2006年度卒業論文副査コメント

 

中村祐司(20072)

 

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土田さん卒論:「日本政府・学術界・日本企業による京都体制の評価と課題−将来の気候変動枠組への含意−」(指導教員高橋先生)を読んで

 

 気候変動の枠組みが定着するまでの、目まぐるしいほどの紆余屈折の経緯を要領よくまとめている。多くの英語の資料・文献に積極的にアプローチしているのも研究論文として好感が持てるし、記述も文献のエッセンスをずばりと捉えているようで非常に簡潔である。

 

 通読して環境分野においては政策、技術、政治、国益、企業益などの混在度が極めて高いのかもしれないと思った。また、評価基準をどのレベルに設定するかで、研究者レベルでも見解が異なってくるのであろう。CDM(クリーン開発メカニズム)や吸収源と一口に言っても、そのプロジェクト運営をめぐる難題は山積していて、一筋縄ではいかないことが分かる。

 

 日本政府の取り組みについて、例えば「気候変動対策論議への参加がもっと民間に開かれる必要がる」(31)とあるものの、どのように民間に開かれるべきなのか具体的な処方箋については述べられていない。

 

 アンケートにしても確かにきめ細かい労作だが、「ビジネスチャンス」などとなると、「目標保有者」の本音の部分はなかなか出てこないのではないか。 また、「枠組みが多くの参加者を吸引する必要がある」(43)とあるが、それは誰もが考えることではないのか。結論(利益確保と制度の利便性)にも残念ながら新鮮味がない。

 

 「取引参加者」の場合も含め、たとえ対象企業数は少なくても、インタビュ(旭ファイバーグラスに関する記述の方が迫力あり)にエネルギーを注いだ方が企業行動の本質に迫ることができたのではないだろうか。 終章も論点整理で終わってしまった感は免れない。専門家が使う難しい表現から離れて、自分の言葉でもっと考察を深める必要があったのではないだろうか。

 

 

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筧さん卒論:「食品小売業・外食産業における食品リサイクル法の現状と課題−リサイクルループ構築に向けて−」(指導教員高橋先生)を読んで

 

 「食品廃棄物」という言葉からは、業種別発生量について外食産業が大きな割合を占めると思っていたが、割合(9)を見ると、「食品製造業」が43%、外食産業は27%と意外な数字であった。また、3Rの概念が染みついているせいか、優先順位について「減量」「再使用」「リサイクル」を前提にしていたが、食品廃棄物の場合には「発生の抑制」「再生利用」「減量」(11)とのことでこのあたりが興味深かった。

 

 「ドギーバッグ」(食べ残しの持ち帰り)をめぐる日米の考え方の違いや保健所行政における課題なども面白かった。さらに、「リサイクルループ」(食品−飼料・堆肥−農産物)も魅力的なキーワードではあるものの、いかんせん事例をめぐる情報収集において現場に足を運んだ上での考察ではないために、あくまでも文献に依存した問題点の指摘(専門家のレベルではおそらく一般論)にとどまってしまった。検討した成功事例をヒントに他の事例へのモデル的導入案の提示がほしかったところである。

 

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閻さん卒論:「現代における日中両国女性のキャリア意識」(指導教員佐々木史郎先生)を読んで

 

 テーマとの関わりでいえば、アンケートではなくインタビューを行ったことで突破口が開けたといえるのではないだろうか。確かに国籍を超越した個人差をどう取り扱うかという限界はあるものの、対象者に思う存分語ってもらうことで、表面をさっと撫でるようなアンケートとは異なる知見を得られたことは確かであろう。

 

 読み進めるうちに意外にも質問内容にある種の迫力を感じた。それは普段、研究室の学生ともこれだけ突っ込んだ話のやりとりが意外と少ないからかもしれない。その意味では実に焦点の定まった論文ではある。インタビュ回答者においては「経済力」という用語が出てくる頻度が一番多かったことなど、それだけでも資料的価値はあるように思われる。

 

 しかし、一歩間違うと週刊・月刊雑誌の○○特集記事とどこが違うのかという危うさもある。社会科学領域における考察としては何かが決定的に足りない。確かにお国柄の違いが反映していると思えなくもないが、やはり個人差が大きいのではないだろうか。母親の影響が大きいというのは人類普遍の原則かもしれない。

 

 例えば、両国の「社会保障システム」「企業管理システム」の違いについて、この領域での具体的制度の違いを少しでも整理して提示できれば、最初の制度紹介や先行研究とうまくかみ合ったのではないだろうか。

 

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金子さん卒論「企業はなぜ国際協力NPOと連携するのか」(指導教員友松先生)を読んで

 

 NPOの財源ニーズが企業との結びつきを強めている点を、特定の研究者による説に依存し過ぎたきらいはあるものの、英文文献等の読み込みを通じて明確にしているのがよい。また、論文全体の章構成に無駄がなく簡潔な文章表現など非常にすっきりしている印象も受けた。日本の企業45社を対象とした調査に入っていくわけだが、残念なのはその手法である。電子メールや電話での取材を否定するつもりはない。

 

 しかし、一般論からいえば、回答する側としては、面接インタビューと比較して明らかにモチベーションというか本気度は低下してしまうものである。その結果、回答の質やこれを受けた考察・分析にはどうしても迫力を欠くことになる。確かに「支援型」「能力活用型」「協働型」といった分類など質問内容には工夫が見られるものの、やはり「座学」ではなく、若者特有のフットワークの軽さを生かした現地(企業)直接取材を敢行してほしかった。そこから見えてくるもの(知見)には別のものがあったはずである。

 

 考察(第3章)のところですら、お題目的な理念レベルの話の羅列に終始してしまった。しかし、「一世一代の大作業」に逃げずに正面から取り組んだことで、今後、ぜひ「企業で働く側の立場」から本テーマに関する問題意識を持ち続けてほしい。

 

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中村さん卒論「エコツーリズムと観光開発バーミヤンの文化遺産を事例に」(指導教員友松先生)を読んで

 

 プログラム一つを取っても「季節ごと」「解説素材の組み換え」「解説内容の発展」など、エコツーリズムが有する魅力、可能性、効果をめぐる射程の広さが伝わってくる。文化遺産についても同様なのであろう。

 

 注釈の文献にあった「文化遺産マネジメント」という用語も興味深い。バーミヤンが抱える諸課題についても文献上の指摘を良くまとめて整理してはいるものの、論文の中核(=エコーツーリズムと文化遺産との連結的考察)となるべき第3章における論の展開が質量とも脆弱なものとなってしまった。

 

 6つの諸アクター(地域住民・研究者・行政・旅行業者・観光客・NGO)間の連携モデル(ないしはその可能性)への具体的言及がないのが残念である。例えば、最後の「住民の主体性をかきたてるシステム作り」をめぐる中身の提案をしてほしかった。

 

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