行政学演習Aレポート

首都機能移転―世界都市「東京」の再生

国際学部 国際社会学科 3年

980161     齋藤  雅美

 

目次

T. はじめに

U. 国会等移転調査会の報告

1. 首都機能移転の意義と効果

2. 東京圏の一極集中問題

V. 北東地域・栃木・福島地域の取り組み

W. 東京都と七都県市首脳会議

1. 東京都の考え方と取り組み(国会等移転審議会の答申を受けて)

2. 七都県市首脳会議の活動

X. まとめ

 

T.はじめに

 去年の10月に入試のために初めて宇都宮の駅を降りた際、まずめに飛び込んできたのが歩道橋に掲げられている“栃木に国会を”という横断幕であった。それまでは首都機能移転という言葉は、都の広報を通じて知ってはいたけれど、栃木県が移転先として誘致をしていることは知らなかった。実際、東京都が実施した都民世論調査でも、半数以上の都民が首都機能移転の動きに無関心で、一極集中に対する都の対応政策についてもあまり知られていない。

 この問題は従来東京への過密対策の観点から度々とりあげられてきたところであったが、平成2年、国会開設100周年を機に決議された「国会等の移転に関する決議」以降、単に東京問題の解決のとどまらず、社会・経済等についての従来のシステムの諸々の閉塞状況を打ち破り、新たなる発展を遂げるための新しいシステムの構築に資するという観点からの議論が展開されるようになった。平成4年に成立した「国会等の移転に関する法律」に基づき設置された国会等移転調査会においても、首都機能の移転は21世紀の政治・経済・社会・行政の改革を進める上で極めて重要であるとの認識のもとに、新しい時代を創生するための有効手段という見方がされている。それとともに、低迷する経済活動や社会不安の中、世紀を画する時期において人心を一新し、多くの国民が夢を共有できるプロジェクトと位置づけている。

 平成7年の阪神・淡路大震災では、大都市の危機管理の重要性に対する危惧の念が喚起され、首都機能移転による東京への一極集中の是正、国土構造の改編に対する議論が高まった。国会等移転調査会では「移転の意義と効果」「移転先の新都市のビジョン」「移転の対象の範囲」「移転後の東京の整備のあり方」等について調査審議し、首都機能移転を確実に実現させるための具体的かつ現実的な対応方策を明快に提示している。私はこの調査会の報告もとに、まず首都機能移転の意味をとらえ、最近の動きや、新首都の都市形態のイメージをつかみたい。新首都候補地の中からは、栃木・福島地域(主に栃木)の誘致の方法を調べると同時に、首都東京や、埼玉・千葉などで構成されている七都県市首脳会議の反対論拠や、実際行われている一極集中緩和策を調べて、首都機能移転問題そのものの意義を再考したい。

 

U.国会等移転調査会の報告

1. 首都機能移転の意義と効果

 「国会等移転」とは「首都機能移転」と同じ意味で、国会・中央省庁・最高裁判所といった立法・行政・司法の三権の中枢機能を東京圏(東京から半径60km以内で、東京・埼玉・神奈川・千葉・茨城の一部を指す)以外の地域に移すことである。首都機能すなわち中枢管理機能とは、政治・行政機能、経済機能(本社・金融機能)、文化機能(研究・情報機能)を指す。新首都は東京都は異なり経済中枢機能を持たない最大でも約60万人の人口集積を有するコンパクトな年を想定している。今なぜ首都機能移転なのか。国の内外の歴史を顧みれば、首都の移転は新しい時代を創生しようとする時に、極めて有効な手段として活用されてきた。日本の来るべき21世紀を展望しつつ国政全般の改革を強力に推進する契機とする理由がまず挙げられる。次に、現在の首都東京は巨大化・過密化に伴い、交通渋滞や住宅問題等深刻な都市問題を抱えており、さらに地震等の災害に対する脆弱さ、国際的政治活動への制約等、様々な限界に直面していることである。

 東京圏は日本国土の3.6%にあたるが、そこに日本の人口の26%、本社機能55%(上場企業67.3%・外資系企業85.2%)、情報発信量35%を占めている。首都機能移転によって明治以降の政官民一体となって東京を頂点とする富国強兵、殖産興業に専念してきた体制を改めることにより、東京中心の序列意識が崩れ、人々や企業の東京指向が緩和されることとなる。それに政治・行政機能が自ら率先して移転し、物理的に政治・行政の中心地と経済の中心地を分離することにより、規制緩和や地方分権など国政全般の改革を推進する牽引力となる。新首都建設への投資は、幅広い内需の拡大と、持続的な技術革新を促し、広く内外に、さらに後の世代にまで及ぶ経済的波及効果をもたらし、また、貿易不均衡の是正を通じて、諸外国との経済的 轢を緩和することができる。首都機能移転により、東京の優位性が相対的に低下することにより、東京への吸引力が減殺され、東京へ集中が集中を呼ぶメカニズムが打破されること。また、重層的、複合的な情報通信・交通ネットワークが形成されるなど、国土構造の間変が進むことも期待されている。首都機能の移転を契機をして、今の国の集権システムを分権化の方向にシフトさせるというシステムさせるというシステムの革新の流れなのである。

