地方行政論レポート
「地方分権による地方自治体の将来」
〜市町村改革と都道府県改革を例に〜
990123A 小島 周一郎
1.はじめに
1997年、民間人の学者や経済界、労働界などの代表による行政改革会議は中央省庁を現在の1府21省庁体制から1府12省庁にする答申を行った。それが2001年1月に実施される。これにより日本の将来はどうなっていくのだろうか。今回は様々な改革の分野からから地方分権に絞り、地方分権を進めることにより地方自治体はどのような形になっていくのか。具体的には今後の市町村、都道府県はどうなっていくのかを分析したいと思う。
2.地方分権における国(中央政府)の推進状況
1995年に地方分権推進法が成立し、議論の段階から実行の段階へ入った地方分権の推進は、明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」とも位置付けることができる。地方分権の具体的な推進方策については、地方分権推進委員会において、調査審議が進められ、4次にわたる勧告が内閣総理大臣に提出された。政府は、地方分権推進委員会の勧告により、下のような地方分権推進計画を1998年閣議決定し、地方分権の推進に総合的かつ計画的に取り組んでいこうとしている。
(1)機関委任事務制度の廃止
(2)地方公共団体に対する関与の新たなルール
(3)権限委譲の推進
(4)必置規制の見直し
(5)国庫補助負担金の整理合理化と地方税財源の充実確保
(6)都道府県と市町村の新しい関係
(7)地方公共団体の行政体制の整備・確立
また、1999年7月には国と地方の対等な関係を目指す地方分権一括法が成立した。この法律は地方自治法、都市計画法などを改正する500余りの関連法であり、前述の地方分権推進計画を踏まえ地方自治体が今まで国の下部機関と位置付けられてきた機関委任事務を廃止し、国の役割を法に基づいて自治体が引き受ける「法定受託事務」と自主的な裁量に任せる「自治事務」に振り分けた。また、助言又は勧告、協議、是正の要求など国の自治体への関与の仕方を法に定め、通達を廃止した。これらは2000年4月からはじめられている。
これらの地方分権の推進により、地域住民が自主的にまちづくりなどの仕事を決めることができるようになったり、国・都道府県・市町村のそれぞれに役割と責任の範囲が明確となることで、行政の責任逃れが出来なくなる。また、国の画一的な基準や各省庁ごとの「縦割り行政」にしばられず、地域の実情やニーズに適った個性的で多様な行政を展開することができるようになる。そして、国の地方自治体に対する手続き、関与等が必要最小限のものとなり、労力・経費等が節減されるとともに、住民にとっても事務処理手続きが簡素化されることが可能になるだろう。
参考 自治省ホームページ
3.市町村改革
現在地方分権を行うにあたり問題となるのは、「受け皿論」という問題が出てくる。「受け皿論」とは地方には分権の受け皿となるべき力が育っていないので、市町村を合併することにより規模を大きくするということ考えである。つまり、3200余りの市町村が乱立している現在の区分ではあまりに細分化されていて地方分権の効果が得られないということである。下図からみても最近では市町村合併が進展していなく市町村が乱立していることが分かる。「受け皿論」を克服すること、つまり市町村合併を進めることで、あらゆる場所に行っても文化会館、公営体育館や宿泊施設がある無駄な状況の効率化が可能になる。また、何をするにも歩いていた時代から車社会となり地域住民の生活圏も広くなったのは確かである。このため、市町村の範囲を広くしても支障はないだろう。また、小さな市町村では財政力、企画立案能力に乏しい状況の改善も図れる。これらの状況を踏まえ、市町村の区画を現在よりも広くするべきという市町村合併の考えが大きな意見になりつつある。
