地方行政論 「福島県の地域活性化への取り組みについて」
遠藤文恵(K990110y)
《過疎化の状況》
過疎化という言葉は広く知られているが、その意味をきちんと把握している人は少ないのではないだろうか。一般に、過疎化とは、農山村地域から都市へと人口が流出し、学校、商店などが閉鎖されたり、地元の伝統芸能の継承が困難になったりし、地域に活力が乏しくなることをさす。平成12年4月に施行された過疎地域自立促進特別措置法よると、過疎地域は主に以下の二つの点から定義される。
この新過疎法は、単に人口減少だけでなく、人口を構成する年齢層の変化、主に高齢化への対応が視野に入れられている。過疎地域に指定されれば、好条件の財政措置を受けられるため、高齢化が進んでいるのに、財政的な理由から対応が困難となっている町村への救済が可能となった。新過疎法によって、過疎地域とされた町村の数はわずかに減少したものの、過疎化は神奈川県、大阪府を除く全ての都道府県が抱える問題であり、今回新たに高齢化という課題もプラスされ、解決へ向けてより積極的な取り組みが求められている。
《福島県の過疎化》
過疎化は、福島県においても当然問題となってきた。現在、県内で過疎地域の指定を受けている町村は、29町村ある。これまで県や市町村によって、交通手段の開発・整備や、福祉施設の充実、
Uターン・Iターンによる定住促進事業、就職機会の増大、豊かな自然を生かした観光事業などの対策が取られてきた。また過疎地域への財政的な支援や、過疎地域からはずされた後もしばらくは援助を受けられるなどの方法が取られている。一方、民間では伝統芸能の保存や、特産品の販売、地域交流なども行われている。これらの取り組みによって、県内総人口はわずかずつだが増加してきている。だが、総人口を占める高齢者の数も同時に増加している。このため、福祉関係の対策にくわえ、若年者層の増加へつなげるため、定住化促進事業にも力が入れられつつある。今回は、新過疎法においても取り上げられた高齢化への対策と、同時に人口構成比の若年者率を引き上げるための対応策として定住化促進を取り上げてみたい。
《西会津町の福祉事業》
昭和
29年の合併により、誕生した西会津町では保健、医療、福祉についての事業を展開してきた。当時、医療施設が未整備であったため、昭和63年に老人保健施設「憩いの森」の設立を始めに、特別養護老人ホーム「さゆりの園」開設、温泉リハビリプールなどのハード整備を展開した。しかし、町民の平均寿命は県内でも低位の水準であったため、50歳以上の町民全てを対象に総合健康調査、栄養調査を実施して、脳卒中・癌・骨粗しょう症による死亡が多いなどの問題点や、雪国西会津町の生活環境よる塩分摂取量の多さなどがその原因となっていることが判明した。このように食生活習慣に基づく疾病が多いことから、まず始めに正しい食生活の普及・推進が必要とされた。食生活改善推進員を育成、各地域に配置し、今では100名を越える推進員により、きめの細かい栄養指導が行われている。また平成
6年には、全国で初めて「在宅健康管理システム」が導入された。これは、ホストコンピューターと端末機が電話回線またはケーブルテレビで結ばれており、利用者が端末機に血圧、体温、心電図、脈拍などを入力すると、ホストコンピューターに自動的に送信され、医師や保健婦から健康維持のための助言が得られるという仕組みである。このシステムにより疾病の早期発見、治療を可能にした。始めは300世帯に導入されたが、今は400台にも上っている。以上にくわえ、「百歳への挑戦」をテーマに町民大会が継続開催されるなど、住民主体の取り組みも行われている。これらの取り組みによって、町民寿命が伸び、医療費の減少にも繋がっている。
