分科会:ごみ問題 宇都宮大学
「ごみを減らそう〜家庭ごみ有料化とその課題〜」
はじめに
今日、地球温暖化といった大規模な環境破壊が深刻な問題となっている。現代の日本社会における環境問題への注目は高く、特に地域レベルでの取り組みはとても活発になっている。地方自治体といった行政側も、環境政策を行うことがいまや当たり前のことである。
今回、環境問題の中でもごみにテーマを絞って調査を行ったのは、ごみは私たちにとって最も身近でありながら、とても解決しにくい重大な問題と考えたからである。ごみは私たちが生きている以上必ず発生するものであり、ごみ問題を無視して生きることはできない。そこで求められるのが、できるだけ少なくごみを出すこと、つまりごみの減量である。もったいない精神が話題ともなる今の世の中で、ごみを減量することは重大な課題となっている。そんな中、ごみの減量に効果があるとして「ごみの有料化」が全国で注目を浴びている。しかしごみの有料化はごみを減らす特効薬とは限らない。有料化にも問題点は存在する。その問題点を解決し有料化を効果的なものにするか否かは、実施する自治体次第なのである。
また、今回取り上げていくごみの有料化は、家庭ごみの有料化にのみ焦点を絞るものとし、事業系ごみの有料化については扱わないこととする。
ごみの有料化
有料化とは、ごみの排出量に応じてごみ処理手数料を負担するものである。家庭ごみの有料化の実施方法としては、指定のごみ袋または有料シールなどを住民に購入させ、当該のごみ袋や有料シールの貼付によってごみを出すことを義務付けるという形で行われている。現在全国では約三分の一以上もの地方自治体が家庭ごみの有料化を実施しており、有料化を導入する市町村は増え続けている。栃木県においても半数以上の市町村で有料化が導入されている。有料化が推進される背景には、国が家庭ごみの有料化を推奨しているという事実もある。
(1)有料化による効果
有料化がこんなにも注目される理由としては、有料化することによりコストがごみ排出者に見えるようになり、ごみ排出量がコストに応じた適切な量に減少すると考えられるからである。それ以外にも有料化することにより期待される効果はいくつかある。
ごみ有料化により考えられる効果を以下にまとめておく。
●
ごみの排出量と負担額が連動していないという不公平が是正され、公平性が確保される。 ●
費用負担を軽減しようとするインセンティブが生まれることにより、排出量が抑制されごみの減量効果につながる。 ●有料化することにより、住民のごみに対する意識改革が期待される。 ●
資源回収の促進、コストの透明性確保・向上、財政負担の軽減に効果がある。
●
有料化により得た収入をごみ減量事業に利用することにより、更なるごみの減量を実現することができると同時に、市民の環境意識を改善することができる。
(2)有料化を導入する際の問題点
有料化を導入するには、審議会による審議や住民への説明会の開催など、さまざまな過程を経ねばならない。有料を導入するまでの流れと、それに伴う問題点・対策を以下に図式化しまとめておきたい。
有料化を導入する際の最大の問題点として考えられるのは、市民からの反対である。市民の反対を押し切って有料化を実施したとしても、協力が得られず不法投棄も増え、事態はさらに悪化するばかりである。一番大切なことは、導入にあたり最大限に住民の意見を聞きそれを反映させながら、有料化に対する理解を得ることである。新潟県新潟市は今年6月に家庭ごみの有料化を実施したが、有料化を検討しだしてから実際に導入するまでに、2年以上もの歳月を費やしている。その間、16回にもおよぶ清掃審議会への諮問や、住民の意見交換会の開催など、さまざまな施策を行ってきた。1
そしてもうひとつ大切なことは、有料化を導入してからもその効果を持続させるために、市民の環境意識を啓発する政策を行っていくことである。具体的にどのような政策を行っていくのかは、後に宇都宮市の事例のところで述べていきたい。
有料化を導入した都市の事例
(1)鳥取県米子市
米子市は鳥取県の西側、山陰のほぼ中央に位置する人口約15万の都市である。米子市は平成19年4月から、家庭ごみの有料化(有料袋、有料シールの導入)を実施した。有料化を導入して一年、米子市は大幅なごみの減量に成功した。平成18年度と比較して可燃ごみ約17%、不燃ごみ約約43%減少し、全体で約20%減少した。一人当たりのごみ排出量は今までと比べ200グラムも減少させることができた。2
米子市では、ごみ処理手数料で得た収入を主にごみ処理センターの運用費やごみ減量政策費用に当てている。
<ごみ減量の推移>
資料:鳥取県米子市「よなごみ通信第六号」平成20年7月1日発行
(2)宮城県仙台市
仙台市は平成11年度より「100万人のごみ減量大作戦」を展開し、ごみ分別の徹底やプラスチック製容器包装の分別収集など、ごみ減量・リサイクルを進めてきた。しかし家庭から出されるごみの減量は思うように進まず、ここ数年は横ばいの状態が続いている。減量・分別への努力が反映される仕組みを作るために、今年の10月から,家庭ごみの有料化を導入することとなった。3
有料化を導入していない都市の事例:栃木県宇都宮市
(1)宇都宮市におけるごみ処理の現状
宇都宮市におけるごみ処理の現状は、ごみ排出量、焼却ごみ量とも平成15年度以降、減少傾向にある。近年人口は増加しているが、焼却ごみ量が減少していることから、1人1日あたりの焼却ごみ量も約900gまで減少してきている。
資料:宇都宮市役所ごみ減量課資料『「ごみの減量化・資源化」の取組みについて』p,1
また、平成22年度から「その他プラスチック製容器包装」を新たな分別品目として追加するとともに、紙パック、白色トレイを拠点回収からステーション収集に切り替えるため、さらなるごみの減量が見込めるとしている。しかし仙台市の事例のように、いずれごみの量は横ばい状態になるであろう。
