2021年度 副査を担当した卒論(5本)と主査を担当した修論(2本)のコメント
法律の名前はおぼろげに頭には浮かんだものの、栃木県での年間当たりのイノシシ等の捕獲数がこれほど多いとは思わなかった。とくに出だしとしては、「自動撮影カメラを設置」という記載に、また、調査地点におけるD、E、Fは素人として想定外で興味を持った。
現地に活動に参加してのアンケート調査の価値は高い。直売所へのアンケートボックスの設置などにも感心した。
読み手としては、「共分散構造分析」の意味を正確に把握したとは言い難いが、それでも「因果モデル」は、行政学の組織間関係論と共通性があるようで、図3とも相俟って、その後も興味深く読み進めることができた。
「現地調査」(10頁)はオリジナルな工夫満載で、文章量こそ少ないものの、極めて充実した記載内容となっている。結果も回答者の協力度が高く、ネット調査や郵送調査とは次元の違うものとなっている。ただ、読みやすさの点で、「アンケート調査の結果」(10頁)の改行を増やしてほしかった。
「共分散構造分析の結果」(20頁以降)では、項目間の相関関係が説明されているが、相関関係の程度については、「強い」や「やや」や「かなり」以外に類型化したものがあるのだろうか。ただ、「科学的知識」に「対策意欲」が「有意な影響を及ぼす」ことはわかったものの、これだけ精緻な数値データ分析を経ての結論としては、平凡過ぎないか。
図14-23は手作りでの設置の成果として、極めて貴重な生々しい写真だ(個人的には図16のシカや図19のタヌキがどこにいるのかわからなかったが、そんなことは気にしなくていい)。防止柵を設置すればそれで済む問題ではないと理解できた。
地域別に考察した結論部分も興味深く読んだ。対策意欲の高低は科学的知識次第というのが結論と受け止めた。この論文によって、「防護、捕獲、環境整備をバランス」の大切さが裏付けられたといえよう。欲をいえば、課題設定そのものに、筆者の問題意識が深く絡んでいればとの印象を持った。
「互助」をコアとする食支援について、焦点を複数に当てながら、まずは食関連の課題を大きく包含するような形で書き進めているスタンスに感心した。図3のスポーツ庁調査など、食と運動能力との関連性など読み手としては、論文の出だしからいろいろと気付かされた。
ただ、2章の途中から話しがフードバンクに、しかも聞き取り調査がいきなり入ってきた。そして事例の対象が海外の9カ国に一気に飛ぶ。そうはいっても、アメリカの「フード・セキュリティ」「フードスタンプ」、さらには多彩な団体活動など非常に興味深い。
そして、フランス以下、各国・地域(たとえばアメリカとは対照的な韓国の政府系フードバンク組織など)についても果敢に調べている。自力での図表の作成にも労力を掛けていて(とくに図8など)非常に意欲的である。しかし、米仏韓を除けば、たった数行の説明で、評価の結論が出されてしまっている。内容の一つ一つは貴重な資料・情報であるのはわかるが、あまりにも記載の仕方が細切れで、論文というよりレジメ・ノート形式となってしまっており、これは正直読み手にとって読み進めるのがきつくなってしまう。フードバンクに焦点を当てた理由説明もほしかった。
実のところ2章が「事前検討」であり、3章がこの論文のコアに位置していることに気付く。これは、参与観察、メール調査、インタビュ調査など、筆者オリジナルなもので高い資料的価値がある。たとえば表15などは、他者には作成できない労作だ。
とくに図11の組織間関係と図12の分析(「共起キーワード」とは何だろうか)は、フードバンクや地域食堂の点から面への展開可能性という意味でも、重要な問題設定だ。
ただ、残念なことに記載の仕方の乱雑感は否定できず、48-50頁の筆者の実践を踏まえた貴重な指摘は、ぜひ文章(論文)としてつなげてほしかった。6章も筆者ならではの迫力のある書き下ろしかと思ったが、たとえば英語項目表記が外務省パンフレットとつながっているのか無関係なのかが、判然としない。
これだけの熱意と鋭敏な問題意識を持つ意欲的な卒論を目にすることはめったにない。しかし、生煮えで終わった感は免れない。あと1カ月、いや2週間かけて、内容を取捨・精査する作業を行えば、出来映えは何倍にもなったはずである。その検討作業をぜひ、卒業後に行ってほしいと思った。
問題意識は明確である(地元高校生の大学卒業後のUターン意識)。「生活関連サービス」「税収」「地域公共交通」「空きや家など」「地域コミュニティ機能」の縮減は人口流出をめぐる定番のキーワードだ。