 移転の意義の中で大きな要因を占めているのが、東京一極集中と国土利用のアンバランス問題である。明治以来の政治・行政の権限の集中を背景として、わが国の司令塔としての役割を果たしている東京の魅力は衰えることなく、単に政治・行政機能のみならず、経済・学術・文化・情報・ファッション等あらゆる種類の高次都市機能が東京で生まれ、育っていき、東京は日本の中心として拡大・成長をしつづけ、世界都市といわれるまでになった。東京が成長する過程での東京への権限の集中や、わが国を代表する企業の本社の集中、東京を扇の要とする情報発信機能の発展、東京を中心とする交通ネットワークの整備等は東京のより一層の成長に寄与するだけでなく、このことに起因する人口および諸機能の東京への過度の集中をもたらし、東京中心の国土構造の形成を加速し、地方の活力を大きく損なわせる大きな要因となった。

 近年、国際化・情報化・経済のソフト化・サービス化等経済・社会構造の変化が加速しているが、それらの社会変化は、さらに、国際金融都市・世界都市・高度消費都市としての東京の魅力を高め、商業・産業・金融・情報・文化等フェイス・ツー・フェイスの情報へのアクセスを重視する高次都市機能の再度の集中をもたらしたほか、東京に発生する新たなビジネスチャンスを求めて企業が集中するという、いわゆる「集中が集中を呼ぶメカニズム」が強く作用する方向に機能し、ほかの地域の追随を許さない突出した東京一極集中の状況が形成されるに至っている。しかし移転の慎重論としては、中央政府スリム化の観点から、移転の中身が決まらないうちに、行き先だけを議論するのは本末転倒との指摘もある。移転には国民的論議が不可欠なので、国民の声を汲み上げつつ、国民に移転の意義・効果を考え、判断してもらうための情報提供の重要性も挙げている。まだ国民的コンセンサスが得られるに至っておらず、時期尚早であり、このままでは国民不在のプロジェクトになりかねない危険性を問うとともに、国民的議論の盛り上がりを期待する声もある。

 財政上の問題

 現在の国の財政状況からすると、首都機能移転はどうかという意見は絶えない。 しかも現在政府は、首相官邸の老朽化に伴い、2002年完成を目指し、立替工事を行っている。総工費700億円ともいわれ、「国会等移転」と矛盾しているのではないかとの指摘も多い。首都移転の計画は財政再建のためという理由で延期されている。国会等移転審議会のモデル的試算によると、第一段階の事業(建設開始後10年程度で国会を中心として移転する事業)では、人口10万、面積1800haとして、公的負担費用は2兆3千億円、民間投資負担は1兆7千億円のあわせて4兆円とされている。その後の最大で人口60万、面積9000haとして、総額14兆円のと試算されている。(資料1)

 移転の方法・規模・予算に関しても積極論と慎重論の2つがある。積極論としては今後予想される少子・高齢化の進展を考えれば、我が国に投資余力のあるうちに着実に実現しておくべきとの論もある。国の政治・行政が地震などの災害によって一時たりとも麻痺することがあってはならないことを考えれば、その時々の財政状況に左右されることなく、国会等の早急の移転の必要性を説いている。慎重論はこの巨額な総事業費を現在の財政事情と照らし合わせて、移転を一時凍結、あるいは撤退する勇気を持つべきと論じている。東京と試算によれば、地方へ移転させると移転しない場合に比べ、GDPが20年間の累計で1〜14兆円減少。移転先に集中投資するよりも、東京圏で社会資本を整備したほうが効果的であるとしている。首相官邸とあわせて着々と進んでいる、霞ヶ関の新庁舎の立替はまじめにこの問題に取り組んでいるのかという反応を呼んでいる。

 

