地方行政論

「産業廃棄物不法投棄問題」 田島優子(k990136)

1.はじめに

 今、最も身近なところで深刻な環境問題が起こっている。それは都市部における「ゴミ問題」である。家庭や事業所からのゴミ排出量は増加する一方であり、ゴミをいかに減らし、処理をどのように行うかが地方自治体が早急に取り組むべき最重要課題の一つとなっている。私はこの「ゴミ問題」について、香川県豊島での産業廃棄物不法投棄問題の例を中心に、地方自治体と住民との関係に焦点を当て、現在そして未来の課題について考えたい。

2.豊島産業廃棄物不法投棄問題

 産業廃棄物が日々生み出され、管理型を中心とした最終処分場が各地で計画されている。廃棄物処分場問題全国ネットワークによると、産廃処分場をめぐる紛争は既設の処分場だけで約150か所前後、計画中では三百数十か所ある。それらの中から、近年、香川県豊島(瀬戸内海の東部、小豆島の西方3.7qの海上にあり、香川県土庄町に属する。)で起こった産業廃棄物の不法投棄問題(以下、「豊島問題」という。)について取り上げた。

()経過と現状

 豊島問題とは、香川県豊島の西側に、1978年から13年間にわたり悪質な事業者と香川県がその業者を擁護したことによって有害産業廃棄物が不法に投棄され、野焼きされた事件である。1990年に兵庫県警の摘発により操業を停止したが、あとには50万トンを越える有害産業廃棄物が放置され、ダイオキシンを含む有害物質が瀬戸内海に流れ続けている。

 豊島住民は1993年から国の公害調停を申請し、現在も調停作業が続いている。1995年に、香川県が「周辺環境に影響がない」と言い続けていた産廃投棄現場に公調委が入り調査した結果、香川県の説明する3倍近い廃棄物が埋まっており、しかも極めて有害でそこから瀬戸内海へ有害物質が流れ出しているという状況が明らかにされた(廃棄物中のダイオキシン最大値39000pg-TEQ/g、浸出水のダイオキシン最大値28000pg-TEQ/l 【参考】ダイオキシン環境基準値 土壌1.000pg-TEQ/g、水質1pg-TEQ/l)。今日現在、業者が摘発されてから10年の年月が経とうとしているが、周辺環境を守る工事等がなされることなく、今でも黒い浸出水が瀬戸内海を汚染している。

<浸出水分析結果>

有害物質名

最大超過率

超過率

260

100

砒素

1.9

8

PCB

26

54

1.3ジクロプノペン

270

8

ベンゼン

1400

15

SS

16

69

BOD

52.5

85

COD

23.7

100

大腸菌群数

4.3

15

n−ヘキサン抽出物

6

62

フェノール

1.7

8

3.6

62

亜鉛

6.4

62

溶解性鉄

2.9

54

溶解性マンガン

1.5

8

全窒素

8.6

100

※最大超過倍率…基準を最大値でどれだけ超えたかという数値。

 超過率…豊島で採取した検体の内、どれだけのものが基準を超えたかという数値。

()撤去に向けた対策

 1997年夏に香川県と豊島住民とが中間合意を結び、産廃撤去の方策を考える技術検討委員会が発足した。そこで協議された結果、豊島の産業廃棄物は溶融処理することによって無害化することが可能となり、全量が島外に撤去可能とする報告書が出された。またそれと同時に、産廃と海が接している部分に遮水壁を設け、汚染物質が海へ漏れ出すことを止める工事の仕様も明らかになった。香川県はその工事をするための予算を計上している。しかし何も環境を保全する対策がなされてはいないというのが、今日現在の状況である。

3.2に対する考察

 浸出水はいずれ地下水となり、海域へ流れ出しているのだから、この状態を察知しておきながら、10年以上放置し続けた行政の責任は大きいと思う。具体的に分かることは、現場に放置された産業廃棄物の総量、約50万トンのうち、、その70%余りが鉛について有害の判定基準を超過している。一部については、ベンゼン・PCB・1.3−ジクロロプロペンも有害の判定基準を超過している。廃棄物からの浸出水では、鉛が排水基準を超過、PCBが50%以上で超過、その他一部で1.3−ジクロロプロペン・ベンゼンが超過している。また、ダイオキシンについては、基準値は設けられていないものの、検査した全ての検体から検出、廃棄物のみならず、浸出水や海岸の底質、カキ(生物)等からも検出されているそうだ。その値は廃棄物・浸出水とも過去の環境庁の調査結果に比べて高く、カキは平成5年度の環境庁調査における貝類の数値よりも1桁ないし2桁高いという。

 その他、ホームページ(最後に記載)より、香川県の調査が一部浸出水をろ過してから分析を行ったり、本来の数値より低い数値が示されていることが明らかとなった。総量についても、現地実測は行わず事業者の帳簿や伝票の取引高から推計しただけのものだったという。さらにダイオキシンについては、何の根拠もないまま存在を否定していた。そして、香川県の指導のもと約1340トンの産業廃棄物が撤去されたが、その後は撤去も環境保全策も遅々として進まず、その一方で香川県は「周辺環境に影響を及ぼすおそれのあるものから撤去をすすめ、概ねこれらのものの撤去を終えた」として、独自の考え方に基づく調査の結果と共に公表を行ったのだ。現場に残る産業廃棄物の量については、約60万トンと推計する住民に対して16万トン余りであると公表したという。しかし、香川県は、知っていたのである。違法な事実を知っていながら有効な措置を実施をせず、事業者を擁護していたのである。この「廃棄物の認定の誤り」と「指導監督の怠り」の結果、豊島では日本で最大ともいわれる深刻な事態が起こった。香川県は行政としてしなければならないことがある。一つは、環境が汚染されているのならこれ以上汚染を広げないようにそして県民の生活環境を守るために対策をすることである。また同時に、将来にわたって危険のないように根本的な対策をしなければならないだろう。もう一つは、二度と同じ過ちが起こらないようにするために徹底的な原因解明をすることであると思う。

