地方行政論

『介護保険制度の可能性』 990139u 田面木千香

 

 今年(2000年)の4月から新たに、介護保険制度がスタートした。来るべき本格的な高齢化社会に備え制定されたこの制度、私達若者には今すぐ関わってくる制度ではないせいか、一体どういうものなのか理解している人は少ないのではないだろうか。そこで私は、この介護保険制度の実態を明らかにすると共に、自治体の取り組みなどを基に今後に期待される制度の可能性を検証していこうと思う。

 

 

  1. 介護保険制度の概要

 1997年12月に国会で成立した介護保険法に基づいた中高年齢者向けの介護・支援サービス制度で、今年(2000年)4月からスタートした。この制度は、「介護に関する国民の不安に対応するため、介護を社会全体で支えること」を目指しており、

  1. 利用者が、自由にサービスを選択して利用できる仕組み
  2. 介護に関する福祉と医療のサービスを総合的・一体的に提供
  3. 画一的でなく、多様で効率的なサービスを提供
  4. 社会的入院の是正などにより、医療費の無駄を解消

といったことを可能にするためのものとされている。これは具体的にどういった仕組みで実現されていくものなのか。

 まず、介護保険制度案のポイントをここにまとめてみる。

 〇保険者;市町村(国、都道府県等のバックアップ)

  市町村に対する、国費による財政調整や要介護認定関係事務費の1/2相当額の交付を行う。

 〇被保険者(受給者);40歳以上の人が対象。このうち、

*@.65歳以上の人(第1号被保険者)、A.40〜64歳までの人のうち医療保険に加入している人(第2号被保険者)

*@.入浴、排泄、食事等の日常生活動作について介護を必要とする状態(要介護状態)にある、あるいは、A.虚弱な状態にあって要介護状態とならないために適切なサービスを受けることが必要な状態(要介護状態となるおそれのある状態)、また、40〜64歳までの人について、脳卒中、初老期痴呆など老化に伴って生じた要介護状態に対して保険給付が行われる。

 〇公費負担;給付費の1/2

 〇利用者負担;費用の1割。施設の場合の食事は利用者負担。

 〇保険料;・65歳以上の被保険者(第1号被保険者)

        年金保険者による特別徴収(天引き)。これが困難な人については市町村が徴収。

      ・40〜64歳の被保険者(第2号被保険者)

        医療保険者が徴収の上一括して納付し、全国プールしたものを市町村に配布。

 〇介護保険の給付内容

 【在宅に関する給付】

・訪問介護(ホームヘルプサービス)

・訪問入浴

・訪問介護

・訪問・通所によるリハビリテーション

・かかりつけ医の医学的管理等

・デイサービス

・短期入所サービス(ショートステイ)

・痴呆要介護者のためのグループホームにおける介護

・有料老人ホーム等における介護

・福祉用具の貸与及びその購入費の支給

・住宅改修費の支給

・居宅介護支援(ケアマネージメントサービス)

 【施設に関する給付】

・特別養護老人ホームへの入所

・老人保健施設への入所

・療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟その他の介護体制が整った施設への入院

 【市町村の独自給付】

・介護を必要とする方等に対する寝具洗濯・乾燥サービスなどの給付

・介護研修、介護をしている家族のリフレッシュを目的とする交流会、一人暮らし被保険 

 者のための配食サービス

 

 

