行政学演習

宇都宮大学国際学部4

970165 熊谷智和

200071

「高齢化と福祉」 

  アメリカ・イギリス・スウェーデン・日本の比較から見る

                        介護保険制度

                     

<はじめに>

 20世紀も残すところあと半年足らずとなり、21世紀を目前にひかえた今、20世紀がどのような時代であったかを振り返ってみると、激動と発展の時代であった。二度に渡る世界大戦をはじめ戦争や紛争による大量虐殺と並んで、あらゆる分野での飛躍的進歩と発展の時代でもあった。医療分野の発展も例外ではなく、様々な病気の原因と薬剤が研究・開発され、我々人類の寿命は大きく延びたといえる。この医療をはじめ20世紀の様々な分野の進歩と発展は、我々に便利さとともに様々な問題ももたらした。南北問題にみられる国家間の貧富の格差の拡大、地球温暖化や大気汚染のような人為的国境を超えた地球規模での環境問題などである。そして、医療分野の発展は平均寿命の延伸とひきかえにアジア、アフリカなど発展途上地域には、人口爆発とそれによる食料不足を、そして先進地域には高齢化という問題をもたらした。

 ここでは、先進地域における高齢化の問題とこれに伴う福祉政策のあり方を比較、検討する。比較の対象地域として、全く対称的な政策を執っているアメリカとイギリス、スウェーデンの政策を踏まえた上で、わが国の福祉政策の流れと新しくスタートした介護保険制度について見ていくことにする。

 

<第1章:各国の福祉政策の流れと現状>

1節:各国の福祉政策の特徴とあり方

 この節では、各国の政策のあり方を比較するために各々の政策の特徴について述べていく。

 まず、アメリカについて見ていく。世界の政治、経済などすべてにおいて大きな力を持つ国アメリカは、医学の分野においてもまた世界のトップを走っている。当然、この国も平均寿命の延伸による高齢化の問題を抱えており、独自の福祉政策が執られている。アメリカの福祉政策を一言で言い表すならば「福祉の経済大国」である。アメリカでは、福祉だけでなく、医療現場も含めビジネスのひとつとして捉えられている。これは、いかなる場合においてもビジネスチャンスと捉え経済面を優先させるという社会性に加え、アメリカにおけるジェンダー認識によるものと考えられる。つまり、アメリカでは男女平等の考えのもと女性の社会進出が進んでいる。これにより夫婦ともに仕事を持ち家事分担もきちんとなされている。そして、介護も日本のように家庭や家族、特に嫁をはじめとする女性の役割とは考えられていない。つまり、夫婦ともに仕事を持ち介護が必要な家族がいる場合、それをビジネスとしている専門業者に委託するという形が一般的である。つまり、アメリカでは介護サービスはお金で売買するものと考えられている。そして、国家や自治体の政策もこれらの社会的背景を反映したものとなっている。 

 しかし、アメリカではこうした介護サービスをはじめとして医療サービスの面においても莫大な費用が掛かる為、こうしたサービスを受けられるのは一部の裕福な人に限られており、介護・医療費のために財産を失ったり破産したりする人が増加している。

 次に、イギリスについて見ていくことにする。イギリスは、かつて「ゆりかごから墓場まで」という言葉で有名なように生まれてから死に至まで国家の福祉サービスが受けられるという福祉国家であった。しかし、福祉予算の国家財政圧迫を理由に福祉予算の削減を行った。これにより、所得、家族関係、職業などのmean test(資格審査)によって福祉サービスの受給資格を制限区別するという「選別主義」をとり、国家による福祉サービスの対象を低所得層にしぼり、福祉予算の削減を推し進めていった。

 上記の2カ国は、福祉政策の縮小を進めてきた国であるが、この両国が福祉政策縮小の推進を決定した背景に1980年にOECD(経済協力開発機構)から出された福祉国家の危機に関するレポートがある。このレポートは、福祉国家が縮小衰退の過程に入ったとするものであった。これを受けてアメリカではレーガン大統領による「レーガノミックス」、そしてイギリスではサッチャー首相による「サッチャリズム」の各政策のもと福祉予算の削減、そしてPrivatazationつまり、福祉の民活化、私化が進められた。

