管理(管理技術)=対内的活動
管理:「政策立案・官僚政治・組織行動・政策評価の全局面において、官僚制組織の対応能力を高めるべく、その運行を管理する技術」
科学的管理法「目的活動を所与とし、もっぱら手段たる組織行動の「節約と能率」を追求」→
行政管理論「組織をその目的活動との関連において編成する技術が探求され」、「総括管理の機能および機関が充実」。官僚政治も包含→
政治・行政融合論「政策立案・政策評価」。☆「管理の機能が、官僚制組織の維持発展をはかることから、その目的活動そのものの改善をはかる機能にまで拡大」」
行政管理の発想の転換(1970年代の石油危機以降):行政改革(1980年代)→市場のメカニズムを活用する諸方策の推進(国営企業の民営化、規制緩和、民間委託の推進)。+地方自治制度と財政調整制度の改革、公務員給与制度の改革、納税者・消費者の参加の拡大、コミュニティの連帯強化など=「福祉国家の肥大した行政活動をできるだけ管理可能な規模に分割し、これを納税者・消費者の監視と統制のもとにおこうとする新しい発想」=新公共管理論(NPM)
☆「行政活動に対する関心は、対内的活動に係わる管理技術の側面よりも、官僚制組織とその環境との相互作用に係わる行政技術の側面に向けられてきている」=「governmentからgovernanceへ」
2 行政資源の総括管理(日常の行政管理)
官房3課(人事・会計・文書課)による行政資源の集中管理:情報以外の法令上の権限・財源・人員を上位の官房系組織から調達し、部内の各部局に配分 @各部局に共通する庶務的な業務を一元的に処理(補助・サービス) A行政資源に対する各部局からの配分要求を審査・査定(指揮監督・調整)
変動的な財源・人員の配分操作=予算査定・定員査定。「官房系統組織はこの財源・人員の配分を操作することをとおして、各部局の政策実施活動の質量に微妙な変更を加えることができる」=日常の行政管理「政府構造の基幹に係わる諸制度と法令上の権限を所与の前提とし、この枠内で、総括管理機関が予算査定と定員査定をとおして新規増分を抑制すること」
「各省庁の行政活動を枠づけている」諸制度の段階構造:@憲法構造 A基幹的行財政構造 B各省庁の所掌事務権限の分業構造 C個別事務事業に関する枠組み構造 D当該年度の予算・定員と、予算執行のための法令・行政規則の改正 E個別の事務事業に関する執行細則
かつての行政改革の観念は@〜Bを対象とする制度改革(「行政機構改革」と呼称)と、D〜C
さらにはBを対象とする減量経営(「行政整理」と呼称)の2類型(注意!行政改革に言及)
新規増分の厳格審査は「行政改革の範疇であるが、日常の行政管理の枠内で実現」:
@(局・部・課等の新増設をめぐる)スクラップ・アンド・ビルド方式(1968年〜)。組織査定
A「総定員法」(1969年):政府全体の定員の総数のみ規定。+定員削減計画の仕組みを案出→全省庁一律の定員削減分の枠内で、旧総務庁は新規増分(大学・病院の例)を認めざるを得ない部局に定員を配分(政府全体の定員総数の純増抑制)。定員査定
B各省庁から大蔵省に提出する概算要求の総額をめぐるシーリング方式(1961年〜)。予算査定
(法令審査にはアメリカのサン・セット法あり)
3 行政改革の諸相(日常の行政管理に対して非日常の行政改革)
第一次臨調:臨時行政調査会の設置(1962年)「提言は従来の行政整理とか行政機構改革のイメージから著しくかけ離れたものであった」「内閣が直々に設置した第三者的な諮問機関が各省庁の壁を越えた総合的な観点から行政全般のあり方を見直し、その改革を推進」
第二次臨調:第二次臨時行政調査会の設置(1981年)。「増税なき財政再建」「小さな政府」(三公社の民営化など)。政策事項への介入は政治改革ではないかという疑問も
行政改革と政治:「行政改革はもともと政治の論理と行政の論理が交錯する課題である。それは、革命、終戦、経済変動、政権交替といった政治変動の機会に企てられることが多い」「問題は、行政改革の名のもとにおこなう改革であるかぎりは、党派的な政策論争から距離を置き、純粋に行政の論理で語りうる事項に改革の範囲を