2.介護保険制度下の現状

 前記した内容に基づいて介護保険制度が運営されているわけであるが、その運営主体となっているのは各地方自治体である。これには、介護保険制度の中で、運営基準に独自の判断を下せる「基準該当」という特例が認められており、法で定められた基本となるサービスの枠を超えて、高齢者により良いサービスを提供するための独自のサービスを行うことができる。これが前述した【市町村の独自給付】にあたるのだが、この【市町村の独自給付】の取り組みとして、栃木県壬生町と愛知県名古屋市の例を紹介する。
a.宅老所『のぞみホーム』への配慮…栃木県壬生町
 「宅老所」とは、民家を改造し、高齢者の自宅に近い環境で彼らの日帰り介護(デイサービス)と宿泊の両立をはかる施設のことである。ここでは、痴呆症などで自宅での生活が難しい高齢者に対し、特別養護老人ホームなどの大規模施設ではなかなか期待のできない、きめのこまかいサービスが可能となっている。このため、その小規模性と地域密着性から介護の理想系とも言われる。しかし、介護保険制度の施行により、『のぞみホーム』のような宅老所が指定事業者となるためには、宅老所機能に近い短期入所生活介護(ショートステイ)の20ベッド以上必要などの設置基準をクリアしなくてはならず、対象外となるケースが多い。対象外となるとコストがかさみ、負担が重くなるか、利用料に転嫁せざるをえない。また、デイサービス施設として行政から補助を受ける場合も目的外には使えないなど、介護保険制度導入により宅老所は、極めて厳しい状況にさらされることとなった。こうした実情を知った町は「現状を継続させたい」と検討に入った。
 介護保険の目指すものとして挙げられている「利用者が自由にサービスを選択して利用できる仕組み」。「出来れば、これまでの生活の延長線上でケアを受けたい」と願っている高齢者やその家族のためにも、「宅老所」のような施設に対して町民の需要を受け、早急な町の支援が期待されている。
b.なごやかヘルプ事業…愛知県名古屋市
 愛知県名古屋市では、在宅福祉の独自施策としてなごやかヘルプ事業というものを行っている。この事業は名古屋市社会福祉協議会が実施主体となっており、市内在住の高齢者世帯、障害者世帯、母子世帯等で日常生活を営むのに支障があるために家事や介護のサービスを必要とする世帯の人が、区役所の福祉部へサービス利用の申し込みをすると、両者話し合いの上で、介護や家事を行うためのなごやかスタッフ派遣のサービスを受けることが出来る、というものである。なごやかスタッフは、正規のホームヘルパーとボランティアの中間に位置するようなもので、社会福祉協議会に登録し、厚生省のホームヘルパー養成研修2級課程を受講、登録内容に該当する利用世帯がある時は利用者に対し、決められた内容の範囲でサービスを行い、時間給で報酬も受け取る。
 
 上記したような、“福祉・介護”問題に対する地方自治体独自の取り組みというのは、どの地方自治体でもおよそ積極的に行われており、“福祉・介護”というものが真剣に考えられている状況が受け取れる。しかし、どこも、取り組み実施日数がまだ浅いせいか、計画の詳細は把握できるものの成果の実態はつかめず、それぞれの事業なりが人々の間にまだ浸透しきっていない感を受ける。
 
 
 3.考察
 これまで、インターネットを使って“介護保険制度”の現状について調査してきたわけが、特筆すべきは、在宅福祉サービスと老人介護のための施設利用に関する分野の需要の大きさである。介護の必要な高齢者を抱えた家族が自分達だけの力で彼らの面倒をすべて見るのはほぼ不可能であり、そういった行為は家族にとって大きな負担となる。まして、痴呆を患っているような場合はなおさらである。このため、在宅福祉サービスや老人保健施設、特別養護老人ホームなどの施設での介護を求める声が大きくなってきている。しかし、実際は人手不足や施設数の不足で、満足のいくサービスが受けられなかったり、順番待ちをしてやっと施設に入所できるかできないかという状況である。今後も高齢者の数というのは増え続ける一方であるし、また、そういう状況に対処していくためにも早急な人員育成や施設整備が求められるであろう。また、今回取り上げた宅老所のような小規模、地域密着型の施設に対する利用者の高評価を受け、地方自治体の介護保健制度の基本枠を超えた理解と柔軟な対応が要求される。
 
参考文献及び参考ホームページ…
日本経済新聞 2000年(平成12年)12月14日(木曜日) 32面、『生活家庭』
 
http://www.niigata-inet.or.jp/fhit/kaigo/index.html
『FHIT』新潟県の福祉・保健・医療に関するトータルサポートウェブ。介護保健制度についての説明なども細かく説明されている。
 
http://www.mars.dti.ne.jp/%7Edoi
『介護保険制度ウォッチング』HPを制作している医師の介護保健制度についてなされている詳
細な分析。非常に学術的に分析されている。
 
http://www.01.u-page.so-net.ne.jp/fb3/nakauo-1/
『手作りの福祉を学んで行く会』特別養護老人ホームの職員によるHP。実際に介護に携わる人が作っているHPなので、現場の様子がわかって面白い。