地方行政論レポート

  首都機能移転について 赤井里美(990501K)

 

1.はじめに

首都機能移転とは、国会・国会活動に関連する行政の中枢機能および司法の中枢機能(立法・司法・行政の三権。たとえば、衆議院や参議院、最高裁判所など)を東京圏以外の地域(東京60キロ圏外)に移すことである。「国会等の移転」とも同じ意である。具体的な移転対象機関はまだ決まっていないが、中央省庁のすべての機能の移転は想定されておらず、また、地方支部局等の機関は対象とならない。

  首都機能移転では、皇居や、経済・文化などの現在の首都東京が有する機能すべてを移転するのではなく、首都東京の機能の一部を移転しようとするものである。したがって、「遷都」や「首都移転」とは異なる。

私がこの首都機能移転の問題に興味を持ったのは、地元が福島県ということに大きく関係している。福島県は首都機能移転先の候補地であり、県は首都機能移転にはかなりの力を注いできている。県庁における首都機能移転の組織体制作りや研究会の設置は平成5年から始められている。平成8年からは宮城、福島、茨城、栃木、山形の5県が連携して「首都機能移転五県議会特別委員会連絡協議会」 (現在は「首都機能移転北東地域県議会連絡協議会」に名前を変更)を設置し、五県で協力しながら 首都機能移転の実現と自分達の地域への移転実現目指して、共同でのパンフレット作成やシンポジウムの開催などといった、精力的な活動を続けてきた。このような活動を受けて、県民の首都機能移転に対する興味・意識も高まってきており、このような動きをメディアでも毎日のように取り上げている。

しかし、福島県や栃木県にいると移転賛成の意見ばかりが見えて、反対側の意見が見えにくい。(もちろん県内にも慎重派の意見の人々は大勢いる。)現在の首都である東京の人々はこのような首都機能移転問題についてどの程度の興味関心があり、どのような意見を持っているのであろうか。首都機能移転問題に興味を持つに連れ、首都機能問題は様々な角度から見つめることが必要だと考える。

 

2.首都機能移転の意義の賛成派・反対派の比較

首都機能移転の意義は、その時々の社会情勢に応じて力の置き方は変化するものの(東京都は時代による意義の変化にも異議を唱えている。)、「国会全般の改革の促進」「東京一極集中の是正」「災害対策の強化」の三つに集約することができる。しかし、この三点は賛成派と反対派で意見のおおきく分かれるところである。そこで、この首都機能移転の意義の三点を賛成・反対の両角度から見て、比較してみてみたいと思う。なお、賛成派の意見は福島県のホームページを参考に、反対派の意見は東京都のホームページを参考にそれぞれまとめた。

()国会全般の改革の促進

<賛成派>

  首都機能移転は国会全般を根源にさかのぼって見直すための重要な機会となる。首都機能移転が国会全般にわたる諸改革の加速、定着につながることが期待される。首都機能移転と諸改革を一体的に進めることにより、政経分離を目に見えるものとして捕らえることができるようになる。政治と経済の中枢を分離することにより、政・官・民の新たな関係が始まり、国・地方に及ぶ横断的情報ネットワークが構築されて、真に国民と密着した政策の立案が可能となるのでは、と考えられている。

  また、首都機能移転は地方分権の大きな一歩になることも期待されている。これまで地方分権は何度も試みられてきている。しかし、はかばかしい効果はいまだみられない。首都機能移転は、小さな政府の実現につながる。首都機能移転により、巨大であることに変わりはないが、東京は一地方となる。したがって、これまでの「大きな中央」「小さな地方」という国と地方の力関係が変わらざるを得なくなる。その効果として、東京中心の序列意識が崩れ、政策立案の視点も生活者優先的なものに変化し、全国各地域の自立性が高まると期待されている。

  狭いビルの小さな部屋の中で日本の将来を考えるよりも、心のゆとりが生まれるような恵まれた環境の中で日本の将来を考えたほうが、より柔軟な考えが生まれてくるであろう。そして、首都機能移転が内在的に持つ「時代の変化を大きく促す力」を諸改革の構図の中に持ち込むことで、大きな展望が開かれ、戦略が見えてくる。

<反対派>

 国会や政府機能を物理的に移転さえすれば、人心の一新が図られ、新たな国家運営がスムーズに始動するという主張は、本末転倒と言わざるを得ない。むしろ、地方分権と規制緩和を進め、税財源の地方への移譲などによって、中央政府がスリム化し、地方の主体性が高まれば、全国各地が活性化することにつながる。 

 