ただ、この市町村合併にも様々な問題が存在する。市町村合併により先程の文化会館などの効率化は行えるが、そもそも行政改革の目的は費用の削減だけではなく、民主主義の実現という大事な側面がある状況から、自治体があまりに小さくてはそれはそれで問題ではあるが、逆に大きくなれば地域住民との距離はそれだけ遠くなってしまう。果たしてそこに住む地域住民の意見を十分汲み取ることが出来るのかという大きな問題が残る。乱立する地方自治体を合併し大きな自治体を単に作るのではなく、その大きくなった自治体の中でさらに分権を行う必要が起こってしまう。これでは地方自治体が中央集権になってしまう問題点を含有しているのだ。これを防ぐ方法として、自治体(町内会)や学校にある程度の裁量を認めたりすることで克服することが出来る。その他の問題点としては、市町村合併によりその地域の首長や議員の数が減る事に対しての反発も起きている。
市町村合併はこのように山あり谷ありの長い道程がこれから待ち受けている。実際妥協的な方策として、自治体そのものを大きくしないで近隣の自治体と水道、下水道などのインフラ整備や救急、消防そして医療の分野などにおいて、広域連合を作り、実施している自治体が増加している。この考えは、それぞれの事業に参加する自治体が異なってもいいという事である。つまり、ゴミ問題に対してはA自治体と協力するが介護問題についてはB自治体と協力するという事である。また、1997年の地方分権推進委員会の勧告の中にも市町村合併が中々進まない(平成以降13件のみ)ので、住民投票によって合併を促進させたり、財政的な優遇を行うことを明記している。
ただ、重要なことは合併による効果をきちんと把握して行う必要がある。小さな自治体が隣の大きな自治体と吸収合併することで楽しようという合併や地方交付税が減額されないように人口を維持するための合併−住民無視の合併は必要ないのである。むしろ地域住民が本当に得をする合併が必要であり、住民の意見に耳を傾け地域が望む合併ならばどんどん進めるべきである。
(自治省ホームページを参考に筆者作成)
参考 自治省ホームページ
4.都道府県改革
現在の都道府県は、自治体でありながら中央省庁の出先機関的な性格が強いことに批判が集まっている。機関委任事務は廃止されたが機関委任事務から自治事務への振り分けが6割程度に留まり、国の業務を代行する法定受託事務が4割を占めるにいたったのである。また、知事などの幹部職員の多くが中央省庁の出身者や出向者によって占められている。これらのことは、都道府県が市町村の味方として中央省庁との防波堤ではなくむしろ国の代理人として市町村に指示しているというイメージが強い。実際、これから進められる地方分権は国の権限を都道府県に移そうとしている。つまり、国が牛耳ることに変わらない改革に成りかねないのである。
そういうことを防ぐために都道府県自体を廃止し、日本を中央政府と300位の自治体に組み替えるという意見も一部では出ている。ただ、この意見は300の自治体がそこに住む地域住民の身近な存在にはなることが出来るかという問題がある。また、あまり地方分権が行われずにこのような改革が行われたならば自治体と中央政府との力関係が大きすぎて中央集権が変わらずむしろ強まる可能性を秘めている。
では、どのような都道府県の形がいいのかというと、今のような中央政府の出先機関的な都道府県ではなく地方政府にすることである。つまり、今は中央政府が行っている仕事のほとんど(外交、防衛などを除く)を都道府県が行い、今の都道府県が行っている仕事を市町村が行えばいいのではないか。これにより画一的な仕事が自治体によって競争が起こり、よりよい行政になると感じる。つまり、この考えは道州制1)の目的と一致する。
都道府県改革は、現在地域住民とは程遠い雲のような存在を改め、身近な存在になる事を目指している。現在の都道府県の数を減らし、道州制にすることで現在の国の出先機関的な都道府県を改めさせ、地方自治体を国から地域住民の手に戻す。それにより、地方において大きな圏域が形成される多極分散型国土になりそこに住む住民自身の手で政治が行え、地方自治の確立が進展する。同時に国は高度な政策の企画・立案に専念できる。州も州で全国一律ではなく地域の実情に即した政策を推進できる。つまり、国から権限などを与えられる、現在国が行おうとしている「地方分権」ではなく、もともと地方は自己決定権を持っているという「地方主権」の考えにおいて自分達で様々な政策を行える。これが地域住民にとっての理想的な地域に開かれた行政の形ではないか。
1)「道州制」構想
様々な道州制の形が示されているが主なものとして、現在の都道府県を9分割する考えである。