2章ではさらに展開を地方創生に広げる。ただ、さすがに政府説明の引っ張り過ぎではないか。総論の中で、宮崎市日南市の事例が出てくるが、これも政府のテコ入れによる政府にとっての都合のいい事例の抽出である。「地方の時代」はともかく、「ふるさと創生」や「一村一品運動」は、どう評価されているのであろうか。「地域おこし協力隊」の評価は肯定一辺倒でいいのだろうか。
3章が本論だ。筆者の実践経験がバックボーンにあるだけに、この章の記載が自分事になっている点が他の章との違いだ。「高校生には高校生独自の視点がある」は事例と絡めて論じられればよかったと思ったところ、2節がその先行例となっている。重い問題・課題を「地域学」など教育面での魅力に転化させる発想が、高校と地域の活力が結びついていて興味深い。この後に主題を象徴する「コミュニティカフェ EMANON」への言及に至る。「アクティブ群」「ウォームアップ型」「ポテンシャル群」は筆者によるオリジナルな類型設定なのだろうか。
最も資料的価値があるのは、高校生の率直な声を集めた4章であろう。オンライン調査を活かし、質問事項の設定も工夫が凝らされている。ただ、コロナ禍の影響についても盛り込んでほしかった。カテゴリー別分析はいろいろな応用が効きそうだ。大学生からの聞き取りはさらに貴重だ。「実際にインタビュしてみては・・・」の前は改行して、さらに筆者の受け止め方について加筆すれば、感想ではなく、本来の意味での分析となったはずである。論の展開や筋道を丁寧に捉えようとする筆者の姿勢の強さは伝わってきたが、たとえば、なぜ4名は地元に戻らないのか、ここをさらに掘り下げられれば、主題とつながるヒントが得られたかもしれない。
「シカによる社会的影響の課題」(下野新聞のデータ検索の仕方なども含めて)、現地調査、植生調査のいずれにも関心を持って読み始めた。
表には記事の内容には踏み込まず項目名に注目したものだが、労作だ。シカ分野の比重が確認できたのが貴重な収穫なのであろう。
現地調査において、門外漢としては、調査ポイントを「100m間隔で計93箇所設定」(27頁)も設定可能なことに驚いた。「半径 25mのバッファ」が発揮する包囲網的な効力も理解できた。植生調査では、その「植被率」をめぐり「高木層」「亜高木層」「低木層」が精緻に写真図面にポイント的かつ線的にトレースされている。活字研究者としてはこれらの図面を目にするだけでもありがたい経験だ。
「樹皮剝ぎの確認できたポイントは186か所中167か所」(39頁)というのは深刻な事態なのだろう。また、「大径木」と「小径木」も違いがないことがわかる。センサーカメラによるシカの確認写真には思わず見入ってしまった。たとえば図22ではシカの眼光とカメラにわざと視線を向けているかのような表情が脳裏に残った。
ただ、教育活動と自然研究路との連結はともかく、結論で「新聞の記事などにしやすい協議会の活動などの協働型管理運営にうまく組み込まれていないことが原因」(52頁)と言い切れるのか。被害の実態を知らない都市部の住民からすれば、掲載の有無以前に関心を喚起させる方策が必要ではないか。
データ分析と現地調査が融合された研究である。ただ、欲をいえば、課題設定そのものに、筆者の問題意識が深く絡んでいればとの印象を持った。
宇都宮市において自転車使用の割合(分担率)が意外と低い事実に、イメージとのギャップがあり、驚いた。先行研究における「歩道走行安心説」や「自転車通行位置の明示」なども興味深い。
二つの仮説(道路幅の狭さと用地買収の難しさ)もすんなりと理解できた(ただ、オーソドックス過ぎる仮説かも。個人的には、仮説はチャレンジングかつ刺激的な内容の方がいいように思う)。その後も「暫定形態」などの用語も出てくるが、読み手の理解促進を意識した文章作成となっている。栃木県の数値目標(2018-20年)がプラス2kmというのは、果たして高いのか低いのだろうか。
3章4節で、群馬県の方が栃木県よりも計画の具体性が盛り込まれているとの指摘は大切だ。ただし、これは群馬県において市町村レベルでの計画がないことの反映かもしれない。
確かに「自転車専用通行帯」と「矢羽根型路面標示」は物理的な面では「自転車道」のレベルには到底達していないものの、この二つのソフト的効力は実際にはかなりあるのではないか。自動車のドライバーのモラルに依存するとはいうものの、心理面に訴える効果は強いのでは。物理的に設置した場合、過度なスピード運転などかえってそのたがが外れてしまう面もあるのでは。