2. 東京圏の一極集中問題

 東京の一極集中については、心理的な側面を軽視することができない。多くの国民の間では、「東京の会社だから立派で信用できる」「東京の流行だからかっこいい」「東京の言葉だからきれい」と言われているように、東京に由来するものだから優れているという意識が、東京に住む人、地方に住む人を問わず抜きがたく存在しており、首都東京を頂点とする心理的なピラミッド構造が形成されている。このことが国民や企業経営者の東京志向をもたらし、古くから日本人の心の中に形成されていたミヤコへの憧れともあいまって、就職・進学時に東京にある企業や大学に強い魅力を覚える現象や、企業・官庁における人事異動の際によく交わされる「東京へご栄転」「東京から都落ち」などの言葉にみられるように、中央が地方より上位にあることを当然のこととして受け入れる国民性を生じさせ、それが東京中心に組み立てられた歴史的な行財政制度とともあいまって、先進地域としての東京の存在感を増幅させる要因となったと考えられる。このように明治以来、東京から新しいビジネス、新しい思潮、新しいライフスタイル、新しい風俗が次々と興り、東京の政治・行政・情報機能等がこれらを全国に伝播させ、浸透させ、定着させてきた。このことが、東京を頂点とする序列意識を拡大・再生産し、心理面でも抜きがたい東京一極集中思考をもたらしていると言う指摘もある。

 東京一極集中の問題点としては、このように国民の内に定着した東京の優位性への信奉が一つのきっかけとなって、土地取引における投機等社会経済の様々な場面において深刻な問題が発生し、東京都心部を出発点として大幅かつ長期にわたって地価が高騰するなど、いわゆる「バブル」の状況も出現した。この地価高騰は住宅取得を困難にし、東京都地方の間の、また持てる者と持たざる者との間の資産格差を拡大し、労働による所得の価値を相対的に低下せしめた。また偏った国土利用を拡大し、東京において都心コミュニティの崩壊など都民生活を直撃した。またバブル経済の崩壊は、不良資産問題等多くの問題を生じ、不況の長期化をもたらした。

 一方東京圏においては、以前として解決されない多数の大都市問題が山積みしている。他の地域に比べて高・遠・狭といわれている住宅事情、長距離化し激しい混雑が続く通勤・通学問題、深刻な交通渋滞、行き詰まりの迫っている廃棄物処理の問題など大都市の過密に伴う諸問題が、豊かで快適な都市生活の実現の前に立ちはだかっている。また地方圏においては、地方中枢・中核都市の諸機能を教授しにくい地域を中心に、人口現象・高齢化が顕著に進行し、地域の活力の低下をきたすなどの問題が発生しており、東京一極集中は国土の均衡ある発展を阻害している。

 戦後一貫して国土の均衡ある発展を目指してきた諸施策にもかかわらず、日本列島における人口・産業・文化等の諸機能の配置には不均衡が見られ、国土利用のアンバランスが国民生活の一層の向上を阻害している。このような一極集中のメカニズムの打破して、豊かな交流空間の実現による分散を基調とした国土を形成しようとする四全総の狙いが、多極分散型国土形成促進法やいわゆる地方拠点法の制定による地方振興策、高規格幹線道路や地方空港の整備による地方における交流空間の拡大、イベントによる地域おこしの活発化等を通じて効果を挙げつつある。地方の自立的成長、地方の創意・工夫の発揮等への取り組みが各所で見られる世になったことにより、Uターン・Jターン現象もかなり増大しており、東京圏への転入超過数は近年減少し、平成6年には1万7千人の転出超過に転じた。しかし東京における人口・高次都市機能の集積は以前として高い水準であり、これらの施策によっても今直東京一極集中に伴う過密等の諸問題は緩和されたとは言えない状況である。国土利用のアンバランスを根源に立ち返って解決するためには、より先端的・より高度の機能でも東京でなく地方で忌まれ育つような環境を創造し、それら高次都市機能が東京に集中立地しようとする構造を断ち切り、集中が集中を呼ぶメカニズムを再生産されないようにすることが必要である。

V.北東地域・栃木・福島地域の取り組み

● 移転先候補地の選考条件

 北東地域は宮城・福島・山形・栃木・茨城県の5県によって構成され、共同調査事業、共同PR事業および共同要望活動を行っている。「利根川超え」(栃木・福島地域)への首都機能移転実現のため、連帯構想のもと、その実現のため一致協力して積極的なアピールを行っている。各県のホームページの資料もまた充実している。国会等移転審議会は、99年12月20日に移転先候補地の選定の結果について発表した。1に宮城・福島・栃木・茨城県に連なる北東地域、2に静岡県遠州・愛知県三河・岐阜県東濃に連なる東海地域、3に三重県伊勢平野から滋賀・京都・奈良県境にわたる三重・畿央地域である。「茨城地域」に関しては、自然災害に対する安全性に優れる等の特徴を有しており、「栃木・福島地域」と連携してこれを支援・補完する役割を果たすことを期待している。これは多数の候補地を少数に絞ったというよりは、候補地群を地域ブロックにまとめたようである。この答案に対して誘致を目論む地域からの反響はすごい。首都機能の移転先の選定基準については、国会等移転調査会報告において9項目の選定基準および2つの配慮基準が示されている。移転審議会は、これらの選定基準等を踏まえて、移転先候補地の選定を進めている。(資料2)

