行政学演習A

国際社会学科3  980137M  福田拓郎

 

「国立大学の独立行政法人化」をめぐる問題

目次

1動機

2独立行政法人とは何か?

3いまなぜ独立行政法人なのか?

4独立行政法人化のメリット

5独立行政法人化のデメリット

6考察

 

1 動機

きっかけは一つの記事だった。

 一橋・東京外国語・東京工業・東京医科歯科・東京芸術の5大学の学長が「五大学連合」実現を目指すことで合意していることがわかった。単位互換から編入学・学士入学にまで渡るかつてない幅広い連合で、実現すれば学生数・予算規模ともに京都大学に匹敵する規模になる。まだ、学長レベルでの構想ということだが、教員の間には早くも波紋が広がっている。背景には独立行政法人化による大学の競争・選別時代に向けた「パワーアップ」の面もあるようだ。http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/1976/

この記事を読んだのはかなり前のことだが、それまでにも国立大の独立行政法人化の話は聞いていたにもかかわらず、実際に大学が動き出したニュースは衝撃的だった。その後調べてみると他にも同様の記事が多数見つかった。

・3国立大(岩手、秋田、弘前)が単位互換構想

・山梨大と山梨医大、香川大と香川医大は統合を決定したほか、宮崎医大と宮崎大、富山医科薬科大と富山大も検討中

 

 

2 独立行政法人とは何か?

  簡単に言うと「国民生活に必要」だが「国が直接やる必要がないこと」を行う組織のこと。代表的なものとして美術館や博物館などが挙げられる。

 

  文部科学省は独立行政法人大学に3〜5年の「中期目標」を与える。大学は中期目標実施のための「中期計画」を立て「運営交付金」の交付を受ける。中期計画策定作業では大蔵省から綿密な指導を受けることになるはず。教職員の給与は交付金に含まれている。運営交付金の使用内訳は学長の裁量に任されている。学長は文部科学大臣が任命する。

  中期計画期間終了後に活動成果が評価され改廃が総務省により審査される。寄付等の自己収入が増えれば運営交付金は減らされ、自立できると判断されば民営化ないし地方移管されることになる。交付金に見合う成果を挙げなかったと判定されると廃校となる。独立行政法人大学は、文部科学省評価委員会・総務省独立行政法人評価委員会の2段階で評価され総務省が最上位にある。

独立行政法人化による変化を簡単にまとめると以下のようになる

首相官邸中央省庁等改革推進本部(平成10623日設置 本部長:内閣総理大臣  副本部長:内閣官房長官、行革担当大臣  本部員:他の全ての閣僚 http://www1.kantei.go.jp/jp/cyuo-syocho/

「適性さと効率性」の両面から目標を設定し、事業運営を開示

役員の事故責任で管理し、各府省と総務省設置の第三者機関による2重チェックで評価し公表

 

1.財務

弾力的な財務運営が困難

…事前のチェックを重視する官庁会計のため、弾力性のある運営ができにくい

  予算上の措置:国から運営費及び固定的投資経費が交付されます

 ▼運営費:独立行政法人が弾力的・効果的に使用できます

 ▼固定的投資経費:中期計画で定められた使途に弾力的・効果的に使用できます

 ▼剰余金の使用:中期計画期間中に経営努力により生じた剰余金については、評価委員会の認定を受け、中期計画の使途の範囲内で取り崩して使用できます

 

2.組織・人事管理

組織・人事管理の自律性に限界

…組織、定員、人事について、法令等による画一的な統制が働き、機動的・弾力的に運営することが難しい

 ▼内部組織:法令で定める基本的枠組みの範囲内で、独立行政法人が決めることができ、従来の組織管理手法の対象外となります

 ▼定員管理:事前定員管理の対象外となります

 ▼給与制度:法人及び職員の業績が反映される給与等の仕組みを導入します

 

3.評価

今までは評価に関する仕組みがなかった。

また、明確な目標設定、結果の評価を行う仕組みもない。

よって改善しようというきっかけがなく、現状を維持することになりがち

中期目標の設定:所管大臣が3〜5年の期間を定め、その間の達成目標を設定します

中期計画の作成:独立行政法人はこの目標を達成するため、中期計画を作成します

評価委員会の評価:各府省及び総務省の評価委員会が、定期的に評価します

まず、目標を提示するのが主務省の大臣であること、

 

4.透明性

業務などの内容が国民からわかりにくかった

▼透明性の確保のため、次のような情報を公開します

      業務、財務諸表、中期計画・年度計画、評価委員会の評価結果、監査結果、給与等に関する事項等

 

しかしこれは、いわゆる通則法に基づくものであり、これをそのまま国立大学に適用することに対しては根強い反対があった。これを考慮したのか、文部省は平成11年9月20日付けで次のような資料を公表した。

文部省「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」 

ここでは、その基本的な考えのみを紹介する。

国立大学の運営は、教育研究の特性に照らし、自主性・自律性と自己責任を基本として行われるべきものであることから、独立行政法人化する場合には、世界的水準の教育研究を目指し、その実現を図るため、

