第13章 官僚制批判の系譜

 

1 批判の系譜

  官僚政治批判:官僚制組織が政治機関議会・内閣・大臣)の機能を侵食従属性の放棄

  政治−行政関係のあるべき姿を考えるための規範として、統制の規範(優越―従属の政治・行政関係)と分離の規範(政治・行政の相互不介入関係)

  「政治機関は政策立案の仕事を行政機関に依存せざるをえない」

    協働の規範指導補佐の政治・行政関係)

  行政機関:政治機関の発議・指示した構想を具体化=政治機関の設定した目標の合理的な実現手段を考案=政治機関の提示する価値前提と行政機関提示の事実前提との合成政治機関の側に行政機関が立案した政策を政治機関が評価する独自の判断基準の用意があるのかないのか

   「政治機関の側から発議・指示があった場合には、行政機関の側はその補佐機能をつねに忠実にはたしているのであろうか。現実は否である

   「現行法令に抵触する」、「予算を獲得する見込みが立たない」、「事務的に執行不可能である」という反応→政治・行政の対抗関係

    政治・行政の対抗関係:@省庁の既得権益を侵しその権限を縮小する場合(行財政改革など) A政治機関による党利党略的政策の場合(選挙制度改革など) B過度の党派的政策の場合(民族・宗教・労働・治安対策など)。しかし、「社会階層間の利害対立を反映した政党制の下での政党内閣は必然的に党派的な政策の実現を追求する存在」ゆえに、★民主制の下で官僚制組織に脱党派的な行動を期待するのは許されないのではないか

  非効率性批判市場のメカニズムによる資源配分の効率性との対比=@独占状態の行政サービス、「親方日の丸」意識 A所掌事務・予算の拡大膨張性向ワグナー「公共部門の財政支出経済の成長率を上回る速度で膨張」、パーキンソン(の法則)「行政機関の職員数はその業務量にかかわりなく、ある一定の比率で増大」、ピーター(の法則):ピラミッド型組織における職員の能力を越えた地位への昇進

 官僚主義批判:「官僚制組織職員に特有の行動様式に向けて投げかけられている非難の総称」=不親切、尊大横柄、役人根性、杓子定規の形式主義、繁文縟礼、法規万能主義、縄張り主義、権威主義、特権意識等々。マートン「訓練された無能力」→

 

2 官僚主義の諸相官僚制組織職員の行動様式に見られる機能障害現象

  規則による規律の原則→法令の遵守の要請→法令・行政規則の絶対視→手段の自己目的化=「目的の転移」→杓子定規の形式主義法規万能主義依法主義:「行政職員が法令よりも行政規則内部管理規則内規に過度に拘泥し依存する態度」。注意!法規万能主義は法令の文言を絶対視すること

  繁文縟礼規則による規律の原則と文書主義の原則とが結びついたときの機能障害現象「必要性が疑われるほど、多くの書類の提出を要求」

  規則による規律の原則→公平無私の非人格的な事務処理のための要件だが→行政職員の不親切、冷淡、尊大横柄

  明確な権限の原則セクショナリズム(部局割拠主義)=「部局の哲学」→縄張り主義閉鎖主義膨張主義)注意!セクショナリズムと縄張り主義の違い

  明確なヒエラルヒー構造の原則→地位や(+身分制で)身分の上下→強圧抑制の循環」(下級職員の不満鬱積)→はけ口が末端職員へ→国民へ。「官僚制組織内での相対的な地位に由来する行動様式」

  身分保障の原則→強固な仲間意識と外に対する特権意識

  官僚制組織職員の行動様式に見られる機能障害現象は,官僚制組織の健全正常なる作動にとって必要不可欠な諸原則と裏腹の関係になっている」ので根絶不可能

 

3 官僚制組織の惰性と刷新

  惰性の通弊:先例踏襲・旧套墨守=「官僚制組織の作動様式の非効率性に対する批判であると同時に、官僚制組織職員の行動様式の官僚主義に対する批判」。世間一般の批判は下級職員による先例踏襲主義―しかし、法令・行政規則の頻繁な改正あり。規則革新派上層公務員。行政規則・内規の改廃志向)と規則保守派下層公務員。行政規則・内規の継続志向)→「官僚制組織を一枚岩の組織と見てはならない