 つづいて、上記の2ヶ国とは全く異なった政策をとってきたスウェーデンの福祉政策について見てみる。

 スウェーデンは、世界で最も社会保障、福祉政策の進んだ福祉国家として、また高い国民所得で世界に知られている。スウェーデンの福祉は、この高い国民所得によって支えられている。つまり、スウェーデンではこの高い国民所得に対し高率の税金を掛け、税金というChannelを通して所得の再分配を行い国民の最低限の生活を保証している。同じ福祉国家であったイギリスとスウェーデンであるが、スウェーデンでは、イギリスの「選別主義」とは相反する「普遍主義」をとり福祉サービスの受給に関して資格制限を設けていない。そして、先にも述べたように国家による所得の再分配を行うことで低所得層の底上げをして、国民全体の生活水準の平等化をはかっている。そして、介護のサービスや必要な用具のレンルを無償で受けることができ、また介護するヘルパーも老人の介護は社会全体の責任であるという認識に基づき公務員としての地位が確立され保障されており、女性の社会進出も進んでいる。

 

2節:政策の比較と国家類型

 第1節で述べてきた、各国の政策のあり方と特徴を踏まえた上でアメリカ・スウェーデン・日本の介護を取り巻く環境と特徴について整理すると以下のようになる。

 

家庭

地域

市場

国家・自治体

介護提供者の特質

家族

隣人・友人

ボランティア

NPO(非営利団体)

専門家による商品サービス

専門家による公務サービス

介護者のジェンダー

女性>男性

女性>男性

女性>男性

女性>男性

労働の特徴

無償労力

無償労力

有償労力

有償労力

 

 

Private(私)

 

Formal

(公)

 

Private(Private (私)

 

PFormal(公))

日本

No.1

×

No.2

No.2

アメリカ

No.3

No.2

No.1

×

スウェーデン

No.2

×

×

No.1

 

 

 これらの特徴から、以下のような3つの社会福祉国家類型があることがわかる。

第1グループ

自由主義的福祉国家

アメリカ,カナダ,オーストラリア

第2グループ

保守主義的(コーポラティズム)福祉国家

フランス,ドイツ,イタリア,日本

第3グループ

社会主義的福祉国家

スウェーデン等スカンディナビア諸国

 こうした各国の政策の特徴と社会福祉における国家類型を把握した上で、次章では、日本の高齢者に対する福祉政策の流れと新制度「介護保険制度」について見ていくことにする。

 

<第2章:日本の高齢者福祉>

第1節:日本の高齢者福祉の制度

 平成12年4月から新しくスタートした介護保険制度。これまで執られきた高齢者福祉政策について見た上で、新しくスタートした介護保険制度との関係について述べていく。

 介護保険制度がはじまるまで、高齢者福祉は老人福祉制度、老人保険、医療制度が中心となって行われてきた。また、これらと平行して今後増加するサービスを必要とする高齢者に対応するため、ホームヘルパーをはじめショートステイ、デイサービス、特老、ケアハウスなど高齢者福祉に必要な人材の育成、施設の増設の計画、いわゆる「ゴールドプラン」にのっとって高齢者福祉の環境整備が行われ、またこのゴールドプランは必要に応じその整備目標が引き上げられてきた。

第2節:従来の制度と介護保険制度の関係

T.老人福祉法と介護保険制度 

 老人福祉法は、高齢者の福祉に関する基本的理念を明らかにし、具体的な住宅・施設での福祉サービス似ついて規定することを目的に1963年に制定された。その後、1990年の法改正により、在宅福祉サービスと在宅福祉サービスは、市町村が中心となって行うようにサービスの一元化が図られた。

 この、老人福祉法の理念を踏まえた上で介護保険制度開始後の老人福祉サービスについて見てみる。従来行われてきた主な福祉サービスは、市町村の「措置によるサービスの提供」という形で行われてきた。しかし、介護保険制度開始後は、利用者と事業者・施設との間の「契約に基づくサービスの利用」へと変わる。また、要介護老人を対象としたサービスは、介護保険から保険給付されるようになり、利用者の支払いも応能負担から、定額1割負担へと変わることになる。

