市民生活に密着した行政の実現―地域情報化を通して―
国際社会学科2年990127C
佐藤美佐子
地方自治体は、市民にとって最も身近な行政機関であり、その政策は市民生活に直接関わってくる。しかし、行政に対する市民の関心はあまり高くはない。行政の実態が分かりにくく、行政が市民のニーズに応えているとは言えない、そのために行政との距離を感じるからではないだろうか。現在、情報化の必要性が高まっているが、地域情報化を進めていくことにより、より市民生活に密着した行政を実現することができるのではないだろうか。このような視点から、自治体による地域情報化について考えてみたいと思う。
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.情報化の必要性情報通信技術の急速な進展、普及は一般市民の生活だけではなく、行政へも大きな影響を及ぼしてきている。情報通信は、今後さらに社会に根づいていくものと予想され、自治体による情報化は、市民生活の質的向上を図る上で不可欠だと言える。
地方自治体における情報化の取り組みの現状は、各自治体によって異なっている。自治体の規模、情報化施策の優先度の認識、財政面などで違いがあるためだ。しかし、IT基本法が成立し、政府は今後情報化をさらに進めていくという方針を出しており、高度情報通信社会を実現させるためには地域情報化を促進させる必要がある。つまり、情報化を進めていくことが、今後の自治体の課題だと言える。
地域情報化の目的は、簡便性の追求だけではなく、市民生活の向上にあると思う。自治体による行政も、最終的な目標はそこにあるはずだ。情報通信が、行政運営の効率化だけでなく、市民生活の向上にも有効なものとなることは間違いない。よって自治体は、情報通信の有用性、情報化の必要性を改めて見直し、情報化の担い手の一つとして積極的に取り組んでいくべきだ。
情報化の推進していくには、それができる環境がなければならない。ここでは、情報化のために必要な2つの基本的な環境整備について述べたいと思う。
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1)自治体の電子化情報化を推進するに当たってはまず、「自治体の電子化」が必要だ。自治体自身が庁内の情報通信基盤を整備して行政の情報化を図り、その上で各種証明書の発行、申請・届け出などの行政手続きを、インターネットを通じてオンラインで行える環境を整備することが望まれる。そして、情報公開や情報提供を積極的に行い、行政の側から市民に近づいていくという姿勢を示すことも重要だと思う。行政の情報化によって可能になる効率的な行政サービスは、市民の利便性を向上させる。そしてそれは、市民と行政との距離を縮めるためには有効だと思われる。
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2)情報基盤の整備次に、自治体は「情報基盤の整備」を図らなければならない。行政がどんなに情報化を図っても、市民が利用できなければ意味はない。よって、市民がインターネットを利用できる環境を整えなければならない。公共施設や学校などへのパソコンの設置、光ファイバの整備などが考えられる。また、「情報格差」にも配慮しなければならない。情報通信基盤の偏在という格差だけではなく、情報通信手段の高度化に対応できない人たち(高齢者や障害者など)の出現が現在問題となっている。このような格差を解消するために、情報教育を行ったり、高齢者や障害者にも利用可能な情報通信機器を自治体、そして民間企業などが提供したりすることが必要だ。環境の整備は、市民の誰もがインターネットにアクセスし、情報を生活に活かしていくため、情報化を地域に広めていくためには欠かせないものだ。
ここでは、基本的な環境を整えた上で、さらに進んだ情報化を推進している自治体を取り上げたいと思う。
市川市は、行政サービスの向上を図ることを目的に、『
360+5情報サポート』サービスを行っている。このサービスは、「市民の誰もが、どこからでも(360°)、いつでも(360+5=365日)、市の行政サービスを受けられるように、ということを目指して」始められた。最も注目すべき点は、このサービスにコンビニエンスストアの情報端末を利用している点だ。公共施設やインターネットのホームページでも利用できるが、首都圏、南関東地域のコンビニで利用できるため、非常に便利なサービスだ。このサービスでは、@施設の予約申請・予約確認、A行政情報の検索や問い合わせ、Bボランティア情報の収集・発信、C福祉に関する情報の検索、D子育てに関する情報の収集や相談、E大気の状況などの環境情報の提供、が行われている。コンビニとの連携は、情報化において新しい取り組みだといえる。この連携によって、コンビニは新たな情報サービスステーションとして、市民の利用の増加を期待することができ、行政は低いコストでサービスの提供の場を広げることができるということで、お互いにメリットがある。
