地方行政論

 

「地域社会におけるシルバー人材センターの役割」

990107Y 梅村理恵子

背景

現在、世界的に出生率の低下と平均寿命の延長によって高齢化社会が進行している。特に日本は急速に高齢化が進行しており、人口に占める65歳以上の割合は2000年で17.2%であり、2050年には32.3%と推定されている。高齢化社会の進行に伴い、元気なうちは定年後も働きたいという中・高年者が増えており、その労働意欲を満たすような高齢者雇用の場の確保が大きな課題となる。栃木県雇用開発協会が1998年に行った意識調査でも、県内40〜59歳の労働者の約6割が、高齢期の就労に意欲的であることが分かったが、企業を対象にした調査では半数以上の企業が、労働能力の低下を理由に「65歳定年制」を10年以内に実施するのは困難だとしている。就労に意欲的な中年層の労働者の多くが、定年後の生活、特に経済的な不安を抱えており、経験が生かせれば現在の職場にこだわらない、という意見も多くある。厚生年金の支給が2001年より60歳から段階的に引き上げられることも不安要因の1つであると思われるが、このような現実に対し、‘元気なシルバー世代’をバックアップしている組織の1つに‘シルバー人材センター’がある。

 

注)1.厚生省大臣官房統計情報部「人口動態統計」より

 

シルバー人材センターの始まり

シルバー人材センターは、東京都で1975年に設立された「高齢者事業団」の前進で、国は、第4次雇用対策基本計画で示された基本方針に沿って、1980年から高齢者に対する任意的な就業機会を提供する団体を育成する自治体に対し、国庫補助を行うことになった。この国庫補助の対象になったのを契機に、それまで「高齢者事業団」に賛同して活動していた全国各地の団体が「シルバー人材センター」に統一され、事業が本格的に実施されることになった。その後、1986年に施行された「高年齢者等の雇用の安定などに関する法律」において、定年退職者等高年齢者の就業機会確保のため、必要な処置を講ずるよう努めることが、国及び自治体の責務として位置付けられ、シルバー人材センターは法的に認知され、全国各地でシルバー人材センターの設立が飛躍的に伸びることになった。さらに1996年には、同法に都道府県単位で事業を実施する「シルバー人材連合」に関する規定が設けられ、シルバー人材センターが設置されていない市町村でも、シルバー人材事業をくまなく展開できる法制度上の体制が整備された。1999年度末で、シルバー人材連合加入は1444団体、会員数は50万人を越えており、日本の自治体の5割弱となっている。シルバー人材センターは市町村や県、国等から補助金を交付され、活動を行っている。

 

注)2.常用雇用的な就業に限らず、多様な形態での就業機会が確保されるよう 努めるという方針

3.昭和46年法律第68号、昭和61年(1986年)施行

 

シルバー人材センターとは

シルバー人材センターは、高齢者が組織的に働くことを通じて、追加的収入を得ると共に、健康を保ち、生きがいを持って地域社会に貢献するという「自主・自立、共働・共助」の理念を基本とし、地域社会との相互交流・連携を目指す公共性・公益性の高い社団法人(公益法人)である。会員は定年退職等で引退過程にあるか又は引退後の健康で働く意欲と能力がある60歳以上の高齢者で、シルバー人材センターの趣旨に賛同するなら誰でも参加できる、地域に開かれた組織である。

 

シルバー人材センターの活動内容

シルバー人材センターは、地域社会に密着した臨時的・短期的な仕事を個人一般家庭や自治体、民間企業、官公庁等から引き受け(委託)、これを登録されている会員の希望や能力に応じて提供し、会員はそれに就業する(就業機会の確保・提供)、という受託事業を行う。そして仕事の発注者から仕事の代金を回収し、提供した仕事の内容と就業実績に応じて会員に配分金を支払う。仕事の発注者と会員に雇用関係はなく、一定の就業日数や収入を保証していない。また、高年者であることを配慮して、危険・有害な仕事は引き受けないなど、就業上の安全対策に取り組むとともに、雇用ではないため労働基準法・雇用保険法が適用されないので、万一の場合に備えて、会員は民間の損害保険−シルバー団体傷害保険・賠償責任保険等−に加入している。具体的な仕事には次のものがある。

・公民館のような公共施設の管理・駐車場の管理

・福祉・家事援助、交通整理などのサービス分野

・公園の清掃・除草・ポスター貼りなど屋内外の一般作業

・一般事務・受付事務・宛名書きなどの事務分野

・翻訳、学習教室、経理事務などの専門技術事務

・広報の配布、検針・集金など

・ふすま張り、大工工事、植木手入れ、和洋裁など技術を必要とする分野

仕事内容を見てみると、私たちの生活や地域社会に役立つ仕事、高齢者の経験と知識を生かした仕事など、幅広い。

実際にシルバー人材センターの会員として、JR宇都宮市駅東自転車駐輪場で管理業務をしている富田さん(70歳)にお話をうかがった。富田さんは退職後、急に手持ちぶさた状態になったことに不安を感じ、また健康のためにもと思い、シルバー人材センターを通じて働き始めた。1ヵ月に13日ほど、1日6〜7時間勤務している。朝6時から働くこともあって大変だけれど、現役の時のように同年配同士の競争もないし、接客業なので若い人とも交流があり、働くことに生きがいを感じるそうだ。体力を考えて、これからも働けるうちは働きたいとおっしゃっていた。若い人には負けないよ、と笑う姿に、元気なシルバー世代の一面を垣間見ることができた。