 次の表は、老人福祉法による福祉サービスが介護保険制度上でどのような扱いになるのかについて比較したものである。

 

老人保険法での福祉サービス

介護保険上のサービス

 

 

 

 

 

在宅福祉対策

老人ホームヘルプサービス事業

訪問介護

老人日常生活用具給付等事業

福祉用具貸与,居宅介護福祉用具購入

訪問入浴サービス事業

訪問入浴介護

老人デイサービス運営事業

(日帰り介護)

※老人デイサービスセンターで主に実施

通所介護

老人短期入所運営事業

(ショートスティ)

※特別養護老人ホームなどで実施

短期入所生活介護

痴呆対応型老人共同生活援助事業(グループホーム)

痴呆対応型共同生活介護

在宅介護支援センター運営事業

※在宅介護に関する総合的な相談に応じ、福祉用具の展示や使用方法などの指導を行う。

※在宅介護支援センターを運営する法人が指定居宅介護支援事業者として、都道府県の指定を受ければ、介護サービスの許可の作成などに関して給付が行われる

 

 

 

 

 

 

施設福祉対策

特別養護老人ホーム

65歳以上の介護が必要な人

指定介護老人福祉施設

40歳以上の要介護者を対象

有料老人ホーム

※老人福祉施設ではないが、老人福祉法で保護規定がある。利用料は、すべて利用者負担

特定施設入所者生活介護

※施設設備や運営に対する給付はない。一定の要件に該当する介護サービスを提供すれば、特定入所者生活介護として、保険給付の対象となる。

介護利用型軽費老人ホーム

(ケアハウス)

※自炊ができない程度の身体機能の低下がある60歳以上の人が対象。要介護状態になっても入居できる。

軽費老人ホームA・B

50歳以上の高齢者が対象

A型収入が利用料の2倍以下。身寄りがない人など。

B型自炊程度はできる健康状態の人。

※要介護状態になると退所することが条件なので、基本的に給付とは関係ない。

 

以上が老人保健法による福祉サービスと介護保険制度開始後のサービスの関係と比較である。

U.老人医療・老人保健サービスと介護保険

 これまで、医療保健や老人保健で支払われてきた給付のうち、介護に相当するもので、要介護者などを対象とするものは、介護保険法による給付に移行する。介護保険法の給付対象となる保険・医療サービスには、次のものがある。

 

医療法・老人保健法

介護保険法上のサービス

 

 

在宅サービス

指定老人訪問看護事業

※老人保健法の規定

訪問介護

在宅医療(医療の一環として実施)

居宅療養管理指導

訪問リハビリテーション

老人保健施設デイ・ケア

老人デイ・ケア

通所リハビリテーション

※老人保健施設は、老人保健法から介護保険法の規定に変わる。

老人保健施設短期入所

(ショートスティ)

短期入所療養介護

 

 

 

施設サービス

老人保健施設

※設置根拠は老人保健法

介護老人保険施設に変更

※設置根拠は介護保険法へ。介護保険法の施設に変わる。

療養型病床群

長期の療養を必要とする患者を収容。高齢者が多い。

介護力強化病院

介護職員を多くした老人病院

老人性痴呆疾患療養病棟

※治療病棟は、従来どおり、医療保険の適用を受ける。

指定介護療養型医療施設

※介護力強化病院は、3年以内に療養型病床群に転換しない場合は、介護保険の指定に受けられない。

 上記のサービス提供を行う業者、施設は、都道府県の指定を受けることにより、介護保険上の扱いとなる。

 