東京は、大西洋社会以外で誕生した、アジアで初めての世界都市である。しかし現在では、シンガポール、ソウル、上海など、台頭するアジア諸都市との激しい競争が始まっている。こうした中で、新都市と東京の二つに、日本の大きな力が股裂きになれば、集積したエネルギーがそがれ、結果として、わが国全体の活力が低下する恐れがある。首都機能移転をするとして、国会都市をつくるのに10年、本格的な都市をつくるのに、さらに数十年かかりる。そのようなことをしていては、わが国は二流どころか三流国になりかねない。

()東京の一極集中の是正

<賛成派>

 東京圏には国土の3.6%に人口の4分の1にあたる3200万人が集中してすでに許容限界を超えており、通勤問題・住宅問題・交通混雑・災害に対するもろさなどといったさまざまな弊害を生んでいる。23区への通勤人口はこの10年間で26%も増え、323万人となっており、ひどい通勤ラッシュが続いている。

  東京の地価や維持費はまだまだ高く、国連加盟国189カ国のうち在日大使館を東京に置ていない国は65カ国あり、うち22カ国は北京など国外にある大使館が兼務している。また、地下鉄1km300億円、高速道路が1km1000億円もする。こうした中では、東京改造はなかなか実現しない。

  最近ではインターネットのホームページ数など情報発信地における東京の一極集中が激しく、新たな問題となっている。文化面、城方面、機能面での東京と地方の格差は大きく、東京に来なければ解決しないという意識を生じさせている。

  今後10年間は引き続き人口増加が続くと予想されている。2007年にはピークを越し、その後人口減少に転ずるというが、一極集中とは程遠い。また経済社会情勢が好転すればいつ人口が増加基調に転するかもしれない。

  こうした東京一極集中の原因はどこにあるのか。原因の一つとして、東京に住むことが一種のステータスになると考えるような東京中心の意識構造が根強く残っていることがあげられる。若者が東京へ行き、地方に残るのは老人ばかりで、地方の過疎化・高齢化に拍車をかけている。

  移転により、都市部人口の集中や情報発信機能の集積を分散させ、日本各地において魅力ある地域色を出すことが期待される。

<反対派>

 新都市が成熟する頃には、少子・高齢化が急激に進み、日本の人口は2007年頃ピークを迎え、その後減少すると見込まれる。このままでいくと、2050年から2055年の間には1億人を割ることが予測される。東京圏(1都3県)の人口増加率も小さくなっており、人口の集中圧力も大幅に弱まっている。 地価は、いまや15、6年前の水準に戻っており、オフィスも不足が解消されているどころか、余ってさえいる。

 また、東京都区部に集中する国の行政機関や業務機能などを分散する「業務核都市」の整備が進んでいる。浦和、大宮、与野の3市にまたがる「さいたま新都心」に国の行政機関(11省庁18機関)等が移転し、2000年5月に街びらきが行われた。

 新世紀においては、情報通信革命が地球規模でさらに急激に進展し、携帯電話が一層普及するとともに、情報通信料金もさらに低廉化することが予想される。情報をどこからでも送り、どこにいても受け取れる社会となり、時間や場所、距離が、私たちの経済活動に影響しない社会が実現することが確実である。

 このように、全国の情報通信の基盤整備等をさらに進め、どこにいても、国民が、政府をはじめ、行政全般の情報を共有できるようになれば、東京への一極集中は大きく緩和されるととともに、地方からのさまざまな情報の発信が増加し、地方の活性化につながる。新都市の建設による費用対効果を考えると、移転よりも、情報通信基盤の整備にこそ投資すべきなのではないか。

 

()災害対策の強化

<賛成派>

  東京はいつ直下型地震が起きてもおかしくないといわれている。政治・行政と経済の中枢が今のまま東京に集中している状態で直下型地震に襲われれば、国のすべての中枢機能に大打撃を与え、国家機能の損失という最悪の事態も起こりうる。そうすれば、世界に与える衝撃もかなりのものになり、世界の混乱を引き起こす可能性もある。しかし、政治・行政と経済の中枢が分離していれば、政治・行政と経済の同時被災は免れ、世界に与える深刻な影響を最小限にとどめることができる。災害の強化の一例として、移転跡地の活用も挙げられる。首都機能移転が東京圏の災害対策の抜本的な向上計画のきっかけになることが期待されている。

 

<反対派>

 地震国、火山国であるわが国の実態や、内陸活断層による地震の発生の恐れを考えあわせると、どの地域も絶対に安全だとは断言できず、首都機能の移転先が被災する可能性を否定できない。