限定すべき否か」
第二臨調→第一次臨時行政改革推進審議会(第一次行革審)→第二次行革審→第三次行革審→行政改革委員会→規制緩和委員会
行政手続法の制定(1993年11月)と施行(1994年10月)
情報公開法の制定(1999年5月)と施行(2001年4月)
政治改革:リクルート事件(1980年代末)→戦後政治体制の構造改革と政界の再編成へ:地方分権推進の衆参両院決議(1993年6月)、細川連立内閣の誕生。政治改革関連4法の成立(1994年)。
地方分権推進法の成立(1995年)。地方分権一括法の制定公布(1999年)。新地方自治制度の施行(2000年)。
「橋本行革」:「内閣機能の強化、中央省庁の1府22省庁体制から1府12省庁体制への再編(2001年1月から施行)、郵政省の郵政公社化、独立行政法人制度の創設、政策評価の導入等」→中央省庁等改革基本法の制定(1998年)
自自連立合意(1999年1月):政府委員制度の廃止、党首討論制度の導入、副大臣・大臣政務官制度(2001年1月から施行)の導入など。→同年7月に、国会法、内閣法、国家行政組織法等の改正
「従来の官僚主導体制を是正し『政治主導』の強化をはかろうとする別途の意図」
第20章 行政統制と行政責任
1 行政統制の憲法構造
制度的外在的統制:議会による統制。執政機関(内閣、内閣総理大臣、各省大臣)による統制。裁判所による統制。
国会による統制:1)立法権による統制(法律案の議決、予算・決算の議決、条約の承認など)
2)人事権による統制(内閣総理大臣の指名、内閣の信任・不信任、裁判官の弾劾など)
3)国政調査権による統制
執政機関による統制
内閣による統制:@法案提出権による統制、A政令制定権による統制、B人事権による統制、C指揮監督権による統制(各種の施政方針の決定・了解・了承) D内閣法制局による管理統制
内閣総理大臣による統制:@国務大臣の任免権および指揮監督権による統制 A内閣府の主任の大臣としての総理府令制定権による統制 B内閣府の主任の大臣としての人事権および指揮監督権
各省大臣による統制:@各省の主任の大臣としての省令制定権による統制 A各省の主任の大臣としての人事権および指揮監督権
準立法権や準司法権を行使する会計検査院・人事院・各種行政委員会の存在
裁判所による統制:「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」(76条1項)
制度的内在的統制:会計検査院・人事院その他の官房系統組織による管理統制。各省大臣による執行管理。上司による職務命令
非制度的統制:「行政活動は対象集団・利害関係者の反応によって事実上の制約を受ける」
非制度的外在的統制:諮問機関における要望・期待・批判。聴聞手続における要望・期待・批判。
情報開示請求による統制。その他対象集団・利害関係人の事実上の圧力・抵抗行動。専門家集団の評価・批判。職員組合との交渉。マス・メディアによる報道
非制度的内在的統制:職員組合の要望・期待・批判。同僚職員の評価・批判
2 行政活動への直接参加
職員組合の参加:一般職の公務員には労働3法の適用なし。ただし、給与・勤務条件・社交的厚生的活動に関して当局と交渉するために職員団体を結成することは可
政策立案への参加:職能代表方式は衰退。諮問機関方式:国家行政組織法8条にもとづき個別の法令によって設置されている合議制機関=審議会等(対象集団・利害関係者の代表の参加)。*中央省庁の再編を機に211の審議会等(=国家行政組織法8条に基づき個別の法令によって設置されている合議制機関)が91に。行政委嘱員方式(政策実施業務の一端に参画し協力。民生委員・保護司・人権擁護委員・行政相談委員・国勢調査員など)。市民参加方式(県民会議・市民会議など)
行政立法(政令・省令など)・計画策定への参加:
パブリック・コメント制度:閣議決定「規制の設定または改廃に係る意見提出手続」(1999年3月)=規制を伴う政令・省令等を制定する際の各省庁による意見照会