@     教育研究及びそれを支える意思決定と実行の仕組みや人事・財務等における大学の自主性・自律性を確保し、さらに拡充すること

A     長期的な展望に立って教育研究を展開できること

B     教育研究に直接携わる教員について、自発性や主体性が十分に担保されること

C     教育研究の自主性・自律性を保障するため、教育研究に対する評価が、国によるのではなく、大学関係者等によって専門的見地から行われること

D     世界的水準の教育研究を行い、期待される役割を十分に果たすことが可能な条件整備が図られること

等の諸点が十分かつ適切に確保されることが必要であるとしている。

また、国の事前関与・統制を極力排し、事後チェックへの重点の移行を図ることにより、各法人の自主性・自律性を高めようとするものであるが、その一方で、行政の一端を担い、公財政支出に支えられることに伴う国としての必要最小限の関与は避けられず、このため、

@     主務大臣による中期目標の指示、中期計画の認可は、唯一の事前関与のシステムであること

A     主務大臣による中期目標の認可は、予算の弾力的な運用が認められることの前提条件と解されること

B     主務省に置かれる評価委員会による評価は、事後チェックの中核的なシステムであること

C     中期目標期間終了時における主務大臣による検討は、行政責任を負う主務大臣としての事後チェックであること

の諸点について留意が必要である

 

また、最近中曽根弘文文相は、国立大学を国の行政組織から分離し、法人化する方針を正式表明した。2003年度以降、すべての国立大を独立行政法人に移行させたい考え。文相は公立大にも法人格を与えることを検討する意向を表明。と同時に「通則法をそのまま適用した場合、大学の主体性が損なわれる恐れがある。」と述べ、教育、研究面で大学の裁量を確保する特例措置を通則法とは別の法律で規定する方針を表明した。

国立大以外の独立行政法人の共通規範を定めた「独立行政法人通則法」には

  法人の役員は主務大臣が任命

  大臣が法人の目標を策定

  外部機関が法人の業績評価を行う

と定められているが、国立大学には

@学長、教員人事

A教育研究の目標・計画の策定

B業績評価

C評議会、教授会などの組織運営

に関して独自の制度を法律で認めるべきだと述べた。

 

 

3 今なぜ独立行政法人化なのか?

   その背景には国家公務員定数削減計画がある。この計画は当初、2001年から10年間で国家公務員定数を10%削減するというものだったが、昨年8月の小渕内閣発足時には20%削減に引き上げられ、さらに今年1月の自自公合意で5%山積みされ、25%削減となった。独立行政法人化が決まっている国立研究所等の81国家機関と国立病院の職員7万人の他にあと7万人が必要でありその実現には13万人余の教職員を擁する国立大学を独立行政法人化が不可欠だったのである。これが文部省の独法化容認の引き金となったと言える。文部省は国立大学の独法化に当たって、独立行政法人の設置形態を定めた「通則法」をそのまま国立大学に適用するのは不可能として、独法化後も大学の自主性を尊重する特例を設けることなどを柱にした独自案を発表。これには、各大学それぞれに法人格を与える1大学=1法人方式や、教職員の身分を国家公務員のままとするといった内容が盛り込まれた。一方、国立大学協会(国大協)は、今月17・18日の両日に総会を開き、文部省案に対する意志を表明するとしている。国大協も通則法のままでの独法化には反対の姿勢を示しており、総会において、中期目標・人事権・評価における特例措置を条件として示し、これらが退けられた場合には独法化そのものへの反対の意思表示をするものとみられる。

 独法化に伴い国立大学は予算運営や機構の改編において大学自身の裁量が増えたことになるが、その反面国の庇護から離れ、競争原理の下にさらされることになる。

 

 

4 独立行政法人化によるメリット

運営上の自由の獲得

  国立大学は国が経営する学校であり経営上の権限と責任は国にある。国立大学学長には独自の判断で大学を運営する権限がなく、文部省に要求して認可を受けるというプロセスを繰り返さなければならない。文部省の担当者数は大学の数に比べて余りに少ないため、現在99ある国立大学ひとつひとつには対応しきれない。法人格がないことが国立大学の自然で多様な成長を阻む大きな障害となっているのだ。この障害が解消されることが独立行政法人化の最大の利点であろう。これに付随して国立大学が今抱える運営上の多くの問題点がが解消される。

 

財政的自由度の増加

現在は年度毎に予算を使いきらねばならないため、年度始めと年度末に国立大学には財政的空白期間があり研究教育活動に差し支えることが少なくない。また、予算が余っても次年度に使えるわけではない。独立行政法人になれば運営交付金を5年単位で計画して使うことができるようになる。また、予算の繰越を認めるかについても検討されている。

 

社会と大学の繋がりの増大

  国立大学教員は現在厳しい兼業規制を受けている。これが企業と大学の共同研究を阻むだけでなく、国立大学教官の社会的活動を制限し国立大学の存在感を薄いものにしている。すでに条件付で兼業を認めるようになったが、法人化後は社会的活動も重要な業務となるので、大学と社会の繋がりが増し、国立大学は国民に対する多様な使命を果たすことが可能になる。

 

競争原理による大学の活性化・人事の流動化

  独立行政法人大学学長は業績に従って教職員の待遇を決めることができるので、真剣な競争が生まれ研究教育活動は活発になる、と期待されている。また、任期のついたポストが大幅に拡大され、教員の出入りが増え日本の知的人材が有効に動員されることになると期待されている。また、有能な研究指導者を良い待遇で国立大学に招くことができるようになることも期待されている。これらの点は、大学外部の賛成意見の中核をなすものである。

 

 

5 独立行政法人化によるデメリット

国立大学の質が低下する?  