  管理職層非管理職層の分化のもつ意味や、キャリアノンキャリアの分化のもつ意味の認識必要

  キャリア:@エリート意識 A仲間意識 B各省庁の一家意識

  ノンキャリア:無念/警戒心、経験・博識の吹聴、拒絶反応

  キャリアとノンキャリア相互依存の分業関係=キャリアは政治家からの圧力をかわし、ノンキャリアは業者からの誘惑を拒むために互いの不承認を利用

  トウレーヌの階級関係論上位階級人民階級の階級関係:@支配―防衛関係 A指導―防衛関係 B支配―異議申し立て関係 C指導―異議申し立て関係

    政治家集団―行政官集団、官僚制組織内の管理職層―非管理職層、キャリアノンキャリアの関係にも適用可、後者2つの関係は当局―職員組合の関係とも重なる。

  職員組合のディレンマ特権的官僚団の構成分子かつ特権的被支配者という「最も困難な地位」。組合員の利益を代表しつつ異議申し立ての機能をはたすには?

 

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第14章 政策形成と政策立案

 

1 政策の循環と行政活動

 行政活動:「政府の政策(=公共政策)を立案実施する活動

  政策:「政府が、その環境諸条件またはその対象集団の行動に何らかの変更を加えようとする意図のもとに、これに向けて働きかける活動の案(政府の方針・方策・構想・計画などの総称)。政治機関により決定済みの活動案。しかし、「あるひとつの政策の構成要素は、通常は複数の立法形式に分散されて定められていることの方が多い」、「政策の表示形式は各種の立法形式に限られていない」→法令(組織・定員法令、作用法令)、計画予算行政規則など。また、「政策の表示形式は各種の立法形式に限られてはいない」→国会の決議閣議の決定・了解・了承など。

        政策(policy)施策(program)事業計画(project)←政策は予算編成でいえば政策的経費に充当するもの

  政策の循環回路:政治システムによる社会経済的環境諸条件の変動や新しい政治課題発生の認知→既成政策の修正・転換・廃止や新規政策の立案決定の要請→国民が政府政策の最終効果を主観的に認知(政策の効用

  政治システムの構成国会・内閣・大臣(政治機関による政策決定)と各省庁(行政機関による政策立案・政策実施)=政府内部政治諸集団(政党・利益集団、マスメディア等)、国民

 政策のライフ・ステイジ

課題設定(agenda setting):政府諸機関。政党・利益集団・態度集団マスメディア(インフォーマルな政治諸集団)、国際諸機関、外国政府など

政策立案(policy making):政党、行政機関(内閣提出法案のほとんどすべて)

政策決定(policy decision):国会・内閣・大臣(政治機関)

政策実施(policy implementation):行政機関

政策評価(policy evaluation):政治機関、インフォーマルな政治諸集団 

      政策立案の機能は政党と行政機関がほぼ独占 *政策実施の機能は行政機関の独占領域

 

governmentからgovernanceへ」

「新公共管理論」→規制緩和、民間委託、民営化、実施部局のエージェンシー化

「行政機関による行政サービスは公共サービスの一部を構成するにすぎず、公共サービスの生産・供給主体はますます多元化

  行政機関による政策実施の機能が、「公共サービス・ネットワークを形成しこれを適切に維持管理することに変わってきている」

 

2 政策形成の分析手法

  政策立案と政策決定の境界曖昧

  政策形成:「政策はつねに、力のベクトルの合成のように、関係者間の妥協の産物として形成」「政策はつねに立案されたものであるとともに、形成されたものである

政策分析政策立案(policy making)を対象。起案者の立場

  政策研究政策形成(policy formation)を対象。傍観者の立場

            政策産出分析統計解析手法用いる。「政府の政策産出の差異がどの程度まで社会経済的環境条件の差異と相関しているのかを調べる」

            政治システムと政策の相関分析統計解析手法用いる。政策科学の分析手法。しかし、政治システム内部の行為主体の意見・利益・動機を捨象↓(イーストン、ダウンスへ)

