第17章 予算編成過程と会計検査
1 予算の循環
財政の3機能:資源配分機能(公共財、準公共財または混合財の供給)、所得再分配機能(低所得者に対する非課税、高所得者に対する累進課税、社会保障関係費の支出など)、経済安定機能(政府支出による景気対策など)
財政民主主義:政府の財政はすべて議会の議決にもとづいて処理。租税法律主義と予算決算制度が基盤。
予算:会計年度(通例は1年)における歳出と歳入を体系的に総括したもの。「議会において議決されるべき立法形式のひとつであり、政府が誠実に遵守すべき法的義務を負った行為規範のひとつ」
議会による予算の統制機能:1)歳出権限の付与 2)歳入計画の承認(行政府による租税の賦課徴収や財政資金の借入についての議会承認を意味)
3)政府の政策の表示・公約文書
予算の循環:予算作成過程→予算執行過程→決算過程
予算作成過程:@行政府による次年度予算の編成 A政府予算の国会への提出と、国会における審議・修正・議決
予算執行過程:政府諸機関が予算の年間配賦計画に合わせて事務事業に着手。立法作業(法令・通達・要綱等の改正作業)と予算執行が並行=「政府機関による政策立案はまず予算要求から始まっている」
決算過程 :翌年度から始まる過程。@政府諸機関による決算報告の作成 A@と並行して会計検査院による会計検査 B決算報告と会計検査報告の国会への提出、審議・承認(ここで予算のライフ・サイクルは終了)
「予算の循環は通算して3年半前後にわたっている」
単年度でみれば、当該年度予算の執行、次年度予算の概算要求、前年度予算の決算
以下、行政府内の予算編成と会計検査に焦点↓
2 予算編成過程の意思決定方式
予算のマクロ編成:歳出予算総額規模の大枠。旧大蔵省主計局による財政政策・租税政策・公債政策
旧大蔵省主税局や旧大蔵省理財局との協議→概算要求基準→予算編成方針(閣議決定)の提示。しかし、中央省庁等の再編制(2001年1月から施行)に際し、内閣府に経済財政諮問会議が設置→今後は内閣主導?
予算のミクロ編成:@各省庁各課の予算要求原案の作成と各局総務課への提出(5月末〜6月初めまで)→A各局総務課による予算要求原案の査定後、局としての予算要求書の作成と各省庁の官房予算担当課(会計課)への提出(6月末〜7月初めまで)→B官房予算担当課による予算要求書の査定後、省庁としての概算要求書を財務省主計局に提出(8月末〜9月初めまで)→C財務省主計局による概算要求書の査定後、財務省原案(12月20日過ぎ)→復活折衝→予算閣議へ報告(年末)
→この閣議で政府予算が決定→国会に提出(翌年1月下旬)。
非稟議書型(特徴1)=査定部局の内示と要求部局の同意↓
政策的予算をめぐる総務課ヒヤリング(中心は総務課長・総括補佐・予算担当補佐)→査定結果を要求課に内示(一次内示)→各課の復活要求(要求の修正)→再度の総務課ヒヤリング→二次内示(最重要事項については局長ヒヤリング)→局の予算要求書を官房予算担当課へ提出
省庁の官房予算担当課が査定部局、各局の総務課が要求側
財務省主計局が査定部局、各省庁の官房予算担当課が要求側
財務省主計局における次長(3人)・主計官(総括主計官2人。各省庁担当の主計官9人)・主査(各主計官の下に複数。省庁または局の予算を分掌)。局議では主計官・主査が要求側として各省庁を弁護。局長・次長・総括主計官は査定側(特徴2)
数段階の復活折衝:財務省原案の内示(一次内示)→総務課長折衝(各局総務課長―主査→二次内示)→局長折衝(局長―主計官→三次内示)→次官折衝(事務次官―主計局次長→四次内示)→大臣折衝(大臣―主計局長。五次内示)(特徴3)
予算編成過程の意思決定方式の特徴
1) 時間的制約 「新年度に入る以前に予算を国会で議決してもらわなければならないという絶対的な要請から逆算して、各段階の締切期限が設定」
2) 対立する両当事者間が折衝。しかし、「今日の敵は明日の友」
3) 無数の意思決定が複数の人々によって分業=実質的決定権の分散。「ひとつひとつの事項についての意思決定は事実上ただ一人の担当者の判断に委ねられ」
4) 部分決定の積み上げ「最終査定が終了するまで、すべてを仮決定の状態にしておくと、議論が蒸し返され、いつまでたっても決着がつかないおそれがあるから」
財政投融資:「予算の編成と同時並行して、財政投融資計画が策定され、組織変更の査定と定員改定の査定」
財政投融資計画は「第2の予算」。郵便貯金・郵便年金・簡易保険・厚生年金・国民年金などの積立金として保有している政府資金の政府による運用活動。財政投融資の原資の運用先は特別会計・特殊法人・地方公共団体等。各省庁主管課が要求書を旧大蔵省理財局に提出→主計局と理財局が協議。しかし、改革により郵便貯金や年金積立金等を資金運用部に預託する制度が廃止→自主運用に。財政投融資債(国が発行)や財政投融資機関債(特殊法人等が発行)の発行により資金調達
組織審査・定員査定:各課による組織変更と定員改訂に関する要求→総務省行政管理局(管理官・副管理官)による査定
3 会計検査
行政活動の監査:外部監査=財務省による財務監査と総務省(行政評価局)による行政監察。☆会計検査院による監査。いずれも行政府内部の監査・監察
会計検査院:「内閣に対し独立の地位を有する」(憲法90条)。検査の規準:合法性legality(合規性regularity)+経済性(同じ成果をもっと安い経費で)・効率性(同じ経費でもっと高い成果を)・有効性(施策ないしは事業計画の所期目的の達成度。国会・内閣の政策決定権への介入が論議)の規準=3Eの規準: economy, efficiency, effectiveness.