 移転先の新都市に求められる基本的基準として1に日本列島上の位置が問題である。新都市は全国の人々の交流の場であり、国内各地から新都市へアクセスする時間や費用などにきわめて大きな不均衡が生じない場所であることが望まれる。2に東京からの距離だ。政教分離に伴い新都市と東京の機能分担と連携の確保が必要となる。しかしこれは東京からの通勤が可能な範囲では移転の効果を発揮しない。新都市と東京の間の距離は、日帰りも可能な、鉄道で1〜2時間程度、距離として60〜300km程度の範囲が適当である。3に国際的な空港の必要性である。国際政治都市の玄関口として、各国元首等の専用機など、欧米からの航続距離の長い便にも対応可能な空港が必要だ。新都市の空港は都心部から概ね40分程度で到着できる範囲にあることが望ましく、アクセスルートも含めて、今後10数年以内に確実に供用開始が見込まれることが必要である。4に土地取得の容易性である。新都市は豊かな自然環境の中に小都市群が展開する新しい都市形態である。開発面積としては、第一段階でも約2000ha、最終的には最大で60万都市を形成する広大な開発適地が必要である。土地利用の密度が低く、可能な限りまとまった規模の国公有地等が活用できることが望まれている。

5に地震・火山の災害に対する安全性である。大規模な地震が発生した場合に著しい地震災害が生じる恐れが強い地域を避けることは必然である。また東京都同時被災する可能性の少ない所で、火山による壊滅的な災害を予測できる地域も避ける必要がある。6にその他の自然災害に対する安全性である。その他の自然災害で都市活動に著しい支障が生じないよう十分配慮する必要性である。7に地形等の良好性だ。新都市の建設高次や、アクセスルートの確保を考慮して、極端に標高の高い山岳部や急峻な地形の多い場所は避けることが必要だ。また、いわば一国の応接室としてふさわしい景観への配慮も重要だ。8に水供給の安定性だ。人口60万人都市が出現した場合に、現在の首都圏以上に水需要の逼迫が想定される地域は避けるべきである。9に既存都市との適切な距離だ。政令指定都市級の大都市の圏域からは、相互に影響を及ぼさない十分な距離を保つことが必要である。新都市と既存都市の位置関係は個別にを検討する。配慮事項として、1に新都市建設等にかかわる経済的効率だ。新都市の建設にあたっては、質の高いストックの形成に配慮するとともに、、用地費および工事費を含めた総合的な低廉性や運営段階における効率性等に配慮することが望ましい。2に自然的環境等への影響である。豊かな自然環境に小都市を段階的に整備するとともに、省資源・省エネルギー・リサイクル等の新技術導入などにより、自然的環境への負荷を極力小さくするよう努める必要がある。

 栃木県は90年に衆参両議院で国会移転決議が採択された時より、県経済同友会が栃木県へ国会誘致を提唱している。翌年に同友会が『栃木に国会を』のパンフレットも作成している。92年に県議会で那須地域への「国会等の誘致に関する決議』がなされた。県内の移転促進組織は、全県組織として96年に官民71団体で「栃木県国会等移転促進県民会議」を設立。地元組織として、那須地域16市町村の首長で構成する「栃木県那須地域国会等移転促進協議会」を設立している。これは同じ北東地域の福島県は、今年全県組織を設立したのに比べると早い段階でまとまって誘致活動を開始している。栃木県の調査対象地域は、那須野ヶ原を中心とする3市12町1村で構成される広大なエリアを指す。(223000ha)大田原市・黒磯市・那須町・西那須町・塩原町などだ。

 栃木・福島地域となると、この他に福島県の白河市・須賀川市などがふくまれる。国会等移転審議会では、栃木・福島地域について次のような特徴と課題を示している。この地域は東北新幹線および東北自動車道の東北軸に沿い、国土を横断する幹線軸である北関東自動車道と磐越自動車道の間に位置し、これらを経由して、東京や仙台のほか、日本海側、西日本地域等との連帯が可能な位置にある。東京との連係に優れ、移転期間中に東京と新都市に首都機能が分立する状態にも弾力的に対応しやすい。この地域は、那須野ヶ原を中心とする栃木地域と、福島空港を有する福島地域の特徴を生かすため一体的にとらえたものであり、双方の長所を併せ持つ。自然環境と共生しやすく、景観や地形に優れ、国公有地の活用が期待される。また、地震に対する安全性も高く、東京圏に大規模地震が発生した場合、応急体制を早期に確立するには現実的な地域である。一方、福島空港には近いものの、海外との交通には新東京国際空港の利用が不可欠となる。また、周辺における都市機能の集積が十分でないことから、生活と業務の両面で、新都市を支える機能を充実させることが求められる。