ごみの有料化については、分別意識を向上させ、排出量に応じた市民間の公平性を確保するための施策として、紙パック、白色トレイの分別収集やその他プラスチック製容器包装の資源化実施後の状況等を見据えながら、実施については検討するとしている。4
<宇都宮市民の意識調査:ごみ処理に係る費用負担の公平性について>
ごみの減量や分別の協力の違いによるごみ処理
費用負担の公平性については、「不公平に思う」、
「少し不公平に思う」を合わせて、約6割を超え
る。不公平さを感じている人の割合が高いことが
わかる。
もし宇都宮市が有料化を導入すれば、こういっ
た不公平さは是正されると考えられる。
資料:宇都宮市『宇都宮市ごみ処理基本計画(平成
19年度改訂)〜わたしたち一人ひとりが主役
の循環型社会を目指して〜』(H20年3月)p. 5‐6
(3)宇都宮市が有料化を導入した際の施策事業提案
<提案図>
●ごみが減量する ●収入が入る 収入を使って、市民の環境意識が高まる政策をする プラスチック用ゴミ袋の無料配布 など
市民のごみに対する意識が高まる ↓ 環境意識の高まり
宇都宮市が有料化を導入した際の収益の額と使い道について考えていく。
原価一枚10円のゴミ袋を30円で販売し、一人一週間に一枚の割合でその袋を購入すると考えた場合。市民の袋購入協力率は80%として計算する。
ごみ処理手数料(A) (指定ごみ袋の料金) |
ゴミ袋の製造・販売などの必要経費(B) |
有料化により見込める収益 (A)−(B) |
約5億7千6百万円 |
約1億9千2百万円 |
約3億8千4百万円 |
参考資料:鳥取県米子市「よなごみ通信」第六号平成20年7月1日発行
可燃ごみのごみ袋有料化から得られる収益の主な使い道として、平成22年度から分別収集を始める「その他プラスチック製容器包装」用の無料ごみ袋配布に費やすことを提案する。
可燃ごみと「その他プラスチック製容器包装」を分別する際にも、それぞれ袋が指定していれば分別しやすい。さらにそのごみ袋にプラスチックごみの分別区分も表記することにより、正確な分別も促されることが期待できる。
配布方法として、可燃ごみの指定袋を販売する際に10枚セットに5枚「その他プラスチック容器包装」の指定ごみ袋を付属させるという方法を挙げる。料金はもちろん可燃ごみの指定袋10枚分となる。プラスチック用の指定袋のみを手に入れたい場合には市役所、または各地域コミュニティーセンターにおいて無料配布することとし、その場で得ることができるようにする。
次に上記の計算によって出された約3億84000万円の収入の配分であるが、まず、「その他プラスチック容器包装」指定袋の作成費用にあてる。可燃ごみ袋と同様1枚原価10円と考え、一人2週間に1枚使用すると考える。すると、年間の配分費用は次のようになる。
「その他プラスチック容器包装」指定袋作成費用等・・・約1億2000万円 ごみ処理事業、ごみ環境教育等の助成金・・・約2億6400万円
「その他プラスチック容器包装」の収集量によって、指定袋の作成費用は変動すると考えられる。
このようにして、有料化により得た収益を市民に還元する形で利用すれば、市民の環境に対する意識の向上につながり、ごみの減量を持続させることができる。
キャラクターの起用
市民にごみ減量に対して親しみをもってもらうためにも、特定のキャラクターを作成し、それを前面に出してごみ減量政策を進めていくことには意義がある。たとえば有料化したゴミ袋にキャラクターを起用したり、キャラクターの下敷きなどを環境教育として配布したりする。キャラクターのデザインや名前に関しては、市民から募集を募るという形をとってもよい。今年6月から家庭ごみ有料化を実施した新潟県新潟市でも、リサイクルとかけてサイのキャラクターを採用しており、それを指定ゴミ袋に記載している。5
<キャラクター提案:みやエコ餃子ファミリー>
おわりに
ごみを有料化するということは決して簡単なことではない。有料化することに伴う問題も数多く存在する。特に問題なのが、有料化はごみの減量効果はあるものの、その後リバウンドする可能性も高いということである。いかに減量の持続性を保ちながら、効果的に有料化を行っていくかが鍵となる。そのためにも、有料化を行う目的を明確化して市民に伝え、地域性を重視しながら長期的なビジョンをもち、得た収益を環境政策という形で市民に還元していくことが重要となる。今回は触れなかったが、ごみを減量するためには行政、市民の他にも企業という重要なアクターが存在する。行政、市民、企業が協力しそれぞれの努力を果たすことも、ごみ減量にむけて必要なことだろう。
そしてなによりも、有料化だけに頼ってごみを減量しようとするのではなく、それ以前にそれぞれが自主的にごみを減らす努力をすることが大切である。
<参考資料>
丸尾直美、西ヶ谷信雄、落合由紀子著『エコサイクル社会』(有斐閣、1997.10)
1新潟市役所環境部廃棄物政策課企画係 佐藤正一氏へのインタビュー(H20.11.10)
2米子市役所HP「ごみ有料化」http://www.yonago-city.jp/section/kankyoseisaku/gomi.html(H20.11.15現在)
3仙台市役所HP環境部「ごみ有料化について」
http://www.city.sendai.jp/kankyou/soumu/gomi/p01.html(H20.11.15現在)
4 宇都宮市役所環境部ごみ減量課斉藤氏へのインタビュー(H20.11.7)
5 新潟市役所HP環境「ごみとリサイクル」http://www.city.niigata.jp/info/haiki/gomi/index.html(H20.11.15現在)