地方行政論

   『函館市の町おこし

        ―――自治体の取り組みと市民主導の草の根運動―――』

                          伊勢谷樹里(990507H

1.若者の町離れ

函館市は北海道の南端部に位置し、その地理的条件から、比較的温暖な気候風土に恵まれ、早くから陸・海・空の交通の要衝として、また南北海道の行政・経済・文化の中心地として発展してきた。しかし、昭和10年ごろまでは札幌・仙台をしのぐ東京以北最大の都市であった函館であるが、平成7年に30万人を割って以来、人口の流出が続いている。なかでも、若者層の割合は著しく少なく、特に函館に生まれた子供が高校を卒業した後、函館にとどまる割合はかなり低い。その理由としては、

などの点が挙げられる。函館は治安が良く、騒がしくもなく、住みやすい街であることは確かであるが、しかし問題は、その快適さが年配層にとっての住みやすさであって、若者にとっての魅力ではないところにある。

そこで、若者の町離れを防ぐため、函館を再び活気のある街にするために現在行われている自治体の取り組みと、市民による活動にスポットを当てて調べることによって、今後の函館像を探ってみることにしたい。

 

2.自治体の取り組み

  1. 公立はこだて未来大学の誕生
  2. 公立はこだて未来大学は2000年4月に開学した、まだ誕生ほやほやの大学である。

    ここで特記すべきなのは、この大学が函館市、上磯町、大野町、七飯町、戸井町の「函館圏公立大学広域連合」によって設置・運営される公立大学である点である。

    函館圏公立大学広域連合とは、平成9年11月5日に公立大学の設置、管理、運営のために設立された、函館市とその近郊の1市4町で構成する特別地方公共団体である。現在27都道府県において、広域連合が発足しているが、広域連合による大学の設置および管理・運営は、この大学が日本で初めての試みとなった。

    この大学が誕生したことは、函館の街にとって大きな転換と言えるかもしれない。今まで若者が流出していく一方だった町に、毎年全国から学生が集まってくるのだから。彼らが、大学のみならず、この地域に魅力や愛着を感じ、卒業後もこの地域にすみたいと思い、思うだけでなくそれを可能にする、就職できる産業基盤が持てるようになれば、確実に函館は若いエネルギーあふれる町へと一新するに違いない。

     

  3. 起業(企業)化から地域活性化を

100万ドルの夜景で知られる函館は、戊辰戦争時に造られた世界でも珍しい星型要塞である五稜郭をはじめ、長い歴史を彷彿とさせる様な情景や遺跡が数多く存在し、そこが観光客の目を惹きつけている。そんなこの町はその収入の多くを観光に頼っているのだがしかし、観光業というものは、そもそもいろいろなものの影響を受けやすい。

例えば、今年の函館の観光収入は去年に比べて、3分の1にまで落ち込んだ。有珠山噴火のあおりを受けてしまったためである。地理的に考えてみても、有珠山の噴火灰が届くには、函館は離れすぎているということは明らかなのだが、人はそうは見てはくれない。

有珠山噴火がニュースで流れた瞬間、“有珠山=北海道=函館=危険”というイメージが瞬時に、そして強固につくられてしまう。観光業は、こうした、外からの影響の波を非常に受けやすい。

こうした他律的で消極的な観光業から、自立的・積極的な産業へと比重を移動するためにも、そして若者が就職できるような産業基盤を築くためにも、今後積極的に企業を誘致していくことが必要不可欠になってくる。

また、学生や主婦が習得した技術や知識を生かして起業したり、中小企業の動きを活発化させるための融資や情報を提供したりしていくことでも、地域の活性化を図ることができるだろう。

 

3.有志市民による活動

函館の町を活性化させようとする有志市民による活動が、最近注目されてきている。

その一団体、「活力ユニット」をここで取り上げて紹介したい。

 

1997年8月、市内の広告製作会社の社長が新聞に広告を出した。

「若者が集まって、函館で楽しい企画を展開させてみませんか」

こうして集まったメンバーは現役高校教師、介護福祉士、調理師、フツーの会社員から自営業などの、2・30代の若者たち。彼らの職種こそさまざまであるが、「函館が好き。函館を楽しくしたい。そして自分も楽しみたい」という共通の目的のもとに一つにまとまっている。

