武田祐也 修士論文「地方議会議員における採決行動の実証研究〜千葉県我孫子市議会『常設の住民投票条例制定を求める陳情書』をもとにして〜」を読んで

 

中村祐司

論旨以下のようである。

 

千葉県我孫子市議会と栃木県議会を対象に、議会内における議員の採決行動パターンをとくに陳情(無投票当選の場合の住民投票条例制定)に対する対応を中心に分析した。この陳情は市議会、県議会において不採択となったが、その理由は地方自治法上の解職請求という制度があり、それによって補完可能というものであった。

  

そこで、住民投票にかける案件を問わない常設型の住民投票条例の制定について、我孫子市議会に陳情を行った結果、今度は継続審査として取り扱われた。この間、市町村合併問題が論点として登場し、この陳情をめぐる議会での審議も合併をめぐる審議と合わせて行われることもあった。そして、033月議会において市長の方針転換もあり、陳情は採択されるに至った。

 

陳情採択をめぐる議員行動の特徴は以下の四点である。すなわち、@議員の採決意思の波及性、A議会内インフォーマルリーダーの存在、B継続審査の決定に見られる問題の先送り性、C法律や制度以上に重視される議会内慣習の存在、である。

 

こうしたことから、現状の地方議会は住民から離れた場所に存在していると言わざるを得ない。住民が積極的に関わっていけるような地方議会改革が必要とされる。

 

地方議会をめぐる一般論ではなく、事例研究として千葉県我孫子市議会を取り上げ、議事録の読み込みと分析、地方議員や首長とのインタビュ活動を積極的に行い、一住民の目線に立った地方議会改革を訴えたことは大いに評価できる。また、実際に住民投票条例制定の陳情活動を行う過程を通じて、そこから見えてきた地方議会特有のメカニズムを浮き彫りにしたことで、得てして理念論ないしはアンケート調査分析に終始しがちな従来の地方議会研究に風穴をあけた側面もある。しかし、残念なことに、全体的に間延びした記述表現や主張の展開の迂遠性が目立ち、議事録や研究会等の内容を単に追随的に表記しているのではないかと思わせる箇所も散見される。