地方行政論
「戸籍を通して考える広域行政 〜戸籍・住民票等の広域交付〜」 赤羽 始(120107)
1.テーマの選定について
私は市役所に勤務する様になってから6年間“戸籍事務”という仕事に携わってきた。しかし、その6年間ではたして何度戸籍というものについて考えた事があっただろうか? 今回このレポートを作成するにあたって、自分が今までやってきた仕事である「戸籍」とはどういうものなのかを改めて考えるために戸籍をテーマに選んだ。
ところが、最初に戸籍というあまりにも漠然としたテーマを選んだせいか、戸籍そのものについての解説等があるホームページを見つけることが出来ず、戸籍を管轄している法務省・法務局のホームページでも自分が期待した情報を得ることが出来なかった。
そのため、テーマを少し広げて戸籍のこれからの課題の様なものを選んでまとめてみたい。
(法務省 http://www.moj.go.jp/)
2.戸籍とは・・・
戸籍は、明治4年に戸籍法が公布されて以来「日本国民の国籍と身分関係を登録し、これを公証する唯一の制度」であると言われる。つまり、この人はいつ何処で誰と誰の間の何番目の子として生まれ、何歳の時に誰々と結婚し、いつ何処で死亡した(当然離婚をする人もいるだろうし、養子縁組等をする人もいるだろう)という人生の記録であり、それを証明書として発行されるのが、戸籍謄(抄)本である。その戸籍を作成・保管し、証明書を発行するのが市区町村の戸籍事務である。
戸籍事務は従来国の機関委任事務であるとされてきた。戸籍事務は本来国が行うべきであるが、市区町村長を国の下部組織としてかわりに事務を遂行してもらうという「上下・主従」の関係であった。だが、地方分権という時代の流れにのり平成12年4月からの戸籍法の改正にともない、戸籍事務は法定受託事務(戸籍法第1条第1項)とされ“国=市区町村”という「対等・協力」の構図に変化している。
このことにより戸籍事務においても、かなり限定的ではあるが各市区町村の特色を出すことが出来るのではないかと期待が持てる。その中の1つ「広域行政」にスポットをあてたい。
3.広域行政とは・・・
そもそも広域行政とは何か? 今日私たちの日常生活や経済活動はますます広域化し、多様化している。それにともない住民の地方自治体へのニーズも高度化し、より一層の行政サービスが求められている。この様な要望に応えたい地方自治体ではあるが、厳しい財政状況等の下ではその限度があるため、それを近隣の地方自治体と共同で対応していこうという取り組みである。代表的なものとして、ゴミの処分場や斎場・火葬場などを造ったりまちづくりそのものを共同で行う等がある。
ここ数年でこの動きは活発化しており、平成11年4月現在全国で400弱程度の広域行政圏が設定されている。
(自治省 http://www.mha.go.jp/)
5.戸籍・住民票等の広域交付サービス
広域行政の中で最も住民の身近にあるサービスが、「戸籍・住民票等の広域交付サービス」であろう。本来戸籍は本籍地の役所(役場)、住民票は住所地の役所(役場)でしか発行してもらえないが、近隣の市区町村で協力しお互いに証明書の発行をする広域圏を作れば、その広域圏に住民登録をしている人であればどこへ行っても住民票を取ることができ、さらに本籍もこの広域圏に有していれば戸籍謄(抄)本の発行も受けることが出来るというものである。これなら昼間仕事等で自分の住所地(本籍地)に戻れないという人も、勤務先が同じ広域圏ならば昼休み等を利用して近くの役所(役場)に証明書を取りに行くことが出来るのである。
住民票だけの広域交付サービスに関して言えば、静岡県の浜松市を中心とする西部地域(22市区町村)など全国でかなり多くの地域が実施しているが、こと戸籍までの広域交付サービスとなると平成11年4月1日から始まった岐阜県の岐阜市・羽島郡笠松町間、平成12年6月1日から始まった群馬県の太田市・新田郡尾島町・新田郡新田町間、そして平成12年10月2日から始まった栃木県の宇都宮市・河内郡上三川町・河内郡上河内町・河内郡河内町・下都賀郡壬生町・下都賀郡石橋町間のもの等全国でも稀なサービスとなっている。
なぜ戸籍の広域交付サービスは数が少ないのか? それは戸籍の持つ保守性の象徴であろう。戸籍事務は先にも述べたが、国の機関委任事務であったため各市区町村独自の取り組みは皆無であった。また、戸籍は個人情報の固まりであるために厳格で注意深い取り扱いが求められる。戸籍をコンピュータで処理出来る様になった戸籍法の改正も平成6年からと、ごく最近であり戸籍事務はある意味で時代遅れの事務なのである。
実際、全国で最初に戸籍の広域交付サービスを開始した岐阜市でも、国(法務省等)に申請してから認可を受けるまで実に2年もの歳月を要している。この様な背景のもとで、各市区町村が慎重になっているのであろう。
しかし、時代は進み住民のニーズが日ごとに進歩していくなかいつまでも時代遅れではいられないはずだ。
(岐阜辞典 http://www.jic-gifu.or.jp/np/)
6.最後に
平成12年10月2日より宇都宮市を中心とする1市5町で「戸籍・住民票の広域交付サービス」が実施された。これは実に素晴らしい試みであり、他の市区町村の参考となるであろう。しかしこのレポートを作成するために資料として1市5町のホームページを検索したが、この広域交付の情報を掲載していたのは宇都宮市だけであった。また、岐阜市や太田市等のホームページでもそれらしい情報の掲載は無かった。もしこのサービスが全国に拡大し、電算化が進歩すれば将来的には北海道に本籍を有している人が沖縄で戸籍謄(抄)本を取ることが出来る様になるのも夢ではない。その先駆けとして始まっているサービスなのだから住民にもっと提供して良いはずだ。
せっかくのサービスもアピールをし、利用してもらわなければ行政側のひとりよがりに終わってしまう。住民の役に立って初めてサービスといえるのではないか?
今回このレポートを書いて戸籍のほんの一部分だけしか触れることが出来なかったが、長い戸籍の歴史の中で今が一番大きな変革の時であるということを実感した。そしてこの時にこの仕事に携われていることを誇りに思いたい。
今後どのような仕事に携わるか分からないが、市役所で勤務していく以上常に市民のニーズを意識し、その進歩に遅れることなく、また追い越せる様に努力したい。
<ホームページの紹介>
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http://www.city.utunomiya.tochigi.jp/
宇都宮市の公式ホームページです。宇都宮の情報がいっぱいなので一度は見てください。
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http://www.jic-gifu.or.jp/np/
岐阜新聞・岐阜放送等などから地域の情報記事を集めたサイト。この中から岐阜県内の各市町村別の情報を得ることが出来る。