地方行政論

「複数市町村の連携によるまちおこし効果」

関谷 恵梨子(k990132)

 

自治省編集の『全国市町村要覧(平成8年度版)』によれば、国内では660ペアの姉妹都市、友好都市等の提携が結ばれている。その提携による実際の交流の内容は様々であるが、それらは、総じて行政の主導による年中行事的な交流イベントの開催、単な情報交換の関係に留まり、活動のマンネリ化に悩んでいる。

 

多くの姉妹/友好都市提携ペアの中から、特色あるまちづくりを目指し、同じ名前/共通点のある名前をきっかけとして提携を結び、それぞれのまちの活性化のため交流活動を行っている様子に注目した。次にその例をいくつか挙げることにする。

 

全国東和姉妹町(岩手県東和町、宮城県東和町、福島県東和町、山口県東和町)

昭和62年、山口県東和町の呼びかけで、同じ名前の町同士で交流を深めようと『全国東和町サミット』を開催し、翌年には姉妹町の盟約を締結した。ここから“東和(とうわ)”という同じ名前を持つ町の交流が始まった。

教育、文化、産業のより一層の活性化を図るため、それぞれのまちの特産品の販売や様々な交流を行っている。4町はそれぞれ豊かな自然と文化遺産に恵まれており、「通過型」から「滞在型」の観光地の建設、農村と都市との交流活動など地域活性化に向けたまちづくりを推進し、東京に4町共同の拠点を設置する(平成11年3月31日終了)などの活動を行ってきた。

昭和62年以来毎年各町の持ち回りで開催されている『全国東和町サミット』での交流は、情報と流通の新たなチャネルを活用した活動を展開している。サミット参加者は当初は首長レベルだったが、最近では婦人、青年代表まで広がってきている。女性の立場から地域づくりや地域福祉のあり方について問題提起をするなど女性を主とした構成で開催された第9回サミットが大盛況となり、ますますの発展を目指す。

 

同名八千代姉妹都市交流(茨城県八千代町、千葉県八千代市、兵庫県八千代町、広島県八千代町)

昭和61年に同じ名前が縁で姉妹都市提携を結んだ。以来、各自治体が持ち回りで幹事となり、スポーツ、文化、青年交流など、様々な交流を進めている。

「いつまでも八千代」と題して99年に兵庫県八千代町で開催された『同名八千代姉妹都市交流事業 紅葉まつり』に4自治体の市民・町民が参加した。開催式では前年の交流事業に参加した人達が再会を歓ぶ姿も見られた。

「同名八千代のためか、初対面とは思えない不思議な感じがした」、「わずか三日間のお付き合いでしたが親戚のような気分」、「次回もぜひ参加したい」という参加者の声からも市民交流による姉妹都市の絆の一層の強まりが期待されるものとなった。

 

全国吉田町(埼玉県吉田町、新潟県吉田町、静岡県吉田町、愛媛県吉田町、広島県吉田町、鹿児島県吉田町)

平成元年、愛媛県吉田町で全国の5つの吉田町が姉妹提携を結んだ。以来、産業、文化、教育における相互交流により、友好と親善を深めてきた。平成7年には静岡県吉田町も加わり、町の重点事業として一層の相互交流を行っている。

小学校5,6年生を相互派遣する“わんぱく親善大使”、“吉中生徒会スポーツ交流会”(以上2交流は新潟県吉田町⇔埼玉県吉田町)、全国吉田町女性大会、全国吉田町未来会議、教職員視察交流等の交流事業が行われている。しかし、全国吉田町未来会議及び女性大会については、意見交換などが会議の中心となるため、参加者が団体代表者などに特定されつつあるという問題が指摘されている。この問題の解決に公募による参加者の募集などが提案されている。

 

近年のインターネットの普及に伴い、ホームページを有する自治体が増加した。各市町村のホームページでは、それぞれのまちの概要、特色、見所などを紹介している。

姉妹/友好都市提携している市町村でもインターネットを活用しそれぞれのまちのホームページの連携によりその交流活動の様子を多くの人に知ってもらおうと試みている。

まほろば連邦

全国の“大和”の名を持つ12市町村が昭和63年連絡協議会を設立した。

「大和の国はまほろば 畳づく青垣 山籠れる大和しうるはし」と古事記に詠われた素晴らしい「まほろば」の意味を再認識し、ふるさと感の薄れた現代人に、人々の「まほろば」となるくにづくりを進めることを目的とした。