V.ゴールドプラン・新ゴールドプラン

 「高齢者保健福祉推進十ヵ年戦略(ゴールドプラン)」は、高齢者介護が社会問題化するのを受け、1989年大蔵、厚生自治の各大臣の合意のもと、策定された。これは、高齢者の保健福祉サービスの基礎を1999年までの十ヵ年で計画的に整備するというものである。このゴールドプランは、@在宅福祉の緊急整備 A施設の緊急整備 B寝たきり老人ゼロ作戦の推進 C長寿社会福祉基金の設置 D高齢者の生きがい対策 E長寿科学研究の推進 F高齢者のための総合的な町作りの7つを柱としている。このゴールドプラン策定後、各地方自治体における老人保健福祉計画の集計の結果、ゴールドプランを上回るサービスの整備が必要とわかり、1994年、「新・高齢者保健福祉推進十ヵ年戦略(新ゴールドプラン)」が策定された。新ゴールドプランでは、整備目標数値が引き上げられ、緊急に取り組むべき施策の枠組みが示されている。ゴールドプラン、新ゴールドプラン整備目標は以下の通りである。

 

(旧)ゴールドプラン

新ゴールドプラン

ホームヘルパー

(ホームヘルパーステーション)

ショートスティ

デイサービス

在宅介護支援センター

老人訪問看護ステーション

10万人

5万人分

1万ヵ所

1万ヵ所

17万人

1万ヵ所

6万人分

1.7万ヵ所

1万ヵ所

5000ヵ所

特別養護老人ホーム

老人保健施設

高齢者生活福祉センター

ケアハウス

24万人分

28万人分

400ヵ所

10万人分

29万人分

28万人分

400ヵ所

10万人分

寮母・介護職員

看護職員等

OT(作業療法士)・PT(理学療法士)

20万人

10万人

1.5万人

 国の政策のひとつであるゴールドプラン、新ゴールドプランについては上記の通りであるが、新しい国の政策である介護保険制度との間では、多くの問題点と矛盾が生じている。次章では、その国の政策に翻弄された地方自治体と老人介護の現場について見ていくことにする。

 

<第3章:介護保険制度の問題点>

 日本における高齢者福祉の流れは、第2章で述べてきたとおりであるが、平成12年4月から新たにスタートした介護保険制度は、多くの問題点が発生している。本章では、ある町の例をもとにその問題点について見ていく。

1節:大都市「大阪市」における問題

T.サービスを行う側の問題点

 東京、横浜に次ぐ日本第3の人口を持つ大都市大阪市。この大阪市における高齢者福祉、介護の現場が介護保険制度によってどのように変わったかについて見ていく。

 大阪市では、介護保険制度がスタートするまで、市が行う福祉のサービス事業の全てを大阪市社会福祉協議会に委託し実施してきた。この委託を受け、大阪市社会福祉協議会は、これまで半官半民という立場で高齢者に対する福祉サービスを行ってきた。大阪市からの委託であるため、福祉サービス事業にかかる運営費は大阪市からの補助金でまかなわれてきた。この委託関係から、大阪市社会福祉協議会では、市民に対しより良いサービスを提供するため、ゴールドプラン、新ゴールドプランを元に必要な人材の数を増やすとともに、優秀な人材育成のための教育を行ってきた。このため平成4年以降ホームヘルパーを、毎年数百人単位で雇用し質の高いサービスを行ってきた。この大阪市社会福祉協議会の福祉サービスの質の高さは全国でもトップレベルのものであり、これまで多くの都市の手本となってきた。だが、この質の高いサービスはあくまでも、市からの補助金というしっかりとした運営費の財源があることが前提であり、多くのヘルパーの雇用、教育はそれによって成り立ってきた。

 しかし、平成12年4月からスタートした介護保険制度によってこの両者の関係は大きく変化した。これまで、大阪市と大阪市社会福祉協議会は福祉サービスの委託、市による運営資金の補助が行われてきたが、介護保険制度によってこの関係は崩れた。大阪市は、これまで大阪市社会福祉協議会に委託してきた全ての福祉サービスを市としては一切行わず、今後は民間の業者や施設で行ってもらうという方針を打ち出した。これにより今まで、大阪市から委託を受け半官半民という立場で質の高いサービスを提供してきた大阪市社会福祉協議会も福祉サービスを行う一民間業者という扱いとなり、当然、市からの補助金も向こう3年間の猶予期間ののちゼロとなる。これにより、市からの補助金によって支えられてきた社会福祉協議会の質の高いサービスは存続させることが困難となった。こうした事態を受け、大阪市社会福祉協議会ではこれまで育成してきた質の高いヘルパーの大幅なリストラ策を発表し、今後は、障害者、対応困難者のみの福祉サービスを行うことを決めた。大阪市社会福祉協議会におけるリストラ策は、次の通りである。

