010416gairon 行政学概論補足メモ(中村祐司作成。2000年度の入試
センター試験「公民」の政治・経済第1問より)
「18、19世紀のヨーロッパにおいては、国家[1]の役割は社会の秩序維持や国
防など必要最小限度のものに限られるべきだ、と考えられていた。このよう
な国家は、消極国家ないし夜警国家と呼ばれている。こうした国家観に対応
してこの時代の憲法の人権規定は、「国家からの自由」を求める自由権の保
障を中心としていた。
しかし、資本主義経済が発展するとともに、国民の間に貧富の差[2]が拡大
し、社会的緊張が生ずるようになった。そこで従来の憲法の保障する自由だ
けではなく、すべての人に人間らしい生活を営む権利をも保障しようとする
考え方[3]が、重要となってきた。この考え方に基づいて、20世紀の国家には、
国民の社会・経済活動に積極的に介入し、社会的・経済的弱者の救済に努め
ることが求められるようになった。こうした要求を実現しようとする国家は、
積極国家ないし福祉国家と呼ばれている。しかし、この国家観の下では、国
家の活動が増加し、行政機構の肥大化がもたらされる傾向も生じた。
第二次世界大戦後の日本も、憲法で生存権[4]を規定し、福祉国家を目標とし
て、社会保障の諸制度を整備・拡充してきた[5]。しかし、1970年代以降、経済
成長率が低下し、租税収入の伸びが鈍化し、さらに人口の高齢化に伴う財政支
出も増大した。こうした状況の中で、財政赤字[6]が増大したことから、1980年
代以降においては「福祉の見直し」[7]も行われるようになった。また、同時に、
肥大化した行政機構を効率化することを目的とする「行政改革」も行われてき
た。たしかに、福祉や行政の改革は重要な課題である。しかし、改革にあたっ
ては、弱い者が切り捨てられることのないよう十分に配慮することが必要であ
ろう。」
[1]<近代国家のあり方を唱えた書物>
『社会契約論』:人間は社会では鎖につながれており、それを克服するには、
自由で平和な自然状態から契約を結び、人民主権の国家を形成する必要があ
る。
『国富論』(『諸国民の富』):利己心に基づいて私的利益を追求する各個人の
行動が、「見えざる手」の作用によって、社会全体の利益の調和をもたらす。
『リバイアサン』:自然状態は万人の万人に対する闘争状態であり、平和を
確立するには、契約を結び、絶対的支配権をもつ国家を形成する必要がある。
[3]例えば、ワイマール憲法は、「ゆりかごから墓場まで」の社会保障をめざ
すビバリッジ(ベバリッジ)報告から大きな影響をうけて成立した。
[4]生存権訴訟に関し、朝日訴訟において原告の主張は認められなかったが、
この訴訟は社会保障制度を改善する一つの契機となった。
[5]日本の社会保障について、例えば、1980年代に年金制度の一元化をはか
る改革が実施され、国民年金は全国民共通の基礎年金になった。
[6]1990年代には、特例国債の発行額の増大があったにもかかわらず、特例
国債の発行残高は建設国債の発行残高を下回っていた。
建設国債とは?特例国債とは?→
「(本来は)公共事業や出資金等に充てる場合に限り、国会の議決を経て、
国債を発行することにより不足分を調達することができる」と申しましたが、
この「本来は」が、問題です。
道路や橋等に充当する国債を、建設国債と呼びます。住宅ローンのような
もので、これなら、次の世代も、その恩恵を受ける事ができます。
しかし、建設国債だけでは、赤字を埋めることができません。
財政法では、それら以外の目的での国債発行は認めていませんので、「建設
国債以外にも国債を発行してもよい」という内容の「平成○○年度における公
債の発行の特例に関する法律」を、毎年立案して、建設国債以外の国債を発
行しているのです。こうして発行された国債は、赤字国債と呼ばれています
が、財務省のホームページには、赤字国債という言葉は出てきません。「特例
により認められた国債」ということで、特例国債と呼ばれています。建設国
債が住宅ローンであるのに対し、赤字国債はカードローンのようなものと言
えるでしょう。
642兆円のうち、国の借金が484兆円で、そのうち、建設国債や赤字
国債のような普通国債が365兆円です。その内訳は、建設国債約159兆
円(44%)赤字国債約205兆円(56%)です。
///////////////////// ちなみに、平成10年度以降3年間の新規財源のための国
債に占める赤字国債の割合は、50% → 64・8% → 67・9%と
上昇し続けています。今後も、この傾向が続きますと、当然、残高に占める
赤字国債の割合も増える事になります。また、2月1日の日本経済新聞によ
りますと、財務省は、2002年度以降も、毎年、30兆円を越える新規国
債を、発行する必要があり、2000年度末に365兆円の普通国債は、
2004年度末には483兆円になると、報告しています。
このように見ますと、日本の財政は、「借金を返すために借金をする」とい
う自転車創業のような状態です。
「民間は破産するのに、国はどれだけ借金しても破産しないからいいね」と
いう皮肉をよく耳にしますが、それは、正しくありません。
「国債で財政をまかなう」と言っても、引き受け手(国債購入者)がいなけ
れば、国も破産することになるからです。」
(名古屋ライフ&マネーコンサルティング、ファイナンシャルプランナーの
六田隆郎氏の文章をホームページから抜粋。ホームページアドレスは、
http://www.to-shin.com/pub/weekly/friday_15.html
[7] 福祉に関する財政支出を減額すべきであるという立場の人が、福祉に関す
る財政支出を維持・増額すべきであるという立場の人を説得しようとして提出
する主張の例として、以下のようなものがある。すなわち、
「民間の意欲や能力をいかし、活力ある福祉社会を実現するためには、税負
担の軽減が望ましい。」
「国家や社会の今後の発展を期待するためには、財政を再建し、その弾力性
を回復することが緊急の課題である。」
「福祉の充実は、個人の自助・自立の精神に立脚しつつ、家庭や地域社会で
の連帯を基本とすべきである。」