            イーストンの政治システムモデル:有権者は政策要求と政治的支持を政治システムに投入し、政治システムはこれを政策に変換して産出*。「政策は政策要求と政治的支持の政治的均衡点まで産出

            ダウンズのモデル:有権者は政策から受ける便益と課税される費用の間における最適の均衡点を求めている*

       *市場のメカニズムのアナロジーで政治のメカニズムを説明しようとする試みであり、その説明力には大きな限界がある」

            事例研究:政治システムを構成する政治諸集団の相互作用としての現実の政治過程に着目して、政治システムの実際の作動状態を実証的に研究。一般化に課題あり

   リンドブロムインクリメンタリズムの理論:増分主義・漸増主義・漸変主義→彼の多元的相互調節の理論:政策は、多元的な集団利益を代表する人々の多元的な価値基準(利己主義と現実主義)にもとづく行動が相互に調節された結果として形成=市場の自動調整作用による予定調和と同様。リンドブロムによれば規範モデル。

    政治諸集団間の行動操作:独立対等の当事者間の関係を前提 @交渉:討議・取引・貸借 A操作(政策立案の完了・決定後の一方的な行動操作):説得・誘因提供・脅迫・補償 B先導(事前協議なしで既成事実化し、相手方の政策修正を迫る)。事例研究によるABの確証困難←政治過程における政策調整の手法や、政策立案段階における各省間調整の方法を整理する上で有益

 

3*政策立案分析の視座

  政策案の発議と立案の契機:政策目標の達成水準に対する評価基準が変動した場合を考察→@限界値基準(最低限度の目標値) A充足値基準(政策目標の達成水準の向上を促す基準) B期待値基準(理想の目標値)

  政策対応のレベル政策立案コスト(縦軸)・政策転換コスト(横軸)→現行業務の微修正(小小)・転用=業務の構成要素すべてを少しずつ修正(大小)と新規政策の模倣(小大)・研究開発(大大)

  政策案の現実性:@政治上の実現可能性 A行政資源(権限・組織・定員・財源)の調達可能性(権限・組織・定員・財源の調達見込)「内閣法制局による法令審査、総務省行政管理局による機構・定員審査、財務省主計局による予算査定」 B業務上の執行可能性

  政策案の合理性:「合理的な選択」の規範モデル:@諸価値の一元的な価値体系への構成 A諸価値を実現する政策案の拾い上げ B政策案採用の結果と達成諸価値の調べ上げ C最大達成諸価値の選択=最大化モデル(サイモン総覧的決定モデル(リンドブロム。←完全性・総合性・最大化を要求

  その他に統計的決定の理論ゲームの理論費用効果分析・費用便益分析など

  「政策立案者に対して、状況に関して完全情報をもち、この情報を処理する最大限の認識能力を備え、そして効用を最大化すべく努力することを要求」。しかし………「規範モデルを人間にとって可能なレベルの規範モデルに修正すること、あるいは現実の人間行動に関する記述モデルに近づけること」

サイモン充足モデル(願望水準の充足)やエチオーニ混合走査法モデル(影響力甚大な政策の現実性の高い選択肢を綿密に分析) 、その他政策案の立案はインクリメンタリズムに委ねる。しかし、モデルの規範性は希釈化

  政策の構成要素@目的、A実施機関・実施権限、B対象集団・対象事象、C権限行使・業務遂行の基準、D権限行使・業務遂行の手続、E充当財源・定員。表示文書は@BCDが作用法令に、Aが組織法令に。これらは安定的に持続。Eは予算・定員法令に、また、年々変動。

    規制行政は法令に、資金交付行政・建設管理行政・施設運営行政は予算と計画に大きく依存

  「法令は主として行政活動の遵守すべき手続基準を定めているのに対して、行政活動の規模を統制しているのは主として予算である」