これらの取り組みは、国土庁地方振興局に高く評価され、過疎化に対し優れた対策を行っている団体を表彰する優良事例表彰に選ばれ、国土庁長官賞を受賞した。西会津町の取り組みで評価すべき点は、全国ではじめて「在宅健康管理システム」を導入したこと、健康管理にケーブルテレビを用いたことだけではなく、行政、地域、家庭が一体となって、現状を直視し、問題点を見つけ出し、解決へ向けて継続的な努力をしてきたことだと思う。上からの押し付けであったり、闇雲に対策を講じるだけでは、成功は得られなかったはずだ。高齢化の一層の進行が予想される現代において、医療や保健、福祉施設の整備、拡大はより必要性を増すだろう。しかしそれらは住民のニーズに合ったものでなければならない。そこで、行政、地域、家庭の結びつき、意思疎通は重要になってくる。人口が
1万人未満のこの町のように規模の小さな町だからこそ、行政も住民全員も参加した活動が可能になったのかもしれない。人口規模が大きい市や町などになれば、全ての住民の意見を聞いたりすることは容易でなく、全市民を満足させようというのはかなり困難なことだろう。しかし、全市民にではないとしても、実際に施設や制度を利用する人々の意見を聞く、現状を知る、そのために努力することが行政には求められる。そして住民は求めるだけでなく、成功のために協力する姿勢を持たなければならない。特に福祉事業においては、行政と住民の、お互いの協力の上にこそ、よりよい生活の実現が成り立つのではないだろうか。《
Iターン・Uターン》高齢化社会への対応が急がれる一方で、地域活性化には若年者層の存在もかかせない。若年者層の都市への転出により、過疎化地域では子供の数が減り、反比例して高齢者比率が増加している。上に述べた西会津では、若年者比率が9.9%、高齢者比率はその
3倍で、29.8%となっている。このような状況を緩和するために、福島県企画調整部地域振興課では、福島へのUIターン定住促進事業を開始した。課のホームページ上において、各市町村ごとに住宅団地分譲などの不動産情報、就職に関する情報、交通アクセスや相談窓口などの情報を、UIターンを考える人へ提供している。また福島をよく知ってもらうために、交流体験や各種の催しの情報、UIターンをし、今、福島県で生活を送る人々のインタビューなども掲載されている。また以上のような情報を掲載した冊子の作成や配布も行われている。このような情報は福島を知る上では満足の行くものだが、実際に
UIターンを決心し、実質的に福島へ移るための準備をするためには、このホームページだけの情報では不安がある。UIターンをするには、就職先と住居は最低限でも必要である。このホームページにある各市町村の就職情報は極めて少ない。課は、ふくしま就職情報センターのUターン登録という制度の利用を勧めている。これは、登録したUターン希望の人に、条件にあった求人があった際、通知されるという制度だ。インターネットではなく、電話かファックスによって、登録、通知が行われている。また住居においては、団地分譲の情報があるだけである。総区画数、坪単価の目安しか掲載されておらず、住所や、周辺の環境を知るためには電話で問い合わせなければならない。私ははじめにこのページを見つけた際、ほとんどの市町村の情報が載っていることに驚いたのだが、じっくりページを読んでみると、各市町村ごとの情報は少なく、お粗末だ。なぜこのような状況になっているのか調べてみると、県のホームページでは公平性、公共性を確保するために、民間情報の提供、民間ホームページへのリンクを控えているという。それではあまりにも情報が限られるのも当然と言える。だからといって、実際に、
UIターンを望んでいる人が自ら民間の情報を求めても、住居を決めるためには就職の必要があり、就職をするためには住所が必要となり、特に福島に頼れる知りあいがいないIターン希望者にとって、これは大きな障害である。県の相談窓口で、この問題をどれだけ解決しているかは公開されていないが、UIターンにはまだ垣根が残されている感じがする。他県でも、民間情報は控えているのかどうかを調べていて、私は島根県のホームページに行き会った。全国でも過疎化が深刻な地域である島根県には、ふるさと島根定住財団があり、過疎化対策のために活動している。この財団のホームページには、