名古屋市のモデル地区に関連させて、四つの課題を挙げている点(この指摘は筆者のオリジナルだと思って感心して読み進めたが、最後に注20があり、情報源からのまとめなのか判然としない点が気になった)が、この論文の肝かもしれない。結局、行き着くところは、「自転車ネットワーク計画」の策定・実施の有無ということであろうか。
海外の事例について、たとえば、自転車道の「シームレスなネットワーク整備」とは誰の表現なのだろうか。読み手には筆者の表現かどうかが判然としない箇所が散見される。
その点、ヒアリングは純然たる筆者オリジナルの調査研究だ。質問の項目設定にも苦心の跡が窺われる。とくに2番目の考察内容は、生活者よりもイベント優先の行政のスタンスを鋭く指摘しており、重要だ。
タイトルは変更した方がよかったのでは。「縁石や柵」を設置することが、長い目でみた場合に本当に「快適な自転車空間」といえるだろうか。自動車のスピード抑制が鈍ったり、自転車の速度が上がったり、バイクの通行があったり、ランナーとの衝突、さらにはそのメンテナンスの負担はどうするのだろうか。
・要旨がない。
・障害者総合支援法の理念である「障壁となるような社会における物事、制度、慣行、観念その他一切のものの除去」や、改正社会福祉法における「地域において公益的な取組」というのは、言うは易く行うは難し、の典型ではないかと思いつつ、読み進めたが、結局各章間のつがなりが見えなかった。
・動画のテキスト化の意義は確かにあるとは思うが、これを受けた筆者の小総括(考察)がない。「みんなの『生きる』を、社会福祉法人。』は意味不明な文章。
・社会福祉法人の分野別で、「児童43.4%」とあり、これほど高いのかと驚いた。8頁中頃の*の箇所が意味不明。
・第1章は歴史的展開を記載しているが、この章の総括として筆者(修論作成者)が見出したオリジナルな知見は何か。結局テーマとは関係のない記載ばかりであったというのが唯一の知見なのか。
・8頁の2パラの文章の意味が不明。
・10頁のレジメ・ノートのような記載は、論文として適当なのか。文章中にこのような提示をするのであれば、その旨の説明が必要である。担当者へのヒアリングはいつ実施したのか。「近隣の社会福祉法人同士が連携」は興味深い指摘だが、連携の具体的な内容には言及しないのか。3-3はまとめの記載になっていない。4章の出だしは改行すべき。
・Q4(15頁)、Q3(17頁)、Q3(20-21頁)その他の応答内容はとても貴重な知見を示唆していると思うのだが、提示の仕方についていえば、斜体文字がこれだけ続くと読み手にはしんどいし、あまりにも改行が少ない箇所があり過ぎる。
・「第二層協議体的な助け合いの移動(運送)」とあるが、その意味がわからない(居場所→助け合い?)。
・論文全体を通じて26−30頁のような精査を尽くした文章を作成してほしかった。それ以外は、読み手からすれば記載が荒くなってしまっている。
・考察はこの位置なのか。ここに置くとしたら加筆が必要では。
・「絵本の読み合い遊び」は読み手の関心を引くキーワードとなっている。
・インクルーシブ保育の「要支援児と他児との関係性」に注目する問題意識が読み手にはっきり伝わってくる。
・欲をいえば、Google scholarで抽出した16本の論文を読み込んで、そこから得られた特徴を記載してほしかった(実際に読んだのが、本論で紹介するには至らなかったのかもしれないが)。
・表1は文章とした方がいいのでは。また、表中のBについての考察の枠がないのがアンバランス。
・先行研究が丁寧で「絵本の読み合い遊び」に絞り込んでいく展開もスムーズである。また、蛇足的ではあるが、「絵本」といった場合の媒体は紙媒体のみなのか。デジタル絵本は含まれないのか。児童との関連性での紙とデジタルの絵本の違いは何か。
・17頁以降の写真掲載は、見栄えという意味ではなく、資料的価値が高いと思うし、読み手にとっては良いアクセント・メリハリを得ることができた。
・今回の研究テーマの本筋ではないのはわかるものの、こうした遊びの空間を作り上げる保育士の方の側からの意図や関連の課題(多忙業務の中での工夫など)を知りたかった。
・考察の内容(上下関係なし、多様な遊び道具が持つ広がり、ポジティブな働きかけ)はいずれも重要な知見だ。青少年や大人同士の関係性にも応用が効くのでは。それだけで終わらずにさらに深く要因を追求している。門外漢にも本研究の深さと奥行きを垣間見ることができた。
・この分野の学問の魅力であろうか。本テーマでこれだけ掘り下げて、さらに説き広げる研究の醍醐味が展開するとは、読む前は予想できなかった。謝辞にも研究に対する真摯な姿勢と誠意あふれる人柄が伝わってきて感銘を受けた。筆者はやり抜いた。この胸を張れる修論にどうか自信を持ってほしい。