環境影響評価(アセスメント)制度:環境に対する影響をめぐる事前の調査・予測・評価の従来と意見提出機会の提供。環境影響評価法の制定・施行(1999年6月)
(抵抗型の)住民運動(地域利益を基盤)と住民参加。「議会のもつ代表制の欠陥を補完する意義」
「全体の利益と部分の利益、多数者の利益と少数者の利益の間の適正な調和について再考を促す」
「問題は、圧力団体の場合と同様に、特定利益集団の主張のなかにどれだけの公共性が含まれているかであり、またこの公共性を誰がいかなる手続を経て判定するのが妥当か、である。」
行政手続への参加:個別具体の行政処分の決定過程への参加。第二次臨調の最終答申→@総則的規定、A聴聞、B処分の理由付記、C処分基準(裁量基準)、D関係文書資料等の閲覧に関する規定→行政手続法の制定(許認可等を拒否する処分をおこなう際の理由の提示、行政指導に際しての責任者の明示など)。行政手続条例は全都道府県と2974の市区町村に普及(1998年8月)
広報広聴・行政相談・オンブズマン:各種の照会・苦情に応答。専門相談窓口の設置。行政活動に対する苦情・批判への対応。人権擁護委員制度、行政相談委員制度→オンブズマン制度導入の提唱。オンブズマン=「行政機関または行政官・行政職員の行動または決定が権力の濫用、不当な権利侵害にあたるとする市民の苦情を受けつけ、これについて職権で調査し、是正措置を勧告し、議会に報告をおこなう」。日本で自治体レベルでオンブズマン制度の例あり。
情報公開制度:一般情報開示請求制度=情報公開が政府機関に義務づけられているもので、不特定多数の者に公開する制度。全都道府県と総計1379市町村で条例または要綱が制定(2000年4月現在)。「市民オンブズマン」。国の情報公開法の施行は2001年度から(対象は国の行政機関が保有する情報)
論点@請求権者の範囲、A対象機関の範囲、B対象情報の範囲、C適用除外事項の範囲、D救済方法
「政府の官僚制組織には、収集し取得した情報を独占し、日常の執務が準拠している行政規則を公開せず、執務手続を秘匿しようとうする性向がある。」「制度の眼目とするところは、国民に開示請求権を与え、政府に開示義務を課して、両者の間に法律上の権利義務関係を設定すること」。しかし限界あり→@国民の手間、A情報は請求者に対してのみ開示、B開示された情報が請求者にとって分かりやすいとは限らず。情報公表義務制度(会議の公開や会議録の公表含む)の確立が重要。文書の作成方法、管理方法の改善も並行して必要
3 行政責任(能動的責任→非制度的責任→☆自律的責任)
能動的責任
補助責任:法令・予算による規律、上級機関の指令、上司の個別の指示・命令に違背しない範囲内において、自発的積極的に裁量し、最も賢明なる行動を選択すること
補佐責任:上司・上級機関・政治機関の意思決定についての助言・忠告など 「非制度的な事実上の統制に対応する非制度的責任の発生と拡大」→
非制度的責任=応答性(responsibility)「現代国家においては、行政活動の対象集団・利害関係者の組織化が進み、これらの団体と行政機関の相互作用が日常化してきて、行政官・行政職員はこれらの団体の要望・期待に的確に応答することを期待されるようになった。」
説明責任(accountability)
「行政機関が自己の遂行する政策・施策・事業についてその背景・意図・方法とその成果などを広く国民一般に対して明らかにし、その理解を求める責任にまで拡張」。この社会的背景にはインターネット通信の普及あり
行政責任のディレンマ状況
担当の行政官・行政職員に対する多元的な機関・団体からのさまざまな相矛盾・対立する統制・期待→行政責任のディレンマ状況→自律的責任(統制の概念から完全に切り離された責任の概念。自己の内面の良心にしたがって行動する責任)。他律的責任の相互間のディレンマ状況において行政職員は最後には自らの信条体系・価値観に依拠。また、行政責任と私的責任の相克の克服
☆行政職員の情熱・洞察力・責任感の涵養が不可欠
以上。