 国は、移転することで、政治機能と東京の経済機能の同時被災を避けるとしている。その一方で、国会や官庁が集中する霞が関周辺では、総理大臣官邸や合同庁舎の建て替えが進められている。この周辺は東京都の中でも地震に強く、安全度の高い場所である。こうした状況の中では、近くに災害対策用の公務員住宅を設置することをはじめ、初動体制の強化こそが求められる。

 そして、直下地震等で官邸が使用不能になった場合にも、国土庁、防衛庁(赤坂)、立川広域防災基地の順で、臨時官邸が設置されることになっている。

 直下地震の被害地域は、半径30`メートル程度といわれている。従って、民間等が行っているように、都心から離れたところにバックアップ機能を配置することや、支社に本社機能を代替させることなどで、リスクの分散を図れば、被害は最小限ですむ。わざわざ莫大なコストをかけて首都機能そのものを移転する必要は全くない。

 震災対策としては、むしろ、全国の防災拠点整備を行うべきなのである

 

3.ポスターの比較

ここで、首都機能移転のポスターを紹介する。首都機能移転積極派のポスターの例として「北東地域首都機能移転連携事業実行委員会」で作成したPRポスターを、慎重派のポスターの例として東京都の移転反対のPRポスターを例としてそれぞれ挙げる。

http://www.pref.tochigi.jp/shuto/topics/001107/2.html

http://www.seisaku.metro.tokyo.jp/chosa/syuto/siryositu/poster.htm

私の感想は、東京都の移転反対PRポスターの方が、石原都知事が親指を下に下げ、首都機能移転の意見を踏み付け、かなりインパクトがあり、訴えたいこともストレートに表現していると思う。それに比べると、北東地域首都機能移転連携事業実行委員会作成のポスターは控えめなアピールで、インパクトも弱い。ポスターでのアピール度は東京都による反対派のポスターのほうが高いことは誰の目にも明らかであろう。

 

4.最後に

ホームページを利用して首都機能移転について調べていくにつれ首都機能移転問題をさまざまな視点からみることができた。

しかし、実際、首都機能移転の実現には越えなくてはならない問題がまだまだ山積みである。最近の中央の動きを見ていても今すぐ首都機能移転が実現するとは思えなく、それに私たち国民一人一人の首都機能移転に対する意識レベルもまだまだ高いとは言えないのではないだろうか?首都機能移転問題は国民的議論が必要不可欠である。国民一人一人が移転の意義、効果、必要性などを議論するべきである。

首都機能移転はある人には関係があり、ある人には関係があるという問題ではなく、私たち国民全てに大きく関係してくる問題である。

首都機能移転は国民一人ひとり、特に若い世代の人々がもっと議論を積み重ねていくべき問題であると思う。今後数十年かけて行われる首都機能移転は、私たち若い世代に一番大きく関与してくる。しかしながら、若い世代の関心は決して高いとは言えず、議論もあまりない。福島県が開いたシンポジウムの様子がホームページで紹介されていたが、私たちの世代の顔ぶれはほとんどなかった。

こうした状態で地方がいくら首都機能移転に対して力を入れたところでそれは一人歩きに過ぎないのではないだろうか。候補地の選定や完成予想図も大切なことではあるが、その前に解決しなくてはならない問題は多く、それを解決しないで先に先に進んでは、国民もついてはいかず、結果として時期尚早といった意見がでたり、賛成派と反対派の意見の溝は更に深まるばかりであろう。

12兆3000億円。莫大な総事業費を掛ける大規模プロジェクトである。失敗は許されない。国民の多くが納得できる結果を必ず出さなければならない。しかし今のままでは、その実現は程遠いといえるのではないか。

 

 

参考ホームページ

http://www.seisaku.metro.tokyo.jp/chosa/syuto.htm

  東京都が開設しているホームページ。首都機能移転反対派の意見がわかりいやすくまとめてあり、内容も充実しており、首都機能移転について考える際、ぜひ一読しておきたいサイト。

http://www.pref.fukushima.jp/syuto/

福島県庁が開設しているホームページで、首都機能移転のこれまでの経緯や福島県の取り組みなどがかなり詳しく説明してあり、福島県の首都機能移転に対する意気込みがかなり感じられる。

http://ns.hokutou.org/

  北東地域首都機能移転連携事業実行委員会が開設しているホームページ。5県で連携しての首都機能実現に向けての取り組みが説明してある。

http://www.nla.go.jp/daishu/index.html

国土庁が開設している首都機能移転に関するホームページ。首都機能移転の基本事項から賛成派、反対派の両意見まで分かりやすくまとめてある。