彼らの活動は、例えば姉妹都市のカナダ・ハリファックス市から寄贈されたモミの木を中心に据えたクリスマス・ファンタジーや、新年のカウントダウン、函館出身の人気バンドGLAYによる地元ライブなど、市民参加型のイベントを企画、実行することがメインである。

彼らの活動は、それによって訪れる観光客の数がどっと増える、といった類のものではなく、社会的な町おこしにつながるといえるものではない。しかし、彼らの活動は、

「もしも自分自身で函館がつまらないとかんじたなら、自分達の手で町を楽しく変えていく事ができるのだ」

という事を証明し、市民の函館の町に対する意識の改革をもたらした。そうした意味でこれは、方向性として外側というよりもむしろ内側に向けられた確かな町おこしであるといえる。

 

4.観光のあり方を考える

「他律的で消極的な観光業から、自立的・積極的な産業へと比重を移動するべきである」ということを先に述べたが、函館は年間の観光客は入り込み数が520万人を数える観光都市である。観光に頼って生活している人の数も、少なくはないだろう。そう考えると、「比重を移動すべき」だと、乱暴に言い切ってしまうことはできない。しかし、従来の「来る者拒まず、去る者追わず」的で、過去の遺産に頼りきった他律的なやり方では、観光都市として生き残ってはいけないだろう。

では、函館観光はどう変わっていくべきなのか。

時代は団体旅行から個人・グループ旅行へ、観光バスで名所を数多く周遊する「量」の旅行から、各自が感動できるものを探し求めて歩いたり、旅先での人々との触れ合いを楽しむ「質」の旅行が重要視されるようになっている。

こうしたニーズの変化は、言い換えれば、観光都市に生活する市民1人1人が、函館の魅力に惹かれてやって来る人達の思い出づくりに関わる機会を与えられた、ということでもある。インターネットやフリーペーパー作成による観光情報の提供や、コミュニケーションを通じて生み出される人的交流などを行う「観光ボランティア」の存在を創り出していってはどうだろうか。

この様な新しい取り組みによって、観光客だけでなく、市民1人1人がこの町の魅力を再発見し、地域を活性化させていくことにつなげていくこともできるに違いない。

 

5.まとめ、考察

「町おこし」という言葉には、日本にある市町村の数だけ可能性が潜んでいる。どこも東京のような都会を目指すのではなく、函館なら函館の、味や特色を引き出していくやり方がきっとあるはずである。

このテーマで生まれ故郷である函館を振り返ってみて思うことは、街を活性化させるのは、何といっても人々だということ。持ち寄られる独創的なアイディアや、それを実現させようとするエネルギー、「函館を楽しく変えていくんだ」という意気込み、それがすべてなんだなと。結局町づくりは、人づくりにつながるのだ、ということを知った。

行政に全てを任せきるのではなく、「自分達で街を楽しく変えていくんだ」という意識が市民の中にあるのを、「この街が好き」という思いをもった人達がこんなにもたくさんいることを、今回ひしひしと感じ取ることが出来て、函館を、私は誇らしく思った。

 

《レポート作成にあたって参照したホームページ》

http://www.city.hakodate.hokkaido.jp

函館の歴史や観光名所を紹介するとともに,今函館市が行っているプロジェクトや暮らしの情報を提供するなど、観光客、市民ともに利用できるサイト。

 

http://www.fun.ac.jp/

新設の大学としては、かなり内容が充実している。受験生に向けて「第一期生になりましょう」「一緒に『化け』ましょう」と呼びかけたり、「Information」に「地域のみなさんへ」というコーナーがあるなど、親しみやすく、開かれた学校のイメージが伝わってくる。

 

http://member.nifty.ne.jp/hakodate/

現在進行中の企画を紹介、市民の参加を呼びかけたり、新しい活動のスタイルを提案するなど、地域に根ざした町おこし活動を展開。彼らの「函館の町を一緒に盛り上げていこう」という情熱が伝わってくる。

 

http://www.hakodate.or.jp/iruka807/

地域密着型ラジオ番組のホームページ。ローカルな情報を入手できる。活力ユニットのメンバーもよく登場している。