入所待機児童問題
保育所に入れない子供たち
国際学部国際社会学科
990128A佐藤 美和
保育園に入園を希望したのに入れない子供たちがいる。これが「入所待機児童」である。保育問題は社会において非常に重要な問題である。これは少子高齢化・女性問題・労働市場・福祉などと密接に関わり合い、将来に大きく影響を与えうるからだ。保育の実状にはかなり地域差がある。それはひとつに都会と地方では家庭のあり方や生活スタイルに大きな差があるからだろう。子育てに対する市民の要望に応えるため、中心的役割を担うのは保育所だが、これに対して施策を総合的に調整するのは、地域の実状を把握する地方自治体である。女性を中心にライフスタイルが多様化する昨今、政府は育児に対してどこまで家庭と責任をシェアできるのか。ここで、その現状を取り上げてみようと思う。
入所待機児童についてのデータ
保育所入所待機児童数
|
10年待機 |
受入・供給増減 |
需要増等 |
11年待機 |
待機増減 |
低年齢児(0〜2歳) |
25,601人 |
+22,643人 |
+18,153人 |
21,111人 |
△4,490人 |
うち0歳児 |
6,479 |
3,820 |
1,788 |
4,447 |
△2,032 |
3歳以上児 |
13,944 |
22,368 |
19,538 |
11,114 |
△2,830 |
全年齢児計 |
39,545 |
45,011 |
37,691 |
32,225 |
△7,320 |
待機児童数が減少した市区町村は
481(14.8%)、うち待機を解消した市区町村が239 (7.3%)。待機児童数が増加した市区町村は
324(10.0%)、うち新たに待機が発生した市区町村が164(5.0%)。保育所入所待機率
|
11年入所 |
11年待機 |
11年待機率 |
10年入所 |
10年待機 |
10年待機率 |
低年齢児(0〜2歳) |
503,163人 |
21,111人 |
4.20% |
480,520人 |
25,601人 |
5.30% |
うち0歳児 |
62,882 |
4,447 |
7.1 |
59,062 |
6,479 |
11 |
3歳以上児 |
1,233,118 |
11,114 |
0.9 |
1,210,750 |
13,944 |
1.2 |
全年齢児計 |
1,736,281 |
32,225 |
1.9 |
1,691,270 |
39,545 |
2.3 |
前年齢児の入所待機児童数の多い市区町村
順位 |
市(県) |
待機児数 |
前年 |
1 |
横浜市(神奈川県) |
1,629人 |
1 |
2 |
川崎市(神奈川県) |
1,409人 |
7 |
3 |
大阪市(大阪府) |
1,109人 |
2 |
4 |
足立区(東京都) |
901人 |
8 |
5 |
名古屋市(愛知県) |
739人 |
14 |
6 |
堺市(大阪府) |
706人 |
5 |
7 |
岡山市(岡山県) |
616人 |
11 |
8 |
京都市(京都府) |
597人 |
6 |
9 |
神戸市(兵庫県) |
570人 |
19 |
10 |
仙台市(宮城県) |
569人 |
16 |
厚生省ホームページ 報道発表資料 児童家庭局 保育所の入所待機児童数について
http://www.mhw.go.jp/houdou/1111/h1118-1_18.html
以上は、厚生省が
12月1日に発表したホームページ上のデータを一部抜粋したものである。しかし、この厚生省のページは入所待機児童問題の問題点をきちんと捉えられるような十分なデータにはなっていない。入所待機児童問題は単に都会のような人工集中区と郊外部との人口差、及び保育所の不足のみによるものではないからだ。保育所には「認可保育所」と「無認可保育所」がある。認可保育所には、地方自治体が運営する公立保育所と自治体の認可を受けて社会福祉法人が運営する私立保育園の二つがある。これらは、かつて「措置費」と呼ばれた政府からの補助金で基本的に運営されている。政府の保育政策は矛盾と非合理に凝り固まっている。現代の日本では、家庭のスタイルは実際共働きの核家族型にほぼ変わりつつある。にもかかわらず、地域の認可保育所は1日8時間しか子供を預けられない。幼稚園にいたっては1日4時間なので、保育所の需要をますます引き上げる原因となる。よって、運営時間も長くサービスの比較的整っている無認可保育所への入所を希望する人が多くなる。しかし、無認可保育所も数が十分にあるわけでなく、やむなく公立にするか、または私立保育所への来年度入所に待機するような形になる。前者の場合、一般的な具体例をいうと、公立に妥協しても公立では子供を預けられる時間も短く、働いている両親は
4時間で迎えに行くわけにもいかず、帰宅まで親戚や知り合いに預かってもらうなどの面倒なことになる。または、そのために育児休業をとったり、または仕事を辞めなければならなかったりする。この場合、やはり多くは女性がその犠牲となる。つまりは、この問題は女性の社会進出にも関わってくることになる。後者の場合も、保育所に入れなかった子供の面倒を日中みるために、同じような犠牲を払わなければならない。このように入所待機児童問題は、市民の需要に政府が対応しきれていないことによるものであり、それも、単に量的な問題だけでなく、保育サービスの質的な内容に関わるものである。無認可保育所は、多用なサービスを提供しているが、その分認可保育所に比べ割高である。公立には所得税額に応じた応能負担の段階もある。政府も無認可保育所のサービスを習って、少しずつ市民の需要に正確に応えなければならない。現代の市民が必要としている保育サービスは保育時間の延長、障害児保育、産休・育旧明け入所予約制、低年齢児保育促進、入所時期の柔軟化などである。これらは、現時点では、障害児保育を除いてほとんどが民営つまり無認可保育所の方が実施状況は大幅に上回っている。厚生省は、入所待機児童問題の真の原因を私たちが明確に理解できる情報公開のためには、上にあったようなデータには認可・無認可、公立・私立などの細かい区分をつけるべきだと私は考える。いまや、親が働いている、いないに関わらず保育の必要性は高まっており、その内容も多岐にわたっている。にもかかわらず、保育予算の据え置き、削減による保育施策の遅れは、多様化する女性労働、地域の保育ニーズとの間でミスマッチを生じ、出生率の低下を招く多きな要因になりうる。いや、なったと言える。毎年下がり続ける出生率、高齢化の大きな原因である少子化にそろそろ政府も危機感を持ち、制度の見直しとそのための財源確保に踏み出すべきである。にしても、遅すぎる出発になる。入所待機児童問題は、福祉国家としての日本の立ち遅れを痛感させる問題である。