市町村合併によって生じる地方議会への影響〜栃木県内の合併市町村を事例に〜

宇都宮大学 4年 倉井宏章 横澤光祐

「合併前と合併後の議員定数」をテーマに市町村合併による地方議会への影響を探る

1事例研究

事例1 宇都宮市

平成156月に宇都宮市、上三川町、河内町、高根沢町、上河内町の14町による「宇都宮地域合併協議会」が発足

平成193月、宇都宮市(人口:約45万人)と河内町(3.5万人)と上河内町(9500)の合併が成立、「“新”宇都宮市」が誕生  ※事実上、宇都宮市への吸収合併

◎議員定数[1]

合併前:宇都宮市45人、河内町20人、上河内町16人、計81

合併後:“新”宇都宮市50 (宇都宮:45人、河内:4人、上河内:1)

2回目以降の選挙は同一選挙区で行われる。これがどういう結果をもたらすのか?

今後は旧2町選出市議が議席を確保するのは難しくなっていく

・宇都宮選挙区の落選者のうち次点であった候補者(2325)>河内選挙区の当選者下位2(2300票、1928)

⇒河内選挙区内で当選できても、宇都宮全域を選挙区とする2回目以降では当選できない可能性が・・

 

2町出身の議員が減り、同地区の住民の意見が通りにくくなることへの危惧

実際、議会における旧2町に関する質問の多くは同選挙区選出の市議によるもの

=大が小を取り込んでしまうケース

 

事例2栃木市

 平成2012月に栃木市、大平町、藤岡町、都賀町、西方町の1市4町による「栃木地区合併協議会」が設立

平成2110月、西方町議会で廃置分合議案が否決され、西方町の合併は不可能に

平成223月に栃木市(人口:約8万人)、大平町(3万人)、藤岡町(1.7万人)、都賀町(1.3万人)13町の合併が決定、「“新”栃木市」誕生へ

◎議員定数

合併前:栃木市20人、大平町16人、藤岡町14人、都賀町14人、計 64

合併後:“新”栃木市31人(栃木:15人、大平:7人、藤岡:5人、都賀:4人)

⇒人口から計算すれば栃木市が過半数の18人の議員定数を確保できるにもかかわらず、合併実現のために栃木市が他町に強く配慮した形

=大が小に配慮したケース、さらに市民意識に配慮して在任特例を不適用

しかしながら、議員数は削減されているものの、新栃木市の議員定数の半数近くが旧栃木市の枠であることに変わりはなく、さらに次回の選挙から選挙区が統一されるため、ますます旧3町の民意が反映されにくくなる可能性が高くなることは事例1と同じである。

 

事例3日光市

 平成1510月に日光市、今市市、足尾町、藤原町、栗山村の221村による日光地区合併協議会が設立

 平成183月に今市市(6.2万人)、日光市(1.6万人)、藤原町(1万人)、足尾町(3200)、栗山村(2000)の合併が成立、「“新”日光市」が誕生

◎議員定数

合併前:今市市26人、日光市18人、藤原町18人、足尾町12人、栗山10人、計84

合併後:“新”日光市30(今市:14人、日光:6人、藤原:5人、足尾:3人、栗山:2)

今回の選挙では地区ごとに一定数の議席が確保されたが、次回からは選挙区が統一される

⇒良くも悪くも旧今市地区が今後の市政を占う地区となり地域格差を生じかねない

定数の大幅な圧縮は弊害も生むが、“葬式議員”の実態を考慮すれば壮大な無駄の削減とも言える。

 

2市町村合併による地方議会への影響を考える

・特に大規模な自治体に小規模な自治体が吸収合併される場合や、規模に格差がある自治体同士が合併する場合、多少の差はあっても、中心となった自治体に議員定数が比較的多く割り振られ、小規模自治体を基盤とする議員が当選しにくくなる可能性が出てくる。

⇒自治体の小規模地区の地域の意見が反映されにくくなるのではないか

⇒地元の意思を代弁してくれる議員がいなくなることは、かつての本庁が住民に身近な基本的なサービス機能中心の地域行政機関に成り下がる可能性がある

 

・しかしながら一方で、議員の多くに政策立案能力がなく、明確なビジョンを打ち出せない等、議員としての資質そのものにも多くの課題があり、ただ数を確保すればよいというわけではない。

⇒今まで、必ずしも議員報酬や政務調査費が有効な政策に繋がってこなかったことを考慮すれば、膨大な無駄を削減したということになる

⇒合併の本来の目的に照らせば、合併による議員数や議員報酬の大幅な削減は効率的な組織運営や財政のスリム化にも繋がる

 

・総額では削減されつつも、脚注1のとおり、人口によって議員報酬は跳ね上がっている。

⇒増えた責任を考えれば妥当であるかもしれないが、議員によっては“責任”の取り方を間違える可能性も・・

⇒議員報酬額の妥当性をどう捉えるかはその議員の仕事の出来次第である

 

参考文献

下野新聞「地域再生 地方議会動く 新たな自治」平成211028

下野新聞「地域再生 列島ネットから 少数精鋭で首長と論戦を」平成211029

中村祐司(2009)「栃木地区13町の合併と地方議会」

宇都宮市HP(http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/)

栃木市HP(http://www.city.tochigi.tochigi.jp/)

日光市HP(http://www.city.nikko.lg.jp/)

 

 

 

 

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[1] 参考までに、議員報酬については月額で、都賀町23万円(人口:約1.3万人)、日光市38万円(9万人)、栃木市42万円(14万人)、宇都宮市67万円(50万人)である。