 まず、ホームヘルパーの希望退職者を募った。平成12年5月25日、6月中旬と段階を決め希望退職者には、退職金と24ヶ月分の給与を上乗せし、それ以降は時期を経るごとに上乗せする額を減らし、最終的に350名の希望退職者を募る予定で、平成12年5月末日現在約280名が退職を希望し、今後残りの70名が退職を希望するまで続けられる。

 そして、残ったヘルパーに対しては、以下の職種を新たに設けそれぞれの職種につくための試験が行われた。しかし、その合格枠は非常に狭く選考にもれたことを理由に希望退職への意思を強めようというねらいがあると見られる。

募集区分(職種)

業務内容の概要

受験資格

1.障害者対応等ヘルパー

障害者(児)措置ケースを優先的に担当し、その他対応困難な高齢者ケース等を担当する。

@障害者福祉サービス等に理解と熱意のある者

A7:00〜21:00までの勤務が可能な者(6時間ホームヘルパーについても上記時間帯のうち連続6時間勤務が可能であること)

B日・祝日・年末年始の勤務が可能な者

2.訪問調査員

介護保険の要介護認定にかかる訪問調査業務を担当する。

@介護支援専門員の資格を有する者

A7:00〜21:00までの勤務が可能な者

3.高齢者福祉関係業務等

A.くらしサポーター

財産管理支援センターのくらしサポート事業を担当する。

・金銭管理サービス…利用者宅の訪問、預貯金の引き出しや公共料金の支払い

・福祉サービスの利用援助業務…サービスの利用に関する情報の提供、相談、利用申し込み、契約の代行等

・見守り訪問…サービス利用者への見守り訪問

痴呆性高齢者等に対する理解があり、高齢者のくらし相談業務に熱意のある者

B.ふれあいワーカー(家事サービス・デイサービス)

要介護認定で新たに自立となった虚弱等の高齢者を対象とした次のサービス事業を担当する。

・ふれあい家事サービス事業

家事援助・相談業務を中心としたサービスの実施

3級ヘルパー養成事業との連携によるヘルパー登録システムの確立及び運用

ヘルパー派遣調整などのコーディネート業務

・ふれあいデイサービス事業

通所による日中活動の場の提供やレクリエーション等のサービスの提供

在宅福祉サービスに熱意のある者

C.ケアワーカー

【区在宅サービスセンターにおけるケアワーカーの欠員補充等】

・通所介護サービス利用者の介護業務を担当する。

介護福祉士の資格を有する者

D.24時間サポート相談員

各区在宅サービスセンターの後方支援施設として、高齢者総合相談情報センターにおける夜間の相談業務を担当する。

・保健,福祉,医療の分野だけでなく、生活全般にわたる広範な相談や情報提供に応じる。

高齢者の相談業務に熱意のある者

4週に7日程度の夜間勤務及び日・祝日・年末年始の勤務が可能な者

4.福祉職員

【市社協事務職員の欠員補充等】区在宅サービスセンター、老人福祉センター、児童館、勤労少年ホーム及び子育ていろいろ相談センター等の一般事務職員・ソーシャルワーカー・福祉活動専門員・ボランティアコーディネーター・児童厚生員・勤労青少年ホーム指導員・保育士等が担当する業務に従事する。

次のいずれかの資格を有する者

社会福祉士

介護福祉士

社会福祉主事

保育士・看護婦(士)

 上記が、介護保険制度に伴う大阪市社会福祉協議会における大幅なリストラ策と内部改革の概要である。この内部改革をみてわかるように従来ヘルパーが行ってきた業務は、1の障害者対応等ヘルパーに限られることになるが、この障害者や対応困難者に対するサービスのほうが給付金が多いということが背景にあると考えられる。しかし、この新たに設置された職域も向こう3年間続けられる大阪市からの補助金がゼロになれば維持できるかどうかは難しいと考えられ、たとえ今現在退職を希望せず、これらの新たに設置された職域へ異動した後もいつ仕事がなくなるかという不安を抱えたままでの業務への従事となり、早期に希望退職し新たな職場を探すほうがいいという意見もある。