毎年12市町村の持ち回りで開催される「まほろばサミット」では、首長、議長が一同に集まり、テーマに沿ってそれぞれの行政施策の紹介や意見交換を行っている。

神奈川県大和市役所HP http://www.city.yamato.kanagawa.jp/

神奈川県大和市役所ホームページ内に「まほろば連邦」のページが設けられている。まほろばサミットの概要、会議の内容、まほろば連邦憲章など活動の内容がわかりやすく示されている。各連邦加盟市町村のホームページへのリンクがなされている。

 

ドラゴンサミット

秋田県八竜町の呼びかけで全国の“竜”、“龍”のつく市町村が、昭和63年の辰年以来、“りゅう”の縁のもと首長等が一堂に集いドラゴンサミットを開催している。サミットでは友好連帯を深め、情報交換を通じてまちづくりに生かすことを目的としている。

秋田県八竜町役場HP http://www.shirakami.or.jp/^hachiryu/

茨城県龍ヶ崎市HP http://www.net-ibaraki.ne.jp/ryugasaki/

それぞれの市町村のHP内に「ドラゴンサミット」のページが設けられている。これまでのサミットの開催テーマ、加盟市町村のまちづくりテーマなどが紹介されている。

まほろば連邦HPドラゴンサミットHPともに日本地図を示し、そこに加盟市町村を書き込みその位置関係をわかりやすく示している。それまで知らなかったまちの名前を知り、そのまちがある場所も同時に知ることが出来るし、そのまちに対するイメージも広がる。その地方をよく知らないために間違ったイメージを抱かれることも少なくないかもしれないが、「実はこんなまちだったのか」と見ている人に思わせ、新たなイメージを創り出せるようなホームページを公開することでインターネット活用の本当の効果が現れてくるのではないだろうか。

インターネットを活用する人達が増えている中で、ホームページを利用して、互いのまちを紹介しあうことは他の地域の人への知名度を上げ、行ってみたいと思わせるということに関して効果が上がっているのではないかと思う。 

 

上に挙げたようなこれらの姉妹/友好都市提携に基づくまちおこしの活動は提携市町村同士の交流活動を主とした互いのまちの活性化を目指し、それぞれのまちの明るい将来を考える活動である。しかし、その交流は単なる情報交換の域を出ないものであるように感じた。

サミットやシンポジウムは、それぞれの近況報告、意見交換の場として各市町村の持ち回りで、参加者の幅を広げるなどの工夫をしながら開催されてはいるが、話し合われたこともその場限りのものとなりがちなようである。その実質的効果というものはなかなかあらわれていない。例えば、同じような大都市から離れた地方のまち同士が同じ名前が縁で、どちらも過疎化が問題だから一緒に頑張ろうと言っても、そこでのサミットは互いの問題提起と励ましあい、ただの傷のなめ合いの場に留まってしまうという傾向が見られる。

“交流のための交流”となってしまいがちな現在の活動はその方法や内容の検討が必要であるという意見も多く出ている。

 

姉妹都市提携のきっかけは“同じ○○”や“共通の○○”(○○=名前、歴史、伝説など)を有するまち同士というものがほとんどである。しかし、「同じ名前の縁だ。一緒に頑張りましょう。」というだけで結ばれた姉妹都市提携は、それぞれのまちにとって有効に働くものであるといえるだろうか。

では、姉妹都市提携の条件として重要なものは何であろうか。それは互いにそれぞれのまちが持っていないものを持っていること、そして、それを利用して相互にメリットを提供しあえるということであると考える。

次のようなまち同士の提携は有効であるといえるだろうか。

@どちらも提供できるものを持っていない/同じ物しか持っていないまち同士

例:どちらも“自然が豊か”がうりのまち同士。

A片方のまちにしかメリットがないまち同士

例:寒い地方のまちと暖かい地方のまちの提携。寒い地方の人は暖かいまちには何度も行きたいとは思っても、暖かい地方の人が寒いところにいきたいと思うのは一回限りではないだろうか。(いくら雪があってもそこにスキー場などが無ければそれほど魅力はないのではないか。)

B何でも持っているまちと何もないまちの提携。

例:都市に近く交通の便の良い自然の豊かなまちと地方の自然の豊かなまち。同じ名前の縁だから提携してみたが、片方のまちにしか人の行き来がない。

これらの提携は有効であるとはいえないはずである。提携しているからには何か交流が無くてはと交流事業を開催すれば、財政にも負担はかかる。その負担が提携によるまちの活性化で還元されればよい提携といえるが、片方のまちしか潤わないならその提携は失敗だったということになるだろう。こっちのまちにはこんなおいしい物があって、こっちのまちにはここでしかできない物があるというまち同士なら相互の人の行き来も多くなり、その交流活動にほかの地域からの関心も高くなるだろう。

