合併市町村における地域自治組織の動向と課題

 

1.「平成の大合併」の流れ

 2000年代初頭より2005年にかけて、「平成の大合併」と呼ばれる一連の市町村合併が生じ、大規模な市町村の再編がなされ、自治体数は約3400から1800にまで減少した。この背景には、危機的状況下にある国家および地方財政を立て直すための効率的財政運営、中央集権から地方分権への転換による自治体能力の向上などが強く求められていたことがあると考えられている。現在は20053月でこの大合併は「第1段階」を終え、2010年までの時限立法である「合併新法」によって、かねてよりの政府の目標であった自治体数1000を目指して、一連の合併の動きは「第2段階」に移行したといわれる[1]

 

2.合併による広域自治体の誕生と住民自治組織

 「平成の大合併」によって、これまでの政令指定都市や大都市圏における大規模自治体以外にも、地方中核市・特例市の規模が大きく拡大し、広域化した。それに伴い、合併自治体における域内間分権の動きが生じ、各地域の住民の声を細やかに行政に反映させ、また合併による体制変化への不安の払拭や議員数の減少への対応等のために、「地域協議会」や「地域審議会」といった、地域自治組織を発足させている自治体が多い。

 これらの地域自治組織においては、市長やその他の機関より当該地域における施策事業等の重要事項に関して諮問がなされ、審議・協議を行いそれに対する答申を出す役割が与えられ、また、こうした諮問事項以外にも、地域課題に関する意見を提出する機能を与えられているものが多く見られる[2]

 

3.地域自治組織の動向と課題⇒卒業研究の方向性

 2.で述べたように、地域自治組織には、広域化した自治体内において行政側が域内の状況を細やかに把握することが困難となる中で、住民の声をよりよく吸い上げていく機能が期待されている。しかし、その一方で、宇都宮市政研究センター美谷氏の研究報告におけるアンケート調査によると、実際の運用には困難を抱えている自治体が多いということが読み取れる[3]という。特に、組織の運営方法の工夫に関する課題が大きくあげられている。

 そこで、本研究では、合併によって広域化した中核市・特例市における(新潟市、浜松市など、合併によって政令指定都市となったものも含める)地域自治組織の動向と課題について考えていきたい。

 

4.前期における現地調査

 まず、実際に合併後に地域自治組織を設置した自治体側にインタビュー調査を行うことによって、実感として具体的な動向・課題点を探ってみることとした。前期では浜松市と高崎市に調査を行った。前者は、周辺12町村と非常に広域な合併を行い、政令指定都市に移行し、域内間分権の推進のために全区に「区協議会」を設置し、地域自治組織の中でも先進的な取り組みを行っている事例として調査した。後者は、周辺5町村と広域に合併し、中核市に移行したもので、高崎地域を除く旧合併市町村5地域に「地域審議会」を設置している。地方中核市における地域自治組織の事例として調査を行ったものである。以下に簡単に調査の報告をまとめる

 

浜松市:区協議会(628日実施 浜松市地域自治振興課 黒柳氏)

7つの行政区全てに「区協議会」を設置する先進的な取り組み。

機能:

地域住民の声を行政に反映させるため、行政の諮問事項に答申し、地域課題について建議・要望する。

担当行政職員が考えている課題:

各地区における合併基本計画の事業等重要事項に対する諮問・答申機能だけに終始してしまっている。次のステップは地域課題に対する建議・要望を出していくこと、また期待されている「市民と行政との協働」の機能を果たしていくこと。まだ本来与えられ、期待されている機能を果たしきれていない点が今後の大きな課題か。

細かな課題:委員の発言の偏り、委員の協議会の機能に対する理解不足、

 

高崎市:地域審議会(75日実施 高崎市地域づくり推進課 曽根氏)

合併による広域化に伴い、地域住民の声を細やかに行政に反映させるために、市長からの諮問への答申、及び地域課題について意見を述べる。

担当行政職員が考えている課題:

議員の在任特例制をとる中で、位置づけが明確でなく、どのように機能を果たしていくのか中々見えてこない。それによる審議会の形骸化。委員自体も何をやるところなのかよく解っていない上に、職員自体もそのような感覚を持っている。委員の発言・意見の偏り、委員の入れ替わりによる審議会の一貫性の無さ。

 

⇒実際にインタビューを行ってみて、地域自治組織が運営上の工夫に関して苦心している姿が実感できた。特に、地方中核都市の事例として調査した高崎からは、地域自治組織の位置づけの不明確さや、機能が十分に果たされず、形骸化が生まれているのではないか、という点について考えていく必要性がありそうだ、と感じた。また、実際の会議を進める上で、共通する課題点が見られるようだ。



[1] 2007年 岩波ブックレット 保母武彦 「平成の大合併後の地域をどう立て直すか」第1章「平成の大合併とは何であったか」よりまとめた。

[2] 20073月 宇都宮市政研究センター 美谷薫 「都市内分権・地域内分権の制度と運用に関する研究〜中核市・特例市の動向を中心に〜」<4>―(3)よりまとめた

[3] 同報告書<4>―(3)より