2006年度副査担当の修士論文(4本)を読んで一言
中村祐司(2007年2月)
木舟さん論文「自治体国際協力事業におけるNGOとの協働ネットワーク―埼玉県の事例を中心にして―」を読んで
日本の自治体と途上国地域の間での協力事業をめぐるNGOを仲介者とするニーズ・リソース理論の設定には興味深いものがあった。しかし、途上国側のリソースへの言及はなく、事例研究の不徹底さ(理論倒れ)に課題が残った。
高井さん論文「新・
鋭敏な問題意識を持った長年の生活者にしか書けない渾身の論文。秀逸な国際交流活動の実践もなされている。しかし、社会科学領域の論文としては、理論枠組みの欠如など物足りなさも残った。ぜひ若者など異なる世代にも読み継がれてほしい洗練・凝縮された内容となっている。高井さんの修士論文全体→こちら
*中国における○○経済圏を取り扱った論文、を読んで
中国語の一次資料を果敢に日本語訳したことの意義はあるだろうし、対象とした地域に関心を有する日本人研究者などにとっては貴重な資料であろう。しかし、実質的な分析・考察がほとんどなされていない課題が残った。
呂さん論文:「退去強制と在日外国人の事件―国際人権法の視点から―」を読んで
丁寧に精緻に判例に当たった労が滲み出ている。自由権規約委員会の主張は正論かつ理念基準でもあり、国際基準と国家基準との齟齬は、個別事情の複雑さと相俟って回避できない状況が浮かび上がった。実効性や責任の渦中にはないからこそ、国家見解との違いが生じるのかもしれない。