U.サービスを受ける側の問題点

 大阪市における従来の社会福祉の現場や介護保険制度によるサービスを行う側の問題点については今述べてきたとおりであるが、次にサービスを受ける側の問題点について見ていくことにする。

 大阪市の福祉サービスが大阪市社会福祉協議会によって行われてきたことは上記のとおりであるが、そのサービスを行う側とサービスを受ける側の関係はどうだったのだろうか。

 これまで、サービスを行ってきた社会福祉協議会のヘルパーとサービスを利用する高齢者との間には、長年かけて築き上げてきた信頼関係があった。この信頼関係なくしては福祉サービスは成り立たないと言っても過言ではない。話し相手になるにしても、介護を行う場合、両者の間に信頼関係がなければ両者の関係はぎくしゃくしたものとなりよいサービスとはなり得ないし、サービスを受ける側にとっては不安がつきまとい大きなストレスとなる。これまで、社会福祉協議会の介護サービスを受けてきたある高齢者は、社会福祉協議会のヘルパーにこう漏らしたという。「あなたとは今まで介護をしてもらって信用があるから、安心して通帳と印鑑を預けて金銭管理を頼める。しかし、どこかの業者から派遣されてきました、金銭管理をやります、と言われてもとても通帳や印鑑を預ける気にはなれない」と。これまで、社会福祉協議会は大阪市の委託という形でサービスを行ってきたため、利用者も後方に市がついているからという安心感もあっただろう。しかし、大阪市のみならず全国で介護保険制度開始にあわせ「雨後の竹の子」のごとく出現してきた業者には、不安を抱くのも無理はない。

 また、もうひとつの問題はサービスの質の問題である。これまで大阪市社会福祉協議会は、徹底した教育を行い質の高い福祉サービスを提供してきた。あるヘルパーは「社会福祉協議会では数ヶ月に渡る訓練を受けてきた。しかし、民間のヘルパーは、わずか数日の研修ののち一人立ちしており、そのわずかな期間の研修を終えたヘルパーが介護をしている現場をみるとぞっとする」と話した。

 こうした、サービスする側される側の問題点からもわかるように大阪市では、介護保険制度によって両者の関係は、大きく変化した。介護される側の経済的負担が増え今まで築いてきた信頼関係を失い新たな業者に対する精神的なストレス、サービスの質の劣化など、サービスを受ける側は介護保険制度の犠牲者言える。 

 しかし、サービスを提供する側である大阪市社会福祉協議会もまた国の政策に翻弄された犠牲者と言えるだろう。ゴールドプラン、新ゴールドプランにのっとってヘルパーの数を増やし徹底した教育によって質の高いサービスを提供してきた、この日本の福祉サービスのトップを走ってきたことが、介護保険制度のスタートによって逆に大きな犠牲を払う結果となってしまった。

 

<まとめ>

 高齢化社会を迎えるにあたり、どのような政策をとっていくのか。これは、重要な問題である。第1章では、世界の国々がどのような政策をとっているのか、対称的な政策をとっている国を例に見てきた。これを踏まえた上で日本の高齢者福祉について見てきたが、二度のゴールドプランによる整備目標はともかくとして新たにスタートした介護保険制度は、サービスの質の低下を招き、高齢者福祉の場を大きなビジネスの市場とする結果になった。他国と比較したとき、今までのサービスという形での高齢者福祉は、アメリカほどではないにしても福祉をお金で買う時代へと変化しつつあることは否めない。

 大阪市社協のあるヘルパーさんにインタヴューした際、最後に「これからは心のケアはできないでしょう。決められた時間で決められた数をこなす、これがこれからの介護の現状です。でも、これでは本当に介護したとは言えない」とおっしゃっていたのが印象的だった。

 他国と比較してどの国の政策がかならずしも正しいとは言えないが、高齢者福祉とは何なのか、どうあるべきかを考えるとき、新しくスタートした介護保険制度はどこか欠陥のある政策といわざるを得ないのではないだろうか。