 上記のような答申のほかに、審議会は18に及ぶ項目を延べ70人の有権者に検討し、総合評価を行っている。その中で栃木・福島地域は「東京とのアクセス容易性」「景観の魅力」において満点(50点)の評価を受けた。ライバルである岐阜・愛知地域は総合3位、三重・畿央地域は総合9位である。「大規模災害時の新都市と主要都市間の情報・交通の確保」「自然環境との共生の可能性」では、評価対象地域中最高ランクとなっている。また栃木地域単独でも、「上国土構造改変の方向」「文化形成の方向」「地形の良好性」で最高評価となっている。一方、栃木・福島地域で「新しい情報ネットワークへの対応容易性」、栃木地域単独では「移転先候補地の火山災害に対する安全性」が低い評価となっているが、今後の都市づくりの中で十分対応可能である。

 

● 那須地域の都市づくり

 那須地域の宣伝要素として、まず第一には景観である。那須野ヶ原は標高200〜400mのほぼ平坦な地形で、那須の四季折々の景観は、一国の応接室に本当にふさわしいものである。それと並び、4〜7万haにわたる那須野ヶ原の中には、約400haのまとまった国公有地がある。(国公有地400ha・同一地権者所有する私有地840ha)火山問題も那須岳の過去1万5千年の活動でもっとも遠方に流下した火砕流は、火口から4kmであり、西那須野塩原インターまで約25kmの距離が有る。水問題は、那須地域の年間降水量は、那珂川流域で年平均約35億㎥、渇水年26億㎥であり、蒸発散量約9億㎥と、現在の使用量約7.6億㎥を差し引いた新しい需要に対応する年間水量は、平年で約18.4億㎥、渇水年で約9.4㎥が存在する。これに対し、現在考えられる最大ケースの約56万人でも水需要量は約1.2億㎥だから、総量的には十分対応が可能になる。東京からは約150kmの距離で、福島空港への所要時間は約40分程度と、東京圏から近からず、遠からずの位置に存在している。

 那須地域のまちづくりを進めていくためには、那須地域の優れた自然環境を守り育てていくことが不可欠となる。そこで県は「環境共生」を主要テーマの一つにした新都市づくりを提案している。那須野ヶ所原の自然は、那須疏水をはじめとする開拓事業によって、原野に水と緑の環境を作り上げた代表的事例であり、農林業によって保全されてきた自然である。このすばらしい環境を生かし、後世に伝えていくには、開発するところを必要最小限に抑えるとともに、保全すべきところを明らかにし、自然環境との調和のとれた土地利用を推進していくことが重要である。那須地域に建設される新都市は、21世紀の日本の顔にふさわしい環境共生型都市を目指すとされており、那須野ヶ原の自然の持つ多様性を踏まえた上で、環境への影響に配慮した最善の方策を検討している。

 都市づくりの具体例としては、環境負荷の少ない都市システム(ゼロエミション・廃棄物リサイクル・水の再利用など)、新しい交通システムの整備(LRT(新世代路面電車)・パークアンドバスランド・小動物が横断できる道路など)、緑豊かな都市づくり(緑地の保全・確保・緑の回復・ビオトーブ(動植物の生息空間)など)である。栃木県は、県民がこの問題に対する理解を深められるよう、広報・広聴活動を展開している。移転実現に向けての県民合意の形成を推進を重点に置いている。96年から県民フォーラムは12回、市町村フォーラムは31回を数え、講演会等開催は267回も行われている。テレビやラジオでも放映・放送し、県民や専門家から広く意見を求め、それをインターネット等で公開している。フォーラムで県民の期待と不安が交錯しているのを目の当たりにし、その解決をきちんと県民に知らせているのはとても評価できる。県民の声としては、移転による経済効果や活性化に期待する声もあり、タナボタ式の受け入れは論外で、それなりの覚悟が必要と指摘するものもある。移転による経済波及効果は、当該地域の一時的なバブルのようなものでは意味がないからだ。

 