第18章 行政活動の能率
1 能率概念の展開
能率@=民主主義と対置。「官僚制原理に支えらえた有能な政府を包括的に特徴づける、漠然たる形容詞:ウィルソン「仕事のできる有能な専門行政官で構成される公務員制」。ローウェル「民主的政府の専門行政官」。フェンウィック「民主的な政府と能率的な政府―大戦の教訓」。国家公務員法1条、地方自治法1条でも
能率A=個々の活動の性能を評価する概念。投入・産出比率:ある活動に投入inputされた努力とその活動から産出outputされた成果との対比。最小の努力で最大の効果を。ニューヨーク市政調査会とサイモン。行政活動における経費→作業量→事業量→効果の4段階。@経費―作業量、A経費―事業量、B経費―効果(費用効果分析・費用便益分析。@ABは会計検査の規準としての経済性・効率性)、C作業量―事業量(生産性:労働時間―生産額)、D作業量―効果、E事業量―効果
能率B=組織活動に対する参加者の満足度。ディモックの社会的能率論(組織職員と消費者の満足感)。バーナード:有効性(effectiveness)は組織目的の達成度合い、能率性(efficiency)は満足度
2 投入・産出比率の意義と限界
有効性:活動実績を所期の目標水準に照らしその達成度合いにより評価する規準。行政サービス水準の良否を評価する規準。しかし、評価は期待・目標水準をどこに設定するかにかかる点で一面的。「その活動の成果がどれだけの資源を投入した結果であるのか、同量の資源でもっと大きな成果を上げる方法はないのかを問題にしていない」「与えられた予算・定員の枠内でおこなわれている政策実施活動の良否を評価」できず。「政府に対していっそうの努力を求めるのには役立つが、与えられた予算・定員の枠内でおこなわれている政策実施活動の良否を評価するのにはあまり役立たない」↓
能率性:活動実績を投入・産出比率によって評価する規準。しかしはるかに困難!→相対比較が要:時系列比較、(現行と構想中の活動方法を比較する)政策分析、団体間比較。しかし、諸条件の相違や介在要因の作用。諸価値を単一の価値尺度に換算することは困難。
費用便益分析は比率の産出を貨幣価値として単純化している分析手法。未来の価値を現在価値に置き換えるための割引率の問題も
投入・産出比率の比較評価の3基準:(投入量が経費、産出量が成果である場合)
第1基準:産出量(共通)/投入量(大小)=経済性
第2基準:産出量(大小)/投入量(共通)=有効性
第3基準:現実における投入量も産出量も異なる比率についての比較評価:サイモンによる機会費用概念の導入(分母を一定にする)
会計検査の検査規準:経済性の規準は第1基準を、効率性・有効性の規準は第2基準を適用
能率性の規準:「行政活動の良否を評価するために、ことに、与えられた経費と人員の枠内で成果を最大にすべく努力している政策実施活動の良否を評価するためには必須の価値規準」。しかし、効果に関する調査統計情報の不足、評価基準についての合意の不成立のために政策・施策・事業計画の「能率を数量的に測定することは至難の業」
費用便益分析の手法を用いた計画事業予算制度PPBS(Planning, Programming, and Budgeting System)
3 有効性・能率性の評価の活用方法
政策決定者のための政策分析:従来の政策分析手法
国民のための政策分析情報:問題の所在を示し政治的関心を喚起する簡明な情報
「政策決定者のための政策分析手法とは別に、国民一般に役立つ行政診断手法を開発していく必要」
ISO(国際標準化機構)のISO14001(環境管理システムの国際規格)に基づく認証や格付けは有益な評価情報
総括管理機関が各部局を管理統制するための政策分析手法:予算査定・定員査定・組織審査・法令審査・行政監察・会計検査などに活用。しかし、各部局が統制側によるマイナス評価に係わる指標値を低めることにのみ専心する弊害に注意!
各部局が自己の政策立案・実施活動を点検し改善するための政策分析手法
政策評価の新潮流:イギリスのCitizen’s Charter(市民憲章)とアメリカの政府業績結果法(GPRA)
「新公共管理(NPM)の思潮と手法の導入、『governmentからgovernanceへ』の変容と密接に関連」
サービス・ネットワークを適切に維持管理する手法:「執行管理機関が実施機関であるエージェンシーやNPOなどを統括する執行管理のための新たな手段として開発」
日本でも2001年1月から中央省庁に対する政策評価が実施。事務事業評価システム(三重県)、政策アセスメント(北海道)、目的指向型施策評価システム(静岡県)
しかし、歳出削減の意図か意識改革の意図が多く、新しい目的意識なし
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正しい活用方法「一方では、必要以上に労多く精度の高い分析評価を求めず、他方では、分析評価の結果に対して、分析評価の精度に見合う程度以上の意味合いをもたせないこと」