  これは特に理系分野に言えることだが、純粋学問・基礎研究の問題がある。これは、いつ成果が出るのかわからず、またその成果もすぐに利益を生むものである保障はない。よって、3年のような短期間で評価を受けなければならないのは不利である。欧米に比べ、現在でも力の入っていないといわれている基礎研究の分野が、これによってさらに衰退する恐れも。また、成果が目に見える形で現れにくい文科系の学問にどの程度力を入れるのかは大学によって変わりそうだ。

 

授業料は高くなる?

現在国立大学の授業料は法令により一律に規定されているが、独法化されれば各大学ごとの設定が可能となる。とは言え、民営化ではないので文部省からは補助金が出る。ただ、各大学への補助金は評価を基準に算定されるため、大学間で格差が出るであろうことは考えられる。

 

大学の再編、淘汰が進む?

予算の運用の自由度が増える代わりに、評価によっては予算が削減されることも当然考えられる。評価が高ければ予算は潤沢になり優秀な研究者や学生も集まるだろう。その結果益々高い評価を得るという好循環が形成される。一方、評価が低ければ予算は削られ、その結果また評価が低くなるという悪循環に陥ることも。評価によっては廃校も有り得るので、まさに存亡の危機となる。旧帝大など一部の有力大学にとってはよいかもしれないが、人員や予算面でもともと差のある地方大学が生き残るためには統廃合もやむを得なくなる。

 

参考ページとして

・独行法反対首都圏ネットワーク http://www.asahi-net.or.jp/~bh5t-ssk/nettop.html

・国立大学独立行政法人化の諸問題 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-  Cafe/3141/dgh/

 

 

6考察

そもそもなぜ国立大学が独立行政法人化されることになったのだろうか。「適性さと効率性」の追求という面ももちろんあるだろうが、一方で公務員の定員25%削減という公約の数合わせに使われている感も否めない。今まで述べてきたように独立行政法人化は競争原理の導入による大学の活性化や財政的自由度が増すというようなことがよく言われる。特に文部省は法人化のメリットを強調するが、業務の効率化などによるコスト削減もおおきな目的であることも明らかで、自民党は「大学の再編、統合は国の責任で行い、選別と淘汰も避けられない」としている。また、「教授会の自治」についても「既得権の擁護に終始している」との批判が強く、文相が述べたような大学の自治がどこまで保証されるかは不透明である。

問題の難しさとは裏腹に、現在の世論は行政法人化もやむなしといった雰囲気。私立大学関係者はもとより、国立大学関係者の間にも強硬な反対意見は見られず、これまで反対していた国立大学協会も特例措置が認められれば容認するようだ。冒頭に述べた単位互換制度や統合のように、既に法人化にむけ動き出している大学も見られるように、表向きは反対としながらも、もはや行政法人化は避けられないとして法人化後の勢力再編を考えているというのが大多数だろう。

国立大学にも競争原理が導入されることで、大学の講義および研究が活性化されることは個人的にも望ましいことだが、学問の自由と大学の自主性・自律性は保証されるべきだろう。そのためにも特例措置の内容が重要になる。通則法を国立大学にそのまま適用することは得策ではないことは明らかで、中曽根文相の発言からも分かるようにその点に関しては文部省も認めているようだ。ただ、その内容についてはいまだ検討の域を脱しておらず、具体的な枠組みは見えてこない。特例法は独立行政法人化後の大学に保障される権限を明確にするという点で非常に大きな意味を持っており、日本の将来の人材・研究がどうなるかはひとえにこの特例措置がどのようなものになるかにかかっていると言えるだろう。にもかかわらず、先述したように現在の世論は盛り上がりを欠いている。一度決定してしまえばそれを再び変えることは非常に困難であることは言うまでも無いことで、もう一度各人がこの問題について問い直す必要があるのではないだろうか。

 

 

〈参考文献〉

 「国立大学と独立行政法人化問題について(中間報告)」国立大学協会 第1常置委員会 平成11年9月7日

「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」文部省 平成11年9月20日

また、議論の場として、

Yahoo! 掲示板の「国立大の行政法人化!」http://messages.yahoo.co.jp/yahoo/Education/Testing/index.html 書き込み件数はすでに1900件以上、教員や学生、社会人など様々な人が毎日議論している。関心のある方は是非。)