W.東京都と七都県市首脳会議

1.東京都の考え方と取り組み

 東京都は当然ながら、首都機能移転に対し絶対反対の意見である。現在日本は人口や経済・財政いずれも肩上がりの時代が終わり、97年6月3日に閣議決定された政府・与党財政構造改革会議の最終報告では、公共投資基本計画や公共事業の各種長期計画の期間延長、整備新幹線の新規着工凍結が打ち出された。このような状況の国が、膨大な経費と時間をかけて、今、首都機能移転を行うことの必要性を問うている。首都機能移転を子々孫々まで影響を及ぼす「国家百年の大計」と位置付け、社会経済状況が大きく変わった今、原点に返って首都機能移転の意義と効果を見なおすべきと考えている。具体的な考え方としては、まず「地方分権」「規制緩和」こそを優先すべきという考え方である。都の問題となっている震災対策については、情報バックアップ体制確保と全国の防災拠点整備を行うべきと提案している。今の都は成熟社会を迎え、限られた財源は効率的な国土づくりに投資すべきという提案もある。そして最終的な移転の是非は「日本の首都とは」など正面からの議論を踏まえるべきとし、「移転」ではなく「展都」の推進こそ現実的かつ有効な選択とまとめている。

 1992年の6月、「国会等の移転に関する法律」が提案された事に伴い、この問題を専門に取り扱う首都調査担当部長を企画審議(現:政策報道室)に設置し、都としての対応を強化した。その後、国の主張する移転の意義と効果を検証するために、92年度から国会等の移転に関する影響予測調査を行ってきており、いわば移転問題に関する反論材料を準備してきた。96年も引き続き、この調査を実施しており、10月には移転に関する定量的分析について、中間のまとめを発表した。これはこの問題についてその影響、効果等を可能な限り数字で表現するように心がけ、分析したものである。例えば懇談会報告の中で移転にかかる費用は14兆円と試算されているが、これが国民一人当たりになると11万1000円となり、平均的な一世帯当たりだと32万1000円になる、といった内容を盛り込んだものである。この調査を発表した際、14兆円という資産の中には、民間の資金も入っており、全額国民が負担するかのような計算は好ましくないという指摘を受けた。しかしこの計算は、官民の内訳がはっきり示されていないので、移転費用を仮に14兆円とした場合にどうなるかという前提条件を置いて計算をしたものである。むしろ首都機能移転という重大な問題にかかる費用が正確な形で提示されていないことにこそ、問題があると考えられる。それに景気対策なら東京改造を目指した都市型投資に重点をおくべきと主張。過密市街の再開発や地下幹線道路の建設などやるべきことは山ほどある。

● 国会等移転調査会に対する取り組み

 国において、現在の移転に関する基本的な考え方を取りまとめたのが、93年に発足した国会等移転調査会である。この調査会で移転尾意義や効果などについて議論されたわけだが、同時に移転跡地の活用ということについても、審議が行われた。しかしいわば当事者である東京都が、調査会の中で意見を述べる機会を与えられたのは、わずか2回だけであった。しかも移転を前提として、その場合に都は跡地をどう活用できるかというかなり乱暴な問いかけがなされた。このような例をとってみても、「はじめに移転ありき」という国の姿勢がうかがえる。当初3年間の審議期間をスタートした調査会であったが、3ヶ月ほど繰り上げ、95年12月に「国会等移転調査会」報告が発表された。この報告に先立ち、青島知事が国土庁長官を訪れ、この問題への慎重な対応を求める「要望書」を手渡してきている。この調査会報告は、移転先候補の選定基準や具体的な移転スケジュールを提示するなど、国民が中身をよく知らないうちに具体化を急ぐような内容のものである気もする。

 そこで、東京都としてもこれまで以上に、都民へのPR活動やこの問題に関する理論構築への取り組みを強化してきた。まず首都機能の移転の問題について、わかりやすくパンフレットをまとめ、96年4月に第1弾を発行した。このパンフレットは、担当者の予想以上の大きな反響を呼び、都内のみならず全国からの問い合わせなどが数多く寄せられている。その中には、「このパンフレットは批判のための批判であって、都として東京のまちづくりをこうしていくという主張がない」という辛口の意見も含まれている。第1弾パンフレットは、それまでは移転をすればすべてが解決するかの議論が多く見られたのに対し、国の主張のすべてが正しいというわけではないという事を、一定の調査に基づいて反論してものである。第2弾のパンフレットは東京のまちづくりに関する施策を積極的に紹介していく事は大切な事であるという認識にたち、過密解消のための都の施策や災害に強い都市づくりに関する都の施策を簡潔に紹介したものである。この問題に関する一層の理論補強という観点から、96年7月に学識経験者を首都機能移転問題に関する東京都専門委員に任命し、専門的な立場からの研究・調査を依頼している。加えて10月には大学生の弁論部有志による討論会として「学生議会」、11月にはシンポジウムを開催するなど、都民を巻き込んだイベントも実施している。