まとめとしての私の考え

高齢化の進行過程で、中・高年の労働者と雇用する側の意識の違いが明らな現実を知って、高齢化社会に向けた社会体制づくりの重要性を認識し、その中でも、以前、祖父が働いていたシルバー人材センターを調べてみた。シルバー人材センターが、現在のように国や地方自治体からの支援を受けるようになるまでの目覚しい進展には、社会の意識やニーズの強さが反映されていたように思う。日本の自治体の5割弱をカバーするシルバー人材センターのホームページは、非常に多くあったが、私が見た限りではそのほとんどが、組織の概要紹介と会員募集など事務的な事項で終わっており、実際に会員の声や会員自身によるホームページを載せているものは少なかった。多くの高齢者は、働く意欲の影に、自分の体力に一抹の不安を抱えていることと思う。そのような高齢者にとって最も知りたい情報は、実際に働いている同年輩の声ではないだろうか。ホームページを見る主な対象者が高齢者であるなら、字面だけでなく、会員の声に加え、作業時の写真をいれるなど、視覚的にもわかりやすくする必要があるのではないかと思う。シルバー人材センターの活動を見ると、まず注目すべきは法律上、会員と仕事発注者との間に雇用関係が結べないという点である。高齢者の安全を重視しているとは思うが、その会員の就労状況の曖昧さ故に、不適正な就労はないだろうか。例えば、シルバー人材センターが規定している「臨時的・短期的」な仕事が、その範囲を超えるような就労になっていたり、実態的に雇用の形態になりつつあるといった状況である。しかし逆に、「臨時的・短期的」就業範囲を緩和することによって、これまで行き届かなかったサービスを提供できたり、就業機会の拡大という効果も期待できると思う。ただし、いずれの場合も、雇用関係がない故に、労働基準法・雇用保険法が適用されないことが懸念される。私の見た限りでは、この点に関して、核心を突くような情報を見つけられなかった。

次に、事業の地域的な偏りはないかという点に注目する。日本の自治体の5割弱がシルバー人材事業を展開しているが、逆に見れば約4割の地域では、シルバー人材センターが未設置の状態にある。その約4割の地域でも都道府県単位のシルバー人材連合の設置により、事業展開が可能だというが、シルバー人材センターの理念や仕事内容の地域密着性から見ると、その事業展開には無理があるように思う。これからますます増加する地域の高齢者に対して、全国的に均衡のとれたサービスを提供できるように、未設置地域の設置が求められると思う。加えて、特に今後、会員にホワイトカラー層の増加が見込まれると思うが、そのような会員に対する事務系職種の幅を広げることも考えなくてはならない。具体的には、英会話・パソコン教室などによる教育や、NPO運営支援とか、社会経験を生かした学校教育への参加などがあげられる。

当初の、高齢者雇用の場の確保に注目して、シルバー人材センターの在り方をみると、生きがい重視のシルバー人材センターは、本格的な雇用機会ではなく、追加的収入を得るための、地域の多様なニーズに対応した就業機会を提供する、という位置づけである。この点では、高齢者の常用雇用を中心とした、本格的な雇用機会の確保を担う公共職業安定所や高齢者職業相談機関などとは、位置づけの点で区別して捉える必要がある事が分かった。シルバー人材センターが、地域性を強調するならば、それを活かして、地域の独自性を活かした取り組みに挑戦してみてはどうだろうか。例えば、北海道小樽市のシルバー人材センターでは、歴史的建造物や文化財が多いことを活かし、市内観光・名所案内をしているが、図書館や公民館などで、地域の伝統(舞踊・工芸品など)や昔話を伝えることもできるだろうし、地域のイベントへの参加など、延いては町おこしにつながる活動も考えられる。また、社会のニーズに対応した新しい分野への展開にも期待したいと思う。東京都府中市では、「一年草ケナフ」を利用してそれまで作っていた名刺やカレンダーの他に、新製品ケナフ障子紙の作成したり、洋服のリフォームをしたりと、資源の有効利用に取り組んでいる。全国的にまだまだ少ないが、介護保険制度によるサービスでは不十分な、高齢者の多様なニーズにこたえようと、ホームヘルパー養成研修を開いて、ヘルパー会員として活動するという取り組みも見られる。他に、地域の独り暮らしの高齢者を訪問して、高齢者による高齢者への支援を強めるなど、地域の環境問題や社会問題への解決に向けて取り組み、それらをその地域だけで終わらせずに、他のシルバー事業に活かせるよう、連携して意見交換を行う場も必要になる。地域の特性を生かした事業と、共通してできる新しい事業を模索する姿勢が大切だと思う。さらに、高齢者交流の場として、事業以外の活動の活発化によって、高齢者の生きがいも充実したものとなるだろう。

最後に、シルバー人材センター事業の円滑な運営には、今後とも国及び地方自治体からの支援が不可欠であるし、地域住民の理解と支援も重要である。これから多様化していくと思われる、地域のニーズに応えられるように、シルバー人材センターはその役割を担っていかなくてはならない。高齢化へ向けた高齢者自身の取り組みが、少しづつ動き始めている。

 

http://www.raifu.co.jp/ シルバー情報館

シルバー人材センターに関する情報や会員リンク集がある。その他、介護保険制度や年金、交流など、高齢者向けの情報が満載で、リンク集も充実している。

http://www.fsinet.or.jp/~fuchu-sc/index.htm 府中市シルバー人材センター

事業内容がわかりやすく、新事業の情報や写真も掲載されている。会員のホームページを見ることができる。