@「北海道」北海道
A「東北州」東北6県
B「関東州」東京都を除く関東7県、山梨県
C「東京都」東京都
D「信越州」新潟、石川、富山、福井、長野県
E「中部州」静岡、愛知、岐阜、三重県
F「近畿州」京都、大阪府・奈良、和歌山、兵庫県
G「瀬戸州」中国5県、四国4県
H「九州」九州7県、沖縄県
このように9に分割し、次のことを目指している。
@国は外交、防衛など国の存在の根幹に関わる業務についてのみ行い、その他の業務については地方分権の受け皿として再編された、市を中心とする地方自治体に委譲し小さな政府を目指す
A都道府県については、警察や幹線道路の整備など、市ではできない広域的な業務を担当する
B市は地域住民に一番身近な存在であり、福祉をはじめとする生活関連業務を幅広く担当する
C今後は、市を中心とした行財政構造へ変えていくことが必要であり、そのために今ある市町村を15万人から30万人規模にまとめ、300程度の数に再編する
D真の地方自治の確立、財政建て直しという2つの視点から、国から地方自治体への移転財源を可能な限り減らし、地方財源の充実を図る
参考 毎日新聞ホームページ
5.まとめ
このような改革が実際その通りに進むとは限らない。なぜならこのような改革は中央省庁の官僚にとっては自分たちの権益が無くなる事を一生懸命に阻止しようとしているからだ。実際、地方分権推進計画が作成されそれなりに様々な事を行っているのであろうが国民の目から見ると地方分権がされているという実感は沸いてこない。このように地方分権は中央省庁の厚い壁に阻まれている。しかし、国民全体のニーズとして、時代の声は確実に分権へと進んでいるのである。もし、前述のような地方分権が完全に行われたのならば今までの本当に国民のために行われているのか疑問を抱いていた行政から国民の側を向いた行政に変貌するだろう。そのため、この改革を成功させるためにも短い期間に決定し目先のことだけに配慮するのではなく、長い目で見て分権を行う必要がある。私はもともと地域住民への行政サービスは国ではなく一番住民の身近に存在する市町村が提供するのが原則だと感じる。そのために今までとは逆の発想をして市町村の仕事の一部を都道府県に委託し、さらにその一部を国に委託する。さらには国にもできないような事は国際機関に委託する。これがこれからの自治体と国の役割分担として適当だと感じる。そうすることで初めて、住民の側においてはそのニーズを簡単に行政(この場合は市町村)に伝えることが出来るし、また行政の側においても住民のニーズを行政サービスや運営に組み入れることが簡単になる。それこそが真の住民のための地方分権ではなかろうか。地方自治とは、上から「権利を分けてもらう」分権ではないと感じる。人権と同様に、国が認めると否とにかかわらず、地域住民が本来もっている権利ではないのだろうか。
地方議員、首長は、真に民主的な地方自治を推進する力が住民の中にあることを肝に銘じ、地域住民の先頭に立って、「地方自治を住民の手に」とりもどすために闘うことが求められているはずである。目先の利益を取り、合併での失職を避けるために問題を先送りしてはいけない。
このような形は理想論に過ぎずとても大きな改革であることは今の日本の状況から考え事実である。しかし、改革は行わなければならない。さもなければ、中央省庁の力は依然強いままであることは確実である。さらにまた、中途半端に改革を行っても中央の力は変わらず従来のような地方のままであることも考えられる。このため、充分議論し議論を煮詰めることが必要であり、それにより大きな改革を行わなければならない。つまり、市町村改革と都道府県改革を同時にそして大規模に行う必要性がある。本来、行政は地域住民のために存在しなければならない。それが行政の存在意義だからである。このことを肝に銘じて前向きに改革を行う必要があるのではないか。
6.参考URL
地方自治に関して多くの資料がサイト上に載せられている。またそれだけではなく自治省が扱うさまざまな政策についても充実している。(小島周一郎)
毎日新聞(http://www.mainichi.co.jp/index.html)
大手新聞の中で唯一無料記事検索が出来る。非常に使い勝手が良い。(小島周一郎)