4.まとめ

 1960〜1970年代には日本中で公害が問題視された。その頃は、環境の汚染源である工場と、被害を受ける住民とが同じ地域のなかに共存していた。しかも加害者と被害者がはっきりと認識できる状態にあった。 環境の悪化を伴う地域社会活動について加害者・被害者共に当事者という認識のもとに問題解決をし、規制がかけられてきた。公害は克服されたかのように見られるが、排気や排水から有害物質を分離する技術が発達し、分離された有害物質は遠隔地へと運ばれるようになったのである。 有害物質の分離は、利益を受ける地域と被害を受ける地域とを分離してしまったのだと思う。また、広域処分には、確かに規模が大きく、単位あたりのコストは低下するというメリットがあるが、大きくなれば、一個人や一地域社会の及ばぬ問題となってしまうというデメリットもあると思う。廃棄物についていうならば、大型処分場を作ることで、被害者を一部に集中させ、加害者を広域化させ当事者としての意識が保たれなくなる。当事者どうしが共に問題の解決策にあたるという規模を越え、その責任が失われたとき、社会活動は一体どのようになってしまうのだろう。社会本来の目的を問い直すときではないだろうか。今後、廃棄物の問題が最も大きな社会問題の一つになることはすでに分かることであり、廃棄物の問題は、これからの大きな課題の一つである。責任を負うべきは誰であって、コストを支払うべきは誰なのか、を明確にする必要がある。

5.これからの課題

不法投棄は、それを行った産廃業者が得る利益よりもはるかに大きな社会的被害を与える。山中など人目につかない場所に投棄されると、なかなか分からないこともある。現在、その対策として、マニフェト(伝票)制度が導入され、その電子情報システムも進められているときいたことがある。同時に、産廃処分場建設は、立地予定周辺の住民の反対により、非常に困難である。この住民の反対は、地域エゴとか感情的と非難されることがある。しかし、彼らには十分に合理的な反対理由があると思う。産廃処分場建設において、直接の当事者は処分場建設者と予定地の地主である。しかし、処分場建設においては、関係ないはずの周辺住民が様々な悪影響を被る。外部に与える効果は、処分場立地の場合、周囲にとってマイナスの効果である。その一つは、まず環境汚染の可能性である。具体的には、管理型処分場については、遮水シートから汚水がしみでて、周辺の生活環境を悪化させるのではないかといった不安がもたれ、不安が大きければ、不安の原因となる行為が起こるのは当然であると思う。また、汚染物質は様々であり、法で規制されている廃棄物あるいはダイオキシンなど、現在注目されいる物質だけが健康や自然を害するわけではない。こういった現実の汚染と汚染の可能性への恐れが、処分場建設の反対する有力な理由になると、私は考える。また、悪臭の発生や、処分場建設、運営にともない大型車両の交通量が増え、交通渋滞や自己の可能性が増大するということもマイナスの可能性として考えられる。交通にかかわる問題は、施設建設などにおいて一般的に生じる問題であり、処分場固有のことではないが、立地反対の十分な理由になると思う。

豊島問題からわかるように、環境汚染問題は、問題が発生してからそれが対処すべき問題として公に知られるまでには、被害者にとってとても長い時間を必要とすることが多かった。これは住民にとって、処分場のリスクの評価を大きくし、汚染そのものからくるマイナスの外部性に加えて、かなり大きなマイナスの外部性を感じさせる要因になったのではないだろうか。

マイナスの外部性の克服は、直接的には廃棄物料金への賦課金を加え、必要資金をまかなう形が必要になると考える。総費用は、産廃処分場建設のための費用、利潤、処分場運営のための費用、歓呼由汚染対策のための費用、閉鎖後の措置のための費用、住民対策のための費用が挙げられると思う。このような経済的負担うを廃棄物処分料金に加えるに当たっては、地方公共団体、特に県の関与が必要であろう。なぜなら、産廃処分場の許可に関する権限は県がもっているからである。また、処分場に搬入される廃棄物の質、量が賦課の標準となるので、適正な賦課徴収を行えば、自動的に廃棄物の状況把握ができると考える。廃棄物処理は地域の環境、生活や産業のあり方に大きく関係していることから、これぞれの地域が独自に対策を創造することを支える政策へと転換していくことが求められているのではないだろうか。

 

《参考にしたホームページ》

http://www.jca.ax.apc.org/~naba/ 廃棄物問題市民活動センター

このホームページでは、廃棄物やダイオキシン、化学物質における問題を取り上げている市民団体、そしてそれらに関連した運動についての情報を発信している。

http://www.yomiuri.co/jp/osaka/monosiri/ms0305.htm よみうりものしりエース 現代情報整理箱

多岐にわたる分野において、現在、問題となっていることの情報が掲載されている。私はこの中の、産業廃棄物の処分場計画に対する住民投票についてのページを参考にした。

http://www.niji.or.jp/home/taru/kagawagomi/kagawagomi.html 香川県のゴミ問題

http://www4.justnet.ne.jp/~vet.kawada/ 豊島は私たちの問題ネットワーク

http://www.teshima.ne.jp/ 廃棄物対策豊島住民会議

これらのページは豊島でのゴミ問題をはじめとして、ごみ問題を取り上げられており、今現在行われている活動について詳しく載っているページもある。私はこれらの中から、豊島問題について不法投棄からその摘発そして現在に至る経路などを主に参考にした。