 移転反対の立場の東京都は、実際にはどのような政策をもって問題解決に取り組んでいるのであろうか。基本的な立場は前述のとおり、地方分権・規制緩和を優先すべきである、他に行うべき重要思索がある、国民各層の広範な議論を踏まえて慎重に対応すべきというものなので、移転批判の取り組みである。移転の意義の一番に上がっている東京一極集中問題は、その是正のために、移転しなくても、さいたま副都心や横浜市、千葉市などの業務核都市へ国の機関や業務機能などを分散させることによる是正を図っている。実際今年5月にさいたま新都心に国の重要機関が移転している。災害対応力の強化については、情報のバックアップ体制確立とともに、支社に本社機能を代替させることなど、リスクを分散させることの解決を狙っている。

 国会等移転審議会は、候補地のこれからの絞込みについては、2年程度を目処に法律に決められた手続きに従って東京都と比較考量し、国会が最終判断をする事となっている。この比較考量は国会による最終的な移転先の決定に先立ち行うとされている。東京とは、この比較考量は移転をするかしないかの決定前に行うものであるから、首都機能を「東京都にそのまま存置する場合の損失」と「移転先候補地に移転する場合の損失」を比較するものでなければならないと指摘している。この審議会の中では次のような意見もあった。「審議会では、国民的論議等が十分でない現時点において、移転先候補地の選定を行うことは時期尚早ではないか」「一部にはかつての好況期にこそ、このような構想が是認されるのであって、その後の情勢変化からすれば、今はその時期ではない」というような意見である。非公開の審議会という密室の中だけで、一方的に移転の手続きを進め、多くの都民や国民が移転問題について、十分周知されず、また国民的な議論も尽くされない中で答申を強行したことについて、都は遺憾の意と、不当性を指摘している。たしかに答申の内容も、東京をはさんで東西に配慮したあいまいな表現となっており、候補地のばらまきという印象はぬぐいされない。そもそも国会決議の頃と比べ、バブル経済の崩壊など社会情勢が大きく変化し、もはや移転の意義そのものが失われているのにもかかわらず、それに目をつぶり、日本の将来に係わる重大な問題を事務的に進めてきたことに対しても強い危惧を関じている。

 この答申に対し、様々な団体が懸念を表明している。新聞各社の社説は、批判的論調にあふれた。東京商工会議所は、候補地を絞り込めなかったのは、どの候補地も決定的要素を欠いているからと指摘し、このような答申こそがこの問題の難しさを表しているとコメントしている。石原都知事は、移転論は必ず空中分解すると見ている。東京都議会も議員連盟も問題の白紙撤回の決断を求めている。特別区長会や七都県市首脳会議も、あらためて断固反対の立場を明確にしている。都民も様々な声も寄せられている。この問題は都民をどのように説得するかが決め手ではない。東京がすべてのものを独り占めする理由がない上に、国会や中央省庁が移転しても、経済的地位や文化的価値が減ずるものではなく、都民には何の不都合も生じないという意見もある。それと反対に、移転跡地を有効利用することで、東京の魅力付けや防災性の向上のチャンスとし、移転により質の高い生活空間を手に入れ、文化・経済首都としての再生を期待する意見もある。

 

2.七都県市首脳会議の活動

 七都県市首脳会議は、埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉市で構成され、東京一極集中問題を解決し、東京圏の方々が豊かな生活を送ることができる社会を実現するとともに、、世界に開かれた都市圏として今後ともその役割を果たしてゆくため、「展都」と「分権」を推進し、東京圏を多核多圏域型の地域構造へ再編していくことに共同で取り組んでいる。七都県市で主張している「展都」とは、東京圏(1都3県)において、業務核都市等を重点的かつ戦略的に育成整備し、それらの都市に業務機能や、国の行政機関等(地方支分部局)の移転再配置を図り、東京圏の地域構造を従来の区部中心部への一極依存構造から、複数の書くと自立した都市圏からなる多核多圏域型へと再編することだ。

 『「展都」と「分権」に関する白書』(七都県市首脳会議 95年6月)によると、「展都」策の推進により、通勤時間の短縮や鉄道混雑率の改善、道路混雑率の低下などが図れるとしており、「展都」策が東京圏の大都市問題解決に効果があるとしている。これまでの活動として、共同して、意見表明・国への要望・調査研究・シンポジウムの開催などを行っている。先述の『展都と分権に関する白書』とともに、「新たな東京圏の創造に向けて」と題する首都圏アピールも行っている。各県や市のホームページでも首都機能移転問題を取り上げ、七都県市の活動内容を掲載している。注目できるのは木更津市のページである。木更津市は東京都心部からおよそ50キロメートルの圏内に位置している。東京都心部に過度に集中した諸機能の分散を図るための、首都機能の一翼を担う業務核都市として位置付けられている。業務核都市としての市の位置付けを明確にし、その位置付けにおいての役割をわかりやすくアピールしているところは、豊かな自然環境と高次の都市機能が享受できる地域として、多核多圏域型の地域構造の再編に貢献している。移転候補地のホームページ並に力の入ったものである。