市川市のこのサービスは、市民の利便性を向上させるにはとても有効だ。今後は、他の行政手続きにも利用できるようにすることにより、「開かれた行政の実現」が可能になるだろう。市民生活に必要な情報を、本当に「いつでも」「どこでも」入手できるシステムは、他の自治体でも取り入れる価値はあると思う。
大和市は、「市民と行政との情報交流」を目的にインターネットを利用している。ホームページを有効に活用し、行政情報の積極的な公開、即時性のある情報提供を行っている。大和市の情報化で注目すべき点は、市民参加システムが構築され、実際に機能している点だ。条例案作りや計画策定などの政策形成過程に、電子メールや電子会議室を利用して市民参加を実現してきた。また、「どこでもコミュニティ」というシステムにより、市民からの情報や要望が行政組織に電子メールで送られる体制ができており、市民と行政との情報交流が活発に行われている。
もちろん、情報交流に必要な環境の設備も行っている。子供たちへの情報教育、公共施設への端末の設置、自治体職員の研修・相互の情報共有などだ。これにより、いかに「情報交流」を重視しているかがわかる。単なる情報提供や、行政サービスの充実を図るだけではなく、情報化の推進によって市民参加型自治を図っているという点が、大和市と他の多くの自治体との違いだと言える。
大和市のは、市民の意見を行政運営に取り入れ、市民の立場に立って情報化を行っている。市民の視点に立っているとは言えない自治体もある中で、市民のニーズに応えていき、市民参加による自治を実現しようという姿勢、そして充実したホームページとその活用方法は、他の自治体も見習って欲しいと思う。
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.地域情報化のこれから市川市も大和市も、市民の立場に立った情報化を進めている。自治体には、この視点が何よりも必要だ。前にも述べたように、市民生活の質的向上を実現させることが、自治体の重要課題だ。ただ、本当の意味での市民生活の向上を図るために、市川市や大和市に限らず、どの自治体も、市民生活に密接に関わる分野での情報化にも力を入れていく必要があると思う。例えば、@保険・医療・福祉サービスの充実、A防災体制の強化、Bごみ・廃棄物処理の改善、というような分野への情報通信の利用だ。これらの充実も、非常に大切であり、自治体による情報化にはいくつもの課題があるということが言える。
その課題を解決していくためにも、他の自治体に学ぼうとすることも必要だと思う。積極的に情報化に取り組んでいる自治体を参考にして自分達も取り組んでみるというのも、情報化の進め方の一つだと思う。現在は、大和市のようにホームページを通して自治体と意見交換ができるというシステムはまだ少ない。インターネットよりも直接聞いたり、電話やFAXのほうが早いかもしれない。しかし、情報化が進むにつれてインターネットの重要性は高まるはずだ。市民と自治体だけでなく、自治体同士、自治体と民間企業による情報交換も必要だと思う。他の自治体や民間企業と連携したほうが、より効率よく情報化を推進できるのではないかと思う。そこに、即時性、双方向性という特徴を持ったインターネットを活用していくことも考えられると思う。ホームページの充実は、市民のためにも必要なことでもある。よって、自治体はホームページな内容を充実したり、ホームページを利用して意見を交換し合える体制を作ることも考えるべきではないだろうか。
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.終わりに地域情報化を推進するに当たって、何に重点を置くかは各自治体によって変わってくる。しかし、いずれにしても、市民生活の質的向上という目的を持って進めて欲しい。行政と市民の距離を縮めるには、行政からの積極的なアピールが必要だと思う。情報化を通して、行政が市民のニーズに目を向け、より良い地域社会を築いていこうとする姿勢を見せることで、市民も行政に関心を寄せ、協力しようとするかもしれない。よって、自治体による情報化は、単に社会を高度化していくためだけでなく、市民に密着した行政を実現させるために行われていくべきだと思う。
・IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針(自治省)
http://www.mha.go.jp/news/000828.html#00地方自治体が情報化を推進していくに当たっての課題、自治体が取り組
むべき事項などが述べられている。中央政府が求める、自治体における
情報化のあるべき姿がわかる。
・市川市:市川シティネット
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/
千葉県市川市の公式ホームページ。市川市の情報化についてはもちろん、
市川市に関する情報が得られる。
・大和市:大和市役所ホームページ
http://www.city.yamato.kanagawa.jp/index.html
神奈川県大和市の公式ホームページ。情報量が多く、幅広く、かつ詳細
な情報が得られる。自治体のホームページの手本としても良いと言える
のではないだろうか。