Uターン登録制度があり、その充実振りには驚かされた。Uターン登録をした人には、希望の地域の求人情報が、ほぼ毎月届けられる仕組みである。就職フェアの開催情報や、参加する企業なども詳しく紹介されている。またUIターンのきっかけをつくるために、島根での農業や工芸の体験希望者に対する資金援助(短期3万/月・長期5万/月)、住居においては公営住宅の情報が載せられている。また空き家を修繕し、UIターン希望者へ販売する、市町村が主体となっている事業へ、資金援助も行っている。定住促進を行うならば、県の魅力をアピールするだけではなく、実質的な支援の充実を図らなければならない。そのためには民間情報の提供、民間団体との提携は行っていくべきではないのだろうかと思う。公平性を問題にあげて、福島県はホームページでの民間情報掲載を控えていると言うことだったが、載せることによって公平性を保つ事だって出来るのではないだろうか。求人のある企業を、全て掲載するページを作り、県内在住者も県外在住者も見られるようにすればいい。企業によっては、県内在住者と県外在住者を差別するかもしれないが、情報の量が増えれば、格段に就職の機会は増えるだろう。また県が保護することによって、このような差別もある程度は解消されるものと思う。このような情報の量の拡大は、住宅情報、空家の有効利用に関しても言える。
県が出来ないならば、少なくとも、島根のように民間団体との提携を行うべきである。先に福祉事業でも述べたように、過疎化は一面ではなく、多面的な問題であるのだから、行政だけの活動では対策が取りきれない部分もある。そこをカバーするために、民間の力を借りて悪いことはない。行政も、住民も地域の活性化を望むのならば、協力していかなければならないと思う。行政と民間の役割というものがそれぞれあるからこそ、一体化ではなく、隣り合っての協力が必要なのだ。本当に、定住化促進を行うべきならば、福島県はもっと民間との接点を増やすべきだ。
《活性化へ向けて》
過疎化対策において、最も重要なことは現状把握、行政、地域、住民の協力体制、活動の継続の三つだと思う。民間団体による活動を含め、様々な活動を見ていると、協力体制と、活動の継続は難しいようだった。特に行政、地域、住民の協力体制の確立は、行政側も民間・住民側もあまり考えていないような感じがした。行政にしろ、住民にしろ、同じ地域の問題へ取り組んでいるのに、よそよそしいのだ。まずはもっと互いの行動に敏感になることだと思う。そこから、行政側が話し合いの場を持ったり、民間から行政のホームページへ意見を提出したりしていけたら、もっと意義のある活動が出来、成果も格段に上がっていくのではないだろうか。
新過疎法により、全国の過疎指定地域はわずかに減ったのだが、問題は深くなった気がする。地域から人が出ていくというだけでなく、高齢化が進み、福祉、保健面での対応が必要とされ、さらに少子化の解決も迫られる。これらはいずれも短期間に解決するものではない。これから一層の高齢化、少子化が予想されているので、解決するどころか、もっとひどくなる可能性をはらんでいる。さらに、大都市に本当に多くの人間が集中してしまう日本の一極集中型構造も考えなければならないだろう。問題は大きくなるばかりだが、今行っている数々の過疎化対策を成功させるために、協力と継続を念頭に実行していくことが、地域活性化においてまず行うべきことだと思う。
<参考ホームページ>
福島県のホームページ。市町村のホームページがリンクしてある他、各課ごとのペー
ジもある。
国土庁地域振興局過疎対策室のホームページ。新過疎法の概要や、過疎対策の現況、
シンポジウムの様子などに加え、過疎地域市町村一覧や優良事例として表彰を受けた
団体なども紹介されている。
http://contest.thinkquest.gr.jp/
愛知県三河山間部から見る過疎化と題し、高校生による調査が載せられている。過疎
化についての解説や、用語集などもあり、分かりやすい。
http://www.stat.go.jp/index.htm
総務庁統計局のホームページ。国勢調査の結果が閲覧できる。
http://www.web-sanin.co.jp/or/teiju/
ふるさと島根定住財団によるホームページ。かなり多くの企業の、詳しい求人情報や、
助成事業などの情報が満載されている。