X. まとめ

 国(国土庁)、移転先候補地(栃木・福島地域)、東京圏とそれぞれの首都機能移転問題について調査した。まず、驚くのはこれほどまでにホームパージ等で資料があふれているのに、実際の世論ではほとんど認識がないことである。先にも記述したが、都民の半数以上がこの問題に無関心であるし、これほど大きな問題なのに、国がはっきりとした意思表示をしていない。そもそも首都移転と首都機能移転が明確になっていない人が非常に多いのではないだろうか。首都機能移転となると、東京が移転してくるようなイメージを短絡的に持ってしまいがちである。まず国に移転地域選定のための現地調査や、比較考量とかの前に、豊富な情報公開に見合う政策立案をはっきりと提示してもらいたい。現在幹線道路や鉄道などの交通体系や、さいたま副都心の完成で行政機能の一部が移転したことにより、多核多圏が進められている。これは、首都機能移転の根本問題をあらためて契機ではないだろうか。移転先を3地域のグループと限定していない99年の答申で、ますます誘致合戦が激しくなり、住民の間でも推進派と反対派の対立も生まれている。2年程度を目途に候補地を絞り込むという言葉だけが先走りして、国の具体的な新都市構想が見えてこない。各誘致先も、議論が経済的波及効果に限定されがちで、国のためのという視野で、国のシステムの方向改革をどのようにするか、そのために県はどうするべきかというグローバルな考え方の土台の上で、移転促進の議論を行ってほしい。長期化構想で移転先を検討している国の視点の見直しを、改めて問う時ではないか。

 

●参考文献とホームページ

国土庁 : ・ 企画部企画調整課国会等移転対策室 『国会等の移転について』(パンフレット) 2000年6月

       ・ 大都市圏整備局首都機能移転企画課 『新首都時代の展望』 ぎょうせい 1996年

         http://www.nla.go.jp/daishu/       『首都が移る 時代が変わる』 住宅新報社 1994年

北東地域 : ・ 栃木県国会等移転促進県民会議 『国会等移転の実現に向けて』(パンフレット) http://www.pref.tochigi.jp/

                               『那須地域の展望』(パンフレット)

        ・ 栃木県庁 http://www.pref.tochigi.jp/shuto

        ・ 西那須野町 http://nasuinfo.or.jp/nisinasuno/index.htm

        ・ 福島県庁 http://www.pref.hukushima.jp/

             ・ 茨城県首都機能移転促進協議会 http://www.pref.ibaraki.jp/prog/shuto/index.html

        ・ 下野新聞 http://www.shimotsuke.co.jp/kikaku/kokkai/nasu.html

東京圏 : ・ 東京都政策報道室調査部 『移転の意義が失われています』(パンフレット) 1999年9月

            都庁内東京都政策報道室 http://www.seisaku.metro.tokyo.jp/chosa.syuto.htm

       ・ 七都県市首脳会議 http://www.seisaku.metoro.tokyo.jp/chosa/syuto/katudo/7tokensi/katudo.htm

       ・ 木更津市  http://www.city.kisarazu.chiba.jp/profile/images/kousou.txt

多核多圏型都市 : ・ 東京テレポートセンター http://www.tokyo-teleport.co.jp/japanese-sj/index.html

             ・ みなとみらい21 http://web.infoweb.ne.jp/mm21/

             ・ 幕張新都心 http://www.makuhari.or.jp/index.html

             ・ さいたま新都心 http://www.sainet.or.jp/saitama/

・ (財)社会経済生産性本部 http://shinto.jpc-sed.or.jp/

・ 久慈力 『これでいいのか首都機能移転』 緑風出版 1997年

・ 首都機能移転(遷都)・候補地論争・リンク集 http://www.ylw.mmtr.or.jp/~johnkoji/capital/

・ 久慈力編 『首都機能移転検証する』 三一書房 1997年

・ (財)東北産業活性化センター編 『首都機能の地方移転』 日本地域社会研究所 1995年

・ 岡田新一 『日本の首都を創る』 彰国社 

 

(資料1)モデル的試算の結果

人 口 面 積

費 用


公的負担 民間投資・負担
第1段階 10万人 1,800ha 4.0兆円 2.3兆円 1.7兆円
1/2ケース 30万人 4,800ha 7.5兆円 3.0兆円 4.5兆円
最大ケース 56万人 8,500ha 12.3兆円 4.4兆円 7.9兆円
移転懇試算 60万人 9,000ha 14兆円
 第一段階は国会中心に移転、1/2ケースは行政機関が1/2移転、最大ケースは行政機関全てが移転した場合

(資料2)移転先候補地

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