 

提携都市同士相互の活性化、と同時に他の地域からの関心も高くなるように提携自治体が共同で出来る方法にはどのようなものが考えられるだろうか。

それまで興味も無かったまちに対して、最も人々が関心を持つものとして考えられるのは“食”ということではないだろうか。ふるさと即売会のようなものを開催した時も、最も賑わうコーナーはそのまち特産の“食べ物”だろう。

ドラゴンサミットで考えるなら秋田県八竜町はメロン、熊本県竜北町はフルーツがまちの特産品である。他の地域にもメロンやフルーツを特産としているまちは多いかもしれない。しかしそれを単独で宣伝するよりは、提携を利用して互いのまちでアピールをすることで、相互の注文が増加し、大都市圏でも興味を持つ人が増えて注文などが増えるということにつながるのではないだろうか。

東和姉妹町においても岩手・宮城・福島の3つの東和町では、有機栽培の米をうりものとしている。各町の農業後継者は東京都小平市JA菅内の農家を視察し、情報交換会を実施している。参加者は土地の有効利用や直売などの経営面のノウハウから、都市農業の経営、形態を学んでいる。必ずしも、違うものをうりにしなくても、同じ農産物に関して互いにそれぞれが持っている技術を交換し、協力しあいながら、生産を高めあい、出荷も違う都市圏におこなったりすることで、競争もしながら各町が活性化しあえる。

この農産物を利用して都市圏からの注文や人の来訪を増すためには宣伝活動は勿論重要だが、そのまえに、より品質の高い、味の保証された作物の生産が当然なくてはならない。都市圏で生産される手軽に手に入る安くておいしいもので十分というひとたちが、ちょっと手間は掛かるけれどすごくおいしいからこのまちから取り寄せて食べたいと考えるようになってくれなければ意味が無い。

品質向上のための技術も連携自治体同士、情報交換によって協力、競争しながら高め合っていくことが出来るはずである。その情報交換のために、農業後継者の視察という形での学習は多くのまちが実施している。しかし、“行って、見て、帰ってくる”だけではなかなか実践のためには十分ではないというのが実状のようである。それこそ、“交流のための交流”となってしまうことも多いようだ。

そこで、「滞在型体験学習」ということを提案したい。実際に相手のまちで、自らが体験しながら学習することで、じぶんのまちが持っていなかった物を吸収して持ち帰ることができる。視察よりも滞在時間も余裕を持つことができ、じっくりと必要なものを学習して帰ることが可能になる。互いに持っていなかった技術の交換により、農業生産を高めることが出来るのだ。また、人の行き来も増えることでまちの活気も高まり、提携市町村同士相互の活性化の成功への道が見えてくるのではないだろうか。そのためには、それぞれのまちの行政だけでなく農業生産者たちの協力は不可欠のものとなる。行政間の連携だけでなく市民一人一人が交流、連携のノウハウを学び、より気軽に参加しうる活動をかんがえなくてはならない。

また、この「滞在型体験学習」は、農業生産者だけにととまらず、小中学校などの研修旅行、修学旅行の一環としても有効に実施できるだろう。複数市町村の協調の在り方を学ぶということよりも、まちの行き来により若い世代のふるさと感を育て、自分のまちの魅力を再発見することができる体験になるのではないだろうか。まちの魅力に気付き、その魅力を効果的にを育てていくことの出来る後継者たちの育成もまちの活性化には重要なことである。

姉妹/友好都市提携においていっしょに祭を開催したりするだけの交流関係にとどまっていては、そこには、何も新たな価値が生まれることはない。それぞれのまちが互いの違いを活かし、自分のまちの魅力を積極的に出しながら、お互いを高めあっていくことができるのが、ほんとうに有効な姉妹/友好都市の関係ではないだろうか。

 

(参考ホームページ)

“カップルタウン”に関するホームページhttp://www.nla.go.jp/daisei/couple/couple.htm

姉妹には血のつながりはあるが子どもは産まれない。カップルタウンは従来の姉妹都市とは違い、いわば、夫婦であり新たな価値(子ども)を創造していく真のパートナーである。このHPでは、新たな市町村連携の活動と、それに直接関わる人たちへのアンケート